●リプレイ本文
●珍しいヘビ?
「珍しい蛇、とな。それはまた‥‥絵心をそそられるのぉ。無事に捕獲できたなら、領主殿に頼んで絵に描かせて貰いたいものぢゃ」
依頼人のペットが逃げたという果樹園。
その果樹園に依頼人の領主と共に訪れた冒険者たち。
領主のペットが珍しいヘビだと聞き、報酬よりもなによりもそのペットに興味津々な青柳 燕(eb1165)が絵筆を顎に沿えながら楽しげに呟く。
「ナマステ! ボクはシータだよ。武者修行兼諸国見聞中なんだ。世にも珍しいペットかぁ。はるばる渡ってきた甲斐があるよ♪」
シータ・ラーダシュトラ(eb3389)も青柳と一緒になって珍しいペットに逢えるかもしれない期待にご機嫌☆
でもその隣でなにやら悩み顔なのはファルネーゼ・フォーリア(eb1210)。
「ご領主殿騙されては居らぬじゃろうかの? ツチノコといえば遥か遠い島国のジャパンにしかおらぬ筈なのじゃが‥‥」
商人知識に長けたファルネーゼは、ツチノコがそんじょそこらの商人が手に入れられるものでは無い事から、依頼人が騙されているのではと心配だったらしい。
しかし、依頼人の領主はこれまた頑固。「わしが騙されておるわけがないだろうに。わしのペットのツチノコが遠くへ行ってしまわぬうちに、はよう探しておくれ」と冒険者たちを急かす。
「お久しぶりです、ご領主さま。ええと‥‥何が逃げたのですか?」
以前の依頼で領主に面識のあるジャンヌ・バルザック(eb3346)が騎士らしく剣礼をして領主にペットの名前を聞き返す。
そして領主に「ツチノコじゃよ」ともう一度言われても良く聞き取れなかったらしく、
「‥‥すみません、もう一度おっしゃって頂けませんか?」
と申し訳なさそうに聞き返す。
「ツチノコですよ、ジャンヌさん」
領主が渋い顔をしだしたので、冷静にフォローするヴィクター・ノルト(eb2433)。
「ずいぶん変な名前の動物ですね‥‥わかりましたっ! つちこのを、必ず捕まえてきますっ」
元気一杯に宣言するものの、さくっとペットの名前を間違えているのはご愛嬌。
「そう言えば妖精も居るんだっけ? 興味あるな」
葡萄がたわわに実った果樹園を見まわしながら、噂の貴腐妖精・シェリーキャンを探す楊 朱鳳(eb2411)。
けれど残念ながら、その姿はちょっと見つからない。
ちょっぴり肩を落とす楊。
「まあまあ、楊嬢ちゃん、そう肩を落とすこともなかろうて。シェリーキャンとて珍しいペットには興味があるじゃろうしツチノコを見つける頃にはきっと逢えるじゃろうよ。シェリーキャンに逢う為にも、ツチノコを探すとしようかの?」
ほっほっほと笑いながら楊の尻を叩いてなぐさめる小 丹(eb2235)。
パラなのに一見ドワーフにしか思えない立派な付け髭をしている小は、付け髭コレクター。
数ある付け髭の中から本日選んだのは山賊のようなつんつん髭。
依頼と一切関係無いような付け髭なのは、なにか理由があるのかそれともただの気まぐれか。
曖昧に笑う楊。
お尻を叩かれて恥ずかしいような、慰められて嬉しいような。
そのなんとも言えない表情の楊の肩をバーンと叩いて、
「おうとも、極上の美酒のために再びがんばるぜィ。なあ?!」
と特徴的な目でにかっと笑ってやる気満々のヘクトル・フィルス(eb2259)。
細かい事は気にしない小と、一刻も早くペットを探して欲しい領主、そして酒好きのヘクトルに急かされて、冒険者たちはツチノコ探しをはじめるのだった。
●罠をしかけてどったばた☆
いそいそ。
いそいそ。
果樹園の中を、農夫達にあらかじめ聞いたツチノコ情報をもとに、罠を仕掛ける冒険者たち。
「寸胴でコロンとした縞模様のヘビかあ。特に腹の部分だけぽっこり出ているとくらぁ、相当地面に変わった這いずり跡があるはずだぜィ」
ジャイアント特有の大きな身体を折って顔を地面に擦り付けんばかりに近づけて、ツチノコのあとを探すヘクトル。
「あっ、あそこっ! なんか動いたっ!」
ジャンヌが草むらに向かってえーいと網を投げる。
「きゃーっ! ボクを捕まえてどうするのさ?!」
びよーんっ!
ジャンヌの網にかかり、なおかつ自分が仕掛けていた、木の枝のしなりで地面に広げた布ごと持ち上げられる罠が発動して、木の枝に布と網ごとグルグルと吊られたシータが抗議の声をあげる。
「わわわっ、ごめんなさい! つのちこかと思ったっ」
慌ててシータに駆けよって、木の枝から降ろそうとするジャンヌ。
けれど小柄なパラのジャンヌでは木の枝に手が届かない。
ぴょんぴょんとジャンプしても駄目。
「早く降ろしてよー。ボク、のぼせちゃうよー」
「もうちょっとの辛抱ですよ‥‥うわっ?!」
びよーんっ!
側に仕掛けられていた罠がもう一個発動して、ジャンヌも一緒に宙吊りに。
「なにやってるんだか」
ヘクトルが呆れて肩を竦めつつ、ひょいっとシータとジャンヌを抱えて地面に降ろす。
「ヘクトルありがとう、助かったよ」
「ボクも助かったよ。ありがと!」
「い、いや、まあ、気をつけるんだぞ」
ジャンヌとシータ。2人の女の子に見上げてお礼を言われ、ちょっぴり照れるヘクトルだった。
「これで、上手くあぶり出されてくれると助かるんですけどね。やるだけやってみましょう」
そう呟いて、風上から蛇が嫌いそうな草を燃やして煙を流し、あぶり出しを試みているのはヴィクター。
ヘビとツチノコは微妙に違うのだが。
「草はこれぐらいで足りるか?」
植物知識のある楊が、果樹園付近の燃やすと嫌な臭いが出やすい雑草を集めて来てヴィクターに手渡す。
「ありがとうございます。僕には見分けがつきませんでしたから貴殿が探してきてくださって助かります」
受け取った草を火にくべながら微笑むヴィクター。
パタパタ。
パタパタ。
小から借りておいた毛皮のマントで火を煽ると、よりいっそう煙があたりに充満し始める。
「ぶほほっ、こりゃ結構喉にくるのぅ。ヴィクター坊ちゃん、楊嬢ちゃん、わしの一張羅は燃やさんどいてくれな?」
風下で罠を仕掛けていた小が、咳き込みながら戻ってくる。
あたり一面、煙が充満して足元すらよく見えない。
(「これは‥‥少しやりすぎましたかね?」)
煙が染みて目に涙を浮かべながら冷や汗をたらすヴィクター。
領主や果樹園の農夫たちにはあらかじめ許可を貰っておいたものの、ここまで凄い状態になるのは予想外。
これ以上は危険と判断して火を消すヴィクターの足元を、なにかがススス〜と逃げてゆく。
「?」
しかし、なにかの気配は感じたものの、煙でなにも見えない。
「うおっ?!」
どーんっ!
結構派手な音をさせて、小の作った落とし穴にはまる青柳。
ジャンヌが先ほどヘラクレイオスが作った三角錐の色の石を、罠があるところにおいて目印としてみんなに伝えてあったのだがいかんせん、この濃い煙の中ではそんな目印は見つけられない。
小も目印に1mぐらいの布も近くの木につけて目印にしていたのだが、運が悪かったらしい。
「これはまたなんとも見事な罠じゃの」
罠に掛かった青柳と罠を見比べて感心するファルネーゼ。
「見てないで手を貸してもらえると嬉しいんじゃが」
それほど深い穴ではなかったのだが、足がものの見事にはまってしまって自力で抜け出すのはちょっときつい。
「手を貸してやりたいのは山々じゃが、貴殿は手に何を持っておるのかの?」
手を差し伸べつつ、青柳が手にした不思議な形の物体にファルネーゼは首を傾げる。
「これか? これはジャパンにいた頃教わった『デグチ=ホソナール』ちゅう代物ぢゃが。蛇の通り道に先細りのこういった筒を設置してな、蛇が頭から潜り込むと身動きできなくなるのぢゃよ」
説明しつつ、地面にそれを置いてファルネーゼの手を取って落とし穴から抜け出す青柳。
ススススス〜‥‥むにんっ!
やっぱり足元を煙から逃れるかのようになにかが通りすぎて行く。
そして。
だんだんと煙が晴れてくる。
「おっ?」
「あっ!」
落とし穴から抜け出す為に、地面に置いた『デグチ=ホソナール』。
その筒の入り口になにやら奇妙な形のヘビが詰まっている。
そう、入っているというより『詰まっている』
お腹がぽっこりと膨れたヘビは、デグチ=ホソナールに顔を突っ込み、そのままお腹が引っかかって動けなくなってしまったようなのだ。
青柳がひょいっと尻尾を引っ張って奇妙なヘビを筒から取り出す。
「もしや、こやつか?」
まったり。
そんな表現が似合いそうなくらい、お腹の膨れたヘビは幸せそうな顔をしている。
いや、爬虫類に表情があるかどうかは微妙だけれども。
小と楊、ヴィクターが煙の消えた果樹園の中をファルネーゼと青柳に駆け寄ってくる。
「なんだか太ったヘビにしか見えないね」
シータとジャンヌも集まってくる。
「これが噂のツチノコか‥‥? その割にはこう、緊張感というか珍獣らしい風格というものが感じられないな」
「間違い無くご領主殿は騙されておる気がするのう」
口々になにやら幸せそうなツチノコ(?)を見つめてかってな事を言う楊とファルネーゼ。
「ご領主さま、のちこつ見つけたっ! じゃなくて、ええとつちの‥‥痛ぁぁい、舌噛んだぁぁ!」
そしてどうしてもツチノコと言えないらしいジャンヌがものの見事に舌を噛んだ。
それはきっと勝手な事を言われて怒ったヘビの呪いに違いない、うん。
●つちのこのこのこつっちのこ?
「おおっ、この模様、このまったりとした顔! これは間違いなくわしのペットじゃ。じゃが‥‥なんで痩せておるのだ?」
激しく首を傾げる領主。
冒険者達に捕らえられ、籠の中に収められた太ったヘビは、領主の元に連れて来る時にはつるっとスリムに大変身していた。
なぜに痩せたりしたのか?
理由は簡単だった。
「ヘビはの、餌をやるとそれを丸呑みするんじゃ。小さな餌ならそれほど身体に変化は現れぬじゃろうが、それなりの大きさの餌を食せば腹も膨らもうて」
小が付け髭を扱きながら説明する。
そう、領主がツチノコだと思っていたペットは、大きな餌を丸呑みしてお腹の膨らんだヘビだったのだ。
冒険者達に捕まったヘビは、幾らかおなかがこなれてきたのでやせてしまったように見えるのだろう。
「ご領主殿、そのヘビを購入された時になにか決まり事は無かったかの? 例えば『ヘビを覗く前に必ず卵を一個与えねばならない』とかじゃの」
訊ねるファルネーゼの言葉に大きく頷く領主。
「商人は確かにそう言っておった。そなた何故それを知っているんだ?」
「ワシは知らなかったぞぇ? ただ、ご領主殿に決して本当のヘビの姿を見ないようにさせるには、そう行った方法を取るじゃろうなぁと思ったまでのこと。悪い事は言わぬ。珍しき物を買い求めるならば、次回以降は是非ワシの商会へどうぞじゃの」
がっくりと落ちこむ領主に、ちゃっかりと自分を売りこむファルネーゼ。
と、そこに。
フフッと笑い声が響く。
「だ、誰じゃ、いま笑ったのは! わしはこんなに凹んでおるというに!」
むっとして周囲の冒険者をにらむ領主。
ぶんぶんと慌てて首を振る冒険者たち。
誰も笑ったものなどいない。
「じゃあ今の声は一体なんじゃーっ?!」
きしゃーっと逆ギレする領主の元に、ふわんと光の玉が降りてくる。
『私だよ。ガルヴァーズ』
ふふっと再び笑いながら領主の名前を呼ぶシェリーキャン――ルーヴァ。
「おおっ、久しぶりだな、ルーヴァ」
「ルーヴァ、久しぶりだね」
「フフッ、ヘクトル、ジャンヌ、久しぶり。今日も随分楽しかったよ」
笑いを抑えるように口元に手を当て、熟した葡萄に手を添えるルーヴァ。
すると‥‥。
「凄いな。貴腐妖精は本当に不思議なお酒が作れるんだね‥‥」
目の前で葡萄がしぼんでいくのを見て、楊が目を見開き感嘆の溜息をつく。
ヴィクターもその隣で目を見開く。
自制心が強く、あまりあわてないヴィクターだったが、葡萄がいきなりしぼむというのは驚き以外の何物でもなかった。しかもこの葡萄をワインに仕込むとそれはおいしいワインになるのだという。
「珍しいヘビにも興味はあったが、美しい貴腐妖精と果樹園というのも絵になるのぅ」
珍獣がただのヘビで実は領主以上に凹んでいた青柳が絵筆をかざして呟く。
「葡萄が落ちてしまっておるぞぃ、もったいない事じゃて!」
お酒好きの小がルーヴァの手から零れ落ちる葡萄をおろおろと見つめる。
「ふふっ、お酒は作ってあるのがあるから、好きなだけ持っていっていいよ。面白い話は大好きだけれどね、やっぱりリアルタイムで大捕り物を見るのは格別だったよ」
「おおっ、じゃあまたワインが飲めるんだな! この間のワインも美味かったぜィ♪」
ヘクトルがご機嫌に指を鳴らし、
「つちのこは偽ものだったけど、ルーヴァのワインが手に入って良かったですね」
やっとツチノコをきちんと言えたジャンヌが領主に微笑む。
そうして。
つちのこは偽物だったもののルーヴァの作ったワインは領主と全ての冒険者に配られ、今回の冒険も無事、幕を閉じたのだった。
●後日談
ツチノコ脱走騒ぎから数日後。
領主の元にそれはそれは見事な絵画が届けられた。
羊皮紙にサラサラと描かれたそれはシェリーキャンと葡萄、そしてその隣にちゃっかりと太ったヘビ。
青柳が記念に描いたその絵を、領主は自室に飾って大切にしているという。