だってそうじゃない?!

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 46 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月15日〜09月22日

リプレイ公開日:2005年09月26日

●オープニング

 誰にでも、忘れてしまいたい過去というものがある。
 シュレイン・ノイシュバン嬢の場合、それは恋人に振られたことだった。
 わけのわからない家訓ばかりあるドレスタットの屋敷を飛び出して、双子の妹に全てを押しつけて。
 自由気ままなジプシーとなって世界各地を放浪していたのだけれど、この村で運命の人に出会って恋に落ちて。
 恋人が盗賊に襲われた時も、クマに襲われた時も、身体を張って助けてあげて。
 でも運命だと思ったその人は、あっさりとシュレインを捨てて他の女に走って。
 家訓から、家から逃れて全て自分の自由に出来ると思っていたのに、もうもう、踏んだりけったりで。
 だから半分奴当たりも込めて村を日照りにしたのだけれど‥‥。
「まさか、こんな事になろうとはねっ!」
 シュレインは、自慢の赤みがかった金髪をイライラとかきあげて、村を襲った悲劇に眉を吊り上げる。
 村は、ただでさえシュレインの魔法で日照りにされて畑の作物もみんな枯れそうだというのに、どこからか現れた盗賊団が村を襲ったのだ。
 盗賊団の要求は、シュレインの身柄。
 以前、シュレインが恋人を助ける為に追い払った盗賊が、仲間を引き連れて戻ってきたのだ。
 こんな事なら止めをきっちり刺しておけば良かったと後悔するシュレインだったが、後の祭。
 盗賊達は、村人を人質に取り、村に占拠してしまったのだ。
「村人達、やばいわね‥‥」
 自分を振った元恋人を苦しめる目的で日照り続きにしていたけれど、村を滅ぼしたかったわけじゃない。
 けれどいま、村は盗賊達に滅ぼされようとしている。
 シュレインだけで村人に傷を負わす事なく盗賊団を倒す事は不可能に思えた。
(「ギルドに依頼したら、あたしの居場所が家にばれるかもね‥‥」)
 行き先も告げず、家を飛び出した自分を家族が探しているかどうかはわからないけれど。
 もういない者として扱われているかも知れない。
 でも、もし居場所がばれたとしても、このまま村人達を見捨てて逃げるなんて冗談じゃないし。
 だから、意を決して苦手な馬を走らせて、シュレインはギルドに助けを求めにいくのだった‥‥。 

●今回の参加者

 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6960 月村 匠(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2021 ユーリ・ブランフォード(32歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2762 クロード・レイ(30歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)
 eb2823 シルフィリア・カノス(29歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 eb2898 ユナ・クランティ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)
 eb3305 レオン・ウォレス(37歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ルディ・ヴォーロ(ea4885)/ ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435

●リプレイ本文

●シュレイン
「やっと着いたわよ、冒険者。さあ、盗賊達を倒しなさい」
 村から少し離れた場所で。
 踏ん反り返ってそう命令するのは依頼人のシュレイン・ノイシュバン。
「正直‥‥男がシュレインから逃げ出した気持ちがよく分かる‥‥」
 命令する事に慣れているのか、こんな状況を作り出した張本人だというのに高飛車なその態度に、フードを目深に被ったクロード・レイ(eb2762)はこっそりと溜息をつく。
「今回の事件って、完全に逆恨みによるものですよね‥‥。大変ですね」
 村を見つめ、胸を痛めるシルフィリア・カノス(eb2823)。
 シルフィリアがシュレインに確認を取ったのだが、盗賊達に囚われている村人は5人。
 残りの村人たちは人質を盾に取られて身動きできず、盗賊たちに奴隷のようにこき使われているらしい。
「んとねー、盗賊さんたちは全部で30人ぐらいなの★ 村人さんを見張ってるのは5人でね、見まわってる人たちもいるのー!」
 ミュウ・クィール(eb3050)がテレスコープで村を視て大まかな状況を伝える。
「まったく女一人に負けて、衆を恃んで素直に報復に来るぐらいならともかく、無辜の村人を人質にとってしか報復も出来ないとはまったくもって見下げ果てた野郎共だな」
 報告を聞いてレオン・ウォレス(eb3305)は呆れながらバンダナを結わきなおす。
 これから、その馬鹿な盗賊たちを懲らしめてやらねばならない。
「シュレイン、天候を変える事が出来るな? 曇りにして欲しいのだが」
 淡々と。
 クロードがシュレインに頼む。
 晴れ渡った秋空は、見ているだけで清々しい気分になるが、冒険者たちの姿を盗賊たちから隠してはくれない。
 もったいない事だがシュレインは頷いて、天候を変える踊りを舞い始める‥‥。


●潜入&潜伏
 シュレインの変えた曇天とした空の元、こっそりと村に潜入する冒険者たち。
「っと、お手柔らかにお願いしますね」
 にっこりと微笑んで、手近にいた盗賊の首に手当を叩きこんで落とすロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)。
 一瞬の出来事にファイヤートラップをしかけていたユーリ・ブランフォード(eb2021)が目を剥く。
 ロミルフォウの柔らかい物腰からは想像もつかない凄腕だ。
「ユナとシュレインはまだのようだな」
 物陰から鞘に手をかけつつ村の教会を伺う月村 匠(ea6960)。
 ユナ・クランティ(eb2898)とシュレインが盗賊達を挑発し、教会から引き離す。
 その隙に月村、ロミルフォウが突撃する予定なのだが‥‥。
「トラブル、でしょうか‥‥?」
 シルフィリアが不安げに呟く。
「もう少し様子を見よう」
 ユーリの言葉に頷いて、4人はその場に潜みつづける。


●陽動?
 陽動班であるユナとミュウはシルフィリアの予測通りトラブルに見まわれていた。
 シュレインの我が侭というトラブルである。
「シュレインちゃん、はやくしないと村人さん達あぶないの〜!」 
 あうあうっと半べそ状態でシュレインを説得するミュウ。
「だからってあんな格好できますか!」
 ビシッとユナを指差して逆切れするシュレイン。
 指差されたユナはふふっと笑って余裕の表情。
 その身にまとう服は極限まで露出し、大きく魅力的な胸が零れ落ちそうなほど。
「あらあら、シュレインさん、そんな事をいっていては駄目ですよ? えいっ!」
 強引に。
 とことん強引に。
 シュレインのはおった上着をひん剥いて駆け出すユナ。
「きゃーっ、なにすんのよ私の服返しなさいっ!」
 上着を奪われて薄着になったシュレインはいろんな意味で真っ赤になってユナを追いかける。
「シュレインちゃんを引き付けるんじゃなくて盗賊を引き付けなきゃなの〜! 2人とも待って〜っ!」
 ミュウが慌てて2人の後を追いかけて行く。


●陽動じゃ無くて動揺?
「なーにやってるんだ、あいつら?」
 教会から、丁度死角になる場所を選んで潜伏していたレオンが眉を顰める。
 ユナとシュレイン、そしてミュウ。
 陽動班というか挑発班の3人が教会に近づくのはわかる。
 近づいて、盗賊達を教会から少しでも遠くに引き離さなければならないのだから。
 だが、どう贔屓目に見てもユナがシュレインに追いかけられているように見えるのはレオンの目の錯覚だろうか?
 レオンと同じように、向かい側の物陰に潜んでいるクロードと目が合う。
 お互い、考えている事は同じのようだ。
 深く、深く溜息をついて。
 レオンはいつ盗賊達がユナ達を襲っても守れるように。
 弓を番えて狙いを定める。

 
「ユナさん達、いらっしゃいましたけれど‥‥?」
 シルフィリアがおっとりと呟く。
「じゃじゃ馬だな、おい」
 月村が肩を竦める。
「あっ!」
「まあっ!」
 ユーリとロミルフォウが同時に叫ぶ。
 べしゃり。
 ユナとシュレインの後を必死に追いかけていたミュウがすっ転んだ。
 慌てて手を貸して助け起こすシュレインとユナを、教会を見張っていた盗賊達が気付いて追いかける!
「いくぞっ、やろうどもっ!」
 チッと舌打ちして月村が物陰からユナ達に向かって走り出し、ユーリも後を追う。
「えっ!?」
 しかし、一緒に駆け出しかけたシルフィリアの手をロミルフォウが掴んで止めた。
「村人さん達は一方的な被害者ですわ。犠牲者を一人たりとも出すわけには参りません‥‥そうでしょう?」
 冷静に状況を見極めるロミルフォウ。
 ここで全員出てしまっては、誰が村人を助けるのか?
「皆様を信じましょう。わたくしたちは教会へ」
 予定とは大幅に違うが、教会の見張りが手薄になった今は村人を救うチャンスだ。
 月村とユーリ。
 そしてユナとミュウとシュレイン。
 5人の無事を信じて、シルフィリアとロミルフォウの2人は、身を潜めながら教会へ向かう。


●戦闘逃走迎撃殲滅!
「私のことを捕まえてごらんなさぁ〜い♪ 捕まえることが出来たら、私のこと、自由にして い・い・わ・よ☆」
 ユナがウィンクして追いかけてきた盗賊に投げキッスをかます。
「んなことしてたら捕まるわよっ?!」
 ユナに奪われた上着を奪い返してさっさと着込んだシュレインが即座に突っ込む。
「あら、このぐらい最低限言ってもらえないと挑発になりませんわよ?」
 欲情的に腰をくねらせて盗賊をさらに挑発するユナ。
「うわああんっ、アタシもう走れない〜!」
 すっ転んだ時に擦りむいた膝小僧が痛くって、上手く走れなくなったミュウが泣きだす。
 盗賊はもうすぐ目の前。
 ってゆーか、捕まる!
「うひゃあっ!」
 ミュウの手を掴んだ盗賊の背を、一本の矢が射る。
 確実に急所を貫かれ、そのまま倒れ伏す盗賊。
 それを皮きりに次々と飛来する矢に倒されていく盗賊達。
「どこから来やがった?! うっ!」
 仲間を射られた盗賊がいきり立ってあたりを見まわした瞬間、閃光が走り胸から血飛沫が迸る!
「待たせたな」
 ミュウ、ユナ、シュレインを背に庇い、盗賊を切り捨てた月村がニヒルに笑う。
「‥‥炎の精霊よ、その熱く激しい魔力の片鱗を我に貸し与え賜え‥‥ファイヤーボムッ!」
 ユーリも追いつき、騒ぎを聞きつけて集まり出した盗賊に向かってファイヤーボムを打ち放つ!
 爆ぜる炎に吹き飛ばされる盗賊達。
「ふふっ、しつこい男は嫌われますわよ?」
 ユナが微笑み、投げキッスと共に辺り一体にアイスブリザードが吹き荒れる!
 レオンとクロード、2人の射手から放たれる矢も確実に盗賊達を倒して行く。
「夢想流の真髄って奴をこれ以上見たいか?」
 冒険者たちの圧倒的な強さに完璧に怖気づいた盗賊に、太刀筋の見えない月村の言葉は絶大だった。
 蜘蛛の子を散らすように逃げてゆく盗賊達。
「やれやれ」
 深追いはせず、苦笑する月村。
「教会はっ?!」
 ほっとしたのもつかの間。
 シュレインと冒険者は全力で教会へと走り出す。
 

●エピローグ
「痛い所はございませんか?」
 シルフィリアが人質となっていた村人たちを一人一人診て回っている。
 幸い、盗賊達にも情けはあったらしく、村人たちは憔悴してはいるものの特に酷い怪我を負ったものはいなかった。
 月村とユーリがミュウ達を助けに走ったあと。
 ロミルフォウとシルフィリアは覚悟を決めて教会へ飛びこんだのだが、非力な村人が逃げてもどうとでもなると高を括っていたのか中に居た盗賊はたった一人。
 ロミルフォウとシルフィリアを見ても女2人と侮り、あっさりとロミルフォウの手に落ちた。
 今はユナの自慢の(?)ロープでグルグル巻きに縛り上げられて意識を失っている。
「カーク! 無事だったのね!」
 唐突に。
 シルフィリアの手当てを受けていた男性へ、一人の少女が駆けよった。
「ああ、大丈夫だよロザリー。愛してる」
 ぎゅう。
 人目もはばからず抱き合う2人。
 と、カークの目がシュレインを捉えた。
 シュレインは、虚ろな瞳で2人を見つめていた。 
「シュ、シュレイン、おまえっ、なんでここに? おっ、俺に復讐しに来たのかよ?」
 彼女を背に庇い、化け物を見るような目つきでシュレインを睨むカーク。
 おそらく、この男がシュレインの元彼なのだろう。
「そんな言い方ってないのっ! シュレインちゃんがかわいそうなのっ!!」
 めっと元彼を叱ってシュレインを庇うミュウ。
 しかしカークは少しも悪びれず、シュレインを怯えた瞳で睨んだまま。
 唇を噛み、俯くシュレインは、けれど次の瞬間月村の腕を組み、にこりと笑った。
「お生憎様。私にはもう彼がいるの。あなたみたいな臆病者とは大違いな素敵な彼が。ね?」
 月村に確認するように小首を傾げるシュレイン。
 月村はシュレインのその指先が、震えている事に気付いて、軽くその手を握り返してやりながら、
「おうよ。女ってのは気の強い位が可愛いもんだ」
 と話をあわせる。
「そ、そうかよっ、じゃあなっ!」
 彼女の手を引いて、そそくさと逃げて行く元彼。 
 何も言わず。
 ただ、じっと見送るシュレイン。
「シュレインちゃん‥‥」
 心配気に見上げるミュウ。
「大丈夫よ。こんな事ぐらい、どうってことない。とっくの昔に別れてたんだもの。関係、ないわ」
 笑おうとして笑えずに、涙が溢れ出す。
「泣きたい時は我慢せずに泣いとけ。胸ぐらいなら貸してやっからよ」
 まだ15歳のシュレインは月村の恋愛対象とはなりえないが、泣いている子供を放っておくほど野暮じゃない。
 がしがしと頭を撫でてやる。
「これから、どうしようかな‥‥」
 慰められて泣き止んだシュレインが呟く。
「責任を持って、しばらく村を助けたらどうだ。‥‥せめて、あんたが取り上げた雨だけでも返してやるんだな」
 日照りに晒されて枯れかけた村の様子を指差すクロード。
 萎れ、枯れかけている作物。
 ひび割れた茶色い大地。
 これらは全てシュレインが雨を奪ったからに他ならない。
「‥‥そうね。そのとおりだわ。きちんと、返さなきゃね」
 ぐいっと涙をぬぐって舞を舞うシュレイン。
 そうして。
 数週間ぶり雨が村を潤した。