ノイシュバン家の50の家訓〜双子だから〜
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月17日〜10月02日
リプレイ公開日:2005年09月28日
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●オープニング
その知らせが屋敷に舞いこんできたのは、シュタイン嬢が家訓の草むしりにいそしんでいる時だった。
「姉が、見つかった?」
手紙を届けてくれたシフールにお礼を言って、パリから送られてきた手紙を慌てて読むシュタイン嬢。
そこには、シュタインの双子の姉、シュレインが、パリの冒険者ギルドを訪れた事が記されていた。
数年前におかしな家訓だらけのこの家に嫌気が差して、行き先も告げずに家を出てしまった姉。
ジプシーになった事だけは、風の噂で聞いていたのだけれど、その所在は今日までずっとわからなかったのだ。
「家訓では、『ノイシュバン家で魔法を使っちゃいけない』んでしょ? だったら、家の外で使えばいいのよ」と家にいた時からそう言いきっていた姉だから、自由気ままなジプシーになった事自体はあまり驚きはしないのだけれど‥‥。
「盗賊退治依頼って、一体‥‥?」
姉は、パリの冒険者ギルドで盗賊の退治依頼をしていたというのだ。
一体全体、なんだって姉がそんな事を?
姉は、なにか事件に巻き込まれているのだろうか?
だとしたら、一刻も早く事件を解決して、姉に、この家に戻ってくるように伝えたい。
ああ、でも。
「‥‥家を出た原因を、解決しておかないと戻ってきてはくれないわね、きっと‥‥」
姉は、わけのわからない家訓を嫌っていたが、一番の原因は家訓により16歳で結婚しなければいけない事だった。「愛のない結婚なんて冗談じゃないわ!」そう激怒した次の日、姉は屋敷から姿を消した。
だから。
「結婚は、わたくしがしましょう。わけのわからない家訓ばかりだけれど、幸い、『双子は同時に結婚しなければならない』などというものはないし、ノイシュバン家で16歳までに結婚した女子がいれば問題ないはずだわ」
家訓では、『ノイシュバン家の女子は16歳で結婚しなければならない』となっているが、シュタインが結婚すれば『16歳で結婚した』という事実ができ、シュレインの結婚は先延ばしにできるはず。
シュレインが以前言っていた、『家の外で魔法を使えばいい』と同じく詭弁だが、それでも大切な姉にこの家に戻って来て欲しかった。
だから、シュタインは冒険者ギルドにこう、依頼を出したのである。
『シュレイン・ノイシュバン嬢を探し出してください。そして、家に戻るよう説得してください‥‥』
●リプレイ本文
●シュタイン
「‥‥あのー、なにをしていらっしゃるんですか?」
ノイシュバン家に着いて。
依頼人であるシュタイン・ノイシュバン嬢は庭に居るとの事で、メイドに案内された冒険者たち。
プチプチ。
プチプチ。
草をむしるシュタイン嬢に、愛器のリュートを抱えたアリアドル・レイ(ea4943)が恐る恐る訊ねる。
「あら、もういらしていたの? 気付かなくてごめんなさい。ご覧のとおり草むしりをしていたのよ」
にこにこと額の汗を拭って微笑むシュタイン。
赤みがかった金髪が、陽の光に透けて輝く。
「ご令嬢が草むしり?」
激しく首を傾げるのは源 靖久(eb0254)。
ご令嬢というものは草むしりをする存在だったろうか?
ノイシュバン家に伝わる50の家訓を知らない源にとって、それはとても不思議な光景だった。
「ええ、そう。ノイシュバン家の50の家訓により決められているのよ」
いいながら、服についた葉っぱを払うシュタインに、アリアドルは、
「随分と‥‥たくさんの決まりがあるのですね」
と驚きながらも素直に感心する。
「シュタイン、50の家訓もきになるが探し人のシュレインについて詳しく教えてくれ。同じ顔だということだが?」
キシュト・カノン(eb1061)が愛犬が庭を走りまわりそうになるのを抑えながら訊ね、
「そうそう、それと、パリギルド宛の事情説明の手紙とお姉さん宛の手紙を書いて頂けますか? お姉さんも、見ず知らずの冒険者にいきなり家に戻るように言われるより、シュタインさんからのお手紙があったほうが安心されるでしょうから」
アリアドルが手紙を求める。
シュタインはすぐに3人に双子の姉のシュレインの容姿と、パリの冒険者ギルドとシュレイン宛ての手紙をしたためてアリアドルに託し、アリアドル、源、キシュトの3人はすぐにパリへと旅だった。
●パリ・冒険者ギルド
「シュレインさんねぇ‥‥」
パリの冒険者ギルドで。
万年一人身受付係に事情を伝え、シュレインの情報を得ようとする3人。
「つい先日、こちらで依頼を出されているはずなんです」
シュタインから預かったパリの冒険者ギルド宛ての手紙と、ドレスタットの冒険者ギルドから預かった手紙を受付係に手渡すアリアドル。
ドレスタットの冒険者ギルドの手紙は、ノイシュバン家の依頼で3人に託された今回の依頼証明書だったりする。
「なるほどねー。ドレスタットギルドの押印もあるし。うん、了解。シュレインさんが今どこにいるかまではわからないけれど、依頼書と記録係の報告書なら閲覧可能だよ」
万年一人身受け付け係は、大量の書類の中からシュレインに関する依頼と報告書を探し出し、「持ち出しは禁止だからね」と念を押して3人に手渡す。
「ありがとうございます。えっと、依頼内容は‥‥あっ!」
「どうした、アリアドル殿?」
報告書に目を通していたアリアドルが驚きの声をあげる。
「私の甥がこの依頼を受けていたようです」
「なら、話は早いな」
「ええ、甥に聞けばシュレインさんの居場所がわかるかもしれません。‥‥まったく、手紙一つ寄越さないんだから」
随分と会っていない甥を思い出し、苦笑するアリアドルだった。
●不思議な樽?
「シュレイン嬢がいるのは、この村か?」
パリから2日ほど離れたとある村で。
愛馬から下りて、辺りを見まわす源。
ごくごく平凡なその村は、少しドレスタットに雰囲気が似ているかもしれない。
「中央にある教会も、少し作物がしなびているところも、甥の言っていたとおりですね。村から少し離れた森にシュレインさんは住んでいるという話でしたが‥‥」
シュレインの依頼を受けたという甥のクロードから、シュレインの居場所や住んでいる村の様子などを聞き出したアリアドルも辺りを見まわし様子を伺う。
「赤みがかった金髪のエルフ、っとシュタイン嬢? なんでこんなところに‥‥」
呟いて、はっとする源。
村の外れで井戸水を汲んでいる勝ち気そうなエルフの少女。
少々釣り目気味の赤い瞳と、くせっ毛で赤みがかった金髪といい、それは、依頼人のシュタインにそっくりだった。
探し人のシュレインに違いない。
物陰に隠れつつ、とっさに後をつける2人。
‥‥2人?
「‥‥おや? キシュトさんはどこに?」
いない。
存在感たっぷりのジャイアントのキシュトを見失うとは考えづらいのだが、辺りにそれらしき人影は見当たらない。
ススス。
ススススス‥‥。
思わず物陰から出そうになる2人の前を、巨大な樽が通りすぎてゆく。
そしてその後をキシュトの愛犬がとてとてと付いてゆくではないか。
「まさか‥‥キシュトさん?」
「一体何をする気なんだキシュト殿は?」
突然の出来事に青ざめつつ事態を見守るアリアドルと源。
キシュトin樽はじわじわとシュレインに近づき‥‥。
がばっ!
シュレインに襲いかかった!!
「ちょっ、なにすんのよっ?!」
「フハハハハハハッ、俺は盗賊! おとなしくするんだ」
ごすっ!
シュレインを抱え上げて盗賊のフリをしたキシュトは、その股間におもいっきしシュレインの蹴りを食らって座りこむ。
「ふんっ、盗賊の残党がまだ残っていたとはね。覚悟なさい!」
怒りに震えるシュレインが指先をひらりと舞わせ、アリアドルと源が止めにはいる間もなく樽を被ったままのキシュトにサンレーザーが降り注ぐ!
「○×△※〒⌒Ψ〜っっ!!」
言葉にならない絶叫を上げて倒れるキシュト。
駆け寄るアリアドルと源の手を握り締め、「あとは、任した‥‥がくっ」と気を失った。
「キシュト殿、傷は深いぞ安心しろ!」
「いえ、深かったら安心できませんよ‥‥」
錯乱する源にさくっと突込みをいれるアリアドル。
(「ああ、そう言えば甥が言っていましたっけ。『間違ってもシュレインに喧嘩は売るな』と」)
甥の言葉を思い出し、シュレインを見れば今にも噴火しそうなほどに怒り狂っている。
依頼人のシュタインも勝気そうだったが、シュレインはその何倍も激しい気性らしい。
「ええっと、シュレインさんでしょうか? 私たちは貴方のご家族からご依頼を受けてあなたに手紙を届けに来たのです」
「盗賊が手紙?」
気を取りなおして事情を説明するアリアドルを訝しげに見つめるシュレイン。
「いいえ、私たちは盗賊ではありません。冒険者です」
「おいおい、アリアドル殿、まだいわないほうがいいんじゃないか?」
早々に自分たちの正体を明かしてしまったアリアドルに、源が焦りながらシュレインに聞こえないように小声でアリアドルの耳元に囁く。
こちらの事情を説明してしまって早々に警戒されて話にならなかったら困るのだ。
けれどアリアドルは「黙っているほうがもっと事態は深刻なものになってしまうでしょう。騙されて気分のいい人はいませんからね」とやんわりと源に微笑み、シュレインに向き直る。
「こちらが、シュタインさんからのお手紙です」
ノイシュバン家の花押を押された羊皮紙をシュレインに手渡す。
「あの子からの手紙‥‥」
柳眉をひそめ、手紙を受け取るシュレイン。
アリアドルと源の見守る中、手紙を読み終えたシュレインは深い溜息をつく。
「‥‥嫌よ」
「シュレインさん?」
「嫌だと言っているの。屋敷の帰る気なんてさらさらないわ! ‥‥いまさら、どの面下げて帰れるというのよ‥‥」
手紙を握り締め俯くシュレイン。
「こういった事はやはり家族で‥‥姉妹でじっくり話し合って欲しいところだな。どのような未来を選択するにしろ一度は戻るべきだ‥‥そうだろう?」
「一度だけ? ずっと戻るわけではないの?」
「それは俺が決める事じゃないだろう。ただ、こんな言葉がある‥‥『いつまでも あると思うな 親と金』。帰る場所があるというのは幸せな事だ‥‥無くしてから後悔しても遅いぞ? 」
源が、苦笑する。
記憶喪失の源には、昔の事は何もわからない。
帰る家はもちろんの事、両親が生きているのかさえも。
そんな源から見れば、どんな事情があれ帰る家のあるシュレインはとても幸せな事だった。
「さて、先の事は分かりませんが‥‥とりあえずの間の里帰りはいかがです? 今なら、船代もお得ですよ」
アリアドルが、シュレインの好むジプシーの気風に合うよう軽めの調子で促し、懐からそっと銅鏡を取り出して手渡す。
「久しぶりに妹さんの顔を見にいっても罰は当たりませんよ。鏡を透してではなく‥‥ね」
微笑むアリアドルに、鏡を見つめたまま頷くシュレイン。
銅鏡の中の妹も、笑ったような気がした。
●エピローグ
「そういや、キシュト殿。あなたはなんだってシュレイン嬢をあんな格好で襲ったんだ?」
ドレスタットに向かう船の中で。
源が不思議そうに訊ねる。
依頼を受けてからパリにつくまでに色々相談していたのだが、キシュトがいきなり盗賊の格好でシュレインを襲うと言うのは予想外だったのだ。
「‥‥さて‥‥難題だ‥‥」
キシュトは腕を組んで呟き、そのまま瞑想してしまう。
「おいおい」
黙秘を決め込むキシュトに肩を竦める源。
シュレインに盗賊団を名乗り襲いかかり、そして出来る限り冒険に対する危険と恐怖をシュレインに感じさせる。
その後、アリアドルと源が説得すればシュレインも屋敷へと帰りやすくなるだろうと考えていたのだが、逆に危険と恐怖を味合わされた事はキシュトの胸の深いところに永遠の秘密として蓋をされるのだった。