〜ぎゅーぎゅーもーもー乳搾り☆〜

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 46 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:07月15日〜07月18日

リプレイ公開日:2005年07月20日

●オープニング

 初夏。
 青々とした牧草を豊かに茂らすのどかな牧場で。
 その日、朝から響き渡ったのはおはようの挨拶ではなく悲鳴だった。
 チーズの加工に使用する為に日陰の涼しい貯蔵庫に貯めておいた牛のミルクがここ最近の陽気に当てられて全て腐敗していたのだ。
 搾ったばかりの時はほんのりと生成り色で甘い香りを漂わせていたミルクは、今は貯蔵庫の中でこれでもかというほどの異臭を放っている。
 普段貯蔵庫に貯めるミルクは腐る事などなかったのだが、何分量が大量であった事と、季節の変わり目で暑くなったり寒くなったりする気温の変化に耐えられなかったのだろう。
 腐ったミルクは捨てるしかない。
 だがなにせ量が大量だからただ捨てるだけでも一人では時間がかかるだろう。
 そして新しく牛の乳を搾るのもやはり時間がかかるもの。
 このままでは領主のお屋敷で開かれるパーティーに使われるチーズの製作は確実に間に合わない。
「だれかっ、だれか一緒に乳搾ってくんろ〜〜!!」

●今回の参加者

 ea9755 リリィ・ガードナー(41歳・♀・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2560 アスター・アッカーマン(40歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2699 アル・ロランド(34歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 eb2937 レン・ゾールシカ(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

リセット・マーベリック(ea7400

●リプレイ本文

●牛???
「おい、これ本当に牛かよ? デカッ!」
 依頼人に牛達が放牧されている牧場に案内されて、そこにどーんと居座る牛を見つめて青ざめるレン・ゾールシカ(eb2937)。
 ぶふふん、ぶふふんっ!
 鼻息も荒く地面を蹴りつけながらやる気満々なその牛は、ほかの牛達に比べて一回りは大きかった。
 しかしそんな危険な牛をうっとりと見つめているのはアル・ロランド(eb2699)。
「乳搾り。ちちしぼり。ちーちーっ!!」
 可憐な美少女にしか見えないのに、正真正銘男性のアルは全力でやる気満々の猛牛の乳に向かっていきなり突撃!
 
 ちゅどーん!

 アルに尻を向けてパッカーンと後ろ足で蹴り飛ばす猛牛。
 いつから馬になったんだと突っ込みたくなるような見事な蹴りで吹き飛ぶアル。
 そしてそれを咄嗟に庇おうとアスター・アッカーマン(eb2560)が飛び出して、吹っ飛んできたアルに潰されて撃沈。
(「…………父なる神よ。試練は大歓迎ですが、これは試練というよりむしろ嫌がらせでは?!」)
 潰されて牧草に突っ伏し、涙目で神を思うアスター。
 美形好きなアスターは、その昔可憐な美少女然とし、常に女装をしていたアルを女性と間違えて色々となにかトラウマを持ってしまったらしい。
 しかし、アルが男性だとわかった今でもその美少女にしか見えないその美貌のせいでアスターは彼を守るべく勝手に体が動いてしまうのだ。
「あの‥‥乳を搾るコツを教えて頂けますか?」
 乳搾りは初めてで確かに緊張気味ではあったのだが、乳絞りというものはこれほどに危険を孕むものだったのだろうか?
 目の前の惨状を目の当たりにしておっかなびっくりのリリィ・ガードナー(ea9755)が依頼人に尋ねる。
「いいだべ。だがこの牛じゃなかとよ。あっちの方にいる乳牛の乳を搾ってもらいたいだよ」
「じゃあこの牛はなんなんだよ?!」   
 急ぎ仕事のはずなのに、おっとりと向こうにいる牛たちを指差す依頼人。
 そしてそれにすかさず突っ込みをいれるレン。
「それはお隣さんから頂いた闘牛だべ。カトリーヌっつうだよ。かわええべ〜?」
「だああっ、じゃあ最初っから普通の牛のところに案内してくれよ!」 
 危うく命失いかけただろと頭をかきむしってキレるレン。
 こうしてしょっぱなから前途多難な乳搾りが始まった。


●乳搾り開始☆
「うっし、しっかりとやらねーとな。てめー何しけた顔してんだよ、こんなに可愛い娘ちゃんが並んでんだぜ? 漢としては喜ぶべきじゃねーか、うっししとかってよ」
 気を取り直し、胸の張った乳牛たちを前にして機嫌良く腕まくりするレンとは正反対に、アスターは既にげっそり。
 この暑い最中、アスターはローブを着用し、深々とフードを被っているから暑さでバテてしまうのだ。
「アスターさん、お暑くはないですか? 驢馬を連れていますから良かったらローブをお預かりしますわ」
 気を利かせてそう申し出るリリィ。
「え? 暑くないのか、ですか? それは確かに暑いときもありますが、これは故郷の風習でして。不愉快でなければ認めてくださると助かります」
 だくだく、だくだく。
 滝のようにアスターの額を流れ落ちる汗は、決して暑さのせいだけでは無かった。
 ハーフエルフのアスターにとって、フードを脱ぎ去りエルフにしては短すぎる、そして人間にしては長くとがっている耳を出し、その種族がばれる事は何とも避けたい事態だからだ。
 根性で微笑むアスターに、
「へえ? アスターの故郷って変わってんだな」
「そんな風習は初めて聞きましたわ。でも風習なら仕方ありませんよね。不愉快だなんて思いもしませんわ。あっ、あそこの辺りなら木陰が出来て少しは涼しいかもしれませんよ?」
「風習ですか。でも肉体派ウィザードのアスターさんなら、ローブを着ていてもこの程度の暑さは物ともしない事でしょう。えぇ、力仕事はお任せしますよ」
 首をひねりつつも適当に納得する一同。 
 それぞれ一匹ずつ牛の手綱を引いて、依頼人と共に木陰に移動する。
 さあ、いよいよ乳搾りの開始☆

「たんだ力任せに引っ張っても駄目だべ。乳っつうのはこうやって牛の胸の根元に親指と人差し指を添えてだな、人差し指から小指に向かって順番に胸を包み込むように搾るだよ。ほれ、やってみるだ」
 実際に牛の胸に手を当てて実演する依頼人。
 依頼人の指の動きに合わせて、牛の胸の下に用意された桶の中に搾り出される牛乳。
「まぁ、こんなに沢山搾り出されるものなのですね。私も少しでもお力になれるように頑張りますわ」
 リリィが依頼人を真似して隣にいた牛の側にかがみこんで乳に手を当てる。
 そうっとそうっと。
 牛の柔らかい胸を、指を順番にゆっくりと折り曲げて搾り出す。
 依頼人ほどではないものの、桶の中に少しずつ牛乳が搾り出されていく。
「そういえば、牛さんに触るのは初めてですねー」
 乳が出た事で緊張がほぐれてきたリリィは、そういいながら牛の背中を優しく撫でて牛の緊張もほぐしてあげる。
「やー絞りごたえあるよなー、何食ったらこんなにそだつんだ? 少し分けてくれよ‥‥」
 リリィの横で自分の選んだ牛の乳を搾りつつ、その大きな胸を羨ましげに見つめるレン。
 エルフらしい繊細な身体は、女性らしい胸の魅力には少々欠けているらしい。
 もっとも、さばさばとした性格のレンにはとても良く似合うスタイルなのだが。
「なあなあ、こいつらってほんとに草ばっかり食ってんのか? 豚はどんぐりとかも食うらしいけど牛はどうなのかね? ってゆーか、飽きてきたぞ!」
 口ばかりで手がお留守になっていたレンを、不意に牛がぺろりと舐める。
「何口ふさぎやがんだコラ! って、どこ触ってやがる、あはーんっ♪」
 ぺろぺろと人懐っこくレンを舐めまわす牛。
 よほどレンが気に入ったらしい。
「溜まった牛乳はどちらにお運びしましょうか?」
 依頼人や冒険者達の絞った牛乳の詰まった桶を担ぎ、尋ねるアスター。
「それならあっちの家さ運んでくんろ〜。かみさんがチーズに加工するだぁよ」と家を指差す。
 それに頷いて、乳搾りは他のメンバーに任せて次々と一杯になっていく桶を汗だくになりながらもアスターは運び出して行く。
「子供の頃から一度牛の世話をしてみたかったのですが、家族‥‥特に姉に止められておりまして。どうしてでしょうかね?」
 以前からしてみたかった牛の乳搾りをしながら、幸せそうに呟くアル。
 しかし、幸福感に包まれたアルとは裏腹に、牛の様子は明らかにおかしい。

 もみもみもみもみ‥‥
『もふふん、もふふ〜ん♪』
 もみもみもみ、もみもみもみ‥‥
『もふふふふん、もふふふふ〜ん♪』
 もみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみもみっ!
『もふふふふん、もふふふふん、もふもふもふふ〜〜〜〜〜〜ん♪』

 アルが牛の乳を揉むたびに、なにやら怪しげな声を出して喜ぶ(?)牛。
 乳の出る量もハンパじゃない。
 ずでーん!
 ついに牛は牧草に寝転がってお腹を見せて、アルに『もんでーもんでー♪』といわんばかり。
「アル君、牛は寝転がったら乳は搾れませんよ‥‥」
「不思議な事もあるものですね」
 げっそりと突っ込むアスターに、しれっとすっとぼけるアル。
 しかし手段はともかく、かなりの量の乳が大量に搾れたことは事実。
「こりゃ、おったまげたべぇ。こんだけ取れりゃぁご領主さまのパーティに使うチーズは余裕で作れるだぁよ」
 アルの周りだけ、異様なまでに並々と搾られた牛乳の詰まった桶を見て喜ぶ依頼人。
「おおう、それだよそれ、チーズ! おっさん、俺にもあとでチーズ食わしてくれよ。商売ものじゃねー残り物でいいし」
「私も良かったらチーズを作るまでの過程を見せて頂けますかしら?」
 色気よりも食い気。
 作り立てのチーズを狙って期待満々のレンに、初めて目に出来るかもしれないチーズの製作課程に興味深々のリリィ。
「いいだがよ。んだば、この牛乳を運ぶとするだべ」
 アスターが運んだ残りの桶を、どっこいしょと抱えて歩き出す依頼人。
 重くてよろける依頼人を支えてあげながら付いて行くリリィ。
「もう少し揉みたい‥‥」
 と名残惜しげに牛の乳を見つめるアルを強引に牛から引っぺがし、そのままアルを引っつかんで依頼人についていくアスター。
「うっしっしーうっしっしー♪」と上機嫌に歌いながらレン。
 美味しいチーズ、食べるぞー☆


●エピローグ〜出来たてチーズ☆
「こいつは美味ぇなぁ、おっさんは毎日こんなに美味いもん食ってんのか? 羨ましいぜ」
 パクパクパク。
 出された出来立てチーズを美味しそうに頬張るレン。
「チーズというものは、こうやって作られていたのですね。勉強になりましたわ」
 乳を搾った後、チーズの製作課程をじっくりと観察する事が出来たリリィはナイフとフォークで出されたチーズを切り分けながら感心する。
 搾り取った乳は、底の深い鍋に移して温めると、白くとろりと固まってくる。
 それに重石を乗せてさらに水分を出してチーズの原型を作り、塩水に浸す。
 そして熟成させればチーズの出来あがりだ。
 至って簡単な製作課程だが、熟成に多少時間がかかるので大量生産になると依頼人とその奥さんの2人だけでは製作が難しかったようだ。
「搾りたての牛乳も美味ですが、こちらのチーズの芳醇な香りも素敵ですね」
 食事どきもやっぱりフードは頑なに脱がないアスターも、このチーズの味には大満足。暑さも多少なりとも吹っ飛びそうだ。
「依頼人、お疲れでしょう? 食事が終わったら、肩をお揉みしましょう」
 チーズと牛乳を美味しく頂きながら、牛すらも陥落させたマッサージを依頼人に施そうとするアル。
 こうして。
 色々と大満足な依頼人から、冒険者達は物持ちが良く保存食の代わりにもなるチーズを依頼人からお土産に渡されて、美味しい冒険を終えるのだった。