通訳募集〜ちんぷんかんぷん?

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月27日〜10月02日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

 流行り病というものはどこにでも発生するものらしい。
「んんっ、なんだか、喉が痛いわ‥‥」
 そう言って喉を抑え、世界各国から集まっている冒険者達の通訳をしていたシフールのルリア・ジェレニアスは喉を抑える。
 コンッ、コンコンッ!
 咳をするたびに喉に痛みが走る。
 だが、ここで自分が休んでしまっては、ほかの通訳たちに迷惑が掛かるし、日夜問わず作戦を練る冒険者たちの通訳が足りなくなる。
 だから、痛む喉をおしてがんばって通訳しつづけていたのだが‥‥。
「‥‥! ‥‥‥‥?!」
 声が、出ない。
 無理に出そうとすると、喉に凄まじい激痛が走る。
 どうやら喉にくる病だったらしく、無理がたたって声が出なくなってしまったのだ。
 声が出なければ通訳はままならない。
 最悪、筆談という手もあるが、それでは余りに非能率的だ。
 そしてふと周りを見まわすと、自分のほかにも咳をして喉を抑える通訳の姿がちらほら。
 このまま仕事を続ければ、自分のように声が出なくなるのも時間の問題だ。
 だから、ルリアは急ぎ酒場のマスターに筆談で掛け合って自分を含めて病を患った通訳たちの休暇をもらい、自分たちの代理に通訳をギルドで募集してもらう事にしたのだった‥‥。

●今回の参加者

 ea3140 ラルフ・クイーンズベリー(20歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3142 フェルトナ・リーン(17歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7909 ファイルヒェン・シュタインベルガ(37歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 eb2456 十野間 空(36歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●24時間営業
 酒場の朝は早い。
 ってゆーか、夜からずっと開きっぱなしだ。
「ずっと人について通訳しているルリアさん達って、凄いなぁ」
 酒場中をパタパタと忙しく飛びまわる通訳のシフール達に、ラルフ・クイーンズベリー(ea3140)は尊敬の眼差しをむける。
「ラルフお兄様、一緒に頑張りましょうね?」
 ぐいっとラルフのお顔を自分のほうに向けて、ほんわかと微笑むフェルトナ・リーン(ea3142)。
 でも目が笑っていない。
 ラルフが可愛いシフール通訳の女の子を見つめているのに気がついて、ちょっぴり妬いているのだ。
 ラルフはただ単に尊敬の眼差しを向けていただけなのだが。
「フェ、フェル、えっと、手‥‥離してくれないかな?」
 ひんやりと冷たいフェルトナの手に、真っ赤になるラルフ。
「ラルフお兄様?」
 下から覗きこむように小首を傾げるフェルトナに、更にどぎまぎしつつ、そっとフェルの手を下ろすラルフ。
 血の繋がらない義妹にどきどきしている事を知られないように、(「へ、平常心、平常心‥‥」)と自分の心に言い聞かす。 
 そしてフェルトナとラルフが微妙な感じのその横では、十野間 空(eb2456)が酒場に心配で様子を見に来ていたルリアに「筆談でも結構ですから」と前置きしつつ通訳のコツなどを訊ねる。
 通訳のし過ぎで喉を痛めてしまったシフール通訳のルリアは、石版にカリカリとコツを書き記している。
 喋れずに、時折咳き込むルリアを見ながら、
「通訳‥‥ですか。通訳シフールの方々も大変なのですね‥‥のどに効く薬草で薬湯を作って差し上げましょうか?」
 ファイルヒェン・シュタインベルガ(ea7909)はそう言うといそいそと酒場の厨房を借りにいく。
「あっ、お手伝い致します」
 フェルトナも手伝いに行く。
 しばらくして、ファイルヒェンが植物知識と家庭料理を合わせた飲みやすい薬湯を作り、フェルトナと一緒にみんなに配る。
 暖かく、喉に優しいハーブなども用いたその薬湯は、痛めた喉にはもちろんの事、これから喉を酷使するであろう冒険者たちの喉もきちんと守ってくれることだろう。


●通訳開始☆
「さて‥‥こんな私でもお役に立てれば幸いなのですが‥‥」
 店のはじっこで、にこにこと笑顔を絶やさずに辺りを見渡すファイルヒェン。
 喧嘩やトラブルはないかどうか。
 言葉が通じずに困っている人はいないか。
 この場所なら良く見える。
 ファイルヒェンはいつでも通訳に入れるように、微笑みながらも気を抜かない。


「あ、あのっ、僕、ぼくは‥‥」
「ああんっ? 聞こえねーなぁ。はっきり通訳してくれやにーちゃん」
 酒癖の悪そうな強面の筋肉アニキに凄まれてビクビクおどおどなラルフ。
 ラルフのもっとも得意なイギリス語の通訳なのだから、言っている事はきちんとわかるし伝える事も出来るはずなのだがいかんせん、ラルフは少々通訳に慣れていない。
 聞き上手なラルフは話し相手としてはとても良いのだが、相手の発言をきちんと聞いてしまう余り、通訳がワンテンポ遅れてしまうのだ。
 相手の言いたい事を即時に理解し、言語を瞬時に変換して訳すには、それなりに要点をかいつまんで話す必要がある。
 ワンテンポ遅れた丁寧な通訳は、どうやらせっかちらしい筋肉アニキには激しく不評。
 さっきからお客様がイライラしているのはわかったが、凄まれると余計早く訳せない。
(「ルリアさん達のお仕事を代わりにしているのですから、同じようにとはいかないまでも、近づけるようには頑張って、無事お仕事を完了したいと思っているのに‥‥」)
 お客様の苛立ちに比例して、ラルフの緊張もどんどん高まっていく。
「あっ!」
 緊張の余り、貧血を起こして床に崩れるラルフ。
「ラルフお兄様っ!」
 別の卓で通訳を終えたフェルトナがすぐさま駆け寄って介抱する。
 店の端で様子をうかがっていたファイルヒェンも異変に気づいて駆け寄ってくる。
「大丈夫、いつものの貧血です‥‥」
「動いちゃ駄目だよ、ラルフ兄様!」
 頑張って立ちあがろうとするラルフをフェルトナが抑える。
「ラルフ様、いま癒して差し上げましょう」
 ファイルフェンの身体が白く輝き、ラルフの身体を治療する。
「おいおい、なんだよ、通訳なしかよ?」
 その様子を見ながら、イライラと筋肉アニキが喚く。
(「ラルフお兄様が倒れましたのに!」)
 最愛のラルフが倒れた事になにも感じていない筋肉アニキを、キッと睨みつけたい気持ちをぐっと我慢して、フェルトナは深々と頭を下げる。
「いいえ、私が代わりを勤めさせて頂きます。お騒がせして申し訳ありませんでした」
 滅私奉公。
 ここで怒ってしまったら、酒場のイメージダウンになるし、なによりラルフが悲しむ。
 だからフェルトナは怒りを抑えてラルフの介抱をファイルフェンに任せ、通訳を開始する。
(「ラルフ兄様の為だったらどんな事でも‥‥」)


 その頃十野間は。
「ねえ、おにーさあん、あたしってみりょくなあい〜〜〜〜〜〜?」
 うっふーんという擬音が聞こえそうなほどセクシーなおねえ様にからまれていた。
「い、いえ、そんな事はありません。とても魅力的だと思います、ええ」
 額に冷や汗をたらしつつ、ジャパン語でしどろもどろに答える十野間。
 絡んできているのはつい先日ジャパンから渡って来たと言う娼妓で、ジャパンではそれなりに売れっ子だったらしいのだが、いまいち仕事がもらえないらしい。
 この酒場でジャパンで見なれた黒髪の陰陽師姿の十野間を見て話しかけられたのが運のつき。
 十野間はかれこれ2時間近く、彼女の愚痴に付き合っている。
「じゃあどーしてここではちっともお客がつかないのよぉぉおうっ!!」
 おーいおいおいおい。
 ワインの樽を抱えて泣き崩れるお客様。
 どうやらからみ酒&泣き上戸の最強コンボを持っているらしい。
「お客様、どうかお気をしっかり持ってください。いつかきっと、素敵な仕事と殿方が現れますよ」
 十野間が何十回目だかわからない慰めを口にすると、セクシーなおねえさまはかくんっと寝落ちた。
(「やれやれですね」)
 本来の通訳とは違う仕事をこなした十野間はどっと疲れつつ。
 乱れ気味なお客様の着物をきちんと直してあげつつ、深く溜息をついた。


「いいかげんにしやがれっ、わけのわかんねえ言葉喋ってんじゃねえっ!!」
 ガシャーンッ!
 派手にテーブルをひっくり返してブチ切れる筋肉アニキ。
 その向かいのテーブルでは、ジャパン人と思わしきお客様が数人、驚いてこちらを見つめている。
「気にいらねえんだよっ!」 
 ガンと倒れたテーブルに蹴りをいれてジャパン人に向かっていく筋肉アニキ。
「落ちついて、おちついてくださいっ!」
 フェルトナが必至に筋肉アニキを落ちつかせようとするが、止まらない。 
「どきやがれっ!」
「きゃあっ!」
 突き飛ばされて倒れるフェルトナ。
 事の起こりは些細な事だった。
 筋肉アニキの向かいのテーブルに後からきたジャパン人が楽しげに飲み出した。
 ただそれだけの事だった。
 だが、筋肉アニキにとって、聞きなれない異国の言葉は癇に障るものだったらしい。
 耳障りな言葉にイラつきながら、それでもフェルトナの的を得た通訳に満足していたのだ――最初のうちは。
 だが、筋肉アニキが酔ってワインを零した瞬間、ジャパン人から笑い声が起こったのだ。
 その瞬間、筋肉アニキは切れてしまった。
「どうか、どうか落ちついてくださいっ!」
 フェルトナを背に庇いながら筋肉兄貴を抑えつけようとするラルフ。
 だが先ほど貧血を起こしたばかりのラルフではとてもじゃないが抑えきれない。
 そしてそれはファイルヒェンにしても同じ事。
 女の細腕で酔っ払った筋肉アニキを抑えつけれるわけがない。
 向かいの席のジャパン人達に殴りかかる筋肉アニキ。
 その拳が、あたる瞬間。
 フッと、筋肉アニキを銀色の光が一瞬包み込む。
 そして呆けたように自分の拳を見つめる筋肉アニキ。
「落ち着いて。なにやら双方に誤解を生じているようですね、私に通訳させて頂けませんか?」 
 十野間が物陰から現れて、通訳をかってでる。
「あ、ああ。よろしく頼む」
 先ほどとはうって変わって態度の軟化した筋肉アニキにほっとする十野間。
(「不用意に魔法を使うのは好ましくないですが、状況によっては物陰よりチャームを用いてから仲裁に入る事も場を収めるためには必要なんですよね」)
 チャームの効果が続いているうちに、さくさくとジャパン語を十野間が通訳し、仲間の中で一番ゲルマン語の流暢なファイルヒェンが筋肉アニキに伝える。
 十野間とファイルヒェンの流暢な話術は少々説法も入りつつ、筋肉アニキの誤解を解いてゆく。
「そっか、たまたまタイミングがあっちまっただけなんだな。騒いで悪かったよ」
 ジャパン人達が笑ったのは、楽しい話しをしていたからであり、ワインを零した自分を笑ったのではないと言う事を理解した筋肉アニキは、恥ずかしげに頭を掻いて酒場を出ていった。
「お疲れ様です」
 激しい通訳をこなした十野間とファイルヒェンに労いの言葉をかけて、フェルトナがみんなにお茶を煎れてあげて。
 
 時に喧嘩の仲裁をしたり、時にナンパのお手伝いをしたり。
 時には通訳とは関係のない厨房のお手伝いをしたり。
 シフール通訳のいない分を精一杯補った冒険者たちは、しかし少しも喉をいためることなく無事に依頼を終えたのだった。