●リプレイ本文
●まずは森の下調べ♪
「たまにはのんびりお散歩をするのも楽しいよね」
サクサク。
サクサク。
森の地面を覆う赤や黄色に色づいた落ち葉を踏みしめて、セルフィー・リュシフール(ea1333)が楽しげに微笑む。
「ま、実りの秋、とも言うし、散策ついでに散歩たのしもー」
ノリア・カサンドラ(ea1558)も頷いて、楽しげに、そして幼いアオイお嬢様が歩いても安全かどうかを確認しつつ森を散策する。
「冒険は遺跡関係ばかりですし、普段は家の中で文献調査。たまにはこんな風に外でのんびり過ごすのも悪くないですわね」
先の鋭い小枝を拾ったり、ひょっこりと顔を出したにょろにょろヘビさんを排除したり。
依頼人のピエールに教わった散歩コースをよりいっそう安全にするべく、シルヴァリア・シュトラウス(ea5512)もノリアと一緒にせっせと危険を排除する。
「皆様、お気を付けくださいませ。熊がいるようですわ」
九紋竜 桃化(ea8553)がおっとりと、けれど物騒なことを言う。
「えっ、熊ですって? どこにいるのかしら」
「ほら、あそこだよ、シルヴァリアさん。前方の結構大きな木の陰にいる」
ノリアが遥か彼方の木を指差して見せる。
「うーん?」
目を細めて一生懸命見つめるシルヴァリア。
「うん、いるね。散歩コースから外れているし、一匹だけだけど、一応退治しとこっか?」
シルヴァリアにはまだ遠すぎて見えないけれど、セルフィーにも確認できたらしい。
「そうですわね。アオイお嬢様に流血を見せることの無いように、アニエスさんからもお願いされていますしね」
すらりと刀剣を構えて蝿か何かを追い払う気軽さで言う九紋竜。
いや、熊は普通遭遇したら命にかかわる危険動物なんですが?
「じゃあさくっと殴っとくかー!」
「「「おー!」」」
熊の恐ろしさなんて何のその。
ノリアの掛け声と共に、さくっと熊を倒しに行く4人だった。
●お見舞い。ちょみっと後ろめたかったり?
セルフィー、ノリア、シルヴァリア、九紋竜の4人が先に散歩予定の森を調べて、ついでに熊を屠っていた頃。
アニエス・グラン・クリュ(eb2949)とシルフィリア・カノス(eb2823)は執事のピエールの様子を見に来ていた。
ぽっきりと折れた足に添え木を当てて、包帯を巻いているピエールは見るからに痛々しい。
「ピエールぅ、冒険者のおねーちゃんたちがお見舞いにきてくれたのー」
とてとてとて。
幼いアオイお嬢様がピエールのベットに駆け寄る。
「これはこれは冒険者の皆様。このような姿でのお出迎え、申し訳ない‥‥」
「あっ、ご無理をなさってはいけません。私達は気にしませんから‥‥どうかゆっくり休んでください」
起き上がろうとしたピエールの肩にそっと手を添えて抑えるシルフィリア。
白のクレリックであるシルフィリアは常に怪我を見慣れている。
この足で『治癒魔法』もかけずに無理に立ち上がったら危険だ。
「これ、よかったら」
アニエスが自宅の庭で丹精こめて育てた竜胆を摘んで、花束にしたそれを手渡す。
「おおっ、これはまた見事な花ですなぁ」
青い花束を受け取って、その柔らかな香りに心を和ませるピエール。
「わたし、おみずをいれてくるっ!」
「ご一緒しますよ、アオイさん」
花瓶を持って、とてとてと走り出したアオイのあとを、アニエスが追う。
「じゃあ、私も。ピエールさん、ゆっくり休んでくださいね?」
ベットの上で、不自由そうなピエールにいろいろな意味で心を痛めつつ念を押し。
シルフィリアも部屋を出て行くのだった。
●お散歩お散歩るんるんるん〜♪
「うっわー、きれいなのーっ♪」
わんわんっ♪
わんわんっ♪
わんわんわんっ♪
秋に色づく森の中を冒険者達に連れられて瞳を輝かせるお嬢様と、3匹の子犬たち。
それに冒険者たちのペット。
沢山の動物と綺麗な紅葉に囲まれて、お嬢様ご機嫌♪
「アオイさん、足元に気をつけてね?」
「うんっ♪」
アニエスがさり気なくアオイの手を引いて転ばないようにする。
「アニエスおねーちゃんも冒険者なの?」
アオイが不思議そうに小首を傾げる。
自分とたった4つしか歳の違わないアニエスが冒険者であることに興味津々。
「ええ。母も冒険者なんですよ。家事全般が得意で、糸つむぎも出来たり。あっ、九紋竜さん、リードが長すぎるかもしれません」
アオイの話し相手になりつつも、子犬――とてももう子犬とは呼べない大きさの犬たちだが――にも気を配っていたアニエスが九紋竜に注意を促す。
子犬のうちの一匹のリードを持っていた九紋竜は、アニエスに言われたとおりに少しリードを短く持ってみる。
「あら? なんだか軽くなりましたわ」
子犬にちょっぴり引きずられ気味だった九紋竜は、さっきよりも軽く感じるリードに首を傾げる。
「犬は、長くリードを持っていると行動範囲が広がって引っ張る力が強くなってしまうんです。でも、犬が苦しくない程度に短く持ってあげると飼い主のほうに近づいてくれてお散歩しやすくなるんですよ」
愛犬のマルコの頭を撫でながらアニエス。
「うわわわわわわっ?!」
「ノリアさんっ?」
少し前をやっぱり犬に引きずられるように歩いていたノリアが急に叫ぶ。
突然、犬が走りだしたのだ。
つられて走るノリア。
力任せにひっぱればとめることは出来ると思うのだが、いかんせん、力加減が分からない。
勢いあまって犬の首を折ってしまったら洒落にならない。
犬は好きだけれど飼ったことのないノリアにとって、犬のお散歩はお腹をすかせた熊を屠るよりも難題だった。
●お昼♪
どたばたどたばた。
ぜぃぜぃ、はあはあ。
子犬たちはとっても元気だけど引きずられたノリアはもうぐったり。
荒い息を整えつつ、でも決してリードは手放さずに周囲を見渡す。
そこは、少し森が開けた場所で、犬を遊ばせたりお食事するのにちょうど良い休憩場所だと、先に森を調べたときにあらかじめ目をつけていた場所だった。
「ノリアさん、大丈夫?」
ぱたぱたと愛犬のクラウと一緒に駆け寄ってくるセルフィー。
続いて丸ごとわんこを着込んだシルフィリアが、ノリアと同じように子犬に引きずられて到着、そして愛犬のセバスチャンと愛猫のねこを連れて、
「ノリア、犬に付き合って走っては駄目よ。競技会は森じゃないところでやらないと危険だわ。シルフィリアもね」
と、ちょっぴりからかい口調なシルヴァリアが後に続く。
「子犬のお散歩って、難しいんですね‥‥」
肩で息をしつつ、しみじみと呟くシルフィリア。
丸ごとわんこなきぐるみを着ているから、余計動きが束縛されて大変なのかもしれない。
子犬のリードを短めに持っていた九紋竜は、つられて走り出しそうだった子犬を何とか制御でき、アニエスと一緒に最後に到着。
「シルフィリアおねーちゃん、ノリアおねーちゃん、だいじょうぶっ?」
うるうるうる。
大きな碧の瞳を潤ませて駆け寄ってくるアオイ。
「ん、大丈夫だよ。心配しないで。ね?」
アオイの頭をわしゃわしゃと撫でて安心させつつ、シルフィリアを見るノリア。
「ええ。なんともありませんよ。ちょっと驚きましたけど‥‥もしも誰かが怪我をしても私が治してあげれますから、そんなに心配しないでくださいね?」
やさしく、やさしく。
おっとりと微笑むシルフィリアにほっとするアオイ。
ピエールが怪我をしたように、ノリアとシルフィリアも怪我をしてしまったかと怖かったのだろう。
ぎゅうっと、シルフィリアのもこもな腕に抱きついて、そのままどさくさにまぎれてお膝の上にお座り。
「あらあら?」
「もこもこ〜♪」
ちょっぴり動きづらいけれど、ふわふわもこもこなまるごとわんこのきぐるみは、幼いアオイお嬢様には大好評☆
ぎゅうっと抱きついて離れない。
「じゃあ、ここでそろそろひと休みしよっか? あたし、お弁当作ってきたんだ」
ノリアが背中に背負ったバックパックの中身を広げだす。
「崩れてないといいんだけど」
といいながら取り出したそれは、とっても豪華な5段重ねのお弁当!
食べやすい大きさにパンを切って旬の食材をはさんだり、彩りもかわいさもばっちりのうさぎを模した飾りきりのりんご、それになんと混ぜご飯!
さすがにお米はすぐに手に入らなかったものの、麦があったので、麦と茸と子供好みの栗を混ぜてあるのだ。
そのほかにもいろんなおかずがたっぷりと詰まっている。
「ノリア、あなた天才?」
セルフィーと九紋竜がピエールから借りておいた大きな布を草の上に敷いて、その上に次々とお弁当を広げてゆくノリアに、尊敬のまなざしを向けるシルヴァリア。
「ノリア様のお弁当、本当に美味しいですわね。このお肉も少し変わったお味ですけれど、さっぱりとしていてパンに良く合いますわね」
ノリアの手作り弁当を楽しみにしていた九紋竜が変わったお肉を食べながら頬を緩める。
「こちらのお肉は、何のお肉なのでしょうか? 豚や牛とは違いますし、鶏とも違うような‥‥?」
膝に乗っかったままのアオイにパンを食べさせてあげながら、九紋竜と同じく変わったお肉を食べて小首を傾げるシルフィリア。
「ん? それはね、クマ」
「「「えっ?」」」
にこにこにこ。
笑顔でさくっと答えるノリアに食事の手を止める冒険者たち。
「えっと、それってまさかさっきの‥‥」
恐る恐る。
セルフィーが語尾を濁す。
「うん、せっかく倒したんだし、美味しくいただこうと思って。ほら、旬の食材って感じで。全部は使い切れなかったけど、セルフィーがアイスコフィンかけてくれたから、日持ちしそうだよね」
ぱくぱくぱくぱく。
笑顔全開で美味しくお弁当を食べているノリア。
「そ、そうですね、うん」
日持ちさせる為にアイスコフィンをかけたわけではなかったのだけれど、それはそれこれはこれ。
ノリアの作る料理は本当に美味しいんだしと自分を納得させて頷くセルフィー。
「ノリアさんは、食材もきちんとご自分で入手できるんですね。すごいです。今度、お料理教えてくださいませんか?」
「ん、いいよ。でもこんなに家事ができると言うのに、嫁の貰い手はありません、うるうる」
シルフィリアに泣き真似をするノリア。
うん、お料理はとっても美味しいけれど、ねえ?
シルヴァリアと九紋竜、セルフィーは顔を見合わせて、先ほどのノリアの勇姿をまざまざと脳裏に思い浮かべていた。
熊を嬉々としてさくっと殴り倒したその姿を。
「あら、かわいい」
ころんと舞い落ちてきた木の実を手に取り、食事の手を休めるアニエス。
ノリアも泣き真似をやめてアニエスの手を覗き込み、
「ほんとだね。この実って‥‥なんだっけ?」
「ドングリですわ」
「ドングリって、こうやって見るとソルフの実みたいだね」
ころんとしたドングリをセルフィーも拾って呟く。
「森の中にはトレントという精霊がいることがありますのよ。ソルフの実は精霊の贈り物だという話もありますけれど、ドングリはどうかしら」
シルヴァリアが小悪魔的に微笑んで、「これをソルフの実だといったら、からかえるかしら?」などと自分の持っている本物のソルフの実と見比べている。
「精霊の贈り物だなんて素敵ですね。いくつか集めて、ピエールさんのお土産にしましょうか」
そういうアニエスの提案で、冒険者たちは子犬をうまく操りつつ、屋敷への帰りがてらにドングリと落ち葉を拾ってゆくのだった。
●エピローグ〜黙っててごめんなさい。でも休んでもらいたかったの。
「隠していて済みません。この間だけでも休んでいてもらおうと言う事で‥‥」
シルフィリアが、心底申し訳なさそうに深々と頭を下げる。
床に頭をつけんばかりに謝るシルフィリアに、「とんでもない!」と首を振るピエール。
そのピエールの足は、折れていたのが嘘のように綺麗に治っていた。
シルフィリアが、リカバーで治してあげたのだ。
ほんとは、最初にお見舞いに来たときにすぐに治してあげたかったのだが、自分たち冒険者がいる間だけでも普段忙しいピエールにゆっくりしてもらいたくてシルフィリアは黙っていたのだ。
「いやいや、本当にありがとうございます。アオイお嬢様を楽しませてくださったばかりでなく、このピエールめの足まで治してくださったのに謝られてしまっては、どうしていいかわかりません。さあ、お顔を上げてください」
ピエールに促されて、おずおずと顔を上げるシルフィリア。
「そうだ、皆様にぜひ使っていただきたいものがあるのですよ」
ピエールが、冒険者に小机の引き出しに入れておいた木の小箱を取り出して見せる。
綺麗な彫りの施されたその小箱を開けると、中にはころんとした木の実が。
「ドングリ? いいえ、それはソルフの実ですか?」
「ええ。昔ケンブリッジへ行ったときに購入したのですよ。素敵なお土産と、この足のお礼に、ぜひ皆様に」
アニエスの問いかけに頷くピエール。
そんなの受け取れないという冒険者たちに、
「ソルフの実、きらい?」
うるうるうる。
子犬を抱きしめて涙ぐむお嬢様。
そうして。
根負けした冒険者たちはソルフの実とドングリと紅葉の森の思い出を胸に抱き、また新たな冒険へと旅立っていったのだった。