からからころころ糸つむぎ☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月22日〜10月27日

リプレイ公開日:2005年10月31日

●オープニング

 今日も今日とて平和なドレスタットの冒険者ギルド。
「また腕折っちまっただよ〜」
 のんびり。
 のんびり。
 いつぞやも腕を折ってギルドを訪れた依頼人がまたしてものんびりと受付係に声をかける。
「ふむ。今度こそ腕の治療かのぅ?」
 初老の受付係もつられてのんびりと尋ねると、「うんにゃ」と首を振る依頼人。
 なんでも、そろそろ羊毛から毛糸をつむぎだす時期なのだが、依頼人はごらんの通りぽっきりと腕が折れてつむげない。
 だからこの際夫婦でゆっくりと旅行にでも行って、その間に冒険者に毛糸をつむいでもらおうという計画なのだそうだ。
「最近忙しくって、ちーっとも奥さんをかまってやれなかっただに、ここらでパーッと機嫌とっておかんと大変だベー。だから仕事のほうは任せたべ」
 よろしくなーと手を振って去ってゆく依頼人。
「うーむ‥‥最近はこうゆうのがはやっておるのかのぅ‥‥?」
 以前呟いた言葉とほぼ同じ言葉を呟いて。
 初老の受付係は首をかしげつつ依頼書を作成するのだった。

●今回の参加者

 ea4943 アリアドル・レイ(29歳・♂・バード・エルフ・イスパニア王国)
 ea5886 リースス・レーニス(35歳・♀・バード・パラ・ノルマン王国)
 eb3279 ファリム・ユーグウィド(31歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb3537 セレスト・グラン・クリュ(45歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

オーリー・ノヴァ(ea5773

●リプレイ本文

●手順はどうやるのかな?
「まんず、ここに羊毛をひっかけるだべ〜」
 のんびり、のんびり。
 冒険者たちの前で糸つむぎを実演する依頼人夫婦。
 奥さんの手の動きに合わせて、依頼人が説明しだす。
「流石はプロの腕前ですねぇ‥‥」
 アリアドル・レイ(ea4943)がその慣れた手つきに素直に感心し、出来上がった糸を手にとってそのさわり心地を確かめている。
「うっわー、おばさんすごーい。糸がしゅーって出てくるや」
 奥さんの指先から紡がれていく糸に、興味深々に瞳を輝かせるリースス・レーニス(ea5886)。
「ああ、やっぱり紡ぎ車を使うのね。羊毛の量からいって紡ぎコマじゃ間に合わないものね。あれはあれで指のしっとり感が楽しいんだけど、紡ぎ車も楽しそうね」
 今回集まった冒険者の中で、唯一糸紡ぎを体験したことのあるセレスト・グラン・クリュ(eb3537)も、紡ぎ車の使用経験はなかったから、軽い口調ながら目は真剣だった。
「糸紡ぎなどしたことありませんけど‥‥興味ありましたので受けてみました。これもよい経験ですよね。頑張りますわ」
 ちょぴり不安そうにしつつ、依頼人の説明を石版にきっちりとメモを取るファリム・ユーグウィド(eb3279)。
「ここに羊毛置いて大丈夫かな?」
 オーリー・ノヴァが大量の羊毛をよろよろと作業場に運んでくる。
「うっわー、きれいな羊毛だねー♪ ふわふわで気持ちいい〜♪」
 だきゅっ。
 リーススが大量のふわもこ羊毛にあたっく!
「もふもふもふ〜‥‥けほんけほんけほっ」
 お顔をぽふぽふと羊毛にすりすりしていたリーススがむせる。
 細かい毛が喉に入ってしまったのだろう。
「あなた、大丈夫ですか?」
 ファリムがメモを取る手を休めてリーススの背中をさすってあげる。
「うん、だいじょうぶー♪ ちょっとびっくりしたー」
 てへりと笑うリースス。
 でもちゃっかりふわふわもこもこな羊毛は抱きしめたままだったり。
「ちゃんと、わかっただか〜?」
 依頼人の声に、「はーい」と羊毛に埋もれてお返事するリースス。
 再び羊毛が喉に入ってむせたのはお約束?


●お見送り♪
「ほんに、ありがたいべ〜」
 腕をぶんぶんと回して喜ぶ依頼人。
 折れていたはずのその腕は、リーススとセレストの用意したポーションのおかげですっかり良くなっていた。
「奥方との時間を大切にしたいのはわかるけれど‥‥もう少し自分の体を大切にした方がいいと思うの、あたしは」
 ちょっぴり眉間に皺を寄せて小言を言うセレスト。
 大切な人を失う悲しみは、もう十分知っている。
 いくら奥さんが大切だからって、無理をして倒れて、取り返しがつかなくなってからでは遅いのだ。
「お金? いらないよー。だって荷物かさばるんだもん。あ、もしどうしてもっていうんだったら、おいしいものちょこっと食べたいなー」
 ポーションの代金を払おうとする依頼人を止めるリースス。
 でもちゃっかり美味しいものをねだってみたり。
「ホットミルクやお菓子なら私が作れますよ? 料理はそんなに得意ではないですが‥‥。牧場で採れた牛乳を少しいただけるとうれしいです」
「牛乳でもなんでも、いくらでも使っていいべ〜。食料庫にもいろいろ入ってるだに、好きに使ってええだよ〜」
 ファリムの申し出に快く頷く依頼人。
「これ、僕が持ちます。途中まで送りますね」
 オーリーが依頼人の荷物を持ってあげる。
「おっ、助かるべ〜」
「お天気が続くといいですね。お気を付けて」
 にこにこご機嫌な依頼人夫婦とオーリーを、やっぱりにこにこと見送るアリアドル。
 さあ、糸紡ぎがんばるぞっ☆


●からからころころ糸紡ぎ☆
「‥‥慣れてくれば、そのうちスピードも上がりますよね。大丈夫、大丈夫」 
 ゆっくり、ゆっくり。
 依頼人に教わった事を思い出しながら、丁寧に糸を紡いでゆくアリアドル。
 絹糸のように艶やかな銀髪は、邪魔にならないように三つ編みにして束ねている。
 その隣では、セレストがもう慣れた手付きでするすると糸を紡いでいる。
 紡ぎ車で糸を紡いだことはないとはいえ、紡ぎコマでは何度も紡いでいた経験が生きているのだろう。
 切れやすい糸が切れることなく絶えず紡がれてゆく。
「うっわー、2人とも上手だね♪ 私がやるとどうしてもプチプチ切れちゃう。なんでだろー?」
 くんくん、くんくん。
 アリアドルとセレストが紡いだ綺麗な糸を手にとって匂いをかいでみるリースス。
「あなた、そんなことをしているとまたむせてしまいますよ?」
 いいながら、リーススの糸をひょいっと取り上げるファリム。
「あーっ! それわたしのだよー!」
「別に私のものにはしませんよ。でも、リーススさんのものでもありませんよ?」
「ぶー!」
「不貞腐れても、だめです。これは大事な品物なのですから。それよりも、美味しいクッキーが焼けましたよ。ホットミルクもご用意しましたから、少しお休みしませんか?」
「わーい、お菓子食べるー♪」
 糸を取り上げられて不機嫌だったのも束の間。 
 ファリムの作ったお菓子に飛びつくリースス。
「ずっと根を詰めていても、かえって疲れてしまうだけで、意外にはかどりませんからね」
 ふうっと軽く息をついて、糸を紡ぐ手を止めるアリアドル。
 その額にはうっすらと汗がにじんでいる。
「そうね。軽く休憩するのもいいわね。ファリムさん、クッキー焼くのお上手ね」
 自前のエプロンを軽くはたいて毛を落とし、一休みしながらセレスト。
「本当ですか? ありがとうございます」
「ホットミルクも体が温まりますよね」
 ホットミルクの香りを楽しみつつ、ふふっと微笑むアリアドル。
「あっ、羊さんたちにご飯あげなきゃいけないかな?」
 ぱくぱくと美味しくクッキーをほうばっていたリーススが気がつく。
 依頼人たちは旅行に行ってしまっているのだから、その間の羊の面倒は当然冒険者たちの仕事になるわけで。
 ギルドの依頼書にはかかれていなかったし、依頼人もさくっと忘れていた可能性が高いけれど。
「ああ、そうですね。羊たちにも美味しいお食事を上げないといけませんね」
「じゃあ私行ってくるー!」
 パタパタと駆け出すリーススのあとを、「お手伝いしますよ」と続くアリアドル。
「それなら、わたしたちは夕食の仕込をしてしまいましょうか? キャベツの煮込みを作りたいのだけれど、仕込み、手伝っていただける?」
「ええ、喜んで。未熟者ですがよろしくお願いします」
 セレストに頼まれて、快く頷くファリム。
 夕食も、かなり美味しいお料理が期待できそう?


●びみょうにもこもこひつじさん♪
「羊さーん、草あげる。なでなでさせてー?」
 リーススが牧草を羊たちに食べさせつつ、伸びかけの毛をなでなでする。
「ふわふわもこもこに戻り行く真っ最中ですね」
 暖かそうでいいなとおもいつつ、アリアドルもなでてみる。
 生えかけの毛は不ぞろいで、まだ短いけれどそれでもふんわりと暖かかった。
 二人になでられた羊はくすぐったそうに「めええ〜」と鳴いた。


●再び糸紡ぎ☆
「ここをこうして、こんな感じでしょうか‥‥?」
 おっかなびっくり。
 羊毛を紡ぎ車にかけて緊張した面持ちで紡ぎだすファリム。
「うん、そうそう。とても上手だわ」
 その横で、ファリムの紡ぎ方を見てあげているセレスト。
 紡ぎ車は2台しかなかったから、4人で順番に紡ぐことにしたのだ。
「‥‥ふんふん、ふーん。こう? あっ、切れちゃった。どうしてー?」
 楽しげに、けれどあんまり上手に紡げずに小首を傾げるリースス。
「それはたぶん、力加減が強すぎるんですよ。もう少し、やさしく引いてみてください」
 アリアドルに言われ、リーススがちょっぴり力を抜いて紡ぎだすと、とたんにするすると糸が切れずに紡がれる。
「しゅるしゅるる〜♪ ほんとだー、切れなくなってきたや。おもしろーい♪」
 ご機嫌に紡ぐリースス。
 でも紡がれる糸はちょっぴり太さがばらばらのような?
「‥‥あれ? あれれ? 何だか太さがいろいろだー。‥‥あ、えーっとね、これはね、味っていうんだよ。前に友達が言ってたよ。えっへん」
 てへり。
 均等に紡げないのを笑ってごまかすリースス。
「味はある意味魅力的だけれど、今回は無いほうがいいわね」
 セレストが苦笑する。
「え? 味はあんまりないほうがいいの? そうなのかー」
「もう少しだけ、肩の力を抜いてみましょうか。指先はそえる感じですね」
 うんうんと頷きながら、アリアドルに手伝ってもらいながら糸を紡ぐリースス。
 だんだんと均等に紡げるようになってくる。


「そだ! 糸にならなかったふわふわ、ちょうだい?」
 代わりばんこに糸を紡ぎつつ。  
 大分沢山の糸が紡げた頃にリーススが回りに散らばったふわふわの羊毛を集めていう。
「せっけんあるかなあ? なければ灰汁でもいいのー!」
「灰汁ならちょうどいま作ってるキャベツの煮込みから取れたわね」
 夕食を作っていた台所から顔を出してセレスト。
「あなた、そんなのを何に使うんですか?」
 灰汁をボウルに移してあげながらファリムが首を傾げる。
「こうやってねー、ふわふわにつけてもみもみしてねー、うふふー、フェルトのできあがり♪ 」
 じゃーん!
 そんな効果音が聞こえてきそうな感じで出来上がったフェルトをみんなに見せるリースス。
 野菜から採れた灰汁は嫌な匂いもなく、フェルトはふんわりふわふわ。
「素敵ですね」
 フェルトを手にとって微笑むファリム。
「これで何か作れそうね」
 いつも持ち歩いている裁縫道具を取り出して、なにやら作り出すセレスト。
 みなの見守る中出来上がったのは、可愛い獣耳のヘアバンド!
「うわー、ふわもこの獣耳だー!」
 真っ白い獣耳ヘアバンドをさっそく頭にくっつけて、くるくると回るリースス。
「羊さんのようですねぇ」
 アリアドルも手にとってその手触りを楽しむ。
「なんだか羊さんになった気分です」
 ほんわかほよほよ。
 ファリムも獣耳ヘアバンドをつけて嬉しそう♪


●エピローグ
「とっても楽しかっただべ〜」
 にこにこ。
 にこにこ。
 愛する奥さんと二人、仲良く元気にご帰還の依頼人。
 その依頼人を迎えるのは獣耳ヘアバンドを頭につけた冒険者4人。
 とっても可愛いそのヘアバンドはもちろん奥様と依頼人の分もあったりする。
「こんなに全部終わってるとは思わなかっただよ〜。ありがたいべ〜」
 依頼人に心底喜ばれつつ。
 今回の依頼は無事に終えたのでした。
 ふわふわもこもこ☆