●リプレイ本文
●出発!
「それでは、こちらがお願いしたい本ですわ」
冒険者ギルドで。
依頼人のマルグリットが本と手紙をバックから取り出してキドナス・マーガッヅ(eb1591)に手渡す。
青い背表紙のその本は真新しく、ほのかにインクの香りがする。
そしてかなり分厚い。
この重さだと、シフール便で届けるには難しかったのだろう。
「こここ、これがお預かりする本だな、うん。じじ、自分が必ずきちんとお届けするのだ、うん」
マルグリットに本と手紙を手渡され、真っ赤になってしどろもどろなキドナス。
ぎくしゃく。ぎくしゃく。
明らかに挙動不審なキドナス。
「おまえ、もしかしてロリコンじゃねーの?」
そんなキドナスに、さくっとキツイことを言い切るメフィスト・ダテ(eb1079)。
「ち、ちちっ、ちがう、自分は決して!!」
「ねえねえ、ロリコンってなにかなー?」
ちょこん。
慌てふためくキドナスに小首をかしげてたずねるミュウ・クィール(eb3050)。
「ロリコンって言うのはね、キドナスさんのような方のことを言うのよ」
こちらもさくっと言い切るマリー・ミション(ea9142)。
もちろん、からかっているだけなのだが、ちょっぴり小声で眉をひそめているあたり、芸が細かいかもしれない。
「ふうん。キドナスさんはロリコンなんだねー★」
にこにこ。
にこにこ。
悪意の欠片もないミュウに、
(「ちがうっ、ちがうんだっ! 妹に似ている女性が怖いだけなんだっ、妹は可愛いけれど天然だけど、穏やかで何かが怖いんだー!!」)
と心の中で涙しつつ、がっくりとうな垂れるキドナス。
「こらこら、みんな。依頼人の前で漫才しないの。マルグリットさんが驚いてるじゃないの。改めて、本と手紙、確かにお預かりしましたわ」
紅 流(ea9103)がホホホッと笑いながらみんなを止めて、
「ラングウッドさんに手紙と本を渡せば良いのね? 簡単ね。キチンと届けて差し上げますわ。あと何か言付けかなにかあったら伝えますけど、どうかしら?」
サビーネ・メッテルニヒ(ea2792)がマルグリットに尋ねる。
「言付け‥‥そうですわね。手紙にも書きましたけれど、やはりお身体に気をつけてほしいですわ。寒い夜は薬湯を飲んで身体を暖かくして眠ってほしい言っていたとお伝えくださいませ」
「わかったわ。確かに伝えるわね」
「あっ、あと大事なものを忘れるところでしたわ。‥‥っと」
マルグリットが、慌ててバッグの中から皮袋を取り出そうとして、ついでに届け物とは別の本もバサリとバックから零れ落ちる。
「マルグリットさんは本当に本が好きなんですね。必ずお届けしますわ」
マリーが本を拾ってあげながら微笑む。
そして皮袋を拾い上げたキドナスは、程よく重いそれにほっとする。
(「移動手段が何なのか、そしてそれは経費でいいのだろうかと思っていたが、これほどあるなら船でも問題ないだろう」)
じゃらじゃらと小気味よい音を響かせる皮袋は、きっと沢山の金貨が詰まっているのだろうと、中を確認せずに信じて疑わないキドナス。
だが。
これを後ほどになって死ぬほど後悔することになる。
●港から出航! でも‥‥?
「お金が足りないですって?」
サビーネが柳眉を顰める。
ドレスタット行きの船を申し込んで、いざ船代を払おうとしたときだった。
マルグリットから預かった皮袋を覗き込んで、青ざめるキドナス。
金貨が詰まっているかのように思われた皮袋には、沢山の銅貨。
きっとマルグリットがちまちま貯金していたものに違いない。
「でも行きの船代だけならでるんじゃねーの? とりあえず払っちまおーぜ」
「それしかないわね」
苦笑して、銅貨を船員に支払う冒険者達。
帰りは徒歩になりそうだ。
●楽しい楽しいの船の旅。でも航海じゃなくて後悔?
「大事なおじーちゃんへのお手紙と贈り物だもん★ 頑張って、すごぉく大事に届けないとね★」
ミュウが船のデッキの手すりに寄りかかり、足をぷらぷらさせている。
初めての船旅が楽しくて楽しくて仕方ないのだろう。
ほとんど身を乗り出して、「あ、お魚さん見っけー★」などとはしゃいでいる。
「おまえ、ちっこいからそんなことしてると落ちるんじゃん?」
メフィストが寄ってきて、ちまっこいミュウをひょいっと抱えて後ろに下がらせる。
「もぉ、おとなだもーん。落ちたりしないもーん」
ぷうっとほっぺたを膨らますミュウ。
「でも本当に、あんまり身体を乗り出すと危ないんだ。船は結構揺れることもあるからな」
何度か船旅を経験しているキドナスも諭す。
「っと」
「うひゃっ?」
言ってるそばから船が揺れた。
ガクンとよろけてミュウに抱きつくように甲板に倒れるキドナス。
「おまえ、こんなちっこい子にまで‥‥」
メフィストがいっそ哀れみをこめた目で見つめる。
「ま、まて、誤解だっ、今の見てたろ、よろけただけだろっ?!」
いくら『妹怖し』の精神で年下の女性に挙動不審になるキドナスでも、ミュウほどちいさい女の子なら範囲外だ。
それにそもそもそうゆう趣味持ってないしっ。
「うー。重いの〜」
必死に弁解するキドナスに乗っかられたままのミュウがじたじたと暴れる。
「うわっ、ごめん。大丈夫だったか?」
慌てて飛びのくキドナス。
ビシッ!
「?!」
そのキドナスのすぐ足元に、鞭が飛ぶ。
「‥‥キドナスさん。あなた、ミュウさんに何をしていらっしゃるのかしら」
いつのまにかサビーネがもの凄い笑顔で背後に佇んでいた。
その手にはもちろん鞭が握られている。
「な、な、な、なにってっ?」
「答えられないようなことをなさっていたのかしら」
にこにこにこ。
顔は笑っているのに目が笑ってない。
鞭を握り締めた白い手に力がこもっているのが良くわかる。
「ま、まて。サビーネ殿も何か勘違いしていないか? 自分はただ‥‥っ!」
再度弁明しようとするキドナスの顔面スレスレに鞭が飛ぶ。
「なにか、おっしゃって?」
「‥‥ごめんなさい」
両手を挙げて降参ポーズをとるキドナス。
なぜ何もしていないのに怒られなければならないのか。
自分は決して悪くないと海に叫びたいキドナスだったが、鞭は痛いし。
「初めからそうゆう風に素直になっていただければ宜しいの。さあ、ミュウさんはおねーさん達とあっちでお話をしましょうね。男性なんて信じてはだめよ」
ちょっぴり普段から異性に対して不信感を持っているサビーネは、キドナスを謝らせると満足げに頷いてミュウの手を引いて去ってゆく。
(「ううっ、何で自分がこんな目に?」)
ぎゅうっと預かりものの本と手紙を抱きしめる。
手紙と本は、マルグリットと別れたあと、紅に毛皮の敷物を借りて梱包してある。
ちょっと見た目は不恰好な包み方になってしまったが、これなら海の潮風も湿気も本を傷めることはないだろう。
「なあ、大丈夫か?」
メフィストが心配げにキドナスを覗き込む。
「ああ、大丈夫だ。当たってはいないしな」
「いや、おまえじゃなくて本」
きぱっと言い切られ、がっくりと凹むキドナスだった。
●お魚釣り〜♪
「とーうっ!」
紅が勢い良く海に向かって投網を投げる。
「お流石ですね」
手際よい紅の手さばきにマリーが感心する。
「あら、でも私、初めてなのよ?」
笑いながらぐいっと投網を引っ張る紅に手を貸すマリー。
「お、重いですね」
「そうね、一気に引き上げるわよ、せーのっ、えいっ!」
ざばーんっ!!
二人に引き上げられた投網の中には、沢山の魚達。
「大量ですね」
「ええ、でも、こ、これ、食べられるのかしら‥‥?」
おいしそうな魚に混じって、なにやら怪しげな正体不明の生き物も混じっていた。
●ラングウッドおじいちゃん
「おおっ、マルグリットからとな‥‥?」
ドレスタットの冒険者ギルドで届け物を受け取って嬉しそうに笑うラングウッド。
「それと、マルグリットさんから言付けよ。薬湯を飲んで、身体を大事にしてほしいって」
「そうか‥‥あの子が風邪を引いたときによく薬湯を作ってやったもんじゃよ。覚えててくれたんじゃなあ」
ラングウッドの瞳にうっすらと涙が浮かぶ。
「マルグリットさんも懐かしがっていましたよ。手紙と一緒におじいさんの元気な様子もお伝えしますから、よかったらマルグリットさんへの手紙を書かれませんか?」
「おお、マリー殿、いいんかのぅ?」
「ええ」
微笑むマリーに促され、いそいそとマルグリットへの手紙を書くラングウッド。
●エピローグ〜観光しようね。大急ぎで♪
「観光、できそうかしら? 時間、大丈夫?」
ラングウッドから手紙を預かって、大急ぎで街に繰り出す冒険者達。
帰りは徒歩だから、あまり遊ぶ時間はない。
「大丈夫じゃないけれど、大急ぎで楽しんでしまいましょう」
時間を気にする紅に、サビーネが笑う。
「ところ変わればずいぶんと違うものなんですねえ」
「観光かんこうー、楽しみー★」
おっとりと景色を楽しむマリーと、転びそうなほどはしゃいでいるミュウ。
キドナスとメフィストの男性陣は、そんな女性達の荷物もちを買ってでて。
大いにドレスタットの観光を楽しんだのだった。