許してくれる愛は宝物
|
■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:フリーlv
難易度:やや難
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月02日〜11月07日
リプレイ公開日:2005年11月14日
|
●オープニング
「寝覚めが悪いんだよネ」
冒険者ギルドの受付で。
緑の黒髪――といえば聞こえはいいが、ただ単に長くて黒い髪を面倒くさげにかきあげる依頼人。
「睡眠薬の調合ですか? それでしたら、ギルドよりも薬剤師のところへ向かわれたほうがいいですよ」
こちらも自分好みの女性ではない依頼人にそっけなく答える万年一人身受付係。
彼でも薬剤師の紹介は出来るのだが、面倒くさいし。
「ああ、違う違う。そうゆう寝覚めじゃないのヨ。ある男を捜してほしいのサ」
「恋人ですか?」
「ちっがーうっ! どうしてあたしがあんなおっさんと付き合わなきゃならないのさ? ただ単に客だよ客」
(「いやー、おっさんかどうかなんてこっちには分からないし」)
キレ気味の依頼人にさくっと突っ込みたいところをぐっと抑え、「はあ」とあいまいに頷く受付係。
「実はサ。数日前にあたしの店に来た客なんだけど、財布を落としたって言うんだ。だから今すぐお金は払えないけれど占って欲しいっていうんだよ。胡散くさいったらありゃしない」
「あなた、占い師なんですか?」
「ああ、そうとも。この水晶で占えば大抵の悩みは解決できるのさ。だけど金も払わずに占ってくれだなんて、普段だったらそんな依頼は絶対にお断りするんだけど、何でだろうね? なんとなく、占ってやっちまったのサ。そしたら‥‥」
「そしたら?」
「探し物は『失った場所にある』って閃いてね。そう告げてやったとたん男はどっかに行っちまったんだけど、そいつが今度はあたしのところで落し物をしていってねえ」
懐から、ごそごそと小さな小袋を取り出す。
「‥‥ずいぶん、汚れてますね。それに古そうだ」
自称占い師の取り出したその小袋は、日に褪せ、汚れ、みすぼらしい。
「あたしも拾ってすぐに捨てちまおうかと思ったんだけどさ、中を見ちまったら捨てれなくってね‥‥」
眉間にしわを寄せてため息をつきながら、中身をとりだしてみせる。
銀色の、小さな小さな指輪。
指輪の内側には宝石だろうか?
ピンクの小石が埋まっている。
「小さいけれど、高そうな指輪ですねえ」
「たぶんそのおっさんの子供のものだと思うんだよネ。だかさ、そのおっさん探し出してくんない? 探し物、これだったんじゃないかと思うのよ。これ、返してやらないとさあ、あたしの占いのせいでなんかあったらと思うと本気で寝覚め悪くってサ」
もう詐欺からは足洗ったし。
「え、詐欺?」
「いいや、なんでもないサ。で、依頼受けてもらえんの? もらえないの?」
ぽそりと呟いた自称占い師の言葉に首を傾げつつ。
万年独り身受付係は新しい依頼書を作成するのだった‥‥。
●リプレイ本文
●まずは容姿を聞いちゃおう!
「お久しぶりです。心を入れ替えて頂いた様でなりよりです」
依頼人である占い師に心底嬉しそうに微笑む淋麗(ea7509)。
「あんたにまた会えて、アタシも嬉しいよ。あたしは、少しはマシな人間になれたかい?」
占い師が詐欺を辞めて全うな道を歩むようになったのは淋の功績が大きい。
恩人のような存在の淋にまた会えたことが嬉しいのだろう、恥ずかしげに鼻を擦る占い師。
「胡散臭くても『なんとなく』占って、報酬を出してまでも落し物をその人に届けようとする‥‥優しいのね。あなたの優しさに応えられる結果を出せるように頑張るわね」
依頼人の意外な優しさに惹かれるのはフェリシア・ティール(ea4284)。
「あなた、かっこいいね♪ あたいは真慧琉っていうの。よろしくね♪」
むぎゅっ。
豊満な胸を強調して水無月冷華(ea8284)に抱きつく真慧琉(ea6597)。
水無月は、
「申し遅れました。私は水無月冷華。志士をしております」
とちょっぴり戸惑いつつ深々と礼をする。
「えっ、冷華ってことはあなた女の子?!」
名前を聞いて慌てて飛びのく真。
かっこいい男性は大好きだが、同姓愛の趣味はない。
「はっ、一応、生物学上は女性だが、男性と同等に扱って頂いてかまわない」
女性だからと馬鹿にされるぐらいなら、男性扱いのほうがいい。
ジャパン独特の志士の羽織袴は女性らしい冷華の身体付きを隠し、凛々しく男性的な雰囲気を醸し出している。
「そ、そう? じゃあ」
抱きゅっ。
気を取り直してもう一度だきゅっと抱きつく真。
でももう胸はくっつけていなかったり。
「そういえば、あの時はあんたにも迷惑かけたんだよね? 改めて言うわ。あの時はありがとう」
「いいえ。淋さんの言葉、随分効いたみたいですね。私も嬉しく思います」
以前、占い師がとある男に詐欺を働いた時に、騙された男の為にニルナ・ヒュッケバイン(ea0907)は誠意を持って尽くしたのだ。
その事は、騙したはずの男が礼を言いに占い師の元を訪れたときに知ったのだった。
今まで直接あったことのない二人だったが、パリで、一、二を争う実力者と噂されるニルナの姿は占い師も見かけたことがあり、だから直ぐにわかった。
「ねえ、あんた。探し人の特徴について詳しく教えてくれないかな? それと、この子に落とし物の皮袋の匂いを嗅がさせて欲しいんだよね」
シャムームイア・ムハラディカ(ea5111)が愛犬のレキを撫でながら占い師に尋ねる。
「ちょっと待ってておくれよ」
といいながらごそごそと懐から皮袋を取り出し、レキの鼻にかがんで匂いを嗅がせてみる占い師。
「いい? この人捜すんだよ」
シャムームイアに言われ、クゥンと鳴くレキ。
どうやら理解したっぽい?
そして問題の落とし主の容姿については「うーん、それなりのおじさんだったとしか‥‥」とうまく思い出せない占い師に、淋がその類まれな話術で記憶をうまく呼び起こし、かなり詳しい情報を得ることができた。
そうして、冒険者達はその情報を元にそれぞれ落とし主を探しに行くのだった。
●落とし主は誰ですか? 見つけにくい人ですか?
「右手を擦る癖がある、か‥‥」
エチゴヤの前で、じっと道行く人々に目を凝らす水無月。
その目の前で、
「捕まえた!」
不意に真が見知らぬ男性に飛びつく。
「まあっ、真さん、何をしているんですか」
慌てて真の背中の羽をつまんで男性から引き離す淋。
抱きつかれた男性は怪訝な顔をして逃げ去ってゆく。
「えへっ♪ だってかっこよかったんだもん♪」
悪びれもせず舌を出して笑う真。
「真殿。どうか真面目にやっていただきたい」
「そうですよ。こうしている間にも落とし主は必死に落し物を探しているに違いないのですから」
「はぁい、ちゃんと真面目にやるね♪ おーい、そこの人っ、ねぇねぇ、ピンクの指輪落とさなかった?」
イケメン顔の凛々しい水無月と、大切な主であるアミィ・エルの友人である淋。
二人に諭されては真面目にやるっきゃない。
パタパタと羽をはばたかせて道行く男性に声をかけに行く真だった。
「ちょっとちょっと〜っ、ほんとにこっちにいるのかなー?」
どたどたどたどたっ。
愛犬のレンに半ば引きずられるように繁華街をすり抜けてゆくシャムームイアイ。
やっとたどり着いたそこは‥‥。
「肉屋さん?」
クウン♪
肉屋のおいしい匂いにつられたらしい。
「っもう、ちゃんと落とし主のところに案内してよーっ」
そういいつつも、ついついお肉を買ってあげちゃうのは飼い主の性?
「依頼人がおっさんと呼んでいた人物‥‥なにか引っかかりますね‥‥」
占い師から聞いた情報を細かくメモした羊皮紙とにらめっこしながら、ニルナは柳眉を潜める。
「そういえば‥‥『探しものは失った場所にある』という占い結果。それが『物』だとは限らないのよね。なんとなく、そう思っただけなのだけど‥‥。依頼人の寝覚めが悪いのは単純に心配しているから? それとも、その人に関して何か引っ掛かった事でもあるのかしら‥‥占い師としての勘に」
占い師と同じように、日々人々の悩みを聞き、心を癒すことを生業としているフェリシアもなにか引っかかりを感じているらしい。
「それも、落とし主を見つけることが出来れば解決できるでしょう。居場所は、たぶんあそこです」
遠く、街の外れのスラム街を指差すニルナ。
地道な聞き込みを続けた結果、問題の人物はそこで足取りが途絶えているのだ。
「急いで探さないといけないわね‥‥」
けれど、焦りは禁物。
まずは仲間達に知らせなくては。
ニルナとフェリシアは踵を返し、まずは仲間の待つエチゴヤへと走った。
●いま、助けてあげるから!
「中にいるのは6人です。落とし主らしき人は柱に縛られていました。それと、女の子もです」
瓦礫の影に潜む冒険者達の中に、人間大の鷲――淋が舞い降り、小屋の中の状況を伝える。
スラム街の片隅に佇むその小屋は、周りに立つ小屋と同様にもう何年も使われていなかったのだろう、あちらこちらが老朽化して脆そうだった。
だが、隠れ家としては最適だ。
「淋、洋服だよっ」
真がすぐに淋を布で包んで服をその中に押し入れる。
「子供を人質にとるなんて許せないんだよっ!」
赤い髪を逆立てんばかりに怒り狂うシャムームイア。
レキもウォンッと咆える。
「落とし主は、随分と厄介な事に巻き込まれてしまっていたようね」
瓦礫の影から、小屋の様子を伺うフェリシア。
クールなようでいて、その瞳はかなり険しい。
「真さんとシャムームイアさんは陽動を。私と水無月さんが斬りこみますから、その隙に淋さんとフェリシアさんは人質を連れ出してください」
「了解した」
「まっかせて!」
指揮を取るニルナに力強く頷く面々。
「レキ、いっけえっ!」
掛け声と共に小屋に飛び出してゆくシャムームイア、
「あちょーっ!」
気合満々にその後に続く真。
●落とし物は落とし主に。
「うおおおおうっ、メリー、無事でよかったー!」
冒険者達に助け出され、縄を解かれた瞬間、愛娘を抱きしめる指輪の落とし主――ブロザさん。
その周りには冒険者達に完膚なきまでにボコボコにのされた盗賊たちが転がっている。
ブロザさんから聞いた事情によると、ブロザさんは良く落し物をするのだそうな。
占い師の助言に従い、思い当たるところをふらふらと捜し歩いていたところ、気が付けばこんな辺鄙なスラム街へ。
娘と一緒にさくっと盗賊に捕まってしまったのだそうな。
なんともドジな話である。
「失った場所にある‥‥上手い言い方ですけど、また落し物をして、もっと大切な物を失ってしまうところでしたね‥‥もう落としては駄目ですよ?」
占い師から預かっておいた皮袋をブロザさんに差し出し、ブロザの腕の中のメリーの頭を撫でてあげるニルナ。
「もう少し落ち着いて行動した方がいいですよ。深呼吸などすると落ち着いてよいですよ」
とことん落ち着きのなさそうなブロザの性格を見て取ると、淋はやはり占い師のように諭す。
「ええ、ええ、そうします、はい。もう2度とこんな思いはごめんですから」
こくこくこく。
1も2もなく頷いて、さっそく深呼吸などをしてみるブロザ。
でもそうしながらも決して愛娘を抱きしめる手は緩めていなかったり。
メリーさんは安心したのか、ブロザさんの腕の中で小さな寝息を立てている。
そんなブロザをみて、
「あぁあ、あたいもかっこいい男と結婚して子供を生んで素敵な家庭がほしいな」
と羨ましげに呟く真。
その瞬間。
「淋殿?」
「あのっ、その、えっと‥‥」
かーーーーーーーーーーーーーーーーっ。
真の言葉に真っ赤になってしまった淋を水無月は怪訝そうに見る。
愛する人と築く幸せな家庭は淋の夢だ。
その夢は、もうすぐ叶うのだろう。
「ブロザさんの未来はね、安泰なんだよ。淋さんも水無月さんも、ニルナさんもフェリシアさんも。みーんなみんな未来は幸せって占いがいってるんだよ」
シャムームイアが得意の占いで、みんなの未来を予言して、愛犬レンがやっぱりクゥンと鳴いて。
幸せな笑い声が満ちる中、依頼は無事、終了したのだった。