素敵なプレゼント〜お父様への贈り物☆
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 44 C
参加人数:4人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月18日〜07月25日
リプレイ公開日:2005年07月24日
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●オープニング
「ねえ、ピエール。あれはなあに?」
パリの街中で。
見知らぬ通りすがりの貴族を唐突に指差す幼いお嬢様。
仕事の為に長らく屋敷を留守にしていた最愛のお父様が半年振りに屋敷に戻られる事になり、お父様の誕生日が近い事もあってそのプレゼントを執事のピエールとパリに買い物に来ていたのだが、身なりの派手な貴族のベルトに輝く銀色の飾りに興味深々。
「お嬢様。他人様をそのように指差すのははしたない事ですぞ」
めっと執事のピエールに叱られて慌てて指を下ろすお嬢様。
幼いお嬢様のそんな様子にピエールは微笑みながら、
「あれは『バックル』というものでございます」
「ばっくる?」
「はい。マント領の特産品でしてな、鉄を加工して作られております。貴族以外に売り出されたのはごく最近の事ですし、とても高価な品物ですからまだまだ所持している者は少ないようですな。わたくしもこのような街中で見かける事が出来るとは思ってはおりませんでした」
「‥‥ピエール、わたしきめたわ! おとうさまのお誕生日プレゼントは『ばっくる』にするの。マントにつれてって!」
「なにを言い出すのですかお嬢様! マント領はパリから徒歩で2日もかかるのですぞ。そんな遠い場所にお嬢様をお連れすることなど出来ません」
「だって、おとうさま、やっとかえってきてくれるのよ‥‥? ずっと外国にいってらしたから、わたしがお会いできるのは半年ぶりなのよ‥‥? おとうさま、ばっくるならきっとよろこんでくれるもん‥‥ピエールのばかっ!」
うわーんと泣きじゃくるお嬢様に、しかしピエールは決して頷かなかった。
マント領といえば、つい最近デビル騒動があった場所である。
今はもう落ちついたとはいえ、そのようなことのあった場所へ旦那様から大切にお預かりしているお嬢様をお連れするなど問題外。
デビルの残党にでも出くわしたらピエールの力だけでお嬢様を守り抜く事など到底不可能なのだから。
しかし、最愛のお父様に喜んでもらいたいお嬢さまのお気持ちは痛いほどよくわかる。
だから幼いお嬢様を泣き止ませ、バックルとは別のお父様へのプレゼントを購入したあと、ピエールはこっそりと冒険者ギルドにこんな以来を頼むのである。
『マント領特産品のベルトバックルを購入して来てください』
●リプレイ本文
●マント領への道程
「ふむ。今日はこの辺で野営するかのぅ?」
パリからマント領へ行く途中の街道で、そろそろ沈みかけた夕日を見つめ呟くギーン・コーイン(ea3443)。
全員馬か驢馬を所持していた為、予定よりも幾分早くマント領に近づいている。
「出来るだけ早くお嬢様へバックルをお届けしたいところですが、デビルの残党も出るとの事、無理は禁物でしょう。まだ日があるうちに野営の準備をしてしまいましょう」
依頼人のピエールから、ベルトバックルの購入資金用にとずっしりと金貨の詰まった皮袋を預かっているジュリアン・パレ(eb2476)もギーンに同意する。
「ここら辺一帯では、デビルの目撃談はないそうです。見晴らしも良いですし、野営に適していますね」
友人から、マント領周辺の土地情報を聞いていた柳 麗娟(ea9378)が、驢馬の紗羅の背から降りていう。
柳は、普段の袈裟姿から、この辺りの女性が好んで着る洋装に着替えていた。
それは、デビルの残党がどこに潜んでいるかもわからないので、薄手の長袖で数珠を隠し、目立つ要素は少しでも排除しておこうという配慮からだった。
「了解した」とエルヴィン・バードナー(ea9969)も野営に頷いて、馬の背から簡易テントなどを下ろし始める。
テントを設置し終えると、料理を作って食べさせるのが好きなエルヴィンは保存食をいつも持ち歩いている調理器具セットで加工して、皆に手料理を披露する。
夜間は、この辺りにデビルはいないとのことだったが、一応順番で野営に立ち、何事もなく夜を過ごす一同。
行きの旅はとても順調だった。
●マント領〜ベルトバックルはどこ?
「まあ、随分とあちこちで売られておりますのね‥‥」
マント領に着き、ジュリアンに添い、夫婦のように見えるように装った柳が驚く。
バックルはとても高価でとても庶民の手に入る品物ではない事から、購入に怪しまれる事のないように気品があり、礼儀作法にも通じているジュリアンを貴族に、その妻役に柳が、そしてギーンとエルヴィンがその護衛のように演じることにしたのだ。
ベルトバックルは、値段はとても高価なものの、マント領ではバックル職人の工房がいくつもあった。厳しかった販売の制限が緩められたので、工房でも売ってくれるのだ。
柳が驚くのも無理はないだろう。
「ふむ。いくつか工房を回ってみるべきじゃろうか。ふっかけられんとも限らんからのぅ」
商業に詳しいギーンが予め商人ギルドに問い合わせて相場を聞いておいたため、バックルの大体の流通価格は把握している。
しかし、足元を見られないとも限らない。
だからギーンの提案に従い、一行は何件かバックルの工房を回ってみる。
「とりあえず、依頼人のピエールの旦那に御主人がどんな風体で、服装の好みしとるかくらいは聞いておいたが、3件目のあの工房はどうぢゃろうかのぅ?」
ギーンが依頼人から聞き出した情報によれば、主人は背が高く、エルフにしては筋肉質で、黒い、もしくは濃い色合いのデザインの落ちついた服を好んで召されるらしい。
「あの工房も良かったが、私は5件目のデザインも捨てがたい。うーん、悩むな」
初めて見るベルトバックルはどれもこれも物珍しく、エルヴィンは腕を組んで考え込む。
「ならば両方とも購入してまいりましょう。その他にもいくつかめぼしいデザインの物を購入して最終的にはお嬢様に選んでもらうのがよろしいかと存じます」
「お嬢様に選んでもらうのですか? でも、お嬢様にはこの事は内緒なのでは?」
お嬢様に選ばせるというジュリアンに、首をかしげる柳。
依頼人のピエールは、確かお嬢様に内緒で冒険者を雇っているはずなのだ。
「ええ、そうです。ですがお嬢様のお気持ちとしましては、大切なお父君への贈り物を『自分で選ぶ』ことに重きがあるのではないでしょうか。ですから私達はマント領からの行商人のふりをして『偶然』お嬢様のお屋敷へ立ち寄るんです。そしてお嬢様にいくつかの商品の中より、お父君にあうと思うものを選んで頂こうと思います」
バックル数個分の購入資金も既にピエールから受け取っているジュリアンの言葉に、柳も納得し、冒険者達はそれぞれ数種類のバックルを選んで購入してみる。
「それにしても高いな‥‥」と購入したバックルをまじまじと見つめて呟くエルヴィン。
そしてギーンは本当なら鍛冶職人という職柄から金属を加工して作るというベルトバックルの工房を、この機会に見学させてもらいたかった。
だから、バックルを購入時にそれとなく工房を見せては貰えぬかと頼んでみたのだが、数件回っても流石にマント領の特産品であるバックルの製造方法をよその者にそう安々と教えては貰えなかった。
仕方なく諦めて、一向はマント領を後にするのだった。
●行きはよいよい帰りは恐い? 敵、出現!
マント領に来る時に通った道は、なにやらオークが出たという噂を聞いたので、行きとは違う街道を通り、パリへと戻る一行。
テントを構え、行きと同じようにローテーションを組んで周囲を見張り、交代で仮眠を取って野営をする。
深夜。
ギーンとジュリアン、そしてエルヴィンの3人がテントの周囲を見張り、自然を愛する柳は「自然の中ではなるべく外気に頬を撫でられ眠りたいのです」といい、テントの外で持参の寝袋に包まって仮眠を取っていた。
そろそろランタンの油を継ぎ足そうと、ギーンがバックパックの中から油を取り出した時、そいつらは現れた。
「よおっ、にーちゃんたち羽振りがいいねぇ。俺達にも分けてくれよぉ」
下卑た面に有りがちな台詞を吐いて、数人、盗賊達が現れる。
完全に囲まれたようだ。
対デビル対策に柳がデティクトアンデットを眠る前にかけて周囲の状況を調べてくれていたのだが、悪漢やチンピラとはいえ人間には効果がなかったのだ。
ジュリアンは咄嗟に寝袋ごと柳を抱き寄せて庇う。
抱き寄せられた柳ははっとして目を覚まし、しかし慌てることなく状況を分析、寝袋を取り去って臨戦体制に。
「随分沢山バックルを購入してらしたなぁ。なあに、全部寄越せとはいわねえよ。半分でいい。半分置いてきゃ命だけは助けてやるぜ、お貴族さんよぉ!」
じわじわと間合いを詰めてくる盗賊達に、エルヴィンは舌打ちする。
ベルトバックルの購入を怪しまれないようにと貴族を装い、高価なバックルを大量に購入したのが仇となったらしい。
デビルよりはましかもしれないが、こんなならず者に目をつけられるとは!
「‥‥置いていく気はねぇようだな? ものども、やっちまえ!!」
ボスの合図で、わっと襲いかかってくる盗賊達。
ガキーンッ!!
エルヴィンが先陣きって盗賊達に刃向かう。剣と剣の交わる音が辺り一帯に響き渡る!
ついでギーンが、身体全体にオーラまといながら盗賊の凶刃を素早くサイドステップを踏み回避し、敵の攻撃と交差するかのように日本刀で切り返す!
そしてジュリアンは柳を背に庇いながら、クリスダガーの柄の部分を使って出来るだけ盗賊達を気絶させるに留める。
盗賊とはいえ命ある者。すべての命あるものを大切に思い、無益な殺生は好まないジュリアンには止めは刺せないのだ。
「御仏の加護を‥‥グットラック!」
ジュリアンに庇われながら呪文詠唱を終えた柳の身体が白く輝き、祝福の魔法が冒険者たちを包み込む。
盗賊達の方が圧倒的に数が多いものの、ただのゴロツキと冒険者では格が違う。
少しずつ、だが確実に盗賊達を倒していく冒険者たち。
「ちっ、ものども引き上げだあっ!」
形成不利と見るや、ボスが一目散に逃げ出し、慌てて他の盗賊達も、ジュリアンに気絶させられていた仲間を引きずるようにして逃げて行く。
「なんとかなったようぢゃのぅ」
ギーンは自慢の顎鬚をしごいてほっと肩で息をついた。
●エピローグ〜最後の一芝居
ジュリアンの計画通り、お嬢様の屋敷の前にマントを巡りバックルを仕入れをしてきた旅の行商人を装って訪れる冒険者たち。
あらかじめ依頼人のピエールには口裏を合わせてもらえるようにジュリアンが話しをつけてある為抜かりない。
そしてピエールから、たまたまバックルを売る旅の行商人が訪れたと聞き、子犬を抱きしめたまま屋敷から飛び出してくる幼いお嬢様。
「ばっくるがあるって、ほんとう?」
冒険者を見上げ、瞳を期待でいっぱいにして尋ねてくる。
「ああ、本当だ。どうだい、見ていくか?」
(「喜んでもらえるといいんだが‥‥」)と内心心配になりながらエルヴィンがみんなで選んだ数種類のバックルをバックパックから取り出してお嬢様に見せる。
バックルを興味深々で見つめるお嬢様。
旅の行商人らしく、バックルの一つ一つを指差して、「こちらのデザインはマントでも屈指の鍛冶職人の作品でな、1点ものなんぢゃ。嬢ちゃんが今手に持っているバックルは幅広のベルトに合うように作られておるんぢゃよ」ともっともらしく語るギーン。
「決めたわ、これにするの!」
一際大きく、細かい飾り模様の刻まれたバックルを手に取るお嬢様。
「これはまた見事な品ですな。旦那様もお帰りになられましたらきっと喜ばれますぞ」
「バックルは、ご尊父への贈り物だとか。ですが小姐、お嬢様のお父様にとって何よりの贈り物は貴女が日々健やかで成長される事だと思いまする。まずは『お帰りなさい』の一言と抱擁、とびきりの笑顔でお迎えしましょう。贈り物をお渡しする際留守を守る間に貴女にどの様な出来事があったか。お話すると更に喜ばれましょう」
そんなお嬢様へ、優しくアドバイスを贈る柳。
「うん、わかったの。おとうさまにいっぱいいっぱいおはなしするの!」
バックルを握り締めてはしゃぐお嬢さまを見て、冒険者たちは知らず、顔がほころぶのを感じた。
余談。
お嬢様が選んだバックル以外の品物も、全てピエールが引き取り、時々お嬢様にもつけて差し上げているのだとか。