マジェンダと直立不動KNIGHT!

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月01日〜12月06日

リプレイ公開日:2005年12月12日

●オープニング

 お茶会にお呼ばれしたときだった。
 毎月、マジェンダの従姉妹のカトリーヌは身内向けのお茶会を開くのだ。
 月道渡りの紅茶はもちろんのこと、料理好きなカトリーヌのクッキーはサクサクと香ばしくて、
「無骨者に好かれて困っているのよ」 
 だから、眉間に皺を寄せて、整った顔立ちをちょっぴり歪めて笑うカトリーヌに、出された紅茶の香りを楽しみながらマジェンダは気楽に思ったのだ。
「美人は大変なのね」
 と。
 好みでない騎士――ガントレットに言い寄られ、毎日毎日薔薇の花束を贈りつけられているというカトリーヌ。
 屋敷の前にカトリーヌを一目見ようとずっと立ち続けているガントレットの姿は、同情を誘わないでもないが、マジェンダの好みでもなかったし、正直、鬱陶しい。
 でも、カトリーヌの屋敷の中からは良く姿が見えず、カトリーヌ曰く「無骨で、野蛮で、おしゃれじゃない」ガントレットがどんな顔立ちをしているのか、ふと、興味が沸いたのだ。
 だから、カトリーヌの屋敷を去るときに、馬車の窓からそっと覗いてみたのだ。
 ――それが、運の尽き。
 ばちり。
 音がしそうなほどに、完璧にガントレットと目が合うマジェンダ。
 食い入るように、マジェンダを見つめ返すガントレット。
 そうして。
 ガントレットはそのままカトリーヌから恋の相手をマジェンダに移し、マジェンダはやっぱり少しも好きではないガントレットの愛の薔薇の花束を毎日贈られる羽目になったのである――。

●今回の参加者

 ea3184 ウー・グリソム(42歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ea8357 サレナ・ヒュッケバイン(26歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb0594 マナミィ・パークェスト(33歳・♀・バード・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb3826 シーベルト・ロットラウド(27歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb3837 レナーテ・シュルツ(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 eb3845 シルヴィー・エインファリア(23歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

レーヴェ・ツァーン(ea1807)/ ミルフィーナ・ショコラータ(ea4111

●リプレイ本文

●愚痴を聞いてあげるね
「えぇ、そう、本当に毎日なのよ‥‥」
 マナミィ・パークェスト(eb0594)に紅茶を注ぎながら、依頼人・マジェンダは深いため息をつく。
 ミルフィーナ・ショコラータの作った甘いお菓子を差し入れつつ、マジェンダの様子を伺いに来たマナミィは、その部屋の様子に飲まれてしまっていた。
 ――視界を埋め尽くさんばかりの、薔薇の花束。
 部屋中に飾られたそれは、屋敷中の花瓶を使っているのではないだろうか?
 壁も見えないぐらいだ。
「これ、全部ガントレットさんからの贈り物かしら?」
 こくり。
 嫌でも視界に入る薔薇を見ないように紅茶をじっと見つめるマジェンダ。
 その目の下にはうっすらと隈が出来ている。
(「うーん、これは相当きてるわ。私達が少しでも気分を紛らわせてあげれればいいわねぇ」)
 マナミィは一緒に様子を伺いに来ていたサレナ・ヒュッケバイン(ea8357)に目配せする。
「まあ、私は姉と違って魔法も使えませんが‥‥剣の腕には多少ながら自信があります。ガントレットさんが強引に迫ってきても、姉の変わりにきっちりとマジェンダさんをお守りいたしますから、どうか安心してくださいね」
「ニルナさんはお元気かしら? 最近、ずっとお会いできなくてとても寂しかったのよ」
 サレナの姉、ニルナはノルマンでも腕利きの冒険者で、マジェンダにとっては数少ない大切な友人。
 だからサレナは姉の友人であるマジェンダを、どうしても今回は来ることのできなかった姉に代わって守りに来たのだ。
「マジェンダさんに幸あらんことを‥‥姉さんからの伝言です」
「嬉しいわ。彼女に幸せを願ってもらえるなんて。本当に幸せに、なれるといいんだけど‥‥」 
 マジェンダが開け放たれた窓の外を不安げに見つめる。
 屋敷の外からは、なにやら不穏な騒ぎ声が聞こえ始めていた。


●お引取り願おうか!
「お、おまえっ、そこを退くがいいべ。そこはおれっちの場所だち!」
 無骨者・ガントレットが門の前で屋敷の警備に当たっていたウー・グリソム(ea3184)に食って掛かる。
「キミが噂のガントレット卿であるな? ‥‥ふむ、まあ落ち着きたまえ。その様に猪突猛進では物事の真実を枝葉末節の如く見落としてしまうものだ。キミも騎士ならもう少し現実というものをきちんと認識するべきだろう?」
「何が言いたいだすか?!」
「つまりキミはマジェンダ嬢に好かれていないといっているのだよ。彼女はシーベルト卿と恋仲でね。キミの連日の贈り物に酷く迷惑をしていのだよ。そして我々を雇った」
「ぼ、冒険者なら、おらっちも雇っただよ。まだ会ってないが、明日から来てくれるだ。そうすりゃおれっちはマジェンダさんと幸せになれるんだす! それにおれっちは毎日ここに居ただが、そんな男、見たこともないだすよ!」
 ブヒー!
 ゴツゴツの人差し指をウーに突きつけて鼻息も荒く力説するガントレット。
 まあ、確かに恋人というのはガントレットにマジェンダを諦めてもらう為の偽装だから、ガントレットが恋人役のシーベルト・ロットラウド(eb3826)会ったことがないのも当然だ。
 だが、ガントレットが連日屋敷を見張っていることはこちらも既に知っている。
 恋人説を信じさせる為に、シルヴィー・エインファリア(eb3845)の提案でもう手は打ってあるのだ。
「ふむ。どうしても信じられぬというのなら、近くの酒場に行ってみるといい。いまはもうマジェンダ嬢とシーベルト卿の恋の噂で持ちきりだろうよ」
 ウーが言うが早いか、馬に飛び乗って酒場に駆けてゆく無骨騎士。
 遠ざかる後ろ姿を見送りながら、ウーはニヤリとほくそ笑んだ。


●噂話
(「そろそろ、いらっしゃる頃合でしょうか?」)
 マジェンダの屋敷の側の酒場にこっそりひっそり待機していたシルヴィーは、さり気なさを装いつつ周囲を伺う。
「おい、あいつじゃないか?」
 レーヴェ・ツァーンが小声で目配せをするその先には、なにやら鼻息も荒くきょろきょろと周囲を伺う無骨な騎士。
「背が高く、ぼさぼさの頭。なんだか訛りの入った口調、それと無精髭‥‥間違いないわね」
 シルヴィーはガントレットがテーブルの脇を通る瞬間、
「ねぇ、知ってる? あのマジェンダ嬢に秘密の恋人がいたそうですわ」
 レーヴェに話しかける振りをして、
「なんでも相手が冒険者で親の許しが得られず、今まで関係を内密にしていたらしいのよ」
 ガントレットに聞こえるように囁く。
 色黒の顔を真っ青に染めて、酒場を駆け去ってゆくガントレット。


●今日は来ない?
「マジェンダさんの好みのタイプはどのような方ですか?」
 てくてくてく。
 久しぶりの清々しい朝を迎えたマジェンダをパリ市街へ案内しつつ、レナーテ・シュルツ(eb3837)が尋ねる。
 連日マジェンダの家に来続けていたガントレットが、昨日と今日と来なかったのだ。
 恋人の噂がショックで諦めたのか、それとも別の理由があるのか?
 レナーテには分からなかったが、ずっと部屋に引き篭もらずにはいられなかったマジェンダの、溜まったストレス解消には絶好のチャンスとばかりに街へ遊びに繰り出したのだ。
「そうですねえ。やはり誠実な方かしら」
「ガントレットさんはお話を聞く限りずいぶんと移り気な御仁のようですね。交際したとしても浮気しそうです。まじめな方が一番です」
 我が意を得たとばかりに、誠実の一言に力強く頷くレナーテ。
「あれは‥・・」
 びくっと身体を強張らせて、前方を見つめるマジェンダ。
 その先には・・・・。
「ガントレットさん?! こんなところまでまさか追いかけて?」
 驚きながらもレナーテはマジェンダを守るように即座に背に庇う。
 だが。
「・・・・・・?」
 ガントレットは、数人の冒険者達らしき人々にしっかりと腕を掴まれて、マジェンダを見ると軽く会釈をし、微笑みながら去ってゆく。
「・・・・ガントレットさん、随分と印象が違うような?」
 レナーテが初めて見たときよりも、がさつさが抜けているというか。
 歩き方一つとってもなにやら優雅になっていたようないないような。
「他に、好きな方が出来たのでしょうか。金髪の綺麗な方とご一緒でしたし」
「そうだと、良いのですが」
 マジェンダの希望的観測にレナーテは微妙な面持ちで頷く。


●月夜の告白?
「今宵は月が綺麗ですね・・・・。少し、夜道を歩きましょうか」
 赤髪の美男子・シーベルト・ロットラウド(eb3826)に手を引かれ、ほんのりと頬を染めて従うマジェンダ。
 もちろん、その後ろの草叢には冒険者達がこっそりひっそり隠れて見守っている。
 ここ数日家の前には現れなくなったものの、またいつガントレットが来るかも知れないと怯えるマジェンダに、ガントレットの身勝手さに呆れたレナーテとシルヴィーが説得したのだ。
『あの手の方には、はっきりと仰ったほうがよいかと思いますが・・・・』
『脈もない相手によくもまあ毎日毎日・・・・呆れるやら感心するやら。とはいえ、マジェンダ様にとって迷惑でしかないようですしきっぱり諦めていただくのが一番かと』
 そうして、ガントレットを上手くおびき出すべく、マジェンダとシーベルトの夜の偽デートを決行したのである。
「マジェンダ、寒くはないかい?」
 元来のがさつな口調を精一杯丁寧に直し、辺りを伺いながら怯えるマジェンダの手を優しく握り締めるシーベルトは、即席の恋人とはいえ中々にさまになっている。
 二人はゆっくりと、恋人のように寄り添いながら屋敷の外へと歩いてゆく。
 と。
「マ、マジェンダさんっ! そ、その男とは、本当に恋人なのですか?」
 シーベルトとマジェンダの眼前に突如として飛び出してくるガントレット。
(「きやがったな」)
 動揺しているのだろう、肩で息をしながら泣きそうな瞳でマジェンダを見つめるガントレットに、シーベルトはマジェンダを庇うように一歩前へでて、
「私の恋人、マジェンダにこれ以上近づかないで下さい。貴方の行動にマジェンダはどれほど迷惑しているか解っているのですか!?」
 少しも臆することなく言い放つ! 
「わ、わたくしは、この方を愛しています。め、迷惑なんですっ!」
 シーベルトの服の裾を掴んで、マジェンダも泣きながら叫ぶ。
 今まで、面と向かってマジェンダに迷惑だと言われた事などなかったガントレットは、その場にがっくりとうずくまり、
「ガントレットさん、またこんなところに!」
「まだ駄目だとあれほど言っておきましたのに・・・・」
 ガントレットが雇った冒険者たちに叱られながら引きずるように連れられてゆく。
 そしてそのうちの数人がこちらに残り、平身低頭、マジェンダとシーベルトに詫びていると、
「・・・・や、そこにいるのは、以前何度か組んだロミルフォウか? 久しいな」
「ツグリフォンさんまで?」
 ウーとマナミィが驚きの声を上げる。
 どうやら知り合いだったらしい。
 ありとあらゆるさまざまな依頼を受ける冒険者だから、こんな風に別々の依頼を受けつつも出会うこともあるのだろう。


●ラスト・チャンス〜いつかきっと幸せに〜
「貴方は本当に人を好きになったことはありますか? 本当に好きならその人が幸せになることを願うはずです・・・・私の夫はそうでしたよ」 
 冒険者達と再びマジェンダの屋敷を訪れたガントレットに立ち塞がるように、サレナは真剣な眼差しを向ける。
 けれどサレナは内心、とても戸惑っていた。
 なぜなら、ガントレットの姿がつい先日とはまるで変わってしまっていたからだ。
 ダサさを増幅させていた衣装はパリ風の色合いに上品にまとめられ、無精髭は綺麗に剃られ、ぼさぼさだった髪は見事にサラサラと陽光に輝き、天使の輪さえも作っている。
 そして立ち居振る舞いも優雅で紳士的で、手に赤い薔薇を持っていなければ正直ガントレットだとは分からなかった。
 金髪碧眼美少女の正真正銘ガントレットの好みのど真ん中をつくサレナを前に、しかしガントレットは少しも動揺せずに、「運命の彼女を幸せにしたいと願っています。どうかマジェンダ嬢にお目通りを願えませんか?」と尋ねる。
 その口調に訛りは一切感じられない。
 武力で訴えてこようものならば、サレナとて騎士、決して怯むことなくマジェンダを守るべくガントレットをその剣で追い払うのだが、これでは少々勝手が違う。
「一目会って鞍替えした安っぽい『運命』ですからね・・・・気楽で羨ましい限りです」  
 苦々しい表情で吐き捨てるように言い切るシルヴィーにも、
「その件については、深くお詫びしたいと思っております」
 とガントレットは一言も弁解しようともせず頭をさげる。
(「さて、どうするか・・・・」)
 レナーテも頭も悩ます。
 正直、武力行使や強引な行動にはそれなりの対応を考えていた面々だが、あの無骨もののガントレットがここまで変わってしまうのは予想外だったのだ。
 そんな悩める女性陣に助け舟を出したのはウー。
「最後に一目会わせる位はいいかもな。いや、ここまで変わるには、それ相応の努力をしたのであろう?
 一人の力にしろ、誰かの力を借りたにせよだ。ならば一目ぐらい会わせてやっても罰は当たるまい」
「もちろん、彼女の前で何かしたらただでは済まさないがね。俺達も、彼女達も」とニヤリと笑って付け加える。
 ガントレットの雇った冒険者達も決して強引ではなく、「最後に一目だけでも」と頭を下げる。
「まあ、確かにわたしたちが彼女の側にいれば安全ですが・・・・」
「私、マジェンダさんを呼んでくるわね。ガントレットさんは本当に努力をなさったようですしね」
 知り合いからもガントレットの事情を聞いたのだろう、マナミィがぱたぱたとマジェンダを呼びに駆け去ってゆく。

 しばらくして、マジェンダとシーベルト、そしてマナミィが戻ってきた。
 シーベルトはまだ恋人の振りをやめず、怯えているマジェンダにさり気なく手を貸してやりながらガントレットと距離をとる。
 ガントレットと、マジェンダ。
 見詰め合う二人に、微妙な沈黙が訪れる。
 ガントレットは何度も、何度も口を開きかけてはつぐみ、頭を振り、そうして。
 冒険者の見守る中、意を決してマジェンダへの気持ちを詩に込めて伝えるガントレット。
「・・・・あなたのお気持ちは、確かに受け取らせていただきました。でもっ、お付き合いはまだ出来ません。
 あなたは確かに変わられました。でも、それは本当のあなたなのでしょうか?
 今までの自分を捨て去り、新たな自分を掴むのは、並大抵の努力で出来ることではありません。
 本当に変わるには、ずっと努力をし続けなければならないはずです。 
 あなたに、それが出来ますか?」
 ずっと太り続けていたマジェンダが痩せて美しく変わることが出来たのは、サレナの姉を含めた冒険者達の協力のお陰。
 けれど今日までそのやせた体を維持し続けれたのは、紛れもなくマジェンダの努力と意思。
 だからこそ、マジェンダは問うのだ。
 自分と同じように、変わろうとしているガントレットに。
「私は・・・・」
 ガントレットはぐっと拳を握り締め、口ごもる。
 ガントレットが変われたのも、今ここで自分を支えてくれる冒険者達の協力があったからだ。
 彼らが去った後、自分はこの状態を維持できるだろうか?
 ・・・・わからない。
「・・・・あなたが、本当に変わられるその時まで、わたくし達はお友達でいましょう?」
 沈黙を破るように、マジェンダが囁く。
「未来のことはまだ自分には保障できません。ですが、いつか貴方に相応しくなれるよう、私は努力し続けます」
 マジェンダに深く頭を垂れて一礼し、冒険者と共に去ってゆくガントレット。
 彼の去った後には、薔薇の花束が残っていた。