●リプレイ本文
●なんていうか、無骨まっしぐら? ってゆーか移り気っ?!
「おれっちの為に、よーきてくれただすよーーーーーー!」
ガントレットはおーいおいおいと大泣きしつつ、ガシッとラルフ・クイーンズベリー(ea3140)の肩を抱く。
「人が人を好きになる。とても素晴らしいことですわ。
けれど、一方的なままでは何も変わりません。相手を思いやり、尊重する心あってこそ、育まれる愛もあります・・・・
今はささやかな想い、いつか華咲く日の為に。私にできることを致しましょう」
ダサい騎士、ガントレットの男泣きに少しも動じずにロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)が微笑めば、
「あ、あんたも随分綺麗だすな。おれっちの恋人に・・・・ぶっ!」
スパコーン!
クライドル・アシュレーン(ea8209)の鉄拳がすかさず飛ぶ。
「ガントレットさん、あなたが今までマジェンダさんにどのようなアプローチをしてこられたのか存じませんが、その様に移り気ではお話になりません」
深くため息をついて呆れるクライドルと共に、
「移り気な心は我が身を滅ぼす・・・・て昔、僕のお姉ちゃんが言ってたよ」
幼いアルフィン・フォルセネル(eb2968)までも止めを刺す。
「カトリーヌさんとマジェンダさん、女性の名前が2人出たのが引っ掛ったけども本命は1人だよね? まさか二股かけてないよね?」
惚れっぽいガントレットの行動を目の当たりにして、ツグリフォン・パークェスト(eb0578)は念を押す。
これほど移り気だと、二股かけていてもおかしくはない。
「お、おれっちは、マジェンダさん一筋だすっ、ふ、二股だなんてそんな・・・・カトリーヌさんは確かに美人だっただすが、いまはマジェンダさんが好きだっす!」
唾を撒き散らしながら力説するガントレットだが、はっきりきっぱり説得力なし。
「と、とりあえず。女の子は身だしなみがちゃんとした人が良いと思うんだ、だから・・・・」
ラルフの背に隠れるように、フェルトナ・リーン(ea3142)がおずおずと建設的な意見を切り出す。
説得力がなかろうとなんだろうと依頼は依頼。
ガントレットの願いを叶えるべく、冒険者達は策を練りだすのだった。
●原因はなんだろう?
「今までずっと毎日令嬢の屋敷に立ち続けていたのですか? それは、女性でなくても嫌がられる行為ですよ」
まずはこれまでどういったアプローチをガントレットがマジェンダにかけていたかを聞き、良くない点を直して行こうとしたのだが、クライドルは話を聞いただけで頭が痛くなってきていた。
なぜなら、ガントレットは毎日毎日、マジェンダの家に会えもしない彼女を一目見ようと、門の前で薔薇の花束と共にどーんと突っ立っていたらしい。
一体、どこの世界の騎士が親しくもない女性の家に毎日たたずむというのだろう?
しかも、ガントレットときたら悪びれもせずに堂々としているし。
「えっとね、しつこいのは嫌われるし、相手のイヤがることは逆効果。それと、世の中お金では買えないものだってあるんだよ? それが欲しいなら、まずは自分が努力すること。だからこれから僕達の言うことはきちんと聞いてね? ガントレットお兄ちゃん?」
ちっこいのになんだかしっかりもののアルフィンは、そんなガントレットを見上げて一生懸命諭してみる。
(「運命の恋人・・・・今回でまだ2回目なら、そんなに移り気な人じゃないのかなあ?」)
初めに好きになったカトリーヌと、今回の本命マジェンダ。
ガントレットの話では、運命を感じたのはマジェンダなのだという。
「ガントレットさんは、もう少し自然と綺麗な言葉や、身だしなみに気をつけられるようになってから、再チャレンジしてはどうでしょう?」
ラルフは今日も今日とて当然のごとくマジェンダに振られて「何で会ってもらえないだかわかんねえだすよ。急に恋人の噂まで・・・・」と悩むガントレットの背を優しくなでてやる。
なんでも何も、理由は明白なんだけども。
「意中の相手はお嬢様だからねぇ。ガントレット君もそれに相応しい男になるのが一番だね。見た目を変えるのは理美容に詳しいロミルフォウに習って、垢抜ける様にコーディネイトして貰うのが良さそうだね」
パイプをふかし、ツグリフォンは現状を的確に認識する。
「人は見かけではないとはいえ、体裁を整えることは必要。相手が高嶺の花であれば尚更、対等に話ができるように自分を磨かなければ。わたくしが精一杯コーディネイトして差し上げます」
ブラシを構えてやる気満々のロミルフォウに任せておけば、ガントレットの見た目はどうにかなりそう?
●見た目も大事だけど中身もかえていこうね
「時間に余裕がある訳でもないので、非常に簡単な事ではありますが厳しくやらせていただきます」
「お、おらっち・・・・じゃなくて、私は、頑張るんだです」
「違います。その場合は『私は努力いたします』です」
ガントレットが訛りのある発言をする度に、クライドルがビシビシと訂正してゆく。
「ガントレットおにーちゃん、背筋はねっ、ぴんと伸ばさないとめーなんだよ。丸まってると、変なの」
てちてちとガントレットの猫背気味の背を叩き、アルフィンも協力。
「発音矯正ができたら、次は上手な言葉選びと詩の勉強が待っているからね。ぐずぐずしている暇はないよ?」
ツグリフォンは得意の詩を伝授するつもりだ。
次から次へと出される課題にガントレットは目を白黒させながら、それでも一個一個こなしてゆく。
●パリでお洒落に?
「あっ!」
小さく声を上げて、お洒落な服を手に入れるべくパリの仕立て屋を巡っていたガントレットがその場に立ち尽くす。
「ガントレットさん、どうかなさいましたか?」
「マジェンダさんです・・・・」
見れば、金髪碧眼の美女が冒険者らしき人々に連れられて、石畳の道をこちらに向かって歩いてくる。
彼女達はまだこちらには気づいていないようだ。
ロミルフォウとフェルトナ、それにラルフは顔を見合せ、マジェンダに向かって駆けてゆきそうになるガントレットを即座に両脇からがっしりと捕まえる。
「まだ、駄目ですよ。きちんとお洒落に変わってからアタックしましょうね」
「大丈夫です、焦らずともまだ機会はあります」
「身だしなみは完璧だから、歩き方とか気をつけて」
口々に小声でガントレットをフォローしながら、ゆっくりとマジェンダに向かって歩いてゆく。
こちらに気づいたマジェンダが、泣きそうな顔でその場に凍りつく。
(「本当に、印象悪くなっちゃってるんだな・・・・」)
ここ数日、ガントレットをみんなで説得して、マジェンダの屋敷の前に立ち続けることはやめさせていたのだけれど、この様子ではガントレットへはかなりの恐怖を感じていると見て間違いない。
「ガントレットさん、優雅に、優しく、紳士的に通り過ぎるんだよ」
小声で再度注意しながら、フェルトナ自身も微笑んでマジェンダたちに会釈をし、何事もなかったかのように通り過ぎる。
●脱走?!
「ガントレットさんをお見かけしませんでしたか?」
夜。
ロミルフォウがやはりブラシを片手にガントレットを探して回る。
だが、短い時間で礼儀作法から言葉の矯正までをこなしてゆく為に全員ガントレットの家に泊り込んで頑張っているというのに、肝心のガントレットの姿が見当たらない。
「まさか・・・・?」
クライドルが腕を組んで眉を潜める。
思い当たる場所といえば、一つしかない。
「間に合わなかった!」
ピンと来てマジェンダの屋敷に駆けつけた冒険者達は、ガントレットがマジェンダの恋人(?)らしき男に食って掛かって玉砕している場面に遭遇!
慌ててガントレットを引きずりマジェンダから引き離しつつ、
「申し訳ありません。ご迷惑をおかけしました」
と深く詫びる。
ただでさえ悪い印象がついているというのに、なぜにこんなばかげた行動を取るのか。
せっかく訛りや無骨さも取れてきたというのに。
幸い、マジェンダの雇った冒険者にロミルフォウとツグリフォンの知り合いがいて、それぞれの事情を話しつつ事なきを得たが、マジェンダへの印象はさらに悪くなったと見て間違いないだろう。
●ラスト・チャンス〜今回は諦めてね。でもきっと、いつか素敵な恋に出会えるよ。
「最後にひとめだけでもいいの。ガントレットおにーちゃんにチャンスをあげて欲しいの」
「後一度だけでもお願いします」
依頼最終日。
マジェンダの屋敷の前で、彼女を守る冒険者達をどうにかこうにか説得するアルフィンとクライドル。
ガントレットも深く優雅に頭を下げて礼を尽くす。
移り気で惚れっぽい印象のせいか、それともあまりにも変わってしまったガントレットに戸惑っているのか、マジェンダに雇われた冒険者達は対応に困っている。
そう、ガントレットは変わったのだ。
見た目はロミルフォウの見立てで派手すぎずくど過ぎず、適度にきらびやかで乙女心を誘い、朝晩欠かさず手入れを心がけた髪は、香油を使って艶を出し、騎士然とした清潔感を演出する。
そしてあれほど酷かった訛り口調はラルフとクライドルによってほぼ矯正され、バリトンが耳に心地よい。
押し問答を続けるそこへ、ロミルフォウに軽く目配せをしてウー・グリソムが「一度だけなら」と助け舟を出す。
金髪の少女が構えた剣をおろして道をあけ、ガントレットはごくりと息を飲む。
「一目会ったその日から僕の心は君に釘付けで
押し寄せる情熱は赤い薔薇の様さ
君は花の様に気高く美しい
何時までも何処までも・・・・可憐な君の傍にいさせて。
好きです、マジェンダさん」
マジェンダを前にして、みんなの見守る中、ツグリフォンの用意してくれた詩と共に自分の思いを伝えるガントレット。
「しつこすぎると・・・・女の子は嫌だと思うから・・・・、今回は縁がなかったと思って新しい恋を探すと良いと思うよ?」
頑張って、誠心誠意ガントレットとは思えないぐらい紳士的に告白したのだが、いかんせん、恋心というものはそうそう上手くいくものではないらしい。
とぼとぼと帰り道を歩くガントレットにフェルトナがそっとハンカチを差し出してあげる。
そのハンカチで、以前のガントレットなら鼻をかんでいるところだが、今のガントレットはそっとそのハンカチで涙をぬぐう。
「でも良かったじゃないですか。友人からといってもらえただけでもあなたの努力は報われたと想います。一歩前進です。今回の経験をしっかり活かせればきっといつか上手くいきますよ」
「私は、彼女が好きなんです・・・・」
ぐしぐしぐしっ。
マジェンダの前での紳士的な姿はどこへやら。
やはり根本的に変わるには長い時間がかかりそうだ。
「仕方ないな・・・・吟遊詩人に伝わる恋のおまじないを掛けてあげるから目を瞑って、ね? 私が良いと良いというまで目を開けちゃ駄目だよ?」
フェルトナが小さく歌うようにチャームの呪文を唱る。
ガントレットが、新しい恋に向かっていかれるように。
つらい気持ちをいつまでも引きずらないように。
歌に、呪文に、気持ちを乗せて。
「はい、いいよ? これでガントレットさんはいつかきっと素敵な恋に又めぐり合えるんだよ」
にこっと微笑むフェルトナを、まじまじと見つめるガントレット。
「駄目です、フェルは僕の大切な人なのです」
慌ててフェルトナを背に庇うようにラルフは二人の間に割ってはいる。
「大丈夫ですよ。私はもう、不実な行いはしないと誓ったんです。いつか、彼女に認めてもらえるよう、これからも努力し続けるんです」
微笑むガントレットはもう泣いてはいなかった。