ノイシュバン家の50の家訓〜破滅の魔法陣

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 47 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月20日〜12月23日

リプレイ公開日:2005年12月28日

●オープニング

 それは、一瞬の出来事。
 雲が月を隠し、視界の光を奪ったその瞬間、彼は現れたのだ。
「・・・・これで、全てが揃いましたよ・・・・」
 聞き取れない刹那の呪文が男の口から紡がれて、シュタインは身体の自由を奪われる。
 それが、石化の呪文だと分かったときには、もう全てが遅かった。
(「一体なぜこんなことに・・・・? 姉さん、助けてっ」)
 声にならない想いが夜空にとけた。


「妹は、間違いなくこの先にいるのよっ!」
 バンッ!
 開かずの扉を叩いて、シュレインが叫ぶ。
 ノイシュバン家の地下迷宮に続くといわれている石で出来たその扉は、古代魔法語だろうか?
 多少の魔法を使えるシュレインにも読むことが出来ない文字がびっしりと刻まれ、そして鎖で幾重にも封印されていた。
 鎖を引きちぎり、屋敷の使用人達が止めるのも聞かずに扉を叩き続けるシュレインは、しかしはっと動きを止める。
「何か、来るわ・・・・!」
 地下室から駆け上がり、屋敷の外を見渡すシュレインが目にしたもの。
 それは――
「ワーム?!」
 地面を唸らせ、屋敷に向かってくるモンスターの群れ。
 なぜ、この屋敷を狙うのか、なぜシュタインが攫われたのか、なぜいま自分しかこの屋敷には戦えるものがいないのか。
 疑問ばかりが胸を覆い、何も分からなくなる。
 でも。
「そうそう簡単に、やられはしないんだからっ!」
 叫び、シュレインは屋敷を飛び出してゆく。
 

●今回の参加者

 eb1276 楼 焔(25歳・♂・武道家・ドワーフ・華仙教大国)
 eb2276 メルシア・フィーエル(23歳・♀・バード・シフール・ビザンチン帝国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb2390 カラット・カーバンクル(26歳・♀・陰陽師・人間・ノルマン王国)
 eb3012 李 獏邦(40歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 eb3547 鏡 慶治(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●移動は高速馬車で
「高速馬車ですか?」
 早いけれど、目の飛び出るような金額の馬車の利用を提示され、庶民派のカラット・カーバンクル(eb2390)は驚きに目を見開く。
「シュレインさんも孤軍奮闘してはいるだろうが、流石に限界だろう。緊急依頼だったとはいえ、大分時間も経っているし」 
 さくさくと馬車への手続きを済ませながら、李 獏邦(eb3012)は眉根を寄せる。
「ええっと、代金は〜・・・・」
(「あたし、とてもじゃないけど払えない」)
 顔に大きくそう書いて、冷や汗たらたら。
 下町育ちで庶民の中の庶民、生きてるだけで丸儲け! なカラットにとって、高速馬車なんてとんでもないのだ。
「シュレインに後で払ってもらうつもりだ。それまでは俺が立て替えておく」
「あはは、助かります〜・・・・」
 李の言葉に笑ってごまかしつつ、馬車に乗り込む。   
 シュレインからの依頼を冒険者ギルドに届けたシフールのメイドは、
「シュレインお嬢様は、わたくしたち使用人を全員避難させて、お一人で化け物たちと戦っていらっしゃるんです! どうか一刻も早くお嬢様を助けてくださいっ」
 と泣き伏す。
「大丈夫です、シュレインさんをきっと助けてあげます!」
 メルシア・フィーエル(eb2276)はメイドの肩をぎゅっと抱きしめ、慰める。
 シュレインにはつい最近の依頼で会ったばかり。
 その時の依頼の成り行きで、ノイシュバン家にはとても良い幸せが訪れそうだったのだ。
(「それなのに、シュタインさんが攫われ、モンスターが現われるなんて、こんな状況許せない」)
 メイドを慰めつつも、メルシアの目にも悔し涙が浮かんでしまう。
(「もしかしたら、もう既にノイシュバン家はモンスターたちに占領されてしまっているかもしれないな」)
 シフールのメイドも必死に冒険者ギルドまで飛んできたのだろうが、実際に冒険者が動き始めることが出来るまでに大分時間が経ってしまっている。
 アルバート・オズボーン(eb2284)は嫌な予感を胸の内に留め、李の準備した高速馬車に乗り込んだ。
「さぁて・・・・副業開始ってな・・・・」
 楼 焔(eb1276)も馬車に乗り込み、5人を乗せた高速馬車はメイドに見送られてノイシュバン家を目指す。
 その高速馬車の上に、鏡 慶治(eb3547)は身を潜めていた。


●占拠されたノイシュバン家
 そこは、モンスターに埋め尽くされていた。
「ずっと、待ってたっ」
 駆けつけた冒険者達へ、依頼人・シュレインが駆け寄る。
「よく耐えたな。さあ、もう一息だ。こいつらを片付けちまおうぜ」
 李が疲れ果てたシュレインを鼓舞する。
 ずっと敵と戦い続けてきたのだろう。
 良家の子女とは思えないボロボロのいでたちで、正直、李としては直ぐにでも休ませてやりたかったが現実がそれを許さない。
 敵は、まだまだいるのだ。
「シュレインさん、よく頑張ったねっ、一緒に悪いモンスターをやっつけるよ!」
 抱きゅっとメルシアがシュレインの腕に抱きついて力強く頷く。
「やれるだけ・・・・やるしかないな」
 楼は無愛想に前方を睨む。
 そこには、こちらに気づいたワーム――正式名称ラージウォームが土を蹴散らして突進してきていた。


●愚鈍なラージウォーム
「あたしはちょっと素早く動くことぐらいしか出来ないけれど・・・・こうゆうことは得意なの!」
 カラットの仕掛けたライトニングトラップが発動し、今まさに襲いかかろうとしていたラージウォームの身体に稲妻が迸る。
「どこからこんなモンスターが現われたんだい? おまえの相手は俺がしてやるぜ!」
 オーラパワーを身に纏い、より一層切れ味の増した李の太刀が稲妻に怯んだラージウォームの身体を切り裂く。
 だがラージウォームが澱んだ体液を撒き散らしながら、その長い巨体を苦しげにくねらし、冒険者達をなぎ払う!
「きゃっ!」
「くっ!」
 咄嗟にカラットは飛びよけるが、アルバートは避け損ねて大きく後ろに跳ね飛ばされた。
「こっちに来るんですっ」
 メルシアがムーンアローを打ち放ってラージウォームの気を引いてアルバートから引き離す。
「シュレインさん、この辺りで狭い場所って、どこですかっ」
「北北西の丘の狭間! 行き止まりになっているのよっ」
 暴れるラージウォームに応戦しつつ、返り討ちできそうな地形を聞き出したメルシアは、上手くその場所へと誘導してゆく。
 化け物は攻撃力・耐久力は高いものの、頭の出来は悪いのだろう。
 目の前の敵にしか目の向かないラージウォームは、あっさりと誘導に引っかかり袋小路に追い詰められた。
「やられっぱなしじゃ、格好付かないだろう?」
 アルバートの日本刀が夕焼けに閃き、ラージウォームは断末魔の叫びを響き渡らせた。


●雑魚もわらわら
「ふむ・・・・骨が折れるな・・・・」
 黒い毛並みの狼をトリプルアタックで仕留めた楼は額の汗を拭う。
 ノイシュバン家についてから、かれこれ数時間。
 戦い続ける彼らの前に、モンスターの数は大分減って来ていた。
「おっと! 油断は禁物だぜぃ・・・・くくくっ」
 楼の背後から忍び寄っていた狼が、鏡のシールドソードで命を落とす。
「雑魚退治もお仕事お仕事・・・・くくく・・・・」
「あんたは一体?」
 楼が礼を言うより早く、鏡は闇夜の中に姿をくらます。
(「あのような男は居ただろうか?」)
 ギルドで見かけたような気もするが思い出せない。
 だが、敵ではないようだ。
 闇の中、鏡の行方を辿るように、敵の殺気が一つ、また一つと消えてゆく。
「みんな、下がってくださいね」
 カラットがスクロールに念じ、地面に手を当てると茶色い輝きに包まれた。
 瞬間。
 直線状に黒い帯が迸り、モンスター達を薙ぎ倒す!
「倒せたかなっ?!」
「いいえ、まだよ。あいつ等がくる・・・・!」
 シュレインの恐怖にひきつった声と共に、ぼこり、ぼこりっと地面が隆起する。
 そして辺りに腐臭が漂い始めた・・・・。


●ズゥンビ
「シュレイン、銀の武器はないか?!」
 腐臭を漂わし、襲い来るズゥンビの攻撃をミドルシールドで受けながら、アルバートは叫ぶ。
 ズゥンビ共に効果的なのは銀製の武器。それがあれば、戦いはぐっと楽になる。アルバートはそう考えていたのだが。
 答えはNO。
「クリスタルソード、受け取ってください」
 カラットが状況を的確に判断し、スクロールを念じて作り出したクリスタルソードをアルバートに手渡す。
「サンキューな。これで戦いやすくなる!」
 クリスタルソードを握り締め、
「李、楼。手を貸してくれっ」
 アルバートは一番手近にいたズゥンビを切り払う。
 そして李はトリッピングをすかさず仕掛け、ズゥンビを横転させた!
「ふむ。儀礼用の短剣だ。美しいだろう? お前さんにはもったいないが・・・・受け取るんだな」
 楼が深々とズゥンビに銀の儀礼用短剣で止めを刺す。
「シュレインさんっ、カロットさん、波状攻撃いくよ。タフな相手でも、数の力で打ち倒すよ、窮鼠、猫を噛み倒すの技だよっ」
 メルシアが合図して、残るズゥンビに最大のムーンアローを打ち放つ!
 そのダメージが残った身体にシュレインのサンレーザーが降り注ぎ、さらに止めにカロットがスクロールでアイスブリザードを発動させる!
 動きが一気に鈍くなったズゥンビ達を、アルバート、李、楼、そして闇から闇へと潜みながらみんなの援護をしていた鏡が止めを刺す!
「流石にこの人数じゃちょっと骨が折れた大掃除だったな〜」
 敵を殲滅し終え、李はほっと肩を竦める。
 動かなくなったズゥンビ達を浄化するように。
 朝日がゆっくりと昇り始めていた。


●エピローグ〜冒険者を、信じよう!
「ダメだよ、シュレインさん!」
「そんな身体でどこへ行く気なんだ?!」
 モンスターを殲滅し終えたのも束の間。
 ノイシュバン家の屋敷の開かずの間の鎖が解れ、その中へ駆けて行こうとするシュレイン。
「妹が、シュタインがあの向こうにいるのよっ、離して!」
「それは、聞いている。だが、彼女の保護には別の冒険者達が既に向かっているはずだ。ギルドに緊急の依頼が出ていた」
 シュレインの腕を押さえて、アルバートは決して離さない。
 肉親をモンスターに殺された彼にとって、シュレインの焦りは自分の事のように良くわかる。
 だが、戦い続けた彼女にもう何も力が残っていないことも分かっているのだ。
 ギルドに出ていた領主からの緊急依頼は謎の迷宮の主を倒せというものだったが、ノイシュバン家を襲ったモンスターと無関係と考えるには、あまりにも時期が合いすぎる。
 迷宮の主を倒せば、シュタインは必ず戻ってくるだろう。
「嬢の妹の事も気にかかるが・・・・ひとまずは嬢の安全だな」
「冒険者を、俺達を信じるんだ」
 李がシュレインに力強く笑う。
「シュレインさん、双子の絆を信じよう? シュレインさんがこうして無事だったんだもの。きっと、シュタインさんも無事だよ。
 だから、今はゆっくり休んで」
 メルシアがシュレインの手を握る。
「・・・・貴方達を、冒険者を信じるわ」
 ぐいっと涙をぬぐって、シュレインは頷いた。
 きっと、シュタインは戻ってくる。


●おまけ〜捕まらなくて良かったね(汗)
「やぁれやれ・・・・とんだ品物を掴んじまったぜ」
 こっそりと。
 鏡はどさくさに紛れて屋敷に潜入して手近な部屋にあったそれを引っつかんできたのだが。
「薔薇のマント止め、ね。もうちっと高価なもんを掴みたかったぜ」
 日に当てるときらきらと輝く愛らしいそれは、双子の持ち物だろうか?
 あまり高価ではないが、まあ、いいだろう。
 鏡は苦笑して、ポケットにそれをしまいこんだ。