●リプレイ本文
●まずは準備しよう☆
「メンフィスさんの話ですと、この森はそんなに広くないはずです」
村中の女の子達が攫われたという問題の村の近くの森で。
メンフィス・スレアから犯人が逃げ込んだ森の様子を聞いたユナ・クランティ(eb2898)は愛用のロープを弄びながら皆に伝える。
「この女不足の時期に、自分ひとりで女の子を独占しようなんて不逞野郎だな。
神が許してもこの俺が許さねぇぜ」
(たぶん)独り身のカエン・ヴィールス(ea1727)は、ニコニコと笑っているが、目が本気。
女性大好きなカエンが(確実に?)独り身なのに村中の女の子を攫ったという犯人に激しーく怒りを持っているに違いない。
「被害者の村人達から情報収集もしてきたぜ。犯人は色白で小柄、そのくせ逃げ足がめっぽう速い肥満体のおっさんに間違いないってことだぜ。
攫われた女は7人で、犯人は羊皮紙を沢山持っていたらしい。たぶんスクロールだな」
「つまり手がかりから推理すると、犯人の細かな特徴は『縦横の比率が反比例している』『ハァハァして何か湿っぽい』『狭い道はつっかえそう』『モテない』と言った所かしら」
あのー、もしもし?
村人達はそこまで言ってないようなんですが?(汗)
ジェラルディン・ブラウン(eb2321)、白のクレリックだというのに真顔できついことを言う。
いつものシスター系の服から村人達から借りた一般的な衣服に着替えている影響だろうか?
でもきっと本人は悪気なし。
「少し、動きづらいですね」
レナーテ・シュルツ(eb3837)も村娘の好むふんわりとしたワンピースを借りてぎこちなさそうにしている。
まあそれでも女の敵である犯人を捕まえるまでには慣れるだろうと、ワンピースの上に羽織ったマントの上から腰の剣を確かめる。
「はぁ・・・・不思議(?)な話というのもあるんですね。走るデブだからランデブー・・・・・・う〜ん」
肥満なのに素早く逃げ去ることの出来る犯人に、ハルカ・ヴォルティール(ea5741)は杖を握り締めながら悩む。
物事を現実的に捉える彼女には、今回の出来事はかなり理解に苦しむようだ。
そこへ、シルフィリア・カノス(eb2823)が両手いっぱいのパンの籠を抱えて駆け寄って来た。
「みなさん、パンを買ってまいりましたよ」
「美味そうだな、おい」
「まだ食べてはダメです。これは大事なカモフラージュなんですから」
抱えたパンに手を伸ばしてきたカエンをおっとりしつつもシルフィリアはぴしゃり。
(「いや、うまそーなのはパンじゃないんだけどな?」)
叩かれた手のひらにフーフーと息を吹きかけつつも、シルフィリアの豊かな胸から目が離せない女性好きのカエンだった。
●ロープでぐーるぐるっ☆
「迷いの森ですが。ストレートに言いますとフォレストラビリンスを使用している可能性が高いですね」
それほど大きな森ではないのに、攫われた村の娘達を村人が取り返しに行こうとすると、なぜか迷って犯人のもとにはつけないという迷いの森。
その森を、ユナはそう判断する。
「フォレストラビリンスは一人破ることが出来れば、その方が他の方の手を引くことで脱出できるはずです。
けれど、いつ誰が破ることが出来るか分かりませんし、みんなでずっと手を握っているのも大変なので・・・・ふふふっ♪」
じゃんっ!
弄んでいた愛用のロープをぴっと両手で伸ばし、
「これで皆さんを一繋ぎにしておきましょう♪ これなら手を離しても大丈夫です」
にっこりと微笑むユナの気迫とゆーかなんというか、見えない何かに圧倒されてこっくり頷くみんな。
「ええと、あの、その、縛りすぎではないですか・・・・? それに森の中でこれでは動きづらいのでは・・・・?」
「そんな事はどうでも良いんです♪」
くるくる。
くるくる。
戸惑うハルカの意見はさくっと無視して嬉々として縛り付けてゆく。
「こ、腰までは縛らなくて良いのではないでしょうか? お互いの手首を結ぶとかで・・・・」
ハルカを縛り終え、ユナの(魔の)手はレナーテにも伸びる。
「あらあら? 女同士ですもの、はずかしがることはありませんわ〜♪」
ルンルンと鼻歌まで歌いそうな雰囲気のユナは、心底楽しそう。
「む、胸のすぐ下は、ちょっとっ」
「腰と腰を縛るんですか?」
うろたえる仲間達をどう見ても怪しい縛り方で縛りつつ、最後はジェラルディンと自分の腰をロープで結び、満足そうにユナは微笑む。
「じゃあ、行きましょうか〜♪」
「おいおい、ちょっと待ってくれよ、俺は?!」
一人だけ放置プレイを食らったカエンは慌ててユナを止める。
「あっ、カエンさんは勝手について来て下さいね」
ぽいっと反対側のロープの切れ端をカエンに投げ渡す。
「縛ってくれないのかよ〜」
せっかく、女性と密着できるチャンスだったのに、残念。
とほほな気分になりつつ、ロープの端っこを握ってカエンは森の中をユナたちについてゆくのだった。
●囮大作戦☆ RUNデブーは来るかなー?
森は迷う気配もなくあっさりと抜けられた。
「拍子抜け、ですね」
シルフィリアがどうにかロープから抜け出しながら呟く。
「あら、もう外してしまうんですの? お似合いでしたのに」
心底悲しげにユナがため息をつく。
「私は、周囲を少し見回ってきますね」
ハルカは、ブレスセンサーを使用して囮役のみんなから離れる。
ランデブーが現れても、センサーですぐにわかるだろうし、攫われた少女達の安全の為にも敵の数を正確に知っておく必要がある。
カエンも犯人を油断させるべく、囮役から離れて物影に潜む。
2人が視界から消えたのを確認して、
「どういう行動をしてるか判らないなら、向こうに来させるのが一番♪ さあ、始めましょう」
ジェラルディンの合図にこくりと頷き、森に迷って疲れてしまった村娘を演じる4人。
「どうしてこんなに森に迷ったのかしら? 疲れましたわ」
「ここらで一休みしよう」
「おいしいパンもありますから、みなさん食べてくださいね」
他愛のない会話を交わしつつ、さり気なく周囲に気を配る冒険者達。
果たしてRUNデブーはくるのだろうか?
●犯人登場! ふ・く・ろ・だ・た・き☆
索敵し終えたハルカが囮班に合流した時。
そいつはついに現れた。
「お、お、お、お嬢さんたち、かっ、かわいいんだなっ。お、お、お、俺とお茶するんだなっ」
スクロールを片手に、デブ・ハゲ・ブ男と3拍子揃ったおっさんが冒険者の前に現れた!
美しい少女達を前にして緊張しているのだろう。
台詞がかなりつっかえている。
いや、お腹辺りも移動のたびにどっかに突っかかりそうだけれども。
「や、や、や、やさしくするんだなっ。お、お、俺は怖くないんだなっ」
つめたーい目線を向ける冒険者達に猫撫で声で話しかけてくるRUNデブー。
自分に怯えて声も出ないと思っているのだろう。
「何の罪もない少女たちを攫っていくなんて・・・・なんて、羨ましいことを・・・・。
先を越されてしまいました・・・・よーよーよ〜。
抜け駆けした罰、身体で払っていただきますわ〜!」
ユナが泣き真似をしつつスクロールに念じ、マグナブロー発動!
「でえええええぇっ?!」
いきなりこんがりと焼かれて錯乱するRUNデブーに背後からカエンのソニックブームが襲い掛かる!
「俺の女達を返しやがれっ!」
吹っ飛んだRUNデブーに駆け寄ってげしっと蹴りつける。
いや、残念ながら君のものでもないんだよ、うん。
「よ、よ、よ、よくも騙したんだなっ、お、お、俺は怒ると怖いんだぞーっ!」
手にしたスクロールを開き、念じようとしたその瞬間。
「無駄です」
パサリ。
スクロールがレナーテの剣で真っ二つに切れた。
「ひっ、ひええええっ」
逃げ出す犯人。
走るのはやっ!
でも。
「うぎゃっ」
どかーんっ!
見えない何かにぶつかって、盛大にぶっ倒れた。
「どういう理由かは分かりませんけど、攫うのは良くない事ですからね」
シルフィリアが言い放つ。
犯人が現れたとき、すかさずホーリーフィールドを張っていたのだ。
「本当にデブが早く走りましたね。私の考えを改めないと」
ハルカ、現実を目の当たりにして事実を受け入れることにしたらしい。
「あんまり縛りたくない方ですわ〜」
ユナがぴくぴくと痙攣しているRUNデブーを嫌そうに縛る。
きっとこのロープは次回から新調されるに違いない。
「攫った娘たちは何処にいるのかしら?」
「・・・・・・」
やさしく問うジェラルディンに、犯人、ぷいっとそっぽを向く。
「安心して? 『おまえ湿気ってるな』とか『夏場大変だね』とか。
『ジャイアントの重さとドワーフの背丈を兼ね備えた人』とか『天然の衝撃吸収材付き』なんてちっとも思ってないから、真人間に戻って?」
「うおおおおおううううううっっ!」
犯人、むせび泣き。
「まあっ、わかってくれたのね? 話してくれるかしら。大丈夫、人間フォアグラな体型でも誰も食べたりしないから」
自分の説得に感動して泣き出したと思っているジェラルディン、とどめをさくっと。
激しい精神攻撃にさらされて、RUNデブーは観念した。
●ハッピーエンド〜清純可憐な乙女達〜
「あら・・・・・・」
がっくりと力尽きている犯人に連れられて、訪れた隠れ家で。
それほど大きくもない家にひしめく少女達を見て、ユナはうっとりと感嘆のため息を漏らす。
可愛らしい少女達がメイドさんが着るような格好をさせられて、お料理を作ったりお掃除をしていたり。
どうやら縛り上げたりはせずに、身の回りの世話をさせ、犯人なりに大事にしていたようだ。
「もう大丈夫。助けに来ましたよ」
そういうハルカに歓喜の声を上げる少女達。
隠れ家の外では、
「こんな事を二度としない様になって欲しいですからね」
「まずはその体型を何とかしましょう。食べてもいいですがきちんと運動。
・・・・食事の摂取量は適量です」
シルフィリアとレナーテがRUNデブーを縛ったロープの先を握りつつ、ビシビシとRUNデブーをしごいている。
なぜかシルフィリアが丸ごとわんこをかぶっているのだが、きっとデブーに対抗する手段なのだろう。
半べそ状態で適切な運動=うさぎ跳びをさせられている犯人を見つめ、
「今回の事件は、ちょっと行き過ぎた愛情とコンプレックスと標準以上の体重が引き起こした悲劇だったのよ・・・・。
彼も被害者だったのかも知れないわ」
ジェラルディンはほろりと同情の涙を流した。
●お・ま・け☆
「あら、カエンさん、なにをなさろうとしているんですか〜?」
「えっ、いや、お、俺は別に・・・・」
こっそりひっそり。
攫われていた少女達とスキンシップを計ろうとしていたカエンは冷や汗だくだく。
「まさかとは思いますけど・・・・『私の』彼女達によからぬことはしていませんわよね〜?」
にこにこにこ。
柔らかな物腰でユナは微笑んでいるというのに、辺りの気温がぐっと下がっているのは何でだろう。
「い、いや、俺はだな、ただ単に・・・・」
「うふふっ♪」
パチンっ。
笑顔のままで指を鳴らし、アイスコフィン発動!
一瞬にして氷付けになったカエンをみて、
「お仕置きですわ〜」
ユナはにっこり微笑んだ。