●リプレイ本文
●かの子さま
「うわーいっ、おにーちゃんとおねーちゃんたちが雪だるま食べさせてくれるの?」
わくわくわく☆
依頼人の侍女が仕えるお屋敷のお嬢様・かの子さまが集まった冒険者達を見上げてはしゃぐ。
「お餅で雪だるか。子供と言うのは可愛い物を考える天才だな」
弱者を常に守ろうと考えているアルディナル・カーレス(eb2658)は、幼いかの子さまの為にもち米も自腹で用意する気だったりする。
江戸はいま、物価が高いのだ。
「雪だるま餅‥‥か。普通に丸めて重ねるだけじゃ、鏡餅になりそうだと思うのは‥‥僕だけか?」
一見男性にしか見えないいい男っぷりの所所楽柳(eb2918)は、上着を方に引っ掛けて笑う。
「おんなのこ?」
「僕は男の子‥‥それに、僕の名前はカナタで‥‥ソラちゃんじゃないよ‥‥間違わないで」
巫女装束を着て、並みの少女よりも女の子らしく幼い顔立ちの糺空(eb3886)は、やっぱりかの子さまに間違われてゆっくりと訂正。
「珠樹よ。よろしくね?」
(「まぁ、子供相手だしまずは挨拶からね。名前だけ言っとけば大丈夫よね‥‥」)
忍びの壱原珠樹(ea9521)は目立つことを嫌う。
名前が広く知れ渡れば、隠密行動に支障が出かねない。
けれど今回の依頼はお子さま相手。
軽く、挨拶するぐらいはいいかもしれない。
珠樹はぶっきらぼうな雰囲気にそぐわず、意外と子供好きらしい。
「みんなと、かの子さんも一緒にお餅作り、するつもりだよ」
少し特徴的な話し方をするルピナス・シンラ(eb0996)は柴犬と猫の2匹の幼いペットを抱えている。
「うわーうわー、さわらせて?」
んしょんしょと手を伸ばし、かの子さまはルピナスにおねだり。
「うん、いいよ。動物、好きなのかな?」
「だいすきー♪」
「御餅で柴わんこが出来たら、それはそれで喜んでくれるか‥‥なのだ」
子犬と子猫と一緒に戯れるかの子さまを見て、玄間北斗(eb2905)はほわわんと思案する。
「何もございませんが、資金だけはご用意させていただきましたの。かの子さまのお餅を、どうぞよろしくお願いします」
依頼人の侍女が深々と頭を下げた。
●買い出し行こう☆
街中で、お餅を作る為の材料メモを見ながら、壱原は思案する。
「必要な材料が多いわね」
「馬を連れてきているのだから、余程でない限りは大丈夫だ」
そうゆうアルディナルの愛馬の背には、臼と杵が積まれていたりする。
かの子さまの家にもあったのだが、今回は量を多く作りたいということで、新しいものも買い揃えたのだ。
「ところで。空はアレで別行動を取っているつもりかな?」
壱原は二人よりも大分前を歩いて餅米を一生懸命抱えてよろけている空を心配気に見守る。
そしてその空のすぐ後ろには所所楽が物陰に隠れて後を付けていたりする。
『一人で買い出し‥‥出来るです‥‥!』
ここに買い出しに来る前。
空はそう言い張って壱原たちとは別行動を取ることにしたのだ。
懐に買う物のメモを持って、お金を落とさないようにとしっかりと腰帯につけ、
『買うものはちゃんと覚えたか? 予算は大丈夫か? 道もわかってるか?』
心配しまくる所所楽に忘れ物のチェックもしてもらい、そんな空を壱原とアルディナルの二人は少し離れた場所から見守りながら買い出しをしていたのだが、やっぱりどう見ても危なっかしい。
「あんなにあからさまに後を付けている所所楽さんにも気づいていないようだからな。おっと」
言っている側から空は餅米の重さによろけて地面にべシャリ。
すかさず駆け寄る所所楽に驚く空。
「どうして‥‥ここに‥‥?」
「ぐ、偶然だとも!」
だくだくだく。
後を付けていた事がばれそうで、額に冷や汗だくだくな所所楽を、
「荷物が多いからね。私達を手伝ってもらってたのよね」
「どうだ? せっかく『偶然』一緒になったんだし、その荷物は馬の背に乗せないか?」
壱原とアルディナルが駆け寄ってすかさずフォロー。
「うん‥‥偶然ってすごいです‥‥柳お姉ちゃんのことは大好きだから‥‥御仏がめぐり合わせてくれたです‥‥」
にこっ。
無垢な笑顔で、大人三人を魅了する空だった。
●ぺったんぺったんぺったんこ☆
「料理は良く判らないけど、火の番や力仕事、つきあがった御餅をこねるのは御手伝いできるのだ」
狐のお面を横にずらし、竹筒でフーフーと息を吹きかけつつ、薪を足しつつ。
玄間がもち米を炊く竈の火の番をする。
コトコトと揺れるお釜からは、炊き立てご飯の食欲をくすぐる香りが立ち込める。
「いい香りなのだ。でもまだ食べないのだ」
くぅ〜と鳴るお腹をぐっと我慢して、玄間は炊き上がったそれをみんなのところに持ってゆく。
「ウッドハンマー? ‥‥きね‥‥と言うのか‥‥成る程!」
買ってきた杵の独特な形を見て、一人納得するアルディナル。
「ヨモギも‥‥あるです。草餅‥‥つくれるです」
空が小さな手でヨモギを差し出す。
「切る位なら、私にも出来るんだよ。色餅、増えるね」
細かく細かく。
かの子さまが食べても大丈夫なようにルピナスはヨモギを刻んでゆく。
ぺったんこー、ぺったんこ。
ぺったんこー、ぺったらこ☆
「こんな感じか?」
アルディナルが陸堂に教わった餅のつき方を実践する。
臼の中に入れられた炊き立ての餅米が、くにゅんと震える。
ついた餅に水を足し、ひっくり返すのは所所楽。
「あいにく、味付けに関してはさっぱりだからな‥‥手先の器用さだけなら、何とかなる‥‥よな?」
自分にいい聞かせるように、アルディナルに合わせて臼の中の餅をひっくり返す。
それを数回くりかえしているとアルディナルも所所楽も、汗びっしょりになった。
慣れないお餅作りだからというのもあるのだろうが、意外と重労働なのだ。
「交代しよう」
壱原がぶっきらぼうに所所楽と変わる。
「私も、代わります」
非力ながらもルピナスがアルディナルと代わる。
ぺったん、ぺったん。
ぺったん、ぺったん。
アルディナルと所所楽に比べてペースはゆっくりとしているものの、中々どうして、上手にお餅がつきあがってゆく。
「一緒におもちつき、しない?」
その様子をじっと見つめていたかの子さまに手を差し出すルピナス。
危ないからと慌てて止めに入った侍女に、
「一緒に杵を持てば子供でも大丈夫だろう」
アルディナルがかの子さまと一緒に杵を持ってあげる。
「うわーうわー、くっつくのー!」
初めてお餅をつくかの子さまは、杵について伸びるそれに大喜び。
「喜ばれるとこっちもやる気が出るわね」
壱原が微妙にタイミングがずれてしまうかの子さまの杵つきを、両手効きの器用さで上手くかわして餅をひっくり返す。
うん、タイミングが悪いと杵で手を付かれてしまうから、けっこう危険。
「そろそろよさそうなのだぁ〜♪」
玄間が言うように、餅米は見事美味しそうなお餅に変身☆
●お汁粉とかも作っちゃおう☆
「ぜんざいやお汁粉も、おいしいよね」
小さく小さく一口サイズにお餅を丸めながら、ルピナスが思いつく。
「名案だな。作るか」
唯一調理技能を持つアルディナルが、いそいそと作り出す。
「‥‥消化魔法が使えるわけじゃないんだが‥‥火の志士なわけだし、普通の人よりは火の扱いはまともだろう」
所所楽がそれを手伝う。
けれどその横で、青ざめている空。
「‥‥空、無理して火のそばに居なくてもいいからな?」
それに気づいて、くしゃりと頭を撫でてやる。
空は火が苦手なのだ。
「柳お姉ちゃん‥‥大好き」
ポツリと呟かれた言葉に、所所楽は真っ赤になって竹筒を落としそうになった。
●お餅こねこね☆
「餅の中に丸めた餡を入れたら、餅も綺麗に丸くなるんじゃないかな?」
こねこねこね。
柔らかいお餅を丸めつつ、所所楽が提案する。
「餡でしたら、在庫がございます」
侍女がすかさず持ってくる。
「だぁ〜? 雪うさぎの親子なのだ。かの子さんも作るのだ」
雪だるまだけでなく、ちっちゃな雪ウサギの親子もお持ちで作り上げた玄間は、かの子さまを手招きする。
「ちっこいの、かわいいの!」
こねこねこねこね。
小さなおて手で、玄間といっしょにウサギを作ってみる。
「餡子で可愛いお顔をつけて上げようなのだ」
不恰好なかの子さまの雪ウサギに、侍女が持ってきてくれた餡を小さく丸めて目を付けてあげる。
「きな粉をまぶしても、かわいいんだよ」
ころんころんと所所楽と同じように丸めた餡を餅に詰めて転がして、雪だるまのように2つくっつけて。
黒い小皿に乗せて上からぱらぱらときな粉を降りかける。
きな粉は粉雪のようにお餅の雪だるまに、そして小皿にパラパラと降り積もる。
「小豆を目にはめて、完成だね。はい、あげるんだよ」
かの子さまに完成したそれをプレゼント。
それは、かの子さまが食べたがっていた本物の雪だるまにそっくり。
そうこうしている内に、ぜんざいも出来上がり、みんなが丸めたお餅も完成。
さてさて気になるお味のほうは?
●もっちもち☆
「かのこ、しあわせなのよ」
幸せいっぱい餅いっぱい☆
目の前に並べられたお餅を見つめてかの子さまはうっとり。
「‥‥この手の顔のある食べ物はやっぱり頭からよね」
普通のお餅を優先的に食べようと思っていた壱原だが、なぜか手にはかわいい雪ウサギ形のお餅。
みんなで作ったから、普通のお持ちよりも雪だるまや雪ウサギ形のお餅のほうが多かったのだ。
「えへへ‥‥ほんとにかわいいです‥‥」
口いっぱいにほお張って、笑いながら餅を頂く空も心底幸せそう。
その笑顔を見ている所所楽ももちろん幸せ。
美味しいお餅よりも何よりも、所所楽にとっては空が元気で幸せでいることが何よりも幸せなのだ。
「お汁粉も、美味しいんだよ」
アルディナルの作ったお汁粉を、ルピナスはふぅふぅと冷ましながら美味しくいただく。
「隠し味にお塩を少々入れてみたんだ。これで甘みが引き立ってよかった」
お餅と一緒に初めて作ったお汁粉を飲みつつ、アルディナルはほっと一息。
「これも作ったのだ」
玄間はかの子さまに子犬をモチーフにしたお餅を差し出す。
流石にお餅の構造上立体的に作ることは無理だったが、お皿の平面にお絵かきの要領で作り上げたのだ。
「わんこ〜♪」
ぎゅう。
ルピナスの子犬を抱きしめて、かの子さまは玄間のつくったお餅と見比べてみる。
「にてるの〜」
「気に入ってもらえてよかったのだぁ〜」
幸せな笑い声が、辺りに響いた。