ラングウッドおじーちゃんの思い出話

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 70 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:01月05日〜01月20日

リプレイ公開日:2006年01月17日

●オープニング

「そろそろ、ケリをつけるべきかのぅ?」
 年の瀬の大掃除。
 脚立に上りながら本棚の整理していたラングウッド・ベスパロイは、壁を覆い尽くさんばかりの大量の書類の山から飾り彫りを施された小さな木箱を取り出した。
 中をそっと開けてみれば小物入れになっており、18年前に預かったあの日のまま、丸い白い玉が一つと、ピンク色の小石がいくつも入れられていた。
「そう・・・・もう18年も前になるんじゃのう。ジャパンから来たあの娘子に会うてから・・・・」
 パタンと小箱を閉じて、出あったあの日の記憶に思いを馳せる。
 遠く遠く、ジャパンから来たという少女――華雪の依頼は、ドレスタットの冒険者ギルドにてありとあらゆる冒険者や依頼人を見続けてきたラングウッドにとっても、とても不思議な依頼だった。
『必ず、取りに戻りますから。5年・・・・いいえ、1年でもいいんです。どうかこの小箱を預かって下さいませ』
 本来そういったものを預かる仕事は請け負わないギルドだったが、ギルドの受付で土下座せんばかりに頼む華雪に根負けして、ラングウッドは個人的に預かることにしたのだ。
 そうして、数年。
 風の噂で、華雪らしき少女が無くなったとも聞いたのだが、ラングウッドはいつか少女が戻ってくる日の為に、ずっと取っておいたのだ。
 だが、もう18年。
 あれほど必死になって預けようとしていた大切なものを、こんなにも長い間ほうっておくだろうか?
「取りに来れない理由は、あまり考えたくは無いのぅ・・・・」
 白く長い髭を、ゆっくりと扱く。
「せめて、彼女の生まれ故郷に返してやるべきかのぅ?」
 華雪は、ジャパンに居た頃は京都で暮らしていたという。
 ならば大切にしていたそれを、京都の地に埋めてあげたい。
 だが、冒険者ギルドに勤めるラングウッドは、早々長い間休むことは出来ない。
 ジャパンまで行って戻ってくるには、単純計算でも1月かかる。
 悩むラングウッドに、けれど運命は味方した。

「護衛を、海上に出たモンスターを退治してはもらえやせんかな?」
 そういって、ジャパンまで商用に出るいかにも裕福そうな商人がギルドにやってきたのだ。
 依頼人の話では、この寒い時期に船を出し、ノルマンからイギリスを経由してジャパンに向かうのだが、今年はその海上にサメが数匹現れてしまったらしい。
 間の悪いことにこれまでの護衛は契約切れ、ジャパンまでの護衛を雇うのだが、そこにサメをやっつけられる人と条件をつけたいという。
 それが依頼内容。
(「ふむ。この依頼のついでに、わしの願いも叶えてくれる冒険者もおらんかのう?」)
 ラングウッド一人では、ジャパンまでの旅費を全て出して冒険者を数人雇うのは難しいが、この依頼人と一緒なら、多少の望みは出来たようだ。
 ラングウッドは依頼人に事情を話し、依頼人は、
「おう、そういった事情ならあんたの契約込みってことでいいっすよ」
 と快諾。
 こうして、依頼人二人の共同依頼がギルドに張り出されることになったのだった。
 
 

●今回の参加者

 ea8203 紅峠 美鹿(30歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9687 エクレール・ミストルティン(30歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・フランク王国)
 ea9764 神谷 潮(34歳・♂・浪人・パラ・ジャパン)
 eb2443 ビザール・スウィートネス(33歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb3242 アルテマ・ノース(31歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3317 リュック・デュナン(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb3559 シルビア・アークライト(24歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 eb3933 シターレ・オレアリス(66歳・♂・ナイト・人間・神聖ローマ帝国)

●サポート参加者

エイジス・レーヴァティン(ea9907)/ ジノ・ダヴィドフ(eb0639)/ ネフィリム・フィルス(eb3503

●リプレイ本文

●まずは、航海の無事を祈ろう。
 ザザーンッ‥‥。
 心の底まで冷え込みそうな冷たい海の上に浮かぶ大型船。
「いつか必ず帰ります。僕のノルマン王国。そしてありがとうドレスタットの人たち。故郷の村のみんなも元気で‥‥」
 リュック・デュナン(eb3317)がドレスタットのほうを見つめ、瞳を潤ます。 
「ほいっと。‥‥迷信だろうが何もやらねぇよりはマシだろ」
 その隣で、甲板の上から波打つ大海原に、赤い三つ編みを風になびかせて紅峠 美鹿(ea8203)が白波の指輪を海に投げ込んだ。
 白い波の泡立つ様子をモチーフとして、貝殻を加工して作られた白波の指輪には、海に投げ込むと航海の無事が約束されるという言い伝えがあるらしい。
 そんな迷信を信じているわけではなかったが、なんとなく、やってみたかったのだ。
「ジャパンに里帰りしてぇと思っていたところだからな。ちょうどいい依頼だ」
 波間に消えてゆくそれを見つめて呟く。
「迷信でも何でも、無事に航海を終えられるといいわね」
 紅峠と同じように海を見つめながら、エクレール・ミストルティン(ea9687)は炎を弄ぶ。
 スクロールで操られる炎は彼女を護るかのようにくるくると踊った。
「そろそろ交代します」
 防寒服をきっちり着込み、愛犬のクィンティンを連れたアルテマ・ノース(eb3242)と、やはり同じように愛犬を連れたビザール・スウィートネス(eb2443)、そしてシターレ・オレアリス(eb3933)が船室からやってきた。
 この海域にはサメが現れるという。
 だからサメが現れたらすぐに対応できるように、冒険者達はこの寒空の下、交代で見張っているのだ。 
「ふう〜。サメ退治とは中々にデンジャラスで寒い中でのお仕事ですが、こういう経験も教職に活かせる日が来るかもしれませんからね!」
 愛犬アインスとツヴァイの2匹をぎゅうと抱きしめて、ビザールも防寒対策ばっちり?
「とっととサメをぶちのめしてぇとこだが‥‥俺たちは少し休むとするぜ」
 愛犬の代わりに、紅峠は愛剣を抱きしめた。 
 

●京都と江戸と商人と。
「‥‥であるから、江戸と京都だとノルマンで言うパリとドレスタットぐらい離れているのである」
 神谷 潮(ea9764)がこの船の持ち主であり、依頼人の一人でもあるザンバイルに、イギリスのキャメロット月道経由でジャパンの江戸に向かうと聞き、状況を説明する。
 ジャパンはノルマンからは遠く離れた異国の地。
 江戸も京都も同じジャパンの地名には違いないが、距離にするとそうとうな違いがある。
「おう、気安く請け負ったはいいが、まいったねぇ」
 神谷の説明に江戸と京都の違いをやっと理解した依頼人は眉根を寄せて悩む。
 ノルマンで仕入れた商品を江戸まで売りに行くのはいつものことだったが、京都まで足を運んだことはとんとなかったのだ。
「京都は確かに少し遠いものがある。ラングウッド殿からの依頼は『ジャパンへ思い出の品を埋めること』だから、江戸に埋めても間違いにはならんだろうが‥‥
 ザンバイル殿が京都まで届けてくださればジャパン人は人情話に弱いゆえ、ジャパンでのいい宣伝になると思うのだ。どうであろう?」
「うぅむ、確かにただ働きになるが‥‥今後の商売展開を考えれば安い出費といえるな。‥それに、なんだかんだいっても乗りかかった船さね。
 ギルドのじーさんの願いはきっちりかなえてやりてぇしなぁ」
「じゃあ、いって頂けるんだな?」
「おうっ、任せとけ。俺が責任もってどーんと京都の土地に埋めてくらぁ!」
 がしっ。
 神谷と依頼人は腕を組んでガッツポーズ☆


●サメ出現! さくっとやっつけちゃおうっ☆
 ドレスタットの港を出てしばらく。
 紅峠のまじないが効いたのか、ここまで、海は本当によく晴れていた。
「面舵よーし、天気よーし、黒い影よーしじゃ!」
 甲板から柔らかくゆったりと波打つ波間を見て、シターレは大理石で出来たパイプをふかす。
「え? 黒い影ですか?」
 シターレと共にサメの出現を見張っていたリュックが駆け寄って手摺から身を乗り出し、目を細めた。
「一匹‥‥二匹‥‥‥4匹でしょうか? あの黒い影は、サメです!」
 シターレよりもいくぶん目の良いリュックはサメの独特の背びれを遠くに確認し、青ざめる。
「やれやれ、難儀なことだがやるしかないのぅ」
 慌てず騒がず。
 シターレは再びパイプをふかした。

 
 サメは、正しく4匹。
 大きさに多少の違いはあるものの、間違っても友好的ではなさそうだ。
 ゆっくり、ゆっくり。
 船を獲物と定めたサメは周囲を旋回し、その距離を縮めてくる。
「サメなんかに負けないです。あったれぇっ!」
 シルビア・アークライト(eb3559)が近づいてきたサメに狙いを定め、弓を射る。
 寸での所で矢を避けたサメは、一気に船に突進してきた!
「さてと、まずはサメ退治ね。サメさん、オイタが過ぎるとヤケドするわよ」
「風よ! 海の潮風よ、天と地を繋ぐ柱となりてかの敵を撃ち滅ぼして‥‥ライトニングサンダーボルトっ」
 スクロールを広げたエクレールと、風の魔術師アルテマの指先から稲妻が迸り、迫り来る敵を撃ちぬく。
 
 ドオーーーーーーーーーーンッ!

 仲間をヤられてキれたのか、サメが一気に船に体当たりをかましてきた!
 
 ドオン、ドオーンッ!
 
「このままじゃ沈められちまうよ!」
「なんとかしないと‥‥」
 ぐらつく船の手すりに必死に捕まる冒険者達。
「どなたか、ボートを出していただけませんか? 海の男はタフで勇敢だと聞きました。
 危険かもしれませんがお願い出来ないでしょうかっ」
 リュックが船員達に叫ぶ。
「空飛べるならともかく、ボートで降りてサメと闘うなんて自殺行為です‥‥きゃあっ」
 
 ドーーーーーーーーーーーンッ!

 止めようとしたシルビアが傾いた甲板によろけて吹っ飛ぶ。
「おっとっ」
 とっさに腕を伸ばし、シルビアの小さな身体をビザールが両腕で抱きとめる。
「ちょーっと痛いけど落とさないでね!」
 そのビザールをしっかりと支えているのはエクレールのニードルホイップ。
 うまい具合にビザールの背負っていたバックパックに絡めている。
「エクレールさん、ありがとうございます」
「ビザールさんありがとう」
 二人のお礼が重なって、一瞬ほのぼのと仕掛けたのもつかの間。
「またきやがる気だよっ!」
 サメが勢いよく突進してくる!
「そう何度もやられはしないのだ」
 神谷がミドルボウで突進してきたサメの頭を打ち抜く。
「次が来る前に、ボートをっ」
「私が行きます。航海術なら多少の心得がありますから」
 びびる船員達を尻目にビザールがボートを借り、冒険者達が乗り込む!


●ボートの上で。揺れようとなんだろうと、怯みはしない!
「そうです‥‥みんなこっちにくるんです」
 ボートを漕ぎ、ビザールは大型船からサメを引き離そうとする。
 サメは、そんなボートにあっさりとひきつけられた。
 大きな口を開けて、ボートを飲み込まんとばかりにサメが突進してくる。
「わしの相手をするには、少々力不足じゃったな?」
 シターレがパイプをふかしたまま、ボートに襲い掛かってきたサメをウルナッハの短剣アニマルスレイヤーとデュランダル。
 二刀流を使いこなし切り裂き、
「いくぜぇ! 吼竜破!!」
 紅峠のロングスピアが深々とサメを貫く。
「援護します」
「まだまだ、あたしの魔力は尽きないわ!」
 アルテマとエクレールも大型船の甲板から魔法を撃ち放つ!
 黒く焼かれたサメは悶え、のた打ち回り、辺りに血の匂いが立ち込める。
「引き上げましょう。ちょうど投網もありますしね」
 ビザールがいそいそとラーンの投網をサメの亡骸にかけて船に引きあがる。
 本当は戦闘中に使いたかったのだが、ボートの操作で手一杯だったのだ。
「こいつぁ大漁だぜ!!」
 フィッシュフラッグを大きく掲げて、紅峠は大型船に叫んだ。


●まだ見ぬジャパンと華雪さん。
 15日。
 キャメロットの月道。
「18年以上の時を経て故郷に戻るんですね。なんだか感慨深い話です。
 僕もいつかは故郷に帰る日が来るかもしれません。その時はどんな気持ちで帰るんでしょうね」
 光り輝く月道への手続きを終えて、リュックはラングウッドから預かった小箱を取り出す。
「華雪さんは、名前の通り色白で、おっとりとした儚げな少女だったそうです。
 綺麗で花が咲いていて、海を見渡せる岬のような場所が京都にあればいいのですけれど」
 ラングウッドから出発前に聞いておいた小箱の持ち主・華雪を思い、ビザールは目を伏せる。
「私はジャパンに付いたら冒険者ギルドにいって、華雪という冒険者の記録がないか尋ねてみるわ。
 京都までは行かれないけど、もしかしたら何か情報がつかめるかもしれないしね」
 エクレールはそういいながら、ビラールの持つ小箱を撫でる。
 本当に大切にしていたのだろう。
 18年も前の話だというのに、傷らしい傷一つ付いていない。 
「ザンバイル殿が京都の地に埋めるのを請け負ってくれたんだ。その辺は安心していいと思うぞ?」
 神谷はずっしりと重いバックパックを担ぎなおす。
 その中には、ジャパンで転売しようと持ち込んだノルマンの発泡酒とワイン、そしてなんとサメの皮。
 海で倒したサメはその場で調理して食べたりもしたのだが、皮はさすがに食べなかったので神谷が綺麗に剥いで保存しておいたのだ。
 もちろんこのサメの皮もジャパンで売る気満々だ。
「あっ、月道をくぐる前に‥‥」
 くるっとシルビアが紅峠に向き直る。
『あ、ジャパン語勉強してみたんですけど、私の言葉通じます?』
 使い慣れたゲルマン語をやめて、習い立てのジャパン語で話してみる。
『安心しな。簡単な日常会話は成り立つ程度にゃ通じてるんじゃねーの』
 にやり。
 ジャパン出身の紅峠もジャパン語で返す。
「ジャパン語はゲルマン語ともイギリス語とも違った独特の発音が情緒深いのぅ」
 意味は通じていないのだが、ジャパン語ということだけは感じ取ったシターレは、やはりパイプをふかしつつ、愛猫のねこまるを肩に乗せる。
 月道を通ったことのないねこまるは、少し怯えているようだ。
「クィンティン、ジャパンってどんな場所なのかしらね? 楽しみだわ‥‥」
 うっとり。
 アルテマはまだ見ぬジャパンへの乙女の妄想を膨らませ、愛犬を抱きしめる。
 冒険者達のさまざまな思いをのせて。
 光り輝く月道はジャパンへの道を繋ぐのだった。