鳩仲さん家のお引越し☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:1 G 4 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月05日〜01月20日

リプレイ公開日:2006年01月15日

●オープニング

 それは急に決まった事だった。
「ジャパンに帰るって、ほんと?」
 一人息子の太一郎に、鳩仲清三郎は「うむ」と短く頷く。
「お母様からのお手紙ですか?」
 清三郎の妻、クワイエリッタ・鳩仲も料理の手を止める。
「病で倒れたらしい。この冬の冷え込みは、ジャパンにも到来していたのだろう。清次は何をしておったのか」
 一つ違いの兄の名を呟く。
 清三郎がジャパンからノルマンに渡ってくるとき、唯一心配だったのは母親のことだった。
 母はあまり身体の丈夫なほうではない。
 だが、一番上の兄と2番目の兄が母親と同居しているから、何かあったときには直ぐに対応出来るだろうと思っていたのだが、考えが甘かったようだ。
「俺、ロッテとヴィエルに言ってくる。・・・・二度とノルマンに来れない訳じゃないよね?」
 太一郎が、ちょっぴり不安そうに見上げる。
「うむ。しばらくの間はジャパンで暮らすことになるだろうがね」
「わかったー!」
 元気いっぱいに家を飛び出して行く太一郎。
「あなた、荷物はどうしましょう?」
 急に決まったことだから、家財道具も何もかもを3人でジャパンに運ぶのは不可能だ。
「冒険者を雇おうと思っているよ。ジャパンへ行く冒険者に一緒に運んでもらえればいいだろう?」
 流石にジャパンとノルマンの往復の旅費代などは出ないが、ジャパンへ渡る冒険者達についでに荷物を運んでもらえるなら、今ある蓄えで十分。
「わたくし、ギルドにいってまいりますね♪」
 まだ見ぬジャパンへの期待を胸に、クワイエリッタはギルドへと向かうのだった。

●今回の参加者

 ea1919 トール・ウッド(35歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea7815 相麻 了(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8528 ラガーナ・クロツ(28歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9936 カヤ・ファーレンハイト(18歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0005 ゲラック・テインゲア(40歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb0976 花東沖 槐珠(40歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 eb1259 マスク・ド・フンドーシ(40歳・♂・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1779 ナタリー・パリッシュ(63歳・♀・ナイト・人間・イスパニア王国)
 eb2284 アルバート・オズボーン(27歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●高飛び準備? いえいえ、お引越しです☆
 サワサワサワ‥‥。
 冬の冷えた風に吹かれ、竹薮が音を奏でる。
「これだけの竹を運ぶとは‥‥ほう‥‥腕がなる!!」
 大量の竹の全てを運ぶわけではないにしても、相当な量になるであろう荷物にラガーナ・クロツ(ea8528)はぱんと拳をたたいて気合を入れる。
 草むしりも得意な彼女だから、きっと竹も豪快に刈り取れることだろう。
「ちょうど、ジャパンに旅行しようと思っていたので助かった」
 そういいながら、トール・ウッド(ea1919)は依頼人の鳩仲清三郎に笑う。
「‥‥そう言って頂けると助かります。なにせ、急に決まった帰国ですからな」
 トールの盗賊のような悪人顔にあやうく『高飛びですか?』と聞きかけた清三郎は、ぐっと飲み込んで握手。
「ねえねえ、ナタリーおばちゃんとアルバート兄ちゃんもジャパンへ行くのか?」
 てててててててっ!
 元気いっぱいに依頼人の一人息子・太一郎がナタリー・パリッシュ(eb1779)とアルバート・オズボーン(eb2284)に駆け寄ってくる。
「相変わらず元気にしてるかい? 鳩仲さん一家には結構世話になったけど‥‥、一緒にジャパンに向かうことになるとはねえ」
 ぐりぐりぐり。
 太一郎の頭を撫でてナタリーは目を細める。
「あの時の二人とは今でも一緒に遊んでいるらしいな」
 アルバートが問えば、
「うん! ジャパンに戻ったらしばらく会えなくなっちゃうけど、手紙出すって約束したんだ」
 やっぱり元気いっぱいに頷く太一郎。
「そうか。元気そうで何よりだ」
 ナタリーと一緒になって、ぐりぐりと頭を撫でてみる。
「いたたっ、兄ちゃん、いたいよー」
「ふふっ。仲がよろしいですね」
 じゃれ合う3人を見つめ、花東沖 槐珠(eb0976)は微笑む。
 その隣には相麻 了(ea7815)。
 相馬はおっとりとした花東沖のボディガードをしに来たのだ。
「おーい、竹はどのくらい運んだらいいんじゃろうかのぅ?」
 竹薮を見つめ、舌なめずりしていたゲラック・テインゲア(eb0005)が尋ねる。
 ゲラックの豊かな髭の中にはなぜか鳥のヒナ。
 どうやらヒナは豊穣なる髭を鳥の巣と間違えているらしい。
 そしてヒナといえばこの人もだろう、
「むっふ〜ん。我輩は永遠なるマッチョ。マスク・ド・フンドーシ! 力仕事は任せるのであーる」
 マッチョムキムキムッキンキーン☆
 前口上を高らかに述べてムキッとマッチョなポーズを決めて挨拶をするマスク・ド・フンドーシ(eb1259)のアフロな髪には、いつもヒヨコがくっついている。
 しかし今日は鳩仲さん一家とは初対面なせいか、紫の蝶々マスクだけは変わらないものの、いつもの褌一丁の姿ではなく着慣れない礼服などを着込んで少し動きづらそうだ。
「すみませーん、漆器類はこんな感じでいいですか?」
「スコップはあるかい?」
「船の手続きもしないと‥‥」
 わいわいがやがや。
 お引越しの準備が始まる。


●きちんと梱包しようね☆
「えーっと、お引越しのお手伝い、だよね」
 カヤ・ファーレンハイト(ea9936)が沢山の荷物を前に呟く。
「まずは小さいものから、丁寧に纏めていって解りやすく区別して邪魔にならないところに置いておくのがよさそうだね」
「お手伝いします。食器類の梱包は任せてください」
 カヤが分けた荷物の中で、割れやすそうな漆器類や高価そうな小物を、エヴァリィ・スゥ(ea8851)が丁寧に布で梱包してゆく。
「‥‥これって、なんなのかな?」
 そんな中、カヤが羊皮紙に描かれた怪しげな物体を指差す。
 それを一言で言い表すなら『へのへのもへじ』。
 子供の落書きだとは思うのだが、それにしては随分と丁寧だし、羊皮紙はそれなりに高級品だし。
 悩むカヤに、依頼人の妻・クワイエリッタが飛びついた。
「きゃーっ、それはいじってはだめですのよ〜っ」
 どんがらがっしゃん!
 盛大にすっ転ぶクワイエリッタを、エヴァリィが咄嗟に抱きとめる。
 むしろ抱きとめるというより下敷きになったといったほうが正しいのだが。
「クワイエリッタさん?」
「そそそ、それは、とっても大切なものですのよ。わたくしが片付けますわねっ」
 そそくさと『へのへのもへじ』を抱きかかえて去って行くクワイエリッタ。
(「もしかしていまの、彼女の描いた絵だったのかな?」)
 思い出の品など、大事そうなものには手を触れないように気をつけていたカヤだったが、さすがに『へのへのもへじ』が大切なものだとは見抜けなかった。
「ねぇ、エヴァリィ‥‥って、あなたもハーフエルフ?!」
 クワイエリッタにぶつかられた衝撃で短い白髪が乱れ、あらわになったエヴァリィの耳を見て驚くカヤ。
「あの、その、私‥‥」
「大丈夫、私も同じだよ。でも、耳はちゃんと隠しておいたほうがいいんだよ。髪を伸ばすか、帽子をかぶるとかだね。気をつけなくっちゃだめだよ」
 いいながら、エヴァリィの赤いマントのフードをぽすっと被らせて、
「所でジャパンってどんな所かな? どういう場所が見れるか凄く楽しみ‥‥いい場所だと、良いなあ‥‥」
 ハーフエルフでも、幸せになれる場所。
 まだ見ぬジャパンへの期待と不安を込めて、カヤは再び仕分け作業を続けだす。


●竹はいっぱい☆
「どこまでも真っ直ぐなんだな」
 天に向かって一直線に伸びる竹を見上げ、ラガーナは感嘆のため息を漏らす。
「そうでしょう? 竹はね、どこまでも潔く、何があろうと真っ直ぐに伸びてゆくんです。
 迷いやすい人間とは違ってね」
 いつの間にか側にやってきていた清三郎が、着物姿で腕を組み、ラガーナに頷く。
「この竹は、どのくらいまで伸びるんだ?」
「これ以上はもう伸びませんな。伸びるよりも増えてゆくのですよ。
 根から筍が生え、それが育ってゆくのです」
「タケノコ?」
「ほいほい、以前タケノコをご馳走になったゲラックですじゃ。タケノコはいいですぞ。コリコリとした歯ごたえが格別でしたわい!」
 ゲラックがタケノコと聞きつけてスコップ片手に熱く語る。
「タケノコって食べ物なんだな?」
「タケノコはほら、ここに生えているのがもっと小さい時がそれだよ。料理人の腕もよかったんだろうけど、新鮮なタケノコは刺身にしても美味かったね」
 ゲラックと一緒に以前の依頼で鳩仲家のタケノコを食したナタリーも、竹薮のすぐ横に生えているまだ皮が残っている竹を指差す。
「竹も食べれるのか?」
「流石にそれは無理じゃな。ほれ、あそこに竹籠があるじゃろう? あれは竹を裂いて作ったものなんじゃ。硬くてとても食べれんじゃろうて」
「そっかー。残念だな」
 ゲラックの説明にラガーナはしょんぼり。
「ふむ。作業が終わったら、筍料理をご馳走しましょう」
「ほんとか?!」
「ええ。皆さんのおかげで引越しのめども大分つきましたからな」
「やったーっ!」
「そうと決まれば、さっさとこの竹を掘り起こしちまおうかね。
 全部を運び出さなくてもいいとしても、意外と大変だよ、こりゃ」
 防寒服をしっかりと着込み、スコップで竹を掘り出すナタリーのすぐ横で、
「むっふーん。我輩の存在を忘れてはいないであろうの? こうすればすぐに運べるぞな」
 言うが早いか、マスク・ド・フンドーシは「どおおりゃああああっ!」と気合一発、竹を引っこ抜く! 根っこがずらずらとついてきた。 
「なるほど。それは早そうだな」
 それをみていたトールもズバーンと竹を根っこから引っこ抜く。
 ファイターとマッチョ。
 力には定評のある彼らが次々と竹を引っこ抜いてゆくさまは壮観。
「俺も負けてはいられないな」
 負けず嫌いのアルバートも腕まくりをし、手近の竹を引っこ抜いた。


●交渉事はお任せあれ☆
「尼僧さん、張り切っていこうぜ!!」
 ドレスタットの港で、相麻は花東沖の手を取る。
「ええ、鳩仲さん一家の為にも、頑張りましょう‥‥竹を乗せてくれる船があるとよいのですが‥‥」
 着物の裾を引き寄せて、花東沖は辺りを見回す。
 鳩仲家の竹の量からして、それなりに大きな船でないと難しい。
「荷馬車の手配は済んだが、貨物船の手配は難しいな」
 相麻も唇をかむ。
 類まれな話術というか、ナンパによって、女性が御者をしていた荷馬車を安価で借りることが出来たのだが、いかんせん、なかなか竹まで運んでくれる船は難しい。
「あれは‥‥もしやジャパンのお方ではありませんか‥‥?」
 花東沖が目を留めた先には、黒髪、黒い瞳の着物姿のノルマンの豪商らしき人物が。
「当たってみる価値がありそうだな!」
 黒髪=ジャパン人とは限らないが、聞いて置いて損はないだろう。
 男性相手では自慢のナンパ話術も少々使いづらいがそれはそれ。
 ノリと勢いで何とかなるだろう。
「こんちゃ!! 俺は了、宜しくね」
 魅惑のウィンク一発☆
 相麻は豪商に交渉を切り出すのだった。


●たけのこうまうまっ☆
 どんぶらこっこ。どんぶらこっこ。
 無事に船に鳩仲一家と冒険者、そして竹やら引越しの荷物やらの搭載許可を豪商人から得て、なにやらまったりと揺られる船の上で開かれたのはタケノコパーティ。
「ジャパンのとは違うけど、中々いけるな、これ」
 交渉を完璧にこなした相麻は、保存状態から上手に戻されて煮られたタケノコに舌鼓を打つ。
「ジャパンはどうゆうところだね? よかったらあたしにジャパン語を教えてもらいたいんだよ」
 ノルマン最後の思い出にと、ワインを開けてみんなに配りながらナタリーが相馬にジャパンの話を尋ねる。
「うほっ、美味いタケノコにうまい酒。最高じゃのう!」
 ゲラックはもう既に出来上がりつつ、かんぱーいと盛大にコップを鳴らす。
「ジャパンには、こんなに美味しい食べ物があるんですね」
 ぎゅう。
 カヤにいわれたとおり、いまも耳を隠すべくフードを目深にかぶり、出されたタケノコ料理を味わうエヴァリィ。
「確かにこれはいけるな! ジャパンについたら俺も癖になりそうだ」
 楽しみにしていたタケノコ料理を頬張りつつ、ラガーナも幸せそう。
 そんなみんなから離れて、マスク・ド・フンドーシは遠ざかるドレスタッドの港を眺めていた。
「さらば、ドレスタッド。さらば故郷なる欧州。そしていざ行かん、東方よ‥‥なんての」
 あらかじめ買っておいた薔薇の花束を今までの冒険を振り返りながら海に投げる。
 口調こそおどけていたものの、彼にしては珍しくまじめな表情。
「我輩も、感傷に浸るくらいはええであろう?」
 薔薇の花束は、ゆっくりと遠ざかっていった。


●ここでお別れ? そんなのだめだよっ!
「え? アルバート兄ちゃん、帰っちゃうのか?」
 キャメロットに無事に着き、花東沖が手配してあった宿で、太一郎は涙ぐむ。
「江戸までの月道代を俺は持ってはいないのでな、残念だが俺も向こうに行く事は出来ない。報酬は、半分で結構だ」
 アルバートは至極まじめな表情だ。
 だが、
「うむ? 契約でジャパンまでの旅費はこちらが出すことになっているはずだが?
 流石に、ノルマンとジャパンを往復で雇うほどの資金はないが、ジャパンまでの旅費はきちんと用意してある。安心なさい」
 清三郎が力強く頷く。
 どうやらギルドでの依頼事項に書き忘れや漏れがあったようだ。
「ごめんなさい。わたくしがちゃんとギルドで伝えきれなかったようですわ」
 クワイエリッタもおろおろと頭を下げ、
「兄ちゃん、いっちゃやだよ! 俺、離れないからな!!」
 ひしっ。
 アルバートに引っ付いて泣き出す太一郎。
 ずっとジャパンに住んでいたとはいえ、やはりいろいろと不安があるのだろう。
 アルバートは困ったように目線を泳がし、
「ジャパンでは確か『乗りかかった船』って言葉があるんだろ? ここまで来たんだ、付き合え」
 肩をがしっとトールに捕まれ、
「子供を泣かすとはいただけないね?」
 ナタリーに『めっ』とされて。
「‥‥わかった、最後まで付き合うよ」
 太一郎の頭をガシガシと撫でて、アルバートはやれやれと笑った。どうせ転移護符で帰るつもりだったのだから、その前にジャパンを見てみるのもきっと悪くはない。


 子供のわがままに付き合いつつ、適当に襲ってくる盗賊を倒しつつ。
 月道が開く15日までまったりとキャメロットで過ごしつつ。
 来る日に輝く月道を通って、彼らは無事にジャパンへ着くのだろう。