女王さまのお買い物☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 56 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月05日〜01月20日

リプレイ公開日:2006年01月13日

●オープニング

「ちょぉーっとちょっとぉ、随分しけってるじゃなぁーい♪」
 香水の匂いをぷんぷんさせて、ケバいお姉さまが粘っこい口調で冒険者ギルドを見回す。
「換気はしてるんですがね」
 万年独り身受付係はもう依頼を聞く前からげっそりとしつつ、窓を大きく開け放つ。
 外は一面の雪景色――を通り越して、大雪。
「さ、さむっ! ちょっとぉ、さむいじゃなーい、窓閉めなさいよーぅ!」
 毛皮のコートをぎゅっと抱き締めるケバいおねーさま。
 尖らす真っ赤な唇がちょっぴり可愛く思えないこともないような。
(「いやいや、気の迷いです、こんな依頼人にかかわるときっとろくなことがないんだ」)
 一瞬心に浮かんだ考えをプルプルと頭を振って追い払い、依頼内容を尋ねてみる。
「依頼ってゆーかぁ、命令? ジャパンまでお買い物に付き合ってほしいのよねぇん」
 うふっ。
 デラ笑顔で微笑む彼女は夢見る乙女。
 一体、ジャパンまでいくら位かかると思っているのか。
「京都の染物でしょー、錦織とかぁ、十二単とかぁ、江戸に行けば売ってるわよねぇん?
 ジャパンの着物をいっぱい買うのよぉん。
 でもぉ、一人旅はつまらないじゃなーぃ。ジャパン遠いしー、あたし飽きちゃうしぃー。
 沢山の冒険者とぉ、いっぱいしゃべりながら言ったら飽きないとおもわなぁい?」
「・・・・ジャパンまでの往復の旅費代と、さらにギルドへの仲介料、とどめに雇った冒険者達へのお給料を払えるんですか?」
「あっ、あたしを馬鹿にしてるわねぇん?! ほらー、お金だったらいっぱいあるんだからぁ!」
 どん!
 皮袋を毛皮のコートから取り出して受付に突き出す依頼人。
 失礼ながら受付係が中を覗くと金貨がどっさり。
 どうやらこのケバくて馬鹿っぽいおねーさまは大富豪の令嬢らしい。
「ぉ、お嬢様、失礼致しましたっ。早速依頼書を作成しますねっ」
「わかればいいのよぉーう♪ あっ、でもぉ、ジャパンからノルマンに帰ってくるときはぁ、現地の冒険者を雇いたいからぁ、ノルマンから連れて行く冒険者にはぁ、ノルマンに帰る旅費は払わないわよーぅ」
「ええっ?」
「だってぇ、そのほうが着物がいっぱい買えそうだしぃ、サムライボーイ? ジャパンの冒険者とお知り合いになりたいわぁ」
 うっとり。
 夢見る(馬鹿)乙女には言葉が通じないようだ。
「・・・・わかりました。ジャパンまでの護衛依頼でよろしいですね?」
(「ああ、やっぱりかかわっちゃいけないタイプの依頼人だったよ。綺麗なのに綺麗なのに綺麗なのにー!」)
 万年独り身受付係は心の中で血涙を流しつつ。
 新しい依頼書を作成するのだった。

●今回の参加者

 ea1322 とれすいくす 虎真(28歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea5510 シーン・イスパル(36歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea5819 鷹屋 千史(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5947 ニュイ・ブランシュ(18歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9855 ヒサメ・アルナイル(17歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb2174 八代 樹(50歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2259 ヘクトル・フィルス(30歳・♂・神聖騎士・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2898 ユナ・クランティ(27歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb3243 香椎 梓(33歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb3536 ディアドラ・シュウェリーン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

レン・アルガイユ(ea1044)/ フェイテル・ファウスト(ea2730)/ 七神 蒼汰(ea7244)/ ユメ・アーリアンロット(eb2850)/ ユメ・クーレイ(eb2851

●リプレイ本文

●ジャパンに恋する馬鹿乙女・シャンリンお嬢様。
 ぷわんっ♪
 凄まじくきつい香水の匂いをあたり一杯に撒き散らして、毛皮のコートを羽織った依頼人・シャンリンは真っ赤な唇を尖らす。
「ねぇ、はやく荷物もってよぉう。早くジャパンに行きたいんだからぁ♪」
 うきうきるんるん。
 そんな擬音が聞こえてきそうなぐらいハイテンションな依頼人は、冒険者達にさくさくと命令してくる。
 目の前には文字通り山のような荷物。
 シャンリンの家の使用人たちが一生懸命馬車に積んでいるが、まだ×2ある。
「ああ、もう、持てと言うのなら何でも持つとも」
 鷹屋 千史(ea5819)が馬車に詰め込めなさそうな荷物を愛馬・和葉の背に乗せはじめる。
 このケバくて馬鹿っぽいシャンリンお嬢様。
 雇った冒険者の馬や荷物も一緒にジャパンまで無料で運んでくれるというのだから太っ腹。
 お金を出すのはもちろん彼女の父親なのだろうが、丁度ジャパンへ里帰りしたかった鷹屋にとっては荷物持ちぐらいどうってことなかった。
「うへへ、しがないオレァも荷物もちするぜィ」
 力には自信のあるヘクトル・フィルス(eb2259)もすかさず手伝う。
 今日は愛用のハンマーはバックパックにしまってあるのだろう。
 木剣を腰にさして開いた両手を腕まくりして、軽々と荷物を運んでゆく。
「荷は分類して直に必要なものを取り出せるようにしておけばいいですね。衣装、下着、化粧品、香水、その他旅行道具の様な感じでです」
 シーン・イスパル(ea5510)はジプシーらしく旅行に慣れている。
 荷物を徒馬車に積み込むだけでなく、使いやすいように手際よく並べてゆく。
「ジャパンへの里帰りがタダでだなんて、ラッキー! 荷物持ちとか全然オーケー」
 思ったことがつい口をついて出ているとれすいくす 虎真(ea1322)はにこにこと団扇で扇ぎつつ、文句を言われない程度に軽めの荷物をいくつか持つ。
「‥‥悪ぃニュイ、匂い消しのハーブくれ。俺、ちぃとばかし人より鼻利くんであの香水は辛ぇわ‥‥」
 そんな中、依頼人に聞こえないように小声でヒサメ・アルナイル(ea9855)はニュイ・ブランシュ(ea5947)にこっそりと助けを求める。
 ヒサメの嗅覚は普段ならば毒や異変を感知し易く有り難いものだったが、数十メートル離れていても匂ってきそうなキツイ香水の香りの前では偏頭痛しか引き起こさない。
「了解。後で渡すよ。あと船酔止めのハーブでも準備しといてやるか」
 ぽりぽりぽり。
 いつも持ち歩いているお菓子袋からお菓子を食べつつ、サボるニュイ。
「ちょっとちょっとぉ! あんたたちも手伝いなさいよぅ」
 すかさず見つけてご機嫌斜めなお嬢様。
「ケバいねーちゃんの相手するのは面倒くさい‥‥」
「ぬあんですってぇ?!」
「まぁまぁ、そう怒らないで? あなたがあんまり綺麗だから照れてるのよ」
 ぷちっと切れそうなシャンリンをすかさずディアドラ・シュウェリーン(eb3536)が適当におだてだす。
(頭は切れなさそうだけど、まぁ見た目は悪くないし。ジャパンまで連れて行ってくれることを思えばラッキーだわ」)
 ディアドラが心の中でそんなことを思っているなどとは露ほども気づかずに、
「うふふっ、やっぱりそぅおもう〜? あたしもそうだと思ったわぁ♪」
 シャンリンは一気にご機嫌アップ☆
「‥‥可愛らしいお嬢さんですね」
 香椎 梓(eb3243)が感情のこもらない棒読みで言っても、
「そうでしょーぉう♪ あたしったら美人なのよぅ。うふっ☆
 でもあなたも中々に素敵じゃなーぁい? 黒髪は萌えるわぁ。サムライボーイだったら良かったのにぃ」
 と残念そうに唇を尖らす。
「ええ、わたしも残念です。あなたの様な女性なら、わたしが異性ならほうっておきませんでした」
 いけしゃあしゃあ。
 依頼人に好意をもたれるのが面倒で香椎は女装して来たというのに、そんなことはおくびにも出さずにシャンリンを褒めちぎる。
 もともと女性に間違われることの多い香椎がさらに女装しているのだから、依頼期間中は裸でも見られない限り男性とばれることはないだろう。
「貴方が雪の言っていた『ヒサメ兄様』ですのね。私はユキ・ヤツシロの叔母で八代樹と言いますの。あの子が酒場で色々とお世話になっていたそうで‥‥ありがとうございます」
 しぶしぶ手伝いだしたヒサメとニュイの二人に歩み寄り、八代 樹(eb2174)は頭を下げる。
 どうやら知り合いらしい。
「あらあら‥‥ずいぶん面白そうな娘ですのね」
 雇われた冒険者の大半が内心げんなりしている中で、唯一ユナ・クランティ(eb2898)だけはうふふっと嬉しそうに微笑む。
 相変わらず手で弄んでいるロープは何故か新品。
 やっぱり以前の依頼で好みじゃないおデブさんを縛り上げたのがよほど嫌だったのだろう。
「こんな食べ応えのありそうな‥‥ではなくて、躾甲斐のありそうな‥‥でもなくて、えーっと、もとい、面白そうな娘と15日間もずっ〜〜と一緒にいられるなんて‥‥うふふ」
 うっとり。
 ユナ以外はほぼ全員表面上依頼人だから仕方なくシャンリンを褒めているというのに、
「半月もあればきっといろいろな事が出来るでしょうし、今から楽しみです〜♪」
 するりとさり気なく腕を組んでみたりもする。
「うふふっ、あたしも楽しみよぉう♪ さあ、出発出発ぅ☆」
 ご機嫌なお嬢様と、やっとこさっとこ積み終えた荷物を確認して、いざ、ジャパンへGO!

 
●船はぐらぐら。匂いはくらくら。
 パリからジャパンへ行くには、イギリスの月道を使わなければならない。
 馬車と馬で、お嬢様の荷物を港へ運び、シャンリンお嬢様の自家用豪華客船で悠々と船旅を楽しむはずだったのだが。
「‥‥ぎもぢわるぅ〜ゐっ」
 げふっ。
 嫌な咳をして、甲板に座り込むシャンリン。
「あんた、大丈夫か?」
 鷹屋がその背をそっとさすってやる。
「‥‥やっぱりな。ほら、これでも飲め」
 予想通り船酔いを起こしたお嬢様に、ニュイがあらかじめ用意していた薬草を煎じて手渡す。
「う〜‥‥お薬なんてぎらいよぉう〜」
 いやいやと駄々っ子のように看板の手すりに捕まって泣き出すお嬢様。
「おまえ我が侭いってんじゃねーよ。ニュイの薬はマジで効くんだからとっとと飲んどけ。
 ‥‥あんたの香水のせいで他のやつらまで酔いかけてんだからこれ以上面倒増やすな」
 ニュイの作った匂い消しでシャンリンの香水に免疫の付いたヒサメが、苛立たしげに急かす。
 お嬢様が自分の香水の匂いで倒れるのはいわば自業自得だが、そのあまりに強烈な匂いに何人か既に船酔いで倒れていて、ヒサメが看病に当たっていたのだ。
「もうこんなの嫌っ。あたし、家にかえる〜っ!」
「ちょっとあんたっ?!」
 鷹屋が錯乱して手すりを乗り越えようとするお嬢様をとっさに抱きとめる。
 この凍りそうな寒さの海へ落ちたら、冒険者だって命が危ない。
「ばっ、おまっ、何考えてんだよっ?!」
 ヒサメとニュイも協力して、暴れるお嬢様を何とか手すりから引き離す。
「騒動が起こらない事を祈っていましたが、無駄でしたね。どれ、一つジャパンの小話でも聞かせて差し上げましょう」
 船酔いの気持ち悪さから気を逸らせようと、とれすいくすが団扇をパチンと鳴らし、ジャパンに古来から伝わる昔話を話しだす。
『昔々〜』から始まるその話は、美しい少女が竹から生まれ、豪奢な十二一重をまとって天の月へと帰ってゆくとか。
「ですから、ジャパンへ行けばシャンリンさんもその乙女が着ていたような美しい十二一重が手に入るんです。それをいまここで諦めてしまうのは実にもったいない話しじゃありませんか」
「うー‥‥着物はほしいわぁ。でもぅ、ほんとにぃ、あたし、だめっ」
 ぱたりっ。
 目を回してシャンリンは倒れ伏した。


●寝所はどっきどき?
「ういーっす。ちょっと失礼するぜィ?」
 ヘクトルが気を失ったお嬢様を担いで、女性用の寝室の扉をノックする。
「あら? ヘクトルさん、ここは男子禁制ですのよ‥‥って、まあっ♪」
 ちょっぴり船酔いして休んでいたユナは、扉の外に佇むヘクトルと、その肩に担がれたお嬢様をみてにんまり。
「彼女もやっぱり倒れたみたいね。んったく、こんなに凄い匂いでよくいままで持ってたわよ」
 やっぱりシャンリンの香水の香りで偏頭痛を起こしていたディアドラが頭を抑えてため息をつく。
「休んでっとこ悪ィ。お嬢も寝かせてくれるかィ?」
「もちろんですわ〜♪ ええ、ここは女性同士、私に任せてください♪ 皆さんもお疲れでしょうから、ここは私一人に任せてくださいな」
 るんるんるん♪
 船酔いも吹っ飛ばし、お嬢様を抱きしめてご機嫌なユナに、首を傾げるヘクトルとディアドラだった。 


●星空の夜
「風が出てきましたね」
 夜。
 星空を眺めに甲板へ出ていた八代は、長い黒髪をなびかせながら柳眉を顰める。
「天照大神様、どうか風雨を収めて下さいませ‥‥」
 まじないの言葉と共に、ウェザーコントロールで天候を回復させる。
 強まりだしていた風は止み、遠くのほうに雨雲が消え去ってゆく。
 これで、この船が嵐に見舞われることはないだろう。
「八代もまだ起きていたのか?」
 ニュイが眠たそうに目を擦りながら甲板に上がってくる。
 いままでずっと、酔い止めの薬を調合していたのだ。
「ええ。星を見たかったんです」
 二人、見上げる空には満天の星。
 冬の冷たく澄んだ空気が、星の輝きをより一層きらめかせる。
「ジャパン、楽しみだな」
「私は3年ぶりの帰郷ですわねぇ、一時帰省はありましたけど。‥‥姪の雪は別の依頼でお友達と一緒にジャパンに行くと言っていたし、あの子にジャパンの名所を色々と見せてあげるのが今から楽しみね」
「お菓子はどんなのがあるんだ?」
 愛用のお菓子袋からお菓子を八代に手渡しつつ、まだ見ぬ土地・ジャパンへの興味はその一点のみなニュイ。
 八代はくすくすと微笑んだ。


●退屈はいらないの☆
「何か余興で占いましょうか?」
 すっかり酔いも回復して元気になったシャンリンに、エジプトの衣装を纏ったシーンが神秘のタロットを見せる。
「うっわー。あなた気が利くじゃなぁーい。あたし、占い大好きよぉう♪」
「恋話とか好きそうよね。あなた恋愛関係占える?」
「もちろんよ」
 ディアドラとシャンリンの前で、器用にタロットを切り、シーンは舞うような仕草で占う。
「うん。恋愛運は中々にいいわね。新しい出会いが暗示されているの。近日中に素敵な出会いがあるんじゃないかしら?
 それと、あなたは金運が一番いいわね」
「きゃー♪ 近日中に素敵な出会いがあるのぉう? やっぱりあたしの運命の恋人はジャパンのサムライボーイなのねぇん♪」
 誰もそこまでは言っていないのだが。
「ねえ、私はどう? 恋愛に不自由したことはないけれど、気になるわ」
「あなたはそうね‥‥全体運はかなりいいわ。男運もいいわね。お金も、どこからか貢がれるんじゃないかしら?
 ただ、少し苦労の影がみえるわ。たぶん言葉の壁ね」
「なるほど。ジャパン語の習得はそう易々とはいかないってわけ? これは気を引き締めて覚えなくっちゃね。いい男の為にも」
 小悪魔的な笑みを浮かべて、ディアドラは男性陣にウィンク。
「美しいお嬢さんの頼みなら、ジャパン語の講師ぐらい喜んでお受けします。どうです? 今宵一晩‥‥うわっと!」
 どべちゃっ。
 格好良くナンパな台詞を吐いてみようとしたのが運の付き?
 とれすいくすは何もないところでものの見事にすっ転んだ。


●まだ見ぬジャパンはきっと素敵☆
「お嬢さん、陸地が見えてまいりましたよ」
 香椎が船の揺れによろけるお嬢様に手を差し伸べる。
「これがジャパン〜? 結構近いじゃなぁい♪」
「いえ、ここはまだイギリスですよ。ここから、月道を使ってジャパンへ渡るんです」
「なぁんだ。つまんなーぁい」
 ぷうっ。
 膨れるお嬢様に、
(「相手を一人前の大人だと思ってしまっては駄目なんです。赤子か言葉の通じない動物だと思って、かわいがればいいだけのことです」)
 香椎は理性を総動員して、にっこりと微笑んで詫びる。
「これはこれは、紛らわしい発言、失礼致しました。
 ですがイギリスも、ジャパンとはまた違った趣があるのですよ。美しいお嬢さんにぴったりの香水もございますよ」
「あらほんと? じゃあ買ってかなくっちゃね♪」
 船はゆっくりと、港についてゆく。

 
「お嬢様、ぜひこのバックパックを背負うと素敵ですわよ〜?」
 船が港に着くちょっと前に。
 ユナがすすすーっとシャンリンに近づき、さりげなーく自分のバックパックを背負わせる。
「ちょ、ちょっと?」
「イギリスでは、美女は背中に荷物を背負うものですのよ。ご存知ありませんの〜? 
 ほら、みーんな荷物を背負っているじゃありませんか。
 背負っていませんと、非常識な不細工とみなされますわよ〜?」
 魅力的な女性陣を指さして言い切るユナ。
 いや、みんなは自分の荷物を持っているだけなんだけども。
「あたしは不細工じゃないわよぉう。この荷物、持ってみせるんだからぁ!」
 ぐぐっ。
 拳を握り締め、持たなくていいユナの荷物を必死に背負ってシャンリンは歩き出す。
「ああいう娘が、普段やらないような慣れない事を汗をかいて息を切らしながら一生懸命がんばる姿って、見ていてうっとりしますよね‥‥」
 お嬢様のそんな姿がみたい為だけに、無駄に重い荷物をバックパックに強引につめておいたユナはこの依頼で何度目かの秘密笑いを浮かべる。
「考えてみたら月道が開くのが15日なんで、グ〜〜〜〜〜すか寝てすごしますかィ」
 ヘクトルが船旅に疲れた身体をこきこきと鳴らす。
「船の料理もおいしかったけど、きっと宿でも豪華よね。楽しみだわ。キャメロットの名物料理とか、いろいろと調べておいたのよ」
「ジャパンのお菓子よりも先に、キャメロットのお菓子を食い尽くすべきだな」
 口々にキャメロットやジャパンへの思いを呟きつつ。
 冒険者達は豪華な宿を取り、月道が開くまでの間ゆっくりとキャメロットで過ごすのだろう。
 
 そうして。
 来るべき15日。
 ジャパンへの月道が開くその日は、遊びつくした冒険者達とお嬢様が危うく寝坊しかけるというハプニングはあったものの、無事に手続きを終え、ジャパンへ。
 輝く月の道を通って、ジャパンの地に降り立ち。
 今回の依頼を無事に終えたのだった。