●リプレイ本文
●強烈な香りはシャンリン
強烈な香水の匂いを撒き散らして、依頼人登場☆
「モンスターちょーだぁい♪」
どーやっても頭の足りなさそうな口調で、集まった冒険者達にいろいろな意味で偏頭痛を起こさせるのもきっとデフォ。
「なんだか‥‥凄い匂いの方ですね‥‥。頭がくらくらします‥‥」
柳花蓮(eb0084)はシャンリンの凄まじい匂いに早くも眩暈。
「依頼人‥‥シャンリン、か。確実にバカだな」
彼女がジャパン語が理解できないのを良いことに、アシュレイ・カーティス(eb3867)はさくっと事実を呟く。
「モンスターをペットにねぇ‥‥変わったお嬢さんだね。ルーロじーちゃんとヴァルテルっち、通訳お願いだよ」
羽鳥助(ea8078)はくりくりとした茶色い瞳で一日だけ来てもらったヴァルテルとルーロに可愛くお願い☆
「珍しくて可愛い生き物を捕まえればいいのよね。ジャパンにはすねこすりって言う生き物がいるって言うじゃない。それを捕まえましょう」
紅流(ea9103)は自慢の長く艶やかな黒髪を弄りながら提案する。
「というか、私がシャンリンさんを飼いたいです」
きぱっ。
にこにこと微笑みながらもなにやら危険なことを言い切るのはユナ・クランティ(eb2898)
いくら見た目が可愛くともシャンリンは生粋のバカ‥‥じゃなくってお嬢様。
こんな娘を飼った日には一日で数千単位のゴールドが吹っ飛びますって。
「珍しいかはともかく、可愛いモンスターという事で、すねこすりはわたしも良いと思います」
紅の提案に八代樹(eb2174)も頷く。
どうやらすねこすりはジャパンではその愛らしさには定評があるようだ。
「何でもいいわぁ。早くとってきてちょーだぁい。ってゆーか命令?」
「ふへ? め、命令ですか!! そ、それじゃあ仕方ないですねぇ‥‥見つけてみましょう」
ぷうっとほっぺたを膨らませて真っ赤な唇を尖らすシャンリンに、ヴァルトルート・ドール(eb3891)はちょっぴりおろおろ。
その首にはマフラー代わりにペットの蛇・グリューンを巻きつけていたり。
いや、むしろ寒さに弱いグリューンが巻き付いているといったほうが正しいかもしれない。
時々締まり具合を確かめないと命があぶないっぽく。
「すねこすりってぇ、どーんなモンスターなのぉう?」
「なんでも、こうなって、こうなるらしいです」
ヴァルトルートはもう一匹のペット、子猫のヴィーをそっと自分のすねに当て、コロンと転んでみせる。
「よくわかんなぁい。とにかく捕まえてよぉう」
自分で聞いておきながら我がまま炸裂なお嬢様に、ヴァルトルートはたじたじ。
「仲睦マジイデスネ」
そんなヴァルトルートを理瞳(eb2488)はまばたきをしない特徴的な瞳で見つめる。
瞳だけでなく口調もどこか不思議だ。
「あはっ、あはは‥‥と、とにかく捕まえに行きましょう」
ヴァルトルートはなんと答えてよいものか迷いつつ、笑ってごまかす。
「ふ〜む、漸くジャパン語をしゃべれるようになったので一仕事。うむ。いくぞ、ねこまる!」
「可愛いモンスターさんをゲットですよぉ♪」
グリフォンの背に乗りノリノリのフィーネ・オレアリス(eb3529)と、まだまだ幼い愛猫のねこまるを抱っこしてシターレ・オレアリス(eb3933)はパイプをふかす。
さあ、モンスターを捕まえに行こう☆
●作戦会議☆
とりあえず(邪魔な)依頼人と別れ、作戦会議を始める冒険者達。
「すねこすリン♪ の生息地ですね。この『お雪ちゃんのわくわく動物日記』によりますと‥‥」
ぺらぺらと日記をめくり志乃守 乱雪がすねこすりの生息地を探そうとする。
「富士の青木ヶ原の樹海です」
おいおいおい。
「我々ヲ殺スキデスカ」
志乃守の首筋にそっと包帯を巻いた手を理は添える。
その指先には毒を染み込ませてあるとかなんとか。
「そこ以外にも、この近くにも生息しているそうです」
理の邪毒手が志乃守に炸裂するより早く、八代がサンワードで自分たちが居る場所から一番近い場所に居るすねこすりを探し当てる。
それによると、江戸の街にも生息しているようだ。
「命拾イシタデスネ」
無表情に志乃守の首から理は手を外す。
志乃守と理、どちらが命拾いをしたのかはいうまでもないだろう。
「すねこすりを捕まえる班と動物を捕まえる班とに別れましょう‥‥。
モンスターとはそもそも人間に害を与えるからそう呼ばれるのであって‥‥害を成す位だから‥‥普通に飼えるとも思えません‥‥。
動物を欧州から来たお嬢様ならジャパン特有の一般獣も十分モンスターレベルでは‥‥?」
「‥‥うむ。モンスターでなくても全然OKだろう。愛らしければ」
柳に頷くアシュレイは、「バカな依頼人にはバレない」と言い切る。
「私もそう思います。シャンリンさんなら、モンスターでなくて普通の動物であってもいくらでも誤魔化せるでしょうし、猟師さんとかにお話を聞いて、動物のたくさんいる自然の豊かな場所を探してみたいです」
シャンリンと共に数日間同じ船室で過ごし、ノルマンからジャパンへ渡ってきたユナは依頼人のことをよくわかっている。
「俺が捕まえるのは狸だねっ。おなかぷくぷくで可愛いと思うんだよ」
ぷにっ☆
ほっぺたぷにぷにしてそうな愛らしい羽鳥はぱちんとウィンク☆
「決まりね。私と八代さん、それに理さんとフィーネさんヴァルトルートさんはすねこすり。
羽鳥さんと柳さん、ユナさんとアシュレイさん、シターレさんはすねこすりが捕まえられなかったときの為に普通の動物を捕獲するってことでいいかしら?」
「うむ、異存ないですぞ」
「だな」
紅の班分けに皆頷き、それぞれ捕獲場所に向かおうとする面々を、
「‥‥あのう‥‥私にも一匹‥‥」
志乃守が遠慮がちに引き止める。
「聞キタイコトハ聞キマシタ。帰ッテイイデスヨ」
理が『お前はもう用済みだ』といわんばかりにきっぱりと言い切っておねだり却下。
哀れ志乃守は理の瞬きしない瞳に見つめられさながら蛇に睨まれた蛙。
「‥‥それでは行ってらっしゃい」
額に冷や汗を浮かべ、辛うじてそう答えるのがやっとだった。
●森の中は動物がいっぱい☆
まだ残る雪に覆われた森の中を、五人は可愛い動物を目指して探し回る。
「ねこまるとこの辺で遊んでみてもいいじゃろうか?」
シターレがねこまるを抱っこして尋ねる。
その手には不思議なマタタビが握られていたり。
シターレはそのマタタビでねこまると親睦を深めつつ、匂いにつられてやってきた動物を捕獲しようという作戦なのだ。
「いいんじゃないか? 一応既に一匹は捕まえてあるし。香水と違ってマタタビなら動物も喜びそうだ」
そうゆうアシュレイの手元には黄色くてちっこくてふわふわとしたヒヨコ。
この森に来る前に街であらかじめ鶏を飼っている農夫に一匹分けてもらったのだ。
「チキンとして口にしているかもしれないが、その元の姿の鶏なんて見たことはなさそうだし、さらに鶏のヒナ時代など、バカにはきっとわからぬだろう。
ヒヨコは愛らしい。将来、トサカが生えるなど、バカには想像もつかぬだろうな」
バカを二連発で言い切り、アシュレイのシャンリンへのペットはヒヨコに決定したのだ。
本当は不如帰――ホトトギスも魅力的だったのだが、残念ながらこの森では見かけられなかった。
たぶん時期が良くないのだろう。
「へへっ。俺のほうも準備完了だよ♪」
羽鳥が真っ白い愛馬の鳴風の背にのってご機嫌。
ここから少し奥に狩猟用罠を雪で隠してその上に保存食を巻いた罠を仕掛けてきたのだ。
ちなみに小動物が傷付かないように罠にくるくると布を巻いてあったりする。
ぱちんと足などを挟んでも、これなら怪我はしないだろう。
単純な仕掛けだが、小動物には効果がありそうだった。
「生き物の卵とかは見つからないですね‥‥」
動物を探すついでに自分用の卵も探していたユナが残念そうに呟く。
流石に真冬の森の中に卵は無理なようだ。
もしあったとしてもシャンリンと違ってその辺のどうでもいい卵ではユナのお眼鏡には適わないだろう。
「あれは‥‥兎でしょうか?」
柳が雪の中をぴょこぴょこと近づいてくる生き物を小声で指差す。
羽鳥のまいた保存食の匂いにつられたのか、それともねこまると幸せそうに戯れるシターレのマタタビにつられたのか。
理由はわからないが真っ白い兎がお鼻をぴくぴくとさせながら近づいてくる。
「‥‥シャドウバインディング」
程よく近づいてきたところを、柳がスクロールに念じて呪文を唱える。
足元の影に囚われて急に身動き取れなくなった兎は、不安そうに鳴く。
「怯えなくとも大丈夫‥‥」
そっと抱き上げて、安心させるようにその背を撫でてやる。
一匹、また一匹。
動物捕獲班は小動物を捕獲してゆく。
●すねこすり班はどうだろう?
動物捕獲班が順調に動物を捕獲し終えた頃。
そろそろ暗くなり出した江戸の片隅を練り歩く三人。
「なかなか見当たらないのです〜」
グリフォンで上空からすねこすりを探していたフィーネが舞い降りてくる。
「夜道を尋ねて歩き回れば、足に纏わりついてくるらしいんだけどねえ」
予め冒険者ギルドにてすねこすり関係の報告書に目を通していた紅が腕を組んで溜息をつく。
先ほどから昼間調べた八代のサンワードの方角を訪れ、何度もその辺りをうろうろとしているのだが、なかなか現れない。
紅はラーンの投網――魔法的効果は水中にのみ生息するアニマルにしか効果を発揮しないのだが、網に絡まれば普通に動きが鈍るだろう――を肩にかけ、いつでも捕獲準備OKだというのに。
「これはもう、理さんに期待するしかないでしょうか?」
皆とは別行動を取り、期日までには戻ると言い残していった理をヴァルトルートは思い浮かべる。
と、その時。
「きゃっ?!」
ヴァルトルートの脛に、ふわんと柔らかくて暖かい何かがまとわりついた。
するりん、するりん♪
よろけるヴァルトルートの脛になおもまとわり付き、ついにヴァルトルートは耐え切れずにすっ転ぶ。
慌てて立ち上がろうとする彼女は、けれどもまとわりつくそれに邪魔されて、立ち上がることができない。
「すねこすりよ!」
「ええっ、これがですか?」
「つかまえるです〜っ」
「まさしく一網打尽!」
紅がラーンの投網をとっさに投げる。
するりん♪
けれど以外に素早くすねこすりは身をかわす。
代わりに引っかかったのはフィーネとそのペット。
「あんまりです〜。私とグリちゃんはすねこすりじゃないですよぉ」
「悪かったわね。中々取れないわね‥‥きゃっ!」
フィーネに絡まったラーンの投網を取ろうとする紅に、新たなすねこすりが現れて脛にまとわりつく!
すってんと転んだ紅に再びすねこすりがまとまりつこうとしたその瞬間、
「えいっ」
八代が外套を被せて逃げられないように捕獲!
じたばたと暴れるすねこすりの顔だけを外套から出して抱き上げる八代。
「こ、これがすねこすり? か、可愛いじゃない‥‥」
ぱんぱんと服についた汚れを払いつつ、紅はすねこすりを見てほほを緩ます。
すねこすりは真っ白でもふもふとしていて、噂どおり愛らしかった。
●エピローグ〜可愛いペット盛りだくさん☆
さてさて依頼最終日。
シャンリンの長期滞在している宿に集まった冒険者達。
「わぁお。かわいいじゃなぁい♪」
シャンリンは冒険者達に集められた沢山の動物達を見て感嘆の声を上げる。
冒険者達は見事シャンリンの望みを叶えるべく、数種類の動物を手に入れてきたのだ。
「ええーとだな、これは狸と言って、もののけの素だったりする。これが長生きするともののけになるんだ♪
愛嬌のある顔だろ? このもこもこしたお腹辺りなんてお嬢さんそっくりだしさ〜♪ あ、この辺誰も通訳するなよ」
冬眠していた狸を森の中の洞穴で運よく見つけて、それを抱っこしてきた羽鳥は自慢げにシャンリンに説明する。
でも、「あ、この辺誰も通訳するなよ」の言葉よりも早くシャンリンには伝わってしまったようだ。
「なによう、あたしが太ってるっていいたいのぉう?」
ぷくっ。
今日も今日とて赤い唇を膨らましてご機嫌斜め。
でもぽこぽこ狸のおなかをもふもふと触っている辺り、本気で怒ってはいないようだ。
「こちらは兎といいます。非常に大人しくて、臆病な動物‥‥モンスターですが、人懐っこくて飼い易いですよ‥‥」
そういいながら柳に抱かれた兎は、シャンリンのあまりの香水臭さに震えている。
そして次々と集められた動物の説明を終え、いよいよメインディッシュ、すねこすり!
「お望みのもの、持ってきたわ、どう? 可愛いでしょ?」
八代の抱くすねこすりをちょんっとつついて嬉しそうに笑う紅。
「こちらがすねこすりです」
真っ白くてふわふわのねこそっくりなそれは、八代の腕の中からするんと飛び降りて、シャンリンの足にまとわりつく。
「ちょっ、なっ、ええっ?!」
慌てるシャンリンはやっぱり耐え切れすにすってん♪
ものの見事にしりもちをついた。
「ちょっとちょっと、これなんなのよぉう! ばかあっ
きいっとヒステリーを起こして、シャンリンはその辺りの小道具を握って冒険者達に投げつける。
「シャンリンさん、私に捕まってください。女同士ですから恥ずかしがることはありませんわ〜」
そんな彼女を嬉々としてユナが抱き起こす。
その瞬間、
パタン。
戸口が開いた。
「理さん? いままでどこに‥‥」
依頼期間中、ずっと姿を見せなかった理が戸口に立っていた。
その表情は無表情であるものの、土気色。
夢遊病者のような足取りでふらふらと部屋の中に進んできた理は、駆け寄るヴァルトルートの目の前で倒れ伏す。
「一体何が‥‥きゃっ?!」
皆が理に駆け寄るより早く、その袖から白いものが一斉に飛び出してきた。
するん、するん♪
慌てる皆にまとわりつくそれは、そう、すねこすり。
理は依頼期間を精一杯利用して大量のすねこすりを根性で見つけてきたのだ。
しかし人々を恍惚の頂へと導くすねこすりのもふもふ感は、負の存在である彼女にとっては致命的な感覚。
それを大量に懐に入れていたことによって、理ははっきりきっぱり死ぬ寸前。
「誰ガ負ノ存在デスカ」
あ、やっぱり前言撤回。彼女は殺しても死なないでしょう。
ナレーションに突っ込み入れれるぐらいだから。
「うわー、もふもふですー、でもたおれるですぅ」
「もふもふもふもふ‥‥もふもふ‥‥もふもふもふっ」
「可愛いーけど、きゃーっ」
「うむ、なかなかに見事な技だな。立っていることができん」
「バカじゃない俺がなぜ倒れるんだっ」
「シャンリンさん、もっとしっかり私に捕まってください〜♪」
「やっぱり、予想通りになってしまいましたです」
大量のすねこすりに翻弄されつつその可愛さに癒されつつ、無事に(?)今回の依頼を終えたのだった。