鳩仲さん家のお母さま

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 55 C

参加人数:10人

サポート参加人数:8人

冒険期間:02月23日〜03月05日

リプレイ公開日:2006年03月04日

●オープニング

「あたしゃもう、長くはないよ‥‥」
 ノルマンから急ぎ戻ってきた鳩仲清三郎の手を握り、母・君子は弱音を吐く。
「母さん、馬鹿を言っちゃいけない。あなたはまだまだ長生きできますよ」
 病で痩せ細り、床から立ち上がることも出来なくなった老いた母を清三郎は抱きしめる。
 その頬を、涙が伝った。


「薬‥‥ですか‥‥?」
 冒険者ギルドの受付で、気弱な受付係は首を傾げる。
「えぇ、江戸からそう遠くない伊豆にはパラ達の作るよく効く薬があるのだ。温泉を加工して作っている滋養強壮の薬が」
 確かに伊豆にはパラが多く住み、その手先の器用さから滋養強壮の薬を作り出している。
 この江戸にも扱っているお店があったはずだ。
 確かそう、鳩仲薬問屋。
「それなら‥‥江戸の町でも手に入りますよ‥‥? 鳩仲薬問屋にいけば‥‥手に入るはずです‥‥」
「いや、わたしがその鳩仲家の三男でしてね。いつもなら兄が買い付けに行っていたのですが、道中にモンスターが現れたらしいのです」
 詳しい地図を描こうとする受付嬢をさえぎり、鳩仲清三郎は事情を話す。
「火を纏った鼠に襲われたとかで、兄は火傷を負っていました‥‥」
 ノルマンにいた時、母が病で倒れたと聞き、兄たちは何をしていたのかと思ったが、モンスター相手では太刀打ちできなかったのも頷ける。
「ですから、伊豆へ行き、薬を買い付けてきて欲しいのです。もしもモンスターが出るなら、それも退治していただきたい。‥‥一日も早く、薬が必要なのです。お願いいたします」
 深く頭を下げる清三郎に、受付係は急ぎ、依頼書を作成するのだった。

 

●今回の参加者

 ea8685 流道 凛(36歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9033 アナスタシア・ホワイトスノウ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb0559 早河 恩(32歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 eb0764 サントス・ティラナ(65歳・♂・ジプシー・パラ・イスパニア王国)
 eb0888 マリス・メア・シュタイン(21歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0976 花東沖 槐珠(40歳・♀・僧侶・人間・華仙教大国)
 eb2581 アリエラ・ブライト(34歳・♀・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 eb3773 鬼切 七十郎(43歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb3843 月下 真鶴(31歳・♀・侍・人間・ジャパン)
 eb4012 緋 翼焔(35歳・♂・ファイター・シフール・華仙教大国)

●サポート参加者

ミケイト・ニシーネ(ea0508)/ リーゼ・ヴォルケイトス(ea2175)/ レミナ・エスマール(ea4090)/ ジュディス・ティラナ(ea4475)/ 霧島 小夜(ea8703)/ ツグリフォン・パークェスト(eb0578)/ 月下 樹(eb0807)/ 陽 小娘(eb2975

●リプレイ本文

●脛に傷あり? なーんか怪しい!
「伊豆ですか、長旅になりそうですねぇ」
 さわさわと竹薮が風に揺らいで心地よい音を響かせる依頼人の鳩仲家で、流道凛(ea8685)はおっとりと呟く。
「凛さん、食材を買ってまいりましたです」
 凛からお金をもらい、旬の食材を買い込んで来たレミナ・エスマールが駆け寄ってくる。
「まあ、随分多く買えましたのねぇ。それにとても美味しそうです。ありがとうございます」
 小さいながらも商家の彼女が選んだ食材はどれも新鮮。
 人数分よりも多めなそれに流道は微笑む。
 これなら、道中の食事はとても豪華に出来そうだ。
「大丈夫です。貴方様は絶対に助かります。気を強く持つと良いでしょう」
 アナスタシア・ホワイトスノウ(ea9033)は病床の依頼人の母・君子の手を握り、励ます。
 同じ子を持つ親同士、通じ合うものがあるのだろう。
「火鼠の被害に遭った鳩仲さんのお兄さんの火傷の様子が心配だけど、お話出来る状態ならどんなのだったのかを聞きたいな」
 君子にいち早く薬を届ける為にも、敵の事を良く知ろうと早河恩(eb0559)が尋ねる。
 依頼人の兄・清次は伊豆でパラ達の作る滋養強壮の薬を買い付けに行く途中、火鼠に襲われ大火傷を負ったらしいのだ。
「うむ、わしもそれを知りたいのだ。いつも買い付けに行く道中や、どの辺りで出会ったのかを聞ければ対策も立てやすいであろう」
 華国出身の緋翼焔(eb4012)の言葉を、花東沖槐珠(eb0976)が訳す。
 シフール通訳を雇う予定だったのだが、たまたま同じ依頼を受けた花東沖が華国出身であった為、ジャパン語の話せない緋翼の通訳を買って出たのだ。
「んー‥‥火鼠は噂によると、どうやら精霊に近いものみたいなんだけど‥‥実際如何なのかしら‥‥?」
 多くのスクロールを所持し、ケンブリッジ魔法学校の生徒でもあるマリス・メア・シュタイン(eb0888)は自分の知識と照らし合わせながら今回の件を考える。
 あんまり攻撃的だという話は聞かないのだが、なぜに依頼人の兄は襲われてしまったのだろう?
「兄は、別室で休んでおります。傷は大分癒え、話をする程度ならば支障はないでしょう」
 そう言って、依頼人に案内された別室には白豚‥‥もとい、包帯でぐるぐるに巻かれたおっちゃんがぶよよんと寝そべっていた。
「あ、あの、この方がお兄さんなのです〜?」
 どちらかと言えば精悍な顔立ちの依頼人とは似ても似つかないその姿に、アリエラ・ブライト(eb2581)は思わず確認してしまう。
 いや、確認せずとも真実はわかっているのだけれども。
「おお、冒険者達か。とっととあんの小憎らしい火鼠どもをやっつけてくれぃ!」
 冒険者達の姿を見て、清次は欲のつっぱってそうな頬を震わせ甲高い声をあげる。
「なんだか元気そうだね」
 月下真鶴(eb3843)はちょっぴり気後れ。
 元気なのは良いことなんだけれども、元気すぎるというかなんと言うか、包帯がコメディ。
「お兄様に、お聞きしたいことが御座います。清次様にその様な酷い怪我を負わせた火鼠達は、いかようにして襲っていらしたのでしょうか?」
 はっきりきっぱり、引き気味の冒険者の中で、花東沖は落ち着き払って尋ねる。 
「む? あんの馬鹿鼠の話なんぞしたくないぞぃ。俺にこんな怪我を負わせやがって。俺は、なーんにもしてないんだぞ、本当だぞ!」
 誰も聞いてないのに、清次は『何もしていない』をやたら強調する。
「セニョール鳩中は兄にラブラブなのでアルね♪ ミーとジュディスはシャオニャンにラブラブなのでアル♪
 そしてラブラブなミーのジュディスが火鼠について調べてきたアルよ。
 それによれば火鼠は何もしなければ襲ってこない温和な生き物アルね。ユーは何か心当たりないアルか?」
 怪しすぎる外来語を多用するサントス・ティラナ(eb0764)はパタパタと扇を扇ぐ。
「お、俺はっ、何にもしてないって言ってるだろーがっ! お前らはとっとと奴らを退治してくればいいんだ。ふんっ!」
 激しく動揺して布団に潜り込む清次。
 顔を見合わせる冒険者達。
 怪しい。
 怪しすぎる。
 火鼠の皮は売れば一財産になるほど珍しい高級品。
 一匹でも捕まえることが出来れば相当なものだ。
 けれど完全に不貞腐れた清次は冒険者の問いにもうこれ以上答えることはなく、清三郎に詫びられながら伊豆へと出発するのだった。


●急いで急いで、でも美味しいものも食べちゃおう☆
 さて、伊豆へとてくてく歩く道中。
 清次からはろくろく情報を得ることが出来なかったが、冒険者達とそしてその友人達の聞き込みやら知識やらで火鼠の出没地域と大体の性質はわかりつつあった。
「皆様、僭越ながらお食事など作らせて頂きましたので‥‥これで精をつけてださいませ。わたくしはこんなことくらいしか出来ませんから‥‥」
「おさんどんは得意なんです」
「お味噌汁は私が作ったんだよ」
 花東沖と流道、そして恩のお料理上手な三人がまったりゆったり食事を用意する。
「腹ごしらえは大事だな。火鼠ってのも美味いのかなぁ」
 三人の美女の手料理を味わいつつ、鬼切七十郎(eb3773)がさくっととんでもない事を呟いた。
「精霊さんなら普通の動物や魔物さんとは違うよね。結構可愛いいそうだし、食べちゃ駄目だよ」
 身体の温まる手料理をはふはふしつつ、恩が笑う。
「火鼠は噂によれば会話ができるようですから、出来ればむやみな殺生は慎みたいものです」
「でも、鳩仲さんのお母さんの容態を考えると、とにかく薬を買い付けて一刻も早く戻る事を最優先に考えた方が良いわね」
 遭遇したらテレパシーで話しかけてみるけれど、とマリスは青と赤のオッドアイを瞬く。
「火を纏った鼠か‥‥戦うとなったらその纏った火に気をつけないとね」
 従兄から今回の依頼の為に譲ってもらったフレイムシールドを抱きしめて、月下は気を引き締める。
「火傷した時のために、塗り薬を持って来たアルね♪ どんな大火傷もぜんぜんOKアルよ♪」
 そんな月下の背を豪快に叩き、サントスは空を見上げて風を読む。
 口調はとにかく怪しくともサントスは旅慣れたジプシー。
 備えはばっちりだ。
 そしてそんな風にくつろぎつつも急ぐ冒険者達の前に、ついに火鼠が姿を現すのだった。


●火鼠出現! 戦闘? でも殺しちゃ駄目!!
 暖かい食事を終え、旅路を急ぐ冒険者達がそろそろ伊豆へ着こうという頃。
「あれ? なんか気温が上がったです〜?」
 そろそろ春が訪れるとはいってもまだまだ寒い日が続く中、急にぽかぽかと暖かくなってきた気温にアリエラは首を傾げる。
「みんな、火鼠が現れたようだ!!」
 上空から周囲を警戒していた緋が舞い降りてくる。
 そしてその声に呼応するかのように、目の前の地面が爆ぜた。
「ファイヤーボムっ? 一体どこからなのかなっ」
「きゃあっ?!」
「一体全体何アルか〜?!」
 慌てふためく冒険者の前方で、炎を纏った火鼠は鋭い眼光を向ける。
「いまの、あの子がやったの?!」
「会話の余地は無いようだなっ」
 鬼切がいち早く体勢を立て直し、火鼠に切りかかる!
 けれど火鼠はその素早い動きで一撃をかわし、
「うおっ?!」
 再びファイヤーボムを炸裂させる。 
「ライトニングトラップ‥‥は無理そうですわね、ならばこちらはどうでしょうか?」
 アナスタシアが印を結び、襲い来る火鼠に向けてライトニングサンダーボルトを炸裂させる。
 けれどたまたま岩陰に隠れた火鼠はその攻撃を運よく避け、岩が粉々に砕け散る。
「お願い、みんな待ってよ! 火鼠の様子がおかしいわっ」
 火鼠が現れた瞬間からテレパシーで交流を試みていたマリスが叫ぶ。
「どうゆうことですか?」
「恐怖で一杯みたいなの。『死にたくない、怖い』って言い続けてるのよ!」
「私たちだって殺したいわけではないのですよ〜? でも攻撃してくるのです〜っ」
 月下にオーラパワーを付与してもらったシルバーアローで火鼠を牽制しつつ、アリエラが火鼠の炎から身をかわす。
「恐怖で一杯で、こっちの声が聞こえてないってことなのかな?」
 そして月下はみんなを庇うようにフレイムシールドを構えて火鼠に向かい合う。
「ねず公なんぞを説得した所で時間の無駄じゃ! こんなことしとる間にも鳩仲さんのおばばの容態は悪くなるんじゃぁ」
「でもわたくし達の目的は火鼠の退治ではございません。鳩仲様に少しでも早くお薬をお届けすることです」
 火鼠から距離をとりつつ、戦闘の構えを解かない鬼切を、流道がなだめる。
「お母様のご容態は、今のところ安定しているそうです。事情があるならお聞きして、今後もこの道を無事に通してもらえる様交渉する価値はあると思います」
 シフール便を用い、道中ちょこちょこと鳩仲家と連絡を取り合っていた花東沖は、鬼切の火傷を癒しながら説得に同意する。
 けれどその間にも、火鼠は威嚇するかのように炎を飛ばして来ている。
 交渉など出来るのだろうか?
「ミーに任せるアルよ♪ みんな目を瞑るヨロし!」
 サントスが一歩前に出て、呪文発動!
 瞬間、サントスの身体がまばゆく光り輝き、火鼠の視力を奪い去った。
 目を眩まされ、慌てふためく火鼠にマリスが駆け寄りテレパシーで話しかける。
『お願い、聞いて。私達は何もしないわ。ここを通して欲しいだけなのよ。どうして襲ってくるのかしら?』
 息を呑む冒険者達の心に、火鼠の声が響く。
『人間、怖い。殺される!』
「わし達は何もしないんだ。こんな小さい身体のわしなんぞお前に食われるのがおちじゃないか?」
 シフールの緋は火鼠と大きさが大差ない。
 視力が戻り始め、じっと冒険者達を見回す火鼠は、やっと落ち着いてきたようだ。
『‥‥俺、人に襲われた。太った奴。怖かったんだ』
 ポツリと呟くように囁く声と、伝えられたイメージ。
 襲われたときの様子が冒険者の心に流れ込む。
「これって、清次さんです〜?」
「そのようですね。まったく、何もしていないなんて嘘言って!」
 火鼠から伝えられたイメージは、あの大きな身体で小さな火鼠を必死に捕まえようとする清次の姿。
 いきなり襲われたどころか襲っているのは間違いなく清次のほう。
 冒険者達の間に溜息が漏れた。


●パラの秘薬
「オゥ、マイ、アミィ〜ゴ♪ ミーは江戸から来たのでアルね♪ スパで作ったドラッグが気になるアルね♪」
 パタパタと扇子を扇いで、サントスはやっぱり怪しい言葉遣いで伊豆のパラたちに挨拶をする。
「良くきてくれたねっ。はい、お薬♪」 
 でも伊豆のパラたちは疑うということを知らないのかなんだかのほほん。
 怪しすぎる彼ににこにことお薬を手渡してくる。
「鳩仲家のお使いで参りましたです。いつも購入させて頂いているいるお薬はこちらでしょうか?」
 流道の質問にも元気に頷き、
「シフール便が届いてるんだよ♪ ママが大変なんだってね? 馬車も用意して荷物も積んでおいたから、それを使ってね♪」
 二台の馬車を指差す。
「なるほど、鳩仲さんが既にご連絡を入れておいてくださったのですね」
 納得し、荷物を確認して馬車に乗り込む冒険者達。
 はっきりきっぱり温泉でゆっくりした気持ちもあったけれど、一日でも早くお薬を届けてあげるため、一路江戸へと馬車を走らせた。
    

●エピローグ〜お礼とスクロール☆
「あれ、アナスタシアさん、それってもしかして‥‥」
「ええ、スクロールです。ついに成功です」
 恩の問いに、鳩仲家の客室でアナスタシアは誇らしげに微笑む。
 精霊碑文学を修めるものとして、スクロール作りは夢の一つ。
 流石に依頼の道中ではとても集中してスクロールを作ることなど出来なかったが、伊豆のパラたちが馬車を出してくれたお陰で思いのほか早く江戸に戻ることが出来、鳩仲家でこうしてゆっくりと落ち着いた環境で作成することが出来たのだ。
「私も作ればよかったかしら?」
 マリスが興味深々に出来たてのスクロールを覗き込む。
 彼女も精霊碑文学を修める身。
 落ち着いた環境と、必要な道具をそろえて集中することが出来たなら、作成できるかもしれない。
 けれどそれはまた、次の機会に。
「本当に皆様のお陰です。今回はご迷惑をおかけしました」
 鳩仲清三郎が深く頭を下げる。
 火鼠から聞いた事実を聞いた清三郎は、しきりに申し訳ないと頭を下げる。
 はっきりきっぱり清次はよわっちいのだが、そこはそれ、金の亡者。
 欲に目のくらんだ人間は火鼠にとってはもの凄く恐ろしかったらしい。
「まあ、お兄様には迂闊にモンスターには手を出さないようによく言っておいてあげてね」
 マリスの忠告ははたして清次に伝わるのか。
 清三郎の苦労はまだまだ続きそうだが、それもまた、次の機会に。
 いまはお母様の回復を皆で祝いましょう。  
「皆様、お食事のご用意が出来ましたです」
 台所を手伝っていた花東沖が皆を呼びに来る。
「ミーは手料理好きアルね♪ ご馳走ベリーベリー最高ね!」
「わーい、ご馳走です〜♪」
「旅の後は美味い食事に限るわい」
 美味しい食事を楽しみつつ。
 こうして今回の依頼を無事、終えたのだった。