美少女の壷☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 35 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:05月31日〜06月05日

リプレイ公開日:2006年06月10日

●オープニング

「だってねぇ、俺だっておかしいって思ったんですよ」
 いじいじいじ。
 万年独り身受付係はパリの冒険者ギルドの片隅で冒険者相手に愚痴をこぼす。
「美少女が湧いてくる壷、だなんて」
 はふー。
 人一人入れそうな大きな壷を抱きしめて、受付係は溜息をつく。
 もちろん、中身は空っぽ。
 どうやら受付係、謎の商人にだまされたらしいのだ。
 なぜ美少女が湧いてくる壷などというばかげた物にだまされたのか?
 それはもう、万年一人身受付係がこの歳で彼女の一人も出来たためしがないせいだとしか言いようがない。
「わかってますよ、僕が馬鹿だったんです。
 でも騙されたまま泣き寝入りするつもりはないんです。
 この壷を売りつけた犯人、捕まえてください」
 万年一人見受け付け係は大きな壷をもう一回撫でて、はふーと溜息をついた。

●今回の参加者

 ea2052 アニス・リカール(27歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)
 ea2499 ケイ・ロードライト(37歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4433 ファルス・ベネディクティン(31歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb2949 アニエス・グラン・クリュ(20歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb5231 中 丹(30歳・♂・武道家・河童・華仙教大国)
 eb5292 エファ・ブルームハルト(29歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●依頼人
「私も二十七歳‥‥一家を構え子供がいておかしくない歳なんですよね‥‥依頼人の気持ちは良く判ります」
 今回の依頼人であり、冒険者ギルドの万年一人身受付係に、ケイ・ロードライト(ea2499)は親近感を抱く。
 けれど受付係はいじいじいじ。
 騙されて買った壷をぎゅーと抱きしめて空ろな瞳。
「美少女が沸くなんてそんな楽なもん、あるわけないやろ。おいらが欲しいくらいや!」
 すっぱーんっ☆
 そんないじいじモードの受付係をノルマンではまだ珍しい河童の冒険者・中丹(eb5231)はおもいっきしハリセンですっぱたく。
「痛いじゃないですかー。僕は哀れな被害者なんですよ? 労わってください」
「ん? いたぶるの? ん〜、面白そうだからそれもありかな♪」
 わざと聞き違えて、エファ・ブルームハルト(eb5292)はにこにこと肯定。
「ううっ、冒険者って、こんなに冷たかったんだ‥‥僕はもう何もかも駄目なんだーっ」
「だ、大丈夫! 知り合いに彼女いない暦三十年とか五十年とかのツワモノもおられましたし! 受付係さんにもきっと素敵な出会いが訪れますよっ」
 大の男がさめざめと泣き出す事態に慌ててアニエス・グラン・クリュ(eb2949)がフォローを入れる。
 だが、それは止めだった。
「‥‥つまり、僕にはあと五十年彼女ができないんだーっ」
 うわああああんっ。
 盛大に泣き出す万年一人身受付係に、冒険者達は顔を見合わせ、
(「駄目だこりゃ」)
 肩を竦めた。 


●情報収集
「やはり、受付係さんの他にも被害者がいましたわ〜」
 しふしふーと挨拶をしながら、情報を集めてきたアニス・リカール(ea2052)が告げる。
「最近、酒場でよく柄の悪い連中が現れるらしい。身なりの割には羽振りがよいとか」
 ファルス・ベネディクティン(ea4433)も掴んだ情報を報告しつつ、「人を騙してお金を儲ける‥‥騙される人も注意する必要があるかもしれないけど、犯人が許されるわけじゃないよね」と犯人に対する怒りを口にする。
「依頼人が最近、恋人が居ないことを嘆いた場所も酒場でしたね」
 いじいじぐじぐじしている依頼人から、どうにか情報を得て少々ぐったり気味のケイも付け足す。
 いや、だって、『彼女』の二文字を口にするだけで受付係は凹むから。
『最近、恋人が居ないことを嘆いた場所』を聞くのは結構至難の業だったのだ。
「しっかし、なんだってあっさり騙されたんやろな」
 中丹がしみじみと首を傾げる。
 アニエスが受付係に確認したところ、問題の壷を購入した時、受付係は現れた美少女に触れもしなかったらしいのだ。
 月魔法で幻覚を見せられてその気にさせられたのだろうが‥‥なんというか、騙されないだろう、普通。
「ん〜、やっぱり男の浪漫?」
 エファはそんな中丹にくすくすと楽しげに笑う。
 理想の少女が自分の物になるかもというのは、きっと男の永遠のロマンなのだろう。
 ‥‥たぶん。
 
 
●囮作戦、開始☆
「ねえねえ? あれって、それっぽくない?」
 噂の酒場で、エファが向かいに座るアニスに小声で話しかける。
 二人がエファの目線をそっと辿ると、なるほど、いかにも柄の悪そうな男達が酒を飲んでいる。
 それも、かなりの高級品。
「でも、商人はいなさそうですわ」
 アニスは呟き、そっと周囲を伺う。
 受付係に壷を売りつけた商人は、フードを目深に被っていたものの、それなりの年齢の人物。
 だが、いま酒場で酒を煽る男達はどう見ても十代から二十代の若さだ。
「ん〜。商人はあとからくるのかな? っと、ケイさんたちだっ♪」
 予め予定していた通り、ケイと中丹が酒場に現れた。
 エファはそ知らぬ振りして古ワインに口をつける。
「あっはっは、お嬢さん、一緒にこっちで飲みませんかってな〜、なあなあどや?」
 くちばしキラン☆
 中丹がさわやかーな笑顔でエファとアニスに近づいてくる。
「貴方方のような魅力的な女性と、ぜひ相席させて頂けませんか?」
 慣れないナンパの演技に内心どきどきしつつ、
(「ご婦人の身体にごめんなさいっ」)
 礼儀正しいケイは目線でエファに詫びつつ、エファの腰に手を回す。
 そしてエファも目線で、
(「気にするな♪」)
 と語りつつ、すっぱーん☆
 中丹の頬を目いっぱい張り飛ばした。
「いてっ、いててっ、なにするんでおまっ?!」
「河童になんてなびかないわよっ」
 ノリノリでエファはふふんと悪女っぷりを発揮。
「少々あたしの好みから外れているのよね」
 アニスもさくっと二人を振ってみる。
「あなたもよ。年上は興味ないんですよね。話しかけないでいただけますか?」
 腰に当てられたケイの手を払い、アニスと共に席を立つ。
 その場に残された二人は顔を見合わせ、
「「彼女が欲しい」」
 と叫んだ。
 

●アジトを突き止めよう☆
「あっ、出てきたでてきたっ」
 酒場の側で隠れて待機していたアニエスは、ケイと中丹に近づく中年の男性に注目する。
(「身なりが良くて、大きな荷物を背負った茶色い髭の男性‥‥大当たりですっ」)
 中丹やアニスたちと別行動を取り、美術商に情報収集に行っていたアニエスは、そこで得た情報とケイたちに近づく男の容姿の一致に頷く。
 人が入れそうなほどの大きな壷といえば水瓶だ。
 そういった商品をここ最近購入した商人はいないかと調べて回ったところ、どんぴしゃり。
 数十個買い占めた商人がいたのだ。
「人気のないほうへ誘ってますね」
 アニスと共に物陰に潜んでいたファルスが注意を促す。
 

 ケイと中丹は、自棄酒を飲んで酔った振りをしながら、商人に言われるままに路地裏へと付いてゆく。
(「こいつで、当たりやな」)
(「ええ」)
 目線で頷きあいながら、ケイと中丹は油断なく周囲に気を配る。
 囮とも気づかぬまま、商人は背負った壷を二人に見せた。
 青く塗られたその壷は、これといって何の変哲もない普通の壷だ。
「ちちんぷいぷい〜、理想の乙女よ、いでよ!」
 だが、怪しげな呪文を商人が唱えると、次の瞬間二人の前に美女が現れた。
 河童である中丹には河童の、人であるケイには人の、それぞれの種族にあった見まごう事なき美女だ。
「うっわー、こんなかわええ子、めったにおらへんで!」
 中丹が思わず本気で叫ぶ。
「ええ、本当に、素敵ですね」
 ケイもそれが幻だとわかっていても、少々心が揺れ動きそうになる。
「気に入っていただけましたかな? お代はこちらになりますよ、くくっ」
 意地汚く笑う商人に、けれど二人は首を振る。
「そんな金額払えまっかな。わいら赤貧やで! 話にならへんわっ」
 中丹が逆切れを装ってケイの手を引き、その場から足早に立ち去る。
 うん、だってずっといるとほんとに買ってしまいそうだし。
 客にまんまと逃げられた商人は舌打ちし、アニエス達が自分を尾行する事にも気づかずに、その場を後にする。


●悪事はそこまでです!
「あなた方の悪事は露見しました! 大人しく縛に付きなさい!」
 盗賊団と商人。
 今回の事件の犯人が潜むアジトに乗り込み、ケイが叫ぶ。
 アニエスとファルスはしっかりと尾行に成功し、アジトの位置を掴んだのだ。
「美少女河童なんて出てきやへんか〜!」
 どっかーんっ☆
 中丹も叫び、手近にいた盗賊の顎に有無を言わさず龍飛翔炸裂!
「陛下のお膝元で悪事を働くとは許せませんねっ!」
 幼いアニエスもレイピアを操り次々と盗賊を倒してゆく。
 だが盗賊団も商人も突然の奇襲に驚いたのは一瞬のこと。
「野郎どもっ、やっちまいな!」
 頭の合図に、冒険者に向かって一気に盗賊団が襲い掛かってきた。
「外にでますっ!」
 狭いほったて小屋のアジトから、エファは外に飛び出す。
「逃がすかっ」
「そんなこと、させないよ?」
 エファを追い、その腕に切りつけようとした盗賊は、けれど矢に貫かれる。
 ファルスが程よく距離を取り、狙いをつけていたのだ。
「ありがとっ♪ これもお見舞いしちゃうよ♪」
 ファルスに礼を言いつつ、エファは盗賊の顔面すれすれにダガーを投げ牽制する。
「うわっ、うわわっ?!」
 一番弱そうな者に向かっていくのは、やはり卑怯者の集まりだからだろうか?
 アニエスを数人の盗賊達が囲む。
「子供を狙うとは卑怯ですね。許しません!」
 そんな盗賊に怒りも露わに、ケイが日本刀を薙ぎ払う。
 バイキングヘルムも身につけ、とてもイギリス出身のナイトとは思えないいでたちだが、その腕は確かだ。
 今まさにアニエスを切ろうとしていた盗賊の腕が飛ぶ。
「癒してあげましょ〜。リカバー」
 アニスが羽根をはためかせながら治癒魔法を唱えると、仲間達の掠り傷がみるみるうちに塞がってゆく。
「これで終わりやな。壷と一緒にさしたるわ!」
 中丹が盗賊の頭に壷を被せ、そのままぱっかーんとぶん殴る。
 倒れた頭の下敷きになった商人も倒れ、そのまま気を失った。


●エピローグ
「ありがとうございますっ。お金がまで返ってくるなんて」
 どん☆
 盗賊を無事に倒し、受付係が騙し取られた分のお金まで取り戻した冒険者達は、受付係に金貨の入った皮袋を差し出す。
「もう、騙されないようにね?」
 ファルスが受付係を心配して念を押す。
 うんうんと頷く受付係。
 でも彼女が出来るまではきっとまた騙されそうだ。
「早く、彼女できるといいね。がんばってね♪」
 エファにうふっと笑われ、受付係は真っ赤になった。
 もしかしたら、新しい恋の始まりかもしれない。


「河童ちゃんほしい、河童ちゃんほしい、かわいい河童ちゃんがほしい!」
 だあれもいない、とある部屋の片隅で。
 商人から分捕った壷に中丹は祈りを捧げる。
 壷から美少女が現れたのは、盗賊団の中に幻覚の呪文を扱えるやつがいたからだ。
 そいつは中丹の戦闘一発目の龍飛翔でさくっと倒されているのだが、商人と会った時に見せられた幻覚の河童美少女が忘れられないらしい。
「彼女ほし〜い!」
 中丹の本気の叫びがこだました。