●リプレイ本文
●万年一人身受付係に突っ込み。‥‥って、そう言う依頼じゃないから!
「やっほ♪ 彼女はできた?」
元気一発☆
明るく楽しくエファ・ブルームハルト(eb5292)は冒険者ギルドの万年一人身受付係に笑顔で残酷な事を言う。
「‥‥出来ていませんよ。それがなにか?」
ふんっ。
精一杯の虚勢を張って、万年一人身受付係はそっぽを向く。
「お客様には笑顔やろ! そっけなくてええんは熟練の頑固職人さんだけや!!」
すっぱーん☆
何処からか取り出したハリセンで中 丹(eb5231)は受け付け係に激しく突っ込み。
うん、お客様にも冒険者にも、老若男女分け隔てなく接しないと駄目だよね。
「‥‥僕をからかう暇があったら、早く依頼人のところに行ってあげてください。
もう他の方々は向かっていますよ」
受付係はこれ以上から変われまいと必死に冷静さを取り繕って、エファと中丹に依頼人の家の地図を石板に描いて示す。
中丹とエファは顔を見合わせてふふっと笑った。
●仕立て屋の少年・アルファ
「しふしふです〜☆ 冒険者ギルドからやってまいりました」
「ヴァンアーブルと申しますわ。宜しくお願いいたしますね。あっと、名前が長いと感じた時は、ヴァンとでもムージョさんとでもお呼びくださいまし」
シフール的挨拶しふしふーを言いながら、アニス・リカール(ea2052)は丁寧にお辞儀をし、ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)は上品に微笑む。
「おいらはカルル、キミはなんていうの?」
陽気なカルル・ゲラー(eb3530)は親しみを持って挨拶をする。
「僕、アルフェです。よろしくお願いします」
ぎゅうっ。
ベレー帽を握り締めて依頼人―― アルフェは頭を下げる。
「アルフェさんですか? 良い名前ですね。僕はパール・エスタナトレーヒです。もしよかったら、風見鶏に詰められていた石や布を見せていただけますか?」
パール・エスタナトレーヒ(eb5314)は丁寧に挨拶をし、そして本題に入る。
仕立て屋の風見鶏を東に固定する為に、いつの間にか布や石が詰められているという。
それなら、その石や布に何か秘密はないのだろうか?
「小石や布で風見鶏を固定するのは、何らかのメッセージの可能性があるかも知れないから、協力して貰えないかしら?」
「これって、何か変わった所があるものですか?」
シルヴィアとパールはその疑問を確かめるべく、持ってきてもらった石や布を、アルフェによくよく確認させる。
「この端切れ布、どこかで見た覚えがあるんです。でも、僕は仕立て屋で働いていますから布は毎日見ていますし‥‥」
淡い黄緑色の布を見て、アルフェはうーんと悩んでいる。
細長い布を切ったような感じにも見えるのだが。
「変わった匂いとかもしないね」
くんくんくん。
カルルが匂いをかいで見ても、特に変わった様子はない。
「取り敢えず、その風見鶏を私たちシフールで監視しようと思います。よろしいですか?」
悩めるアルフェにアニスが尋ねる。
今回の依頼の仲間には四人もシフールがいるのだ。
羽を持つこの四人でローテーションを組めば、屋根の上でも簡単に見張ることが出来るだろう。
「私達なら他の参加者よりは身軽いし、屋根に行くのに梯子を使用する必要も無いしね。‥‥とはいえ、一応梯子くらい掛けておくべきかしら?」
緑の羽根をはためかせながら、シルヴィアはカルルを見る。
「そうだね。おいらも屋根の上から見える風景を確かめたいしね♪」
シルヴィアにカルルはにこにこと同意。
パラのカルルは身軽だけれど、シフールのようには飛べないから梯子は必須アイテムだ。
「ほほほっ。ならば決まりですわね。今日から張り込むことにいたしましょう」
ヴァンアーブルも頷き、張り込み捜査が始まった。
●東にあるもの
風見鶏を見張る事を決めた後、少し遅れてエファと中丹がやってきた。
初めて河童の冒険者に出会ったアルフェはうひゃっと驚く
「お、なんや、河童は初めて? ほれ、エチゴヤとかに時々おるやろ。華国やジャパンによくおるんやで。ノルマンにはマーマンておるやろ、あれみたいなもんや」
気さくに笑う河童の中丹の黄色い嘴が太陽にきらんっと輝き、アルフェ少年も思わずほっとする。
「ん〜、ちなみに東の方には何があるの?」
エファは目を細め、アニス、パール、シルヴィア、ヴァンアーブルの四人が既に登っている屋根の上の風見鶏を見上げ、尋ねる。
「東は、特にこれといって何もないはずです。僕の実家ぐらいかな?」
アルフェが東を見つめ、答える。
「ねえみんなっ、みんなも登ってみて!」
シフールたちと一緒に梯子を使って屋根に上ったカルルが、エファと中丹、そしてアルフェに声をかける。
「ん〜、面白そうだからそれもありかな♪」
「おっ、ちょうどやってみたいことがあったんや」
エファと中丹が屋根の上に上ると、南からさわやかな風が吹いてきた。
「ん〜、気持ちいい」
風に髪をなびかせてエファは東を見つめる。
「あれはパン屋やな。あっちは冒険者ギルドやろうか」
中丹はきょろきょろと辺りを見回す。
「キミ、なにか気づいたことはあるかな?」
カルルが東を見つめるアルフェに声をかける。
けれどこれといって思い当たることはないようだ。
「そうだなぁ‥‥風見鶏が指している方向をよく見てみようよ。きっと何か分かるかもよ」
エファにいわれ、アルフェは再び目を凝らす。
けれど、どうしてもわからないらしい。
「東に何かあるのかを、見に行っていただけませんか? 私たちがここは見張っておきますから」
アニスが提案する。
ここから見えなくとも、現地に行ってみれば見えるものがあるかもしれない。
「そうだね〜。てくてく歩いていってみるよ」
アルフェは仕事があるために行くことが出来ないから、代わりにカルルと中丹、エファが請け負う。
「あ、ちょいまってぇや。ここをこうして‥‥ふっふっふ、これやったら向きを変えられんやろう!」
梯子を下りる前に、中丹は予め用意しておいたロープで風見鶏を無理やり西に固定する。
「犯人、きっと慌てるで。捕まえるんならそん時が勝負や!」
ぶいっ。
中丹が自信満々にシフール達に言い切り、梯子を降りてゆく。
●幼馴染
少年の実家は、ごく普通の衣装店だった。
「ん〜。風見鶏はないのね」
少年の家には風見鶏はなかった。
どうやら、少年の実家は関係ないらしい?
「あっ、お隣さんちの風見鶏、なんかへんだよ?」
てくてく歩きながら周囲を見回していたカルルが異変に気づく。
「なんや? なんもおかしいとこあらへんやろ」
中丹も風見鶏を見上げ、けれど首を傾げる。
「ううん、おかしいわ。今日は南風なのに、あれ、西を向いているもの」
エファが指摘する。
隣の家の風見鶏は、風に逆らって西を向き続けている。
と、ちょうどその時、隣の家から泣きながら少女が飛び出してきた。
「お約束っちゅうやつやな」
中丹が呟き、三人は即座に女の子を追いかけるのだった。
●犯人、捕まえたよ☆
「風見鶏、異常ありません」
夜。
ふわりと屋根から舞い降りて、パールは二階の窓から部屋の中に入る。
パール達シフールは風見鶏に一番近い部屋を借りて、ローテーションを組んで屋根の上を見張っていた。
「‥‥なにかしら。いま、妙な気配がしませんでしたか?」
ヴァンアーブルがふと、首を傾げる。
「上だわっ!」
シルヴィアが緑の羽根をはためかせて飛び出す。
パールとヴァンアーブルも弾ける用に外に飛び出す。
「光よ‥‥ホーリーライト!」
アニスが真っ暗な外を照らせるように魔法を唱え、光球を手にあとを追う。
風見鶏の側には一人のシフールがいた。
中丹の悪戯で西に向いてしまっている風見鶏を東に向けさせようと必死に押しているが、風見鶏はびくともしない。
「そこまでです! お眠りあそばせ。ほほほっ」
アニスの光りに照らされた犯人にヴァンアーブルは高速詠唱でスリープを唱える。
犯人は抵抗するまもなくくったりとその場に眠り落ちた。
●アルフェの気持ち
「えっと、ユイラン? それにケウェカ? これって、一体?」
翌日。
冒険者達から犯人―― いや、犯人達に引き合わされ、アルフェは目を見開いてベレー帽を握り締める。
アルフェの実家の隣に住む少女―― ユイランと、やっぱり幼馴染でシフールのケウェカがしょんぼりとしている。
「アルフェさん、大事なこと忘れてないのかな?」
エファがちょっぴり悪戯っぽく微笑む。
「ほれほれ、なんかあるやろ、なんか」
中丹もニヤニヤニヤ。
「おいら知ってるよ、恋ってステキなんだよね♪」
カルルはわくわく。
三人は泣きながら走って行くユイランを追いかけ、事情を聞いたのだ―― アルフェが大切な約束を忘れてしまった事を。
「ユイランさんに、お見合い話が出ているそうですよ」
パールがケウェカから聞いた事情を付け加える。
その瞬間、ユイランはわっと泣き伏した。
「ええっと、誰と誰がお見合いっ?!」
怒涛の展開に、アルフェはもう目を白黒させるばかり。
ユイランとケウェカが風見鶏に悪戯をしていたというだけでも十分衝撃だったのに、この上お見合いとは一体全体なんなんだ?!
「『十六歳のお誕生日に』‥‥彼女と約束したはずよ」
泣きじゃくるユイランの背を撫でてあげながら、シルヴィアは一見無表情に見える表情でアルフェを見つめる。
「誕生日‥‥? あっ、洋服?!」
アルフェがはっとしてポケットに持ち歩いていた布切れを取り出す。
黄緑色の布切れ。
それは、ユイランが好んでつけていた幅広のリボンの切れ端だ。
「二年前だそうね? 貴方が作った服を彼女に贈ると約束したのは。ずっと彼女は待っていましたのよ?」
ヴァンアーブルはケウェカから聞いた事情を口にする。
風見鶏に悪戯していたのはケウェカで、ユイランは何も知らなかったのだ。
ずっと待ち続け、そしてついに親から見合い話まで持ち出されても何も行動できないユイランに同情し、ケウェカはアルフェに気づいてもらえるようにこんな事件を起こしたのだった。
「ごめんね? 僕、忙しくて‥‥言い訳にしかならないけど、ほんとにごめんね?」
泣き伏すユイランに、アルフェはおろおろとお詫びをする。
「アルフェさん。一度お休みを貰って二人の時間を作ってみてはどうでしょう?」
パールが提案する。
いきなりこんな事件の犯人として幼馴染と久しぶりに会い、そしてお見合い話。
こんな状態では頭だって働かないし、気の利いた言葉も出てこないだろう。
三人で、一度ゆっくりと話し合ったほうがいい。
「でも、僕、お店が‥‥」
「ほほっ、そんなことは私たちに任せておきなさい。ねぇ?」
ヴァンアーブルが仲間に同意を求めると、みんな頷く。
裁縫スキルはなくとも、七人もいるのだ。
見習いのアルフェが抜けた分の穴埋めはばっちりだ。
「‥‥ありがとうございますっ」
冒険者に真っ赤になってアルフェはお辞儀をし、ユイランとケウェカをつれて部屋を出て行く。
きっと今度は悪戯なんかじゃなく、きちんと言葉で思いを伝えられるようになるだろう。
「お幸せに」
三人の後姿を見送って、アニスは幸せを祈るのだった。
●エピローグ〜お幸せに。でも、貴方の幸せは?(くすくす♪)
「まあ、上手くいってよかったんじゃない? からかえなかったのが残念だけど♪」
くすくす♪
中丹と一緒に結果報告にギルドによったエファは、万年一人身受付係に悪戯っぽく笑う。
「‥‥上手くいってよかったですね」
ぶすっ。
万年独り身受付係はつまらなそうにそっぽを向く。
だって自分はまだ一人身だしね?
「あらあら、どうしたのかな? もしかしてこうゆうことがしたかった? えいっ♪」
むぎゅっ。
受付係の腕に、抱きついたエファの豊満な胸があたる。
「○×△*◆〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
受付係は真っ赤になって言葉にならない叫び声をあげるのだった。