〜屋根裏部屋のポルターガイスト〜

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 8 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月29日

リプレイ公開日:2005年07月31日

●オープニング

 それは、ある日突然始まった。
 小さな村の古い小さな家で慎ましやかに暮らす老夫婦の家から、ことあるごとに絹を引き裂くような悲鳴が半径100m近くに渡って響き渡るようになったのだ。
 どうやら悲鳴は屋根裏部屋を中心に響いているようなのだけれど、あまりの悲鳴の大きさに、家全体が悲鳴を上げているように感じられる。
 屋根裏を調べようにも、住んでいるのは老夫婦だから梯子を使っての上り下りも大変で、また、屋根裏に近づこうとするとよりいっそう悲鳴が大きくなるのでとてもとても近寄れない。
 そしてなにより老夫婦にとって調べる事が心の底から恐ろしかったのだ。
 長年住みなれた家とはいえ、今までこんな事は一度たりともなかったのだから。
 なので2人は調べる事も出来ず、また、思い出深いその家を出ることも出来ず。
 老夫婦はいつ響き渡るともわからない悲鳴に日夜怯えながら暮らしつづけ、みかねた村人達が冒険者ギルドに依頼を出す事にしたのだ。
「きっとこいつぁ、ポルターガイストにちげぇねえだよ」
「んだんだ、あげな古い家だもの、幽霊が住みついてもおかしかねぇべさ!」
「ポルターガイストを倒してくんろ!」

  
 
 
 
  

●今回の参加者

 ea4090 レミナ・エスマール(25歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb0131 アースハット・レッドペッパー(38歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1165 青柳 燕(33歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●まずは聞き込み☆
「ポルターガイストと言われればポルターガイストのような」
 ある日突然悲鳴が響き渡るようになったと言う家に住む老夫婦に話を聞き、思案するレミナ・エスマール(ea4090)。
 そしてその隣では、
「最近この界隈で何か変わったことがなかったか?」
 老婦人が出してくれたお茶菓子を遠慮無くぱくつき、お茶をずずーっと飲むアースハット・レッドペッパー(eb0131)。
 依頼人はアースハットよりとっても年上だと言うのにタメ口。
「‥‥それ、本当にポルターガイストなのかな?」
 響き渡る悲鳴の詳細を聞いていたカグラ・シンヨウ(eb0744)は首をかしげる。
 ポルターガイストはそんな悲鳴を上げるものだったろうか?
 微妙に違うような気がするのだが、カグラのアンデット知識では判断できない。
「もう少しアンデッドについて勉強しておけばよかったなぁ」
とレミナもぼやく。
「ほぉ‥‥近づくと泣き叫ぶ悲鳴とな。それは確かに気になるのぉ。どぉれ、ひとつ検分させてもらおうかの」
 青柳 燕(eb1165)は老夫婦から詳しい事情を聞き出すと、そう言ってご近所の情報収集を提案する。
 年老いた2人には分からないことも、近所の村人達なら何か気付いているかもしれないからだ。
 しかし一人で村中を回るのは辛いものがある。
「わしは東側の家々に聞きこみに行くぞぃ。反対側の家々も誰か回ってはくれんかのぅ?」
「私が行くよ。あ、でもその前に‥‥メンタルリカバー!」
 老夫婦にメンタルリカバーをかけてあげるカグラ。
 老夫婦は悲鳴が恐くて相当精神が参っていたらしく、かなりやつれていた。
 歳をとれば誰でもある程度は痩せて見えるものだが、黒く落ち窪んだ瞳といい、ほんの少しの物音にも恐れる様子といい、老夫婦のそれは明らかに病的だった。
(「これで少しでも元気になってもらえるといいんだけど‥‥」)
 カグラはそう思いながら、そもそもの元凶である悲鳴の原因調取り除いてあげるべく、青柳と共に家々の聞きこみに行くのだった。
  
「ふむふむ、悲鳴が聞こえ始めた時期は最近の事なんぢゃのぅ‥‥それまでは一度もなかった、と」
「んだんだ。昔はこげな騒ぎはなかっただよ」
 青柳に聞かれ、老夫婦のご近所さんは快く答えてくれる。
 老夫婦の事も心配だが、なんせ悲鳴はいきなり広範囲に響き渡るものだから、ご近所も気が気じゃないらしい。
「悲鳴の響く条件は冒険者ギルドで受けた依頼内容に相違無いかの? ‥‥ふむ、悲鳴が上がる時間帯はまちまちで屋根裏に近づくと悲鳴が響き渡るとな。ぢゃが動物たちは人間と同じように悲鳴に驚いて騒ぐだけなんぢゃな」
「とにかく悲鳴はハンパじゃねぇだよ! おれっちのかわいいカトリーヌさも煩くてまいってるんだべ。早く何とかしてくんろ〜」  
 困りきっているご近所さんに青柳は1件1件丁寧に聞きこみを続けていく。
 途中、自然溢れるこの村の景色に絵描きとして心奪われたりもしていたが、今は依頼中。
 絵筆を持って描きたい衝動をぐっとこらえて調査を続ける。
 
 そのころ、依頼人の自宅では。
「いやー、おじいさんとこのお茶菓子美味いな! お茶も最高。もう一杯くれ」
 アースハットが依頼人を顎で使っていた。
 老婦人が困惑しながらお茶を煎れて来る。
「私はこれから少し、この家を外から調べてまいります。外からも見たほうが何かわかるかもしれませんから」
 家の中をぐるりと見まわってきたレミナが居間に戻ってきた。
 少々顔色が悪いのは気のせいだろうか?
「おう、しっかり働けよ! 俺はここで待っててやるからさ」
 片膝立ててふんぞり返っているアースハットだった。
 いや、あなた、お仕事しないと依頼料貰えませんよ?


●奇襲!? ‥‥って、貧血?
 近所の聞き込みを終えて戻ってきた青柳とカグラは、一気に青ざめた。
 老夫婦の家の横にレミナが倒れていたのだ。
「レミナさんっ、レミナさんっ?!」
「誰に? いや、ポルターガイストが襲ってきよったのか?!」
 カグラは駆け寄って気を失っているレミナを抱き上げ、癒しの呪文を唱える。
 青柳は油断無く周囲に目を光らせ、敵の奇襲を警戒する。
「ん‥‥」
 カグラに癒されて、レミナが意識を取り戻す。
「レミナさん、一体何があったんだ? 大丈夫?!」
「ちょっと‥‥今日は日差しが強かったから、倒れてしまったようです。でももう大丈夫です。カグラさんありがとうございます」
 微笑んで、立ち上がる。
 病弱で日差しに弱いレミナが夏の炎天下の中を依頼とはいえ調べ物をするのはかなり無理があったらしい。
 しかしカグラのおかげで まだ少しふらついているものの、なんとか大丈夫なようだ。
「ふむ、敵では無かったようぢゃの。どれ、ここで立ち話もなんぢゃから中に戻ろうかの」
 青柳も緊張を解いて、3人は依頼人の家に戻る。


●悲鳴五月蝿すぎ!
「ふーん。じゃあ結局原因はわからずじまいか」
 青柳とカグラの聞き込み報告を聞いて溜息をつくアースハット。 
「外も一応調べましたが、通風孔の格子をはずせば屋根裏部屋に入れそうです。何かが入ったとするなら、あそこからではないかと思います」 
 先ほど調べた時、家の中には特に何かか侵入した形跡は無かったのでそう予想するレミナ。
 もっとも、外から見える格子もはずされたり壊れたりしている様子は無かったのだが。  
「ふむ。ならばそこから屋根裏部屋に入って直接調べるしかなさそうぢゃのう」
 レミナの報告に、青柳は頷き、ヘキサグラムタリスマンに祈りを捧げ出す。
 悲鳴の正体がポルターガイストにせよなんにせよ、準備は万全に越したことはない。
「屋根裏をつついて見ましょうか? 何か反応があるかもしれません」
 居間の天井を見つめて提案するレミナ。
 今日1日問題の悲鳴は一度も上がっておらず、それがどんなものなのか冒険者は誰もわかっていない。
 つついて見て問題の悲鳴が響き渡ったら、そこからまた何かわかるかもしれない。
「分かった。じゃあこの俺様の剣で突付いてやるよ。とうっ!」
 アースハットが帯剣した剣の鞘で屋根裏を力いっぱいどつく。
 瞬間。

『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 響き渡る悲鳴!
「うおっ?! こ、これが例の悲鳴ですか」
 びびって座り込みながら、平静を装うアースハット。
「ぅ‥‥」
 耳を塞ぎ、余りの悲鳴の大きさに倒れそうになるレミナ。
「ほんにハンパ無い悲鳴じゃったのぅ。これは屋根裏に入るときは耳栓をしておいた方がよさそうぢゃのぅ」
 レミナを支えながら、悲鳴の大きさに呆れる青柳。
「耳が壊れそうだよ。こんな悲鳴にさらされてたら誰だって恐いよ」
 カグラは悲鳴に怯えて部屋の片隅で肩を抱き合い震える老夫婦に、「お2人はこの家から少し離れていてもらえるかな? 私たちが必ず悲鳴を止めて見せるよ」と説得して大至急家の外に避難してもらう。
「とにかく屋根裏部屋に上がろうぜ。悲鳴は適当な布を千切って耳塞いどけばどうとでもなるだろ」
「これ‥‥良かったら使ってください」
 レミナがアースハットにハンカチを差し出す。
「おっ、サンキュー。気が利くね。破いちまうけどいいのか?」
「うん」
「なら遠慮なく使わせてもらうぜ」
 アースハットはレミナのハンカチを適当な大きさに千切り、丸めて4人分の耳栓をつくってそれぞれに渡す。
「準備完了。やってやるぜ!」
 準備完了気合完璧!
 冒険者達は一気に屋根裏へ続く階段を駆け上がるのだった。


●悲鳴の正体
 バンッ!
 油断無くクリスタルソードを構え思いっきり屋根裏部屋のドアを蹴破るアースハット。
 凄まじい悲鳴が響き渡るが、耳栓をしているおかげでたいしたことはない。
 しかし。
「おいおい、これはいったいなんなんだ?」
 悲鳴を上げているそれを指差して呆れるアースハット。
「これは茸?」
「随分沢山生えちょるのぅ」
「これが、悲鳴の正体だったんだ‥‥」
 冒険者達が見つめるもの。
 それはびっしりと生えた茸だった。
 スクリーマー――別名紅天狗茸。
 スクリーマーは自分の菌糸に刺激を感じると叫び出す習性があるのだ。 
 屋根裏の腐りかけた木材は、通風孔から迷い込んだスクリーマーの菌にとって、丁度良い苗床となり、また、直射日光のあたらないこの場所は繁殖にもってこいだったようだ。
 スクリーマーのほかにも色々な茸が生えている。
「幽霊の正体みたり枯れ小花ってやつかな」
 東洋人とのハーフであるカグラが東洋の諺をつぶやく。
「ふむ‥‥これは引っこ抜けば叫ばなくなるんかのぅ」 
 青柳が手近に生えていたスクリーマーをぽこっと引っこ抜く。
 引っこ抜かれたスクリーマーはうんとも寸とも言わなくなった。
 それを見て、レミナやカグラも悲鳴を無視してスクリーマーを引っこ抜きに掛かる。
「なんだか肩透かしだな、おい」
 アースハットはやれやと肩を竦ませた。
 

●エピローグ
「いやー、この酒美味いね。じいさんもう一杯!」
 屋根裏に生えていたスクリーマーや普通の茸を、依頼人の家の前でキャンプファイヤーよろしく焼いて食べながら、アースハットが酒をお代りする。
 まだお酒の飲めないレミナはご近所さんが持ち寄ったミルクを飲んでいる。
 
 ドンドコドンドコ♪ ピーヒャラピーヒャラ♪
 
 太鼓の音に合わせ、横笛を奏でながら舞うカグラ。
 東洋舞踊の好きなカグラの舞いは、神秘的ながらも親しみを損なわず、見ている者の気分を高揚させる。
 悲鳴にずっと苦しめられてきた老夫婦も村人達も、みんな楽しそうだ。
 青柳は、その様子を心の中で一心不乱に絵筆を走らせ、記憶のキャンパスに描き留める。
「屋根裏は湿気が溜まりやすいようですから、定期的に換気をすると良いと思います。でも、足腰に負担が掛かるようでしたら、屋根裏部屋のドアは開けたままにしてありますから、そのまま閉めずにいるだけでも効果があると思いますよ」
 二度とスクリーマーが繁殖しないように、老夫婦に換気を促すレミナ。
 お祭り騒ぎは朝まで続き、こうして謎の悲鳴騒動は幕を閉じたのである。