お姫様のお買い物? ロシアに行こう☆
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 56 C
参加人数:4人
サポート参加人数:1人
冒険期間:07月22日〜08月06日
リプレイ公開日:2006年08月02日
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●オープニング
その日は、とてもとてものどかだった――その少女が来るまでは。
「ってゆーか、命令だってばっ」
バン!
万年一人身受付係の座るテーブルを小さな拳でたたく少女は、どこかで見たことがあるようなないような。
「えっと、初めましてですよね?」
万年一人身受付係、一応確認。
うん、こんな高飛車なロリっ子、一度会ったら忘れないし。
「そうよ。わたし、あなたみたいなダサい男に会った覚えないもの」
可愛いのに高飛車ロリっ子、腕を組んで言い切って、すべすべほっぺたをぷくっと膨らませる。
(「ああ、可愛いのにかわいいのに。でも守備範囲外だしなぁ、まあいっか」)
万年一人身受付係、色々耐性がついたらしくロリっ子の言葉を華麗にスルー。
でも次の言葉は流石にスルー出来なかった。
「そんなことより、ロシアにつれてって」
「‥‥はい?」
ロシア。
それは遠い異国の地で、はっきりきっぱりロリっ子の行く場所じゃないような。
「もうっ、耳まで遠いの?! おねーちゃんが戻ってくるのよ、それまでにロシアに行かなくちゃわたしの平穏な日常が壊れちゃうわ。
おとーさまったらおねーちゃんに甘いんだからっ」
ばんばんばんっ。
感情のままにテーブルを叩く少女の言葉は意味不明。
なぜ姉が帰ってくるからロシアにいかなければならないのだろうか?
少女の揺れるツインテールに、ふと、とある美女が受付係の脳裏を掠めた。
「‥‥あのー、ひとつお聞きしたいのですが。お姉さまのお名前は?」
どうか、違いますように。
そんな受付係の願いをさくっと無視して、ロリっ子の口からはあの名前が呟かれた。
「シャンリン。おねーちゃんの名前はシャンリンよ」
ああ、やっぱり。
わがまま高飛車お馬鹿お嬢様、その名をシャンリン。
一度会ったきりだけれど、その高飛車過ぎる性格と有り余る大金の印象は早々忘れられるものじゃなかった。
つまり、この目の前の少女もお金持ちのお嬢様。
「護衛は、何人ぐらいをご希望ですか?」
お金の心配はこれっぽっちも皆無で、おねーさんに甘いというお父様はこの少女にも激あまに違いない。
その証拠に、ちゃんと少女が持ってきた羊皮紙に保証人として名前が明記されていたりする。財布も見るからに重そうだし。
「いっぱいがいいわ。おねーちゃんに負けないぐらい!
おねーちゃんはジャパン帰りでもしかしたらわたしの後を追ってくるかもだけど、その頃にはわたし、ロシアの嗜好品をうんと集めて自慢しまくっちゃうんだから。だから、ね?」
はやく冒険者を集めてねといいきるロリっ子に、万年独り身受付係ははいはいと半ば諦め口調で返事をして新しい依頼書を作成するのだった。
●リプレイ本文
●お供は四人、でも、僕もついていきます?
「やっほ♪ ひさしぶり♪ 女の子とはお話できてる?」
くすくすくす☆
冒険者ギルドの受付で、長い銀髪を揺らしながらエファ・ブルームハルト(eb5292)は万年一人身受付係に尋ねる。
尋ねられた受付係は顔を真っ赤にして「‥‥どーせ、僕には彼女なんていませんよ。知ってるくせに」と、いじいじいじ。
側で見ていたアルフレッド・アーツ(ea2100)はトンボ羽をはためかして辺りを見回す。
まだ依頼人のお嬢様は来ていないようだ。
そしエファは急にしんみりとした表情を作り、受付の手を握る。
「な、な、なっ?!」
「わたし、遠いロシアに行ってしまうの」
「え、ええ、この依頼を受けられたのですから、そうでしょうねっ。それより、手を‥‥」
受付係はどぎまぎとエファの手を振り払おうとするが、動揺しすぎて上手くいかない。
「貴方がいないと、わたし、寂しいの」
「!!!!」
ぎゅうっ。
女性に免疫が欠片もない受付係の手を、エファはぎゅっと握り、止めの一言を上目遣いで呟いた。
「一緒に来て?」
うるうるうる。
瞳を潤ませ、ロシアへと誘うエファに、万年独り身受付係は思った。
(「そ、そうか。そうだったんだ! エファさんが僕をいつもからかうのは、愛情の裏返しだったんですね!!!」)
「僕、あなたについてゆきます!」
ああ、激しい勘違い。
アルフレッドと同じく、側で見ていた中 丹(eb5231)とカルル・ゲラー(eb3530)はエファのノリノリの演技にちょっぴり冷や汗。
そう、寂しいのはからかえないからであって間違っても愛情などではなかったり。
受付係の死角で、エファはくふっといたずらっ子の笑みを浮かべた。
●わがままお嬢様のおなーりー☆
「ちょっと! どーしてこんだけしかいないのよっ」
ぷくっ。
冒険者ギルドに現れた依頼人は、ほっぺたを膨らます。
それもそのはず。
お嬢様の為に集まった冒険者達は中丹の見送りに着ていた小丹と、そして急遽一緒にいくことになった万年一人身受付係を合わせてもたったの六人。
沢山雇いたいというお嬢様の希望が叶えられたとは言いがたい。
「お供が少なくてごめんなさいっ。いっぱいいっぱい頑張りますから! あとあと、ぼくはカルルっていいます」
カルルが即座にごめんなさいをして、天使の笑顔で挨拶をする。
「今回はよろしく♪ ん〜、人数、あはは少数精鋭ですよ♪」
「ど〜も〜、おいらは河童の冒険者、中丹でんねん。華国からパリまで泳いできたんや。よろしゅうに〜」
そしてエファはごまかし笑いをし、中丹は話題を人数から逸らすべく、口ばしをきらめかせて河童な自分をアピールする。
「あなた、河童なの?」
てしてしてし。
ちっこい手で、中丹の口ばしを物珍しそうに遠慮なく叩くお嬢様。
「そや。河童のお供なんて珍しいやろ」
でも叩かれて痛いはずなのに、中丹は少しも嫌な顔をしない。
ぽっちゃりとしている分、気持ちもおおらかなのかもしれない。
「えっと‥‥ロシアまでの間‥‥よろしくお願いします‥‥。
あと‥‥酔わないための‥‥お守りです‥‥エチゴヤさんが言うには‥‥絶対酔わないそうですけど‥‥」
ロリロリに高飛車なお嬢様にちょっぴり気おされつつ、アルフレッドはバックパックから船乗りのお守りを差し出す。
貝殻で作られた首飾りは愛らしく、お嬢様はすぐにそれを身につけた。
ご機嫌なお嬢様をみつつ、
「あ、でも。シャンリンお嬢さんの時って月道つかってたし、お供もいっぱいいたんだよね?」
ふと思いついたように、カルルは受付係にこっそりつっこむ。
それを聞いた瞬間、お嬢様の顔はみるみる真っ赤に!
「おねーちゃんより凄くして!!!」
ばんばんばんっ!
持っていた鞄をぶったたき、受付係にお嬢様は怒り出す。
「まあまあ、確かに人数は少ないけど、今回、対応に手落ちはないねん」
「シャンリンお嬢様よりすごいっていったら、船の貸切かな? お嬢さんが船を貸しきってくれたら楽しいし」
中丹は受付係のフォローをし、カルルはちょみっと提案してみる。
シャンリンよりすごいというカルルの言葉は、お嬢様の耳にこの上なく魅力的に響いた。
「いいわ。おとーさまに言えばすぐに借りてくれるはずだもの」
ふふんと両手を腰に当ててふんぞり返るロリっ子。
子供な分、シャンリンより扱いやすそう?
「気をつけるんじゃよ〜」
速攻で用意された貸切りの船に荷物をせっせと積み込み、小丹に見送られながら冒険者達は長い船旅に出るのだった。
●船は貸切りどんぶらこっこ☆
「えっと‥‥大丈夫?」
「ん」
アルフレッドは船の片隅でくったりとしているエファに声をかけ、その背をさする。
初めて乗る船は貸切だろうと豪華だろうとよく揺れて、船旅に慣れていないものには堪えた。
「おなか空いたー! 美味しい料理ってまだ?」
そしてエファの元気を吸い取ったかのように元気なのはお嬢様。
アルフレッドの渡したお守りが効いているらしい。
「まかしときぃ。いま新鮮な魚を釣り上げてるさかい。っと、ゆってる側からかかったで〜!」
どっぱーん☆
中丹がニョルズの釣竿を引くと、大きな魚がコロンと甲板に吊り上げられた。
目の前で魚が釣られる様子などを見たことのないお嬢様は、興味深々に見つめている。
「お魚はめずらしいのかな?」
カルルは吊り上げられた魚の匂いをくんくんとかぎながら尋ねる。
料理される前の生臭いそれは、カルルにもあまり馴染みがないかもしれない。
「これ、魚なの?」
じっと魚を見つめていたお嬢様が中丹を見上げる。
「そやで」
即答する中丹に、けれどお嬢様はぷっと膨れた。
「‥‥うそつき!」
「え?」
「お魚はこんな形してないわ! クリームがかかってて、美味しい香りがするものっ」
だんだんだんっ。
甲板の上で足を踏み鳴らして抗議する。
「そやな。お嬢はんはみたことないんやな。したらこれ、コックに今から料理するところを見せてもらいまっせ」
お嬢様のお父様が手配したコックに事情を話し、みんなの目の前で魚が調理されてゆく。
初めての経験に、お嬢様は瞳を輝かせて機嫌を直した。
「食事が終わったら乗馬をしてみない?」
新鮮なお魚料理をほうばって、カルルが提案する。
「海も空も‥‥いまは安全そうだから‥‥いいかもしれないね‥‥」
定期的に空に舞い上がり、あたりの安全を確認していたアルフレッドも頷く。
「ん〜、面白そうなので採用」
大分揺れに慣れてきたエファも頷き、冒険者とお嬢様、そしておまけの受付係も船の上で乗馬をしだす。
ぽっくりぽっくり。
広いとはいえ船の上だから、走ったりはせずにゆっくりと馬を歩かせる。
「乗馬は得意なのよ♪」
「リンフォアお嬢様は、乗馬が好きなのかな?」
お嬢様が乗る馬が間違っても暴れないように手綱を引きながら、カルルは尋ねる。
「うん。よくお庭で乗っていたのよ。どこでだって乗れちゃうんだから! おねーちゃんよりもずっと上手なのよ」
自慢気で高飛車なお嬢様に嫌な顔一つせず、カルルはうんうんと頷いてあげる。
「シャンリンお嬢様と一緒に乗ってたの?」
「ちがうわっ! あんな人とは乗らないもんっ‥‥うきゃっ!」
「おっと!」
シャンリンの名前に興奮して馬から落ちかけるお嬢様を、中丹が抱きとめる。
「シャンリンお嬢様のことがきらいなの?」
「そうよっ、だいっ嫌いよっ! ‥‥わたし置いて勝手にジャパンにいっちゃうし、そのくせ今度は戻ってくるとかいうし!
ぜったい、嫌いなんだからっ!!!」
お嬢様は中丹の腕の中でじたじたと暴れて嫌いを連呼しているが、どうみても姉に構ってもらえなくてだだをこねているようにしかみえないのは気のせいだろうか?
「シャンリン様もロシアに来てくれるといいね」
なでなでなで。
カルルは微笑んでお子様なお嬢様の頭を撫でる。
「お嬢様‥‥海豚をご覧になったことは‥‥ありますか‥‥?」
何度目かの偵察で海豚を見つけたアルフレッドは、海の彼方を指差す。
そこには、愛くるしい姿の海豚が数匹戯れていた。
「うわーうわー、かわいいっ!」
中丹の腕を飛び出し、手すりに駆け寄るお嬢様。
シャンリンお嬢様と同じく、海豚を見たのは初めてらしい。
船はゆっくりとロシアに近づいてゆく。
●お・ま・け☆
「僕と、結婚してください!」
無事にロシアに着いた早々、万年独り身受付係はぶっ飛んだ事を言う。
もちろん、相手はエファだ。
「ん〜、面白そうだけど不採用?」
なぜか中丹から手渡されたローズウィップを手に持っているエファは、にこにこと微笑んで却下。
自分にベタぼれだと思っていたエファにあっさりふられて、万年一人身受付係の顔面は蒼白。
「うわああんっ、あんまりですーっ!」
夕日に向かってダッシュな勢いで、万年独り身受付係はキエフの街に消えた。
数日後。港に万年独り身受付係の姿があったとか?