万年一人身受付係〜お仕事ください!〜
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 35 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月19日〜10月24日
リプレイ公開日:2006年10月31日
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●オープニング
「仕事がないんです‥‥」
しんみり。
キエフの冒険者ギルドでうなだれるパリの冒険者ギルドで働いていた万年一人身受付係。
愛らしい冒険者に誘われてロシアに来たものの、ロシアにおいては身元が確かでない万年独り身受付係は仕事にあぶれていた。
「僕は本当にパリの冒険者ギルドで受付をしていたんです。信じてはもらえませんか?」
もう何度も説明した事を万年独り身受付係はキエフの受付に訴える。
けれどこれまた何度も聞いた話にキエフの受付係は渋い顔。
「パリに帰ろうにも旅費がないんです。どこかに働き口はありませんか? 読み書きは得意ですよ」
「うーむ、そんだったら、わしの手伝いをしてくれんかね?」
悩める万年一人身受付係に、ふいにそう声をかけてくる人物があった。
見るからに人のよさそうな好事家は、万年受付一人身係が言語に精通しているとのことで、遺跡調査の一員になってほしいという。
「僕が、冒険者???」
「うむ。冒険者に頼むこととはまた別だがな、読み書きとあと、言語にも精通しているようだし、そっち方面で協力してくれんかのう?
あんたが本当にパリの冒険者ギルドで受付をしていたなら知っていると思うが、読み書きのできる人間というのは意外と少ないものだからな」
キエフの受付として働けずとも、好事家の助手として働ける。
ふって湧いたこの幸運に、万年独り身受付係は一もにも無く飛びついた。
「ぜひ、僕を雇ってください!」
(「助手になって、お金持ちになったら彼女も振り向いてくれるかもしれません」)
心の中に自分をキエフへと誘った冒険者の少女を思い浮かべ、万年一人身受付係は仕事の内容を早速聞き始める。
はっきりきっぱり下心満載。
「なら決まりだな。わしの代わりに遺跡にいってきてくれるかのぅ」
好事家はにこにこと笑って万年一人身受付係に地図を差し出す。
「‥‥遺跡探索?」
言語とどう関係があるんだ?!
思わず突っ込みを入れたくなる万年一人身受付係だったが、背に腹は変えられない。
「この仕事、受けさせていただきます」
絶対、なんか間違ってるよ!
そんな心の叫びと共に、万年独り身受付係は冒険者と一緒に遺跡探索依頼を受けるのだった。
●リプレイ本文
●だってほら、独り身だし?
万年一人身受付係がギルドにつくと、そこにはもう冒険者達が集まっていた。
「あ、ひさしぶり!」
冴えない万年一人身受付係をみつけ、エファ・ブルームハルト(eb5292)は即座に声をかける。
「あなたわっ!」
「心配したんだよ? 受付君いなくなっていつも気になってギルドで待っていたのに‥‥」
自分をパリからロシアに呼んだ美少女冒険者にどぎまぎする受付に、エファはちょっぴり上目遣いで見つめる。
はっきりきっぱり計算づく。
だってほら、弄りがいのある相手はきっちりキープしておきたいし?
(「瞳をほのかに潤ませているあたり、芸が細かいわね」)
からかわれている事に気づかずに、どぎまぎしている受付をちょっぴり哀れに思いつつ、アリアス・アスヴァール(eb6622)は細かいところまで良く見ている。
「あ、あれ? もしかして、男性は僕だけですか?」
可愛いエファから目をきょろきょろと彷徨わせていた受付が、ふと重大な事実に気づく。
そう、今回集まった冒険者は万年一人身受付係を除いてなんと全員女性だったのだ。
「いいところを見せたら、よりどりみどりの恋が始まるかもですよ♪」
からかいがいがあるとみて、メイユ・ブリッド(eb5422)も受付の耳にそっと囁く。
その際、色っぽい吐息も忘れていない。
受付係は真っ赤になって走ってゆく。
●どきっ! 一緒のテントでわっくわく?
問題の遺跡に着き、冒険者達は野宿の準備を始める。
簡易テントをいくつか設置し終わる頃、それまであまり話さなかったミランダ・アリエーテ(eb5624)が万年一人身受付係を呼び止める。
「あなた、そんな髪型では素敵な女性に逃げられてしまいますよ? 整えてあげます」
なんとなくぱっとしない受付を手頃な岩に座らせて、ミランダは慣れた手つきで鋏を入れてゆく。
チョキンチョキンと小気味良い音が遺跡に響く。
「受付さんは、どうしてキエフにいらしたんですか?」
幼いウサギのムーンを抱っこしたフィーリア・ベルゼビュート(eb5981)が受付係に尋ねる。
キエフからパリまではとても遠く、そうちょこちょこと行き来できるものではないのだ。
それなのにパリで受付をしていたという彼は、何故キエフに来たのか。
「愛です」
きっぱり。
フィーリアの色違いの瞳を真っ直ぐに見つめ、受付係は言い切る。
勢いあまってフィーリアの小さな手を握り締めてしまったり。
「小さな子がご趣味なんですね」
受付係が愛を口にした瞬間にテントから出てきたカーシャ・ライヴェン(eb5662)は、ほっとしながらそんな勘違いを披露する。
愛する夫と可愛い二人の子供にまで恵まれたカーシャにとって、万年独り身受付係は可哀想だけれどお断り。
「そうか、受付は幼女趣味というやつなのだな。ああ、そんな目で見るでない。私は子供ではないのだ。これでも酒を飲める歳なんだぞ?」
クリスティン・バルツァー(eb7780)はフィーリアの勘違いを真に受け、受付係は年下が趣味と認識。
「ま、まってください、皆さん、これは誤解‥‥」
「受付君‥‥そうだったんだ‥‥」
エファはもうわかっているのに、わざと受付をからかう。
「あなた、自分のテントは持っていないわね? もしあれなら、私のテントで寝かしてあげるわ」
からかわれまくる受付が不憫で、アリアスが助け舟を出す。
でも、
「ただし‥‥解ってるわね?」
何かしたら、ただじゃおかないと殺気のこもった視線で釘を刺すことも忘れない。
「受付さん、いい子いい子です」
外で毛布に包まっていじける受付を、フィーリアは撫で撫でと慰めるのだった。
●遺跡は危険がいっぱい?!
「マッピングとランタン持ち、どっちがいい?」
ジュラ・オ・コネル(eb5763)が受付に声をかける。
「マッピングは私が請け負うぞ。筆記用具は持参してあるでな」
クリスティンが筆記用具を取り出してみせる。
「なら、受付さんはランタン持ちだな。ランタンは扱えるだろう?」
受付に使い方を説明しながらジュラは火打石でランタンに火を灯す。
陽は所々漏れ込むものの、やはり何処となく薄暗い遺跡を明かりが照らす。
「ふむ、一応私も用意しておこうではないか」
クリスティンはインフラビジョンを唱える。
これで、受付がドジを踏んでランタンの明かりが消えてしまっても、暗闇の中に放り出されるという事態は回避できる。
戦闘力の無い受付を守るように、冒険者達は遺跡へと足を踏み入れてゆく。
「そろそろ交代だ」
遺跡を訪れて数日。
散らばっているという石版は羊皮紙とは違い、重くていっぺんに運び出せない為に冒険者達は何度も遺跡とテントを往復していた。
「まだ時間には少々早いのでは?」
剣の手入れをしながら見張りをしていたカーシャは、交代に来たジュラに小首を傾げる。
約束の時間は少なくとも後二時間は後だろう。
「今日は疲れたろう? 少し休んだほうがいい」
たまたま遺跡が崩れ落ちてきた石に腕を負傷したジュラを、カーシャは即座にリカバーで治療しているのだ。
魔力回復の点を考えても、多くの睡眠をとっておいたほうがいい。
「でも‥‥」
「いいから。な? ミランダさんもそろそろ起きて来るだろう」
「わかりました。お言葉に甘えて、寝かさせて頂きます。あ、ミランダ様、入れさせてくださいね」
丁度起きて来たミランダに頭を下げ、カーシャはミランダのテントに入ってゆく。
「ふむ、敵だな」
インフラビジョンの反応をみて、クリスティンは目を細める。
その姿はまだ見えていない。
遺跡を探索する冒険者の間に緊張が走る。
「あなたはわたくしの後ろに、アルドールと共にいて下さいです!」
メイユが慌てる受付係をペットの背に庇う。
「ん〜、面白そう♪」
エファが弓を引き絞る。
「方角は右前方? 数は‥‥それなりだわね」
クリスティンの告げる内容をもう一度呟いて、アリアスは呪文詠唱をし始める。
ミランダの白刃が薄闇に煌く。
「来ましたですっ」
姿を現したジャイアントラットの群れに、フィーリアはムーンを抱きしめながらスリープを詠唱する。
「もっと小さいほうが好みかな」
飛び掛ってきたジャイアントラットを剣で切り落とし、ジュラはその尻尾を摘む。
ジュラのフードに潜っていた子猫のマスターシェが欲しそうに喉を鳴らす。
「ん〜、楽勝?」
数は多くとも、これといって特化した戦闘力を持たないジャイアントラットは、冒険者達の敵ではなかった。
エファの放った矢が、敵の眉間を貫いた。
「あまり暴れてはいけませんですよ♪」
メイユのコアギュレイトが地道にジャイアントラットを拘束し、何とか唱え終わったフィーリアのスリープで眠りかける敵続出。
流石に寝かけても周りがこれほど騒がしければ起きてしまうからあまり意味はないのだが、一匹でもその行動が鈍るのはありがたい。
「うわっ、うわわっ?!」
「受付様、しっかりですっ!」
受付を守ろうとしたアルドールにびびり、受付は慌てふためいてランタンを取り落としてころんだ。
即座に受付に群がろうとするジャイアントラットをアルドールが蹴散らし、カーシャが駆け寄る。
「今直しますです‥‥リカバー!」
軽く噛み付かれて泣きべそ状態の受付に、カーシャは治癒魔法を唱える。
「あんまりやんちゃすると許さないんだよ?」
からかい相手を攻撃されて、エファはちょっぴり本気モードでジャイアントラットを次々と打ち抜いてゆく。
「おお、アイスブリザードだけは打たぬであろう?」
「わかっているわ」
クリスティンに釘を刺され、アリアスは当然とばかりに頷いてウォーターボムを撃ち放つ。
遺跡の中でファイヤーボムとアイスブリザードなどを撃っては、敵ばかりか味方までも巻き込みかねない。
アリアスの放ったウォーターボムは敵を一気に吹き飛ばす。
「これはどうだ?」
ジュラが切り捨てたジャイアントラットの遺体を群れの中に投げ込む。
ジャイアントラット達は咄嗟の行動だろうか?
四方八方に散り散りと逃げてゆく。
奥へ逃げていったものは特に追わず、向かってくるものだけミランダの日本刀が切り捨てた。
●エピローグ
「皆さんのおかげで、石版はほぼ集まりました。ありがとうございます!」
ギルドの戻り、並べられた石版を見て受付係はとってもご機嫌♪
「読めるの?」
ジュラの質問に、受付係は大きく頷く。
ちょっぴり疑いの眼をもたれていようと、今日の受付係はなんのその。
『いきなり結婚は無理だけど、お友達から始めましょ♪』
運命の人かもしれないエファにそういってもらえたのだ。
(「僕の春は、きっともうすぐですっ!」)
一生そんな日は来ないに違いないのに、喜ぶ受付係に冒険者達は何もいえないまま、今回の仕事を無事に終えたのだった。