●リプレイ本文
●見渡す限りの雪ゆき
冒険者ギルドからほんのりと離れたその村は、一面雪に覆われていた。
連日降り続けた雪は白く冷たく、そして重く村にのしかかる。
「キエフの冬は凄いけど、流石に家を潰すような凄さはいらないにゃー‥‥」
家が雪で倒壊したと聞き、すぐさま駆けつけてくれた冒険者、ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)は目の前の状況に軽く冷や汗。
ギルドで話は既に聞いていたが、本当にものの見事にべっちゃりと家が潰れていたのだ。
「力仕事は苦手なんだがな。まず雪を避けるのが先だ」
ルイーザと共にギルドから訪れた赤髪の色男、ラッシュ・アルバラート(eb7168)はいいながら周囲を見渡す。
(「建築の専門家はいないのか?」)
潰れた家にどっしりと乗っかっている雪はラッシュ達ですぐに排除できるだろうが、流石に家の設計図を描くのは難しい。
卓越したとまでは行かずとも、手習い大工の一人ぐらいはいるだろうか?
ラッシュとルイーザの他にも冒険者は来ているのだが、誰も建築技術は心得ていない。
全壊ではなく、破損している家々は設計図などなくとも何とかできそうだが、小さな平屋とはいえ一から家を建て直すにはそれなりの技術が必要だ。
もし村に建築技術を持つものがいなければきちんとした家を建て直すのは不可能かもしれない。
「まぁ今回の面子は体力有り余ってる人ばっかだし、単純な力仕事ならこれ以上ない面子っしょ。全壊家屋のことに関しては‥‥あたし達の中には設計できる人いないしなぁ」
ルイーザも全壊の家屋を設計しなおす事ができる技術は持ち合わせていないようだ。
嫌な予感に柳眉を顰め、周囲を見回すラッシュは、けれど次の瞬間破顔した。
丁度村長の家から年頃の娘が出てきたのだ。
村長の娘だろうか?
しかも手には大き目の羊皮紙。
遠目にも、設計図だとはっきりわかる。
そして美人なことも。
「こいつは運命だな」
思わず心の声が漏れる。
困っている人を助けるのは当然として、見返りに美女の感謝を求めるのも男として全うだろう?
俄然やる気の増したラッシュは髪をかきあげながら美女に近づいてゆく。
そしてルイーザは分厚い防寒具を腕まくり。
「こんな被害にあったみんなが可哀相で仕方がないよ。まぁ体力だけは有り余ってるのが冒険者だし、その辺のことはお任せあれ!」
不安そうに見守る村人達に、ぐぐっと力こぶを作って笑う。
さばさばと明るいルイーザにそういわれると、家なんてすぐに元通りになってしまいそうだ。
ルイーザとラッシュ、それと他の力自慢の冒険者達を中心に作業は始まった。
●どうやって建て直す? 努力と根性見せてやるっ!
「兎に角、壊れた箇所の確認と廃材の撤去、それと利用可能かどうかの見極め。そして全壊した家屋の組み立てと、やることはいっぱいあるにゃー」
えっちらおっちらと雪を退かしつつ、ルイーザはこれからする事を指折り数える。
「俺の作った特製ソリはどうだ?」
ラッシュが村にあったソリを雪を退かしやすい用に手を加えたそれは、女性でも持ちやすく力が入れやすい。
「最高だよ♪ ヴァイス用のソリまでありがとにゃー」
筋肉質で、女性ながらに冒険者の中でも体力に自信があるとはいえ、余分な力を使わずに作業が進められればそれだけ早く終わる。
愛馬のヴァイス用のソリにも雪を積み込み、ルイーザはご機嫌。
「なら作った甲斐があるってもんだ。‥‥おい、この家の主は誰だ?」
前半はルイーザに、後半は周囲の村人達に向けてラッシュは尋ねる。
おずおずと手を上げる主人に、
「この家の中で必要な家具はあるか? 殆どが潰れてしまっているが、直せばまだ使えそうなものもあるだろう」
これなんかは使えそうだとラッシュはテーブルの残骸を持ち上げる。
年代を感じるそのテーブルは足は折れてしまっているが、テーブル板自体は分厚く頑丈で足を付け直せばまだまだ現役で活躍できそうだった。
ラッシュは主人と一緒に出来る限り修復して使えそうな家具と、再利用できる木材を探す。
ある程度村側でも木材を調達できているが、どう見ても貧しい村。
家だけ建て直してもベットもテーブルも何も家具がない生活は辛い。
無駄な出費は出来るだけ抑え、そういった必需品に資金が回せれば幸い。
冒険者達はあらかた雪を退かし終え、新たに家を建てるべく廃材の撤去にかかる。
●疲れた時には一休み♪
「炊き出しだにゃー♪」
村の娘達と一緒に、ルイーザはご機嫌に木のお玉を振る。
料理は特に得意ではなかったから、ルイーザがしたのは食材の持ち運びや薪の調達がメインだったが、彼女の明るさのスパイスが加わったお料理は温かく、冒険者と村人の寒さで凍えた指先と心がじんわりとほぐれてゆく。
「おかわりはいっぱいあるから、どんどん食べてだよ」
「ありがとうよ。疲れは大敵だからな、助かるぜ」
ラッシュも一息入れて、さり気なく村娘の側に座る。
「あんたも食うか? ほら、よそってやるぜ」
そしてなにやら引っ込み思案の村娘にもお料理をよそってあげながら、さり気なく肩に手を回したりも。
根っからの女性好きなのだろう。
これで相手の少女が嫌がっていたならセクハラなのだが、相手の少女も嬉しそうに料理を受け取っていたりする。
(「これは、いけるな」)
ラッシュは少女の耳元でなにやらこそっと囁いた。
そして少女は真っ赤になりながら頷いていた。
●綺麗なお家はいいものだ♪ お疲れさま〜!
「壊れた家をとってっかん♪ 久々に純粋な力仕事やったけど、思いっきり体を動かすのも悪くないもんだにゃー」
ルイーザが最後の釘を打ち込んで、額の汗を拭う。
目の前には、とても短期間で作り上げたとは思えないきちんとした家屋が建っていた。
ラッシュが修理したテーブルも家の中央に置かれ、廃材を再利用した家具も見事だった。
全壊した家以外はそれはもうさくっと補強して作業終了。
けれどラッシュはどことなく浮かない顔。
「ん? どうしたのかな。疲れたかにゃ?」
「まあ、なんでもないさ。何事も予想通りには行かないってことだな」
心配げに尋ねるルイーザに苦笑してラッシュは肩をすくめる。
炊き出しの時、ラッシュは村娘を夜のデートに誘っていたのだ。
少女も確かに頷いて、良い思い出が作れそうだったのだが‥‥。
(「まさか、親御さんに見られていたとは思わなかったぜ」)
待ち合わせの場所にいつまでたっても現れなかった少女は、どうやら親父さんに捕まって家から出られなかったらしい。
もちろん、美少女な村長の娘もその次の日に誘ったのだが、残念な事に恋人がいるらしい。
「よくわからないけど、元気出して。誰でも笑えるに限るよ♪」
底抜けに明るいルイーザにつられ、ラッシュも笑う。
(「そうさ、目の前にこんなに魅力的な女性がいるじゃないか」)
村娘達とのデートも楽しそうだが、彼女となら同じ冒険者。
一緒に肩を並べて過ごせるかもしれない。
(「そう、俺は恋の狩人。永遠に恋を追い続けるさ」)
「あんた、その荷物もってやるよ」
「わあ、ありがとだよ!」
下心満載のラッシュの気持ちを知ってか知らずか、ルイーザはやっぱり明るい。
サクサクと踏みしめる雪の音が楽しげに響いた。