〜君の手は夢のように冷たくて〜
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■ショートシナリオ
担当:霜月零
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:7 G 30 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月10日〜03月15日
リプレイ公開日:2008年04月08日
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●オープニング
少年が、いつものように教会で祈りを捧げている時だった。
「‥‥あれ?」
ステンドグラスが消えている。
いや、よく見えればそこにあるのだが、白く凍てつき、少年の大好きな天使の絵が見えづらくなっている。
そして凍っているのはステンドグラスだけではない。
教会の壁も凍りついている。
少年は、氷をそっと目で辿ってみる――。
「‥‥きみ、そんなところでどうしたの?」
氷の発信源と思われる明らかに人外の少女に、少年は臆することなく声をかける。
少女がステンドグラスから抜け出てきたような容姿で、震え、怯えていたせいかもしれない。
部屋の隅で隠れるように蹲っていた少女は、小さく呟く。
『雪は、どこ‥‥?』
つい先日まで降り積もっていた雪は、春の日差しに解け始めている。
少女も一緒に解けてしまいそうだった。
「迷ってしまったの? 雪がある場所、探してあげる」
少年は手を差し伸べて、すぐにはっとして引っ込める。
手の熱で溶けてしまっては大変だから。
「あ、それと、これを着てて。君の姿は、きっと目立っちゃうから」
少年はいそいそと自分が纏っていたローブを少女に被せる。
少女はそんな少年の申し出にこくりと頷いた。
「事は緊急を要するざーます」
ギルドの受付はツンと言い放つ。
一時期はやったツンデレとは程遠いツンケン振りに冒険者ははふーっと溜息をつきそうになる。
「雪の精霊が街を襲っているざーます。街は大混乱ざーますよ。さっさといって退治してきて欲しいざーます」
ギランッ。
溜息交じりに聞いていた冒険者に受付の鋭い釣り目が光る。
「運悪く遭遇してしまった住民の情報によれば、雪の精霊は『返せ』と叫んでいたらしいざます」
「何を返せばいいんだ?」
尋ねる冒険者に受付は盛大にフンッと鼻を鳴らす。
「それがわかれば苦労しないざーます。雪の精霊が街を襲う前に起こった出来事といえば、教会が凍りついていたことと、その町の少年が見知らぬ子供と一緒に洞窟へいったらしいということぐらいざーます」
「洞窟には何があるんだ?」
「何もない場所らしいざますよ? せいぜいあるのは雪ぐらいざーます」
ざーますを連発するツンツンすぎる受付を前に、冒険者はこの依頼を受けるべきがどうか暫し考え込むのだった。
●リプレイ本文
●敵の目的
「雪の精霊が暴れてる、か。なんか理由でもあるのかねぇ?」
ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)はギルドから貸し出された高速馬車の中で呟く。
極寒の北国であるキエフとはいえ、そろそろ春の日差しが暖かく、雪もほぼ消え始めている。
雪の精霊が現れるにしては、少々時期が遅い。
「春も近いのに雪の精霊にゃー‥‥んーむ、何があったのかにゃ? 出来れば平和的にいきたいんだけどねー、あたしは」
話を聞く限り戦闘はどうあっても避けれそうにない雰囲気に、いつもは明るいルイーザ・ベルディーニ(ec0854)もちょっぴり困惑顔。
出来れば事前に情報を集めたい所なのだが‥‥。
「雪の精霊ですか‥‥フロストクィーンが絡んだ依頼で、フロストプリンセスと対峙した事ならありましたね」
エカテリーナ・イヴァリス(eb5631)は真剣な面持ちで以前自分が対峙したという精霊を思い起こす。
「それって、やっぱり同じ精霊なのかな?」
十字架のネックレスを握り締め、街の人々の無事を祈っていたイルコフスキー・ネフコス(eb8684)が尋ねる。
「どうでしょう。ギルドからの情報を聞く限りでは非常に酷似しているのです。ですが街に居るのが何かはまだ分かりませんが、フロストクィーンであれば、その娘であるプリンセスが側に居ないのも少々おかしな話かと。常に付き従っているとの話を聞きましたので」
ギルドから与えられた情報は、雪の精霊が一体。
複数体と言う情報は得ていないのだ。
「雪の精霊が暴れている理由が気になるんだよ。雪の精霊を滅ぼさずに解決できるなら、その方がいいと思うんだ」
精霊が何について怒っているのか。
モンスターとはいえ、命あるもの。
理由を尋ね、無駄にその命を奪わずにすむならそれに越した事はない。
「仲間意識の強い精霊だったと思いますから、案外その辺りが原因かもしれませんね‥‥仲間のうちの一人が迷子になっているとか」
直接対峙した事のある精霊とは限らないが、超越したモンスター知識を持つ沖田光(ea0029)は精霊の怒りの理由におおよその目安をつけているようだ。
そして、『無闇に街に出てきて暴れる類の精霊ではありません、きっと何か事情があるんだと思いますから』とも付け加える。
「‥‥冷えてきます」
宮崎桜花(eb1052)が窓の外を見、白い息をつく。
辺り一面銀世界が広がっていた。
●凍りついた街
「出会い頭に備えられるといいんだよ。グットラック!」
街に着くと、すぐさまイルコフスキーが皆に祝福を祈る。
「‥‥気合でがっつりガード! ‥‥出来ればいいんだけど」
ぐぐっと拳を握るルイーザの頭には、なぜかラビットバンドがふわっとゆれる。
どう見ても和んでしまうそれは、けれど勘を高める魔力を秘めている。
宮崎はそのふわふわについ追いかけたい衝動を駆られながら、霞刀の柄を握り締める。
まだ精霊は現れてはいないが、いつ襲撃されるかわからない。
「噂の洞窟とか調査すれば何か分かるのかもしれないけど、どーも、そんな余裕はなさそうだね」
アイスコフィンで成す術もなく氷の棺に閉じ込められている街の人を見つめ、ジョセフィーヌはキリッと奥歯を噛み締める。
氷の棺の中は時がほぼ止まっている。
ゆえに中の人々は無事だ。
だが、一刻も早く被害を止めないと死人が確実に出るだろう。
沖田も周囲を見回し、情報が得られる状況でない事を悟る。
雪の精霊が暴れている場所と、凍り付いた教会と少年の話、そして洞窟の場所。
沖田はギルドから得た情報をより詳しく街の人に尋ねる事が出来れば、それが今回の事件を解決に導くような気がしていた。
だが生き延びた人々は既に別の場所に一時的に避難しているのだろう、近くに人の気配がない。
「洞窟に行った2人も気になりますが、それを調べる為にもまずは雪の精霊の被害を止めます」
事情や情報を知りたいのは山々だが、それには精霊を止めて街の皆を先に助ける必要がありそうだ。
(「おいら、頑張るから。神様、力を貸して‥‥」)
イルコフスキーは精一杯、神に祈る。
●怒れる精霊
「きなすったね!」
ピュイッと口笛を鳴らし、ジョセフィーヌは弓を構える。
その眼前には雪の精霊―― フロストクィーン!!!
「落ち着いてください、貴女は何故こんなことをするんですか」
問答無用で攻撃を繰り出してきたクィーンに沖田は説得を試みる。
『返せ‥‥!』
だが美しすぎる氷の美女から返ってきた答えは短い言葉とアイスブリザード!
「ホーリーフィールド!」
咄嗟にイルコフスキーが高速詠唱で結界を形成する。
だが手加減など一切ないクィーンの吹雪は結界を吹き飛ばし冒険者達に襲い掛かる!!!
「一発くらいなら食らう覚悟はしてたけど、きっついにゃー!」
問答無用の戦闘は覚悟していたが、高レベルの攻撃魔法をその身に受けるのはやはり生半可ではない。
両手利きを生かして構えた二振りの小太刀を構え、ルイーザはそれでも攻撃に耐えながらチャンスを伺う。
「宮崎桜花、参りますっ!」
志士らしく名乗りを上げ、宮崎がクィーンに向かって特攻を仕掛ける。
誠の鉢巻が吹雪になびく。
「暴れるだけじゃ余計にややこしくなる、何故それがわかってくれないんですか!」
フレイムエリベイションで士気を向上させ、沖田も苛立たしげに叫び炎を生み出す。
生み出されたそれは彼の身体を覆い、火の鳥となる!
「吹雪の中だって正確にあんたを射抜くよ。なんてったって、これで飯食ってるんだからね」
宮崎を援護すべく、ジョセフィーヌがクィーンを射抜く―― 狙い違わず急所を外して。
『うっ‥‥っ!』
「大人しくしてください!」
フェイントにつぐフェイント。
宮崎の読めない剣先がクィーンを翻弄する。
『許さない‥‥!』
だが、敵は雪の女王。
彼女の吐息は吹雪そのもの。
彼女が紡ぐ言葉は死への道標。
「あぶないっ!!」
クィーンが宮崎を死に追いやる前に、エカテリーナが間に合った。
女王のアイスコフィンはエカテリーナとその楯が防ぎきる!
悪魔を彷彿とさせる恐ろしい顔が彫られた楯は頼もしく、さまざまな加護や祝福を得ている衣類と、そして何より彼女の強靭な心が氷の棺を遮ったのだ。
「‥‥兎も角落ち着けー! 君がッ、落ち着くまでッ、殴るのをやめないッ!!」
機会を伺っていたルイーザが一気に間合いを詰め、クィーンをその小太刀で殴りつける―― そう、切るのではなく、その峰でダブルアタックを繰り出す。
そしてとどめに火の鳥と化した沖田がクィーンの戦意を喪失すべく、アタックを仕掛ける。
ただでさえ春の雪解けシーズン、時期外れな行動を取っていたクィーンはふらりと溶けるかのようにその場に倒れ付した。
●雪の中でまた逢おう
「何を返して欲しいのですか?」
戦意を喪失したクィーンにエカテリーナは尋ねる。
「こちらが出来ることなら出来る限りやるからさ。あたしたちを信じてよ」
ルイーザも頼もしくクィーンに手を差し出し、助け起こす。
「おいらで治してあげられるのかな?」
イルコフスキーがリカバーをクィーンに施す。
冒険者達はみな、彼女を殺してしまう事のないように力を抑えながら戦っていたが、それでも戦いの傷が残っている。
果たして彼の治癒は彼女を治したのか‥‥少なくとも彼女の信用を得るには十分な行為だったようだ。
『娘‥‥』
フロストクィーンの整った唇がゆっくりと開く。
「よく無事でしたね」
街の人々を氷の棺から大量の火で救い出した冒険者達は、噂の洞窟に潜んでいた子供達を見つけた。
この街の少年と見知らぬ子供―― フロストプリンセスは洞窟の中で遊んでいたらしい。
少年のほうは街が襲われた原因に心当たりがあったものの、彼女と一緒にいたくて黙っていたとか。
「また雪の降る時期になればきっと会えます。雪のある所には必ず雪の精霊が居るはずでしょうから」
別れたくない、離れたくないと涙ぐむ少年に、エカテリーナはゆっくりと諭す。
「彼女を放っておけない気持ちはわかるけど、彼女は人間の街にいてはいけない存在なんだ。でも、またいつかきっと会えるよ」
街の人々もリカバーで回復してあげたイルコフスキーも少年を説得する。
できれば、少年の気持ちを大事にして一緒にいさせてあげたいけれど、彼女がこのままここに残れば、悲しすぎる別れにならないとも限らない。
ずっと黙っていたプリンセスが口を開いた。
『ママ‥‥?』
洞窟の外に待たせていたクィーンの気配に気づいたのだ。
何故洞窟の外に待たせたかといえば、娘と少年をみてまた感情が高ぶってしまっては大変だからだ。
少年が別れに頷き、
「お迎えが来ているよ」
イルコフスキーは少女を促す。
クィーンとプリンセスは皆に微笑み、粉雪を纏わせながら雪山へと飛んでゆく。
「娘さんを大切に思う気持ちも分かりますが、もうあんな無茶はやめてくださいね」
「来年もきっときてあげてなんだよ」
消え去るプリンセスの背中にイルコフスキーも叫ぶ。
「さあ、これからは後片付けがまってるよ。凍らされた物を解凍するのが一番大変だろうねぇ」
ジョセフィーヌはピュイッと口笛を吹いた。