101匹ワンわん☆

■ショートシナリオ


担当:霜月零

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:6人

サポート参加人数:4人

冒険期間:08月15日〜08月22日

リプレイ公開日:2005年08月26日

●オープニング

「増えちゃったの‥‥」
 冒険者ギルドの受付で、両腕で可愛い子犬達をぎゅうっと抱きしめながら涙ぐむ幼いお嬢様と、その隣で油断なく周囲に目を光らせる執事のピエール。
(「ああ、そんなにきつく抱きしめたら子犬達苦しいって」)
 万年一人身のギルド受付係は心の中で突っ込みをいれつつ、
「ご依頼は、この子犬達の処分‥‥じゃなくって、引き取り先を探してほしいという事でよろしいでしょうか?」
『処分』という言葉にびくっと反応してよりいっそう涙ぐむお嬢様と、執事のピエールに鋭い眼光を更に鋭くして睨まれて慌てて言葉を選ぶ受付係。
「おとーさまが、捨ててこいって言うの‥‥ひどいの! こんなに可愛いのに・・・・」
 長らく仕事で家を空けていた幼いお嬢様の最愛のお父様が屋敷にお戻りになったのはつい最近の事。
 お父様がいない間、ずっと執事のピエールとメイド達と共に暮らしていたお嬢様が寂しさのあまりボーダーコリーを飼い始め、そして一匹では可哀相だというお嬢様の言葉に執事が頷いたのがきっかけ。
 つがいで飼うようになってからあれよあれよという間に子犬が増えてゆき、いつのまにか膨大な数のボーダーコリーに屋敷を占拠されていたのである。
 いくら一人娘を愛しているとはいえ、流石にお父様もそれを許す事は出来なかったのだ。
「一体、何匹飼っておられるのです?」
「101匹でございますな。それはそれは愛らしい犬達でございます」
 眉一つ動かさずにしれっと答える執事に、
(「だみだこりゃ」)
 ギルドの受付係は天を仰いだ。

●今回の参加者

 ea4324 ドロテー・ペロー(44歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb1118 キルト・マーガッヅ(22歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb1321 シュゼット・ソレンジュ(23歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2999 ディートリヒ・ヴァルトラウテ(37歳・♂・神聖騎士・人間・フランク王国)
 eb3000 フェリシア・リヴィエ(27歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 eb3050 ミュウ・クィール(26歳・♀・ジプシー・パラ・ノルマン王国)

●サポート参加者

ヴィグ・カノス(ea0294)/ 長渡 泰斗(ea1984)/ アール・ドイル(ea9471)/ フロリス・バルタザーン(eb1005

●リプレイ本文

●いっぱいのわんこ☆ でも、あげれないの、ごめんね?
 わんわん♪
 わんわんわんっ♪
 冒険者達が幼いお嬢様――アオイお嬢様のお屋敷を訪れると、山ほどの犬が尻尾を振って飛びついてきた。
「うっわぁ。わんちゃんいっぱいだねぇ〜♪ このあいだ来た時は気付かなかったよぅ。でも、あたしの上からちょみっとどいてもらえるとうれしいなぁ」
 たくさんの可愛いボーダーコリーに囲まれて嬉しいものの、その内の一匹にものの見事に乗っかられてちまっこいミュウ・クィール(eb3050)は苦笑する。
「本当に多いですわね。依頼書にも多いと書いてありましたし、ヴィグからもボーダーコリーが山ほどいるとは聞いておりましたけれど、これほどとは思いませんでしたわ」
 側にすり寄ってきた1匹をぎゅうと抱きしめながら、しみじみと呟くのはキルト・マーガッヅ(eb1118)。
 友人のヴィグがあらかじめ何種類の犬が、どれほどいるのか調べてきてくれていたのだが、実際に目にするとその多さは文字で目にした時とは比較にならない驚きがある。
「さて、執事殿。お嬢様。いくら何でも増えすぎだろうこれは‥‥! いや犬は可愛いと思う。飼いたくなる気持ちはわかる。しかしな‥‥物には限度と言うものが」
 こめかみに冷や汗を滝のように流し、多い、多すぎる犬達を前に呆れるシュゼット・ソレンジュ(eb1321)。
「ふむ。これでも大分減ったのですが、やはりまだまだ多いですかな?」
 アオイお嬢様のお屋敷の執事――ピエールが驚く冒険者達に尋ねる。
「ワンちゃんたちいっぱいで可愛いけど、確かに101匹もいないわね?」
 ワンこ大好き☆ ドロテー・ペロー(ea4324)が周囲に集まった犬達を見て首を傾げる。
 冒険者ギルドの依頼書には101匹の犬達の里親を探してほしいということだったはずだが、ざっと見て30匹程度しかいない。
 もっとも、それでも十分多いのだが。
「他の子犬たちはどうなさったのですか?」 
 やっぱり犬好きのディートリヒ・ヴァルトラウテ(eb2999)が素朴な疑問を口にする。
「旦那様のご友人に繁殖家の方がいらっしゃいましてな、冒険者ギルドに依頼を出した後に大分引き取ってもらえたのですよ」
「なるほど。それなら、もし良かったら一匹、私にもワンちゃんを譲ってください」 
 毛並みが良く人懐っこいボーダーコリーの頭を撫でながら、ちょっぴり照れるディートリヒ。
 しかし、ピエールの返答は冷たかった。
「それは出来ませんな」
「ええーっ、どうしてぇ? こんなにいっぱいいてアオイちゃんだって困ってるんだもん、みんなに一匹ずつもらえればあたしたちもアオイちゃんも幸せだよぅ★」
「一匹、私にに譲ってもらうつもりだったのよ? やっぱり、人にワンちゃんのかわいさをわかってもらうためには、自分も飼ってその愛らしさを理解しなければ」
 ディートリヒと同じく一匹もらおうと思っていたミュウとフェリシア・リヴィエ(eb3000)も抗議する。
 大量に増えてしまった犬の引き取り手が欲しいのだから、6匹減るだけでも大分違うと思うのに。
「ねえ、ピエール? どうして駄目なの?」
 ぎゅうう。
 3匹の子犬たちを抱きしめて、アオイお嬢様もピエールを見上げる。
「この可愛い子犬達――ほとんど成犬と変わりませんが――みな、人懐っこいのです。アオイお嬢様の愛情のもと、この安全なお屋敷の中で生まれ育った子犬達は、外界に対する危機感を持ってはおりません。時には危険な場所にも赴くあなた方冒険者のパートナーとしての訓練を一切受けていない犬達なのです」
 ピエールの言葉にはっとする冒険者達。
 見ず知らずの自分たちを警戒もせずに擦り寄り、尻尾をちぎれんばかりに振って懐いてくる犬達。
 エチゴヤで売られているある程度しつけされた犬なら飼い主である冒険者が命令すれば、よほどの事でなければ聞くだろう。
 けれどアオイお嬢様の子犬達は、命令を聞かないどころか危険に自ら突っ込んでいってしまいそうだった。
「そうゆう事なら仕方ないわね。諦めて地道に引き取り手を探しましょうか」
「ざんねんなのー」
 ミュウとフェリシアが頷いて、ディートリヒはしょんぼりとしつつ。
「‥‥うむ。とりあえず、里親探しを頑張るとしよう」
 シュゼットが呟き、冒険者達は犬の引き取り手を探すべく、行動を開始した。


●パーティの準備。
「本当にお上手ですね」
 庭の片隅で犬たちの絵を木で出来た看板に描いていたドロテーの絵を見て、ディートリヒはしみじみと呟く。
「ふふっ、ありがとう。犬は大好きだから、もう張り切っちゃった!」
 そう言って笑うドロテーの描いた犬の絵は、本当に上手かった。
「これなら、パーティーの集客効果も高まるな」
 シュゼットも感嘆する。
 数多い子犬達の引き取り手を探すべく冒険者みんなで相談し、執事のピエールに許可をもらってお嬢様のお屋敷でパーティを開く事にしたのだ。
『ふれあい☆ わんわんパーティー会場はこちら』とイラストにお嬢様の家の周辺の地図を追記して、ドロテーは筆を置く。
 ちなみにパーティー名を考えたのはキルトだ。
「キルト、あなたにはこれを用意したわ」
 先ほどまで描いていた看板イラストとは別に、ドロテーは『ふれあい☆ わんわんパーティ』と書かれた布の垂れ幕を差し出す。
 輪っかになっているそれをキルトは肩から引っ掛けて、
「ありがとうございますわ。これなら子犬を抱っこしていても飛べますわ。行ってまいりますわよ〜♪」
 比較的小さくて体重の軽い子犬を抱っこして、呪文を唱えてフワリと浮かぶキルト。
 そしてそのまま街へと飛んで行く。
 彼女は飛ぶ事によってよりいっそう街の人たちの注目を集めようとしているのだ。
「うむ。私達もいくとしよう」
 先ほどドロテーが描いていた看板を少し重そうに抱えるシュゼット。
「それは僕が持ちます。シュゼット様は、こちらを持っていただけませんか?」
 シュゼットから木の看板を受け取って、代りに羊皮紙で作ったポスターを手渡すディートリヒ。
 3人は、数匹のボーダーコリーを引き連れてキルトの後を追って街へパーティーの噂を広めにくりだした。


●空とぶわんわん☆
 まず酒場に寄って、ポスターを張らせてもらい、ドロテー、ディートリヒ、シュゼットが街中へと繰り出すと、すでに何やら人だかりが出来ていた。
「♪〜
 ふわふわもこもこコリーさん〜♪
 あなたの魅力はどこですか〜?
 手入れの届いたその毛並み? 甘える時にだす鳴き声?
 ワンワンワワ〜ン わんわんわわ〜ん
 たくさんいるから迷っちゃう♪
 触れ合ってみませんか?
 101匹のコリーさんがおまちかね〜♪
 ワンわんわわ〜ん
         〜♪」
 楽しげな歌を歌いながら、子犬を抱きしめて街をふわんふわんと飛びまわるキルトを街のみんなは見上げて驚きの声をあげている。
「私達も負けてらんないわね。‥‥犬好きのみなさ〜ん! かわいいボーダーコリーの飼い主になりませんか? この先のマイスター家でパーティーやります! 来てくださいね!」
 若い子に負けじとドロテーが声を張り上げて呼びこみをする。
「頑張れよ、犬達。良い飼い主は自分達の魅力で釣り上げろ」
 シュゼットが小声で連れてきた犬に話しかけ、身なりのよさそうな老婦人にけしかける。
「まぁまぁ、かわいいわんちゃんだこと」
 いきなりボーダーコリーに抱きつかれた老婦人は、怒ることもなく上品に微笑む。
(「当たりだな」)
 シュゼットは心の中でほくそ笑み、
「この子達の里親を探しているんだ。どうにも増えすぎてしまってね‥‥近々この子達の飼い主の家で里親探しのパーティをやるんだ。良かったらあなたも来て頂けないか?」
「マダム、お子さんに仔犬はいかがですか‥‥?」
 とディートリヒも積極的に子犬を勧める。
「ああ、空を飛ぶお嬢さんも言っていたわねぇ。えぇ、えぇ、とっても魅力的なパーティーですからね、わたくしも参加させていただきますよ。ところで、この子の引き取り手はもう決まっていらっしゃるの?」
 老婦人は「いいこいいこ」と犬の頭を撫でながら尋ねて来る。
「いいや、まだだ」
「そう。それなら、この子はわたくしに譲ってくださらないかしら? 子供達は滅多に帰ってこないし、主人はとうの昔に他界‥‥そろそろ一人暮しも寂しくなってきていたのよ」
「あなたのようなマダムに引き取っていただけたら、この子も喜びます。ありがとうございます」
「まぁ、嬉しいわ。じゃあこの子はわたくしが連れて帰りましょう。わんちゃん、おばあちゃんと一緒に来てくれるかしら?」
 かがんで犬に目線を合わせて尋ねる老婦人。
 犬は老婦人の言葉を理解したのか、「くう〜ん」と鼻を鳴らして擦り寄った。


 シュゼットとキルト、ドロテーとディートリヒが街でパーティーの噂を流していた頃。
「お前、相変わらずむちゃくちゃだなあ」
 ミュウはアオイお嬢様の幼馴染であるダリアンに呆れられていた。
「そんなことないよぅ、むちゃじゃないよぅ!」
「全身着ぐるみ着てるやつにいわれてもなあ」
 ぽりぽりと目線を逸らして頭をかくダリアン。
 ミュウはダリアンの言うとおり、全身まるごとわんこな着ぐるみを着こんでいた。     
「これはねー、アオイちゃんのためなんだよ♪ ダリアンも着てくれるよね?」
「は? お前何言ってんだよ、そんな恥ずかしい格好出来るわけないじゃん!」
 着てくれて当然とばかりにわんこな着ぐるみをダリアンに差し出すミュウに、慌てふためくダリアン。
「ええー? ダリアンが着てくれないとアオイちゃんが困っちゃうよう!!」
 じたじたじたっ!
 着ぐるみ姿で暴れるミュウに、
「一体全体、なんだって俺がこんな目に‥‥」
 ダリアンはとほほと呟いた。


 そしてやはり同じ頃。
 フェリシアは普段からお世話になっている修道院へと数匹の犬を連れてきていた。
「ここに、修道院にお祈りに来る人は、澄んだ心の人のはず。きっとワンちゃんをかわいがってくれるわ」
 フェリシアは院長に許可を取り、修道院の中へ犬達を連れて入ると、めぼしい人に「可愛い犬たち、飼って見ませんか? 今度マイスター家で里親探しのパーティーをやるんですよ。是非いらしてください」と声をかけた。


●ふれあい☆ わんわんパーティー☆
「凄い人数だな」
 屋敷を訪れたお客様をみて、少々冷や汗を垂らすシュゼット。
 数日間。 
 街やそれぞれの冒険者の職場を訪れパーティの噂を広めた甲斐あって、会場に訪れたお客様はお屋敷から溢れんばかり。
「これだけ多く集まれば、犬の引き取りては引く手あまただね」
 一通り受付を終えたドロテーも満足げに呟く。
 わんこ達も、嬉しそうにお客様に飛びついている。
「やぁっぱり、わんちゃんたちにも、『運命の人』っていると思うの★ その人にもらわれていったら、きっと幸せになれるよね♪ ここにいるたくさんの人達の中にわんちゃんたちの運命の人がいるといいなあ★」
 そんな事を思いながら、会場の真ん中で、わんこな着ぐるみを着て、お客様の前で踊るミュウ。
 その隣では、ダリアンが恥ずかしそうに「なんで俺がこんな目に‥‥?」と真っ赤になりながらわんこな着ぐるみをきて一緒に踊っている。
 そしてアオイお嬢様も「ミュウちゃんと同じのが着たいの!」と言い出して、お子様3人でわんこになりきって歌って踊ってお客さまを楽しませている。
「はいはーい、お菓子が欲しい子はちゃんと並んでね。順番だよ!」
 お客様が連れてきていた子供達にお菓子を配るのはフェリシア。
 お菓子は前日に修道院の子供達にお屋敷に来てもらい、アオイも交えて一緒に作ったものだ。
 フェリシアはアオイが寂しさを紛らわせる為に子犬を飼いだしたと聞き、アオイが修道院の子供達と仲良くなれるようにセッティングしたのだ。
 おかげでアオイには、数人のお友達が増え、「なんでそんなとこに遊びに行くんだよー? お前には俺がいるじゃん!」とダリアンがちょっぴり不貞腐れるおまけもついていたのだが、毎日は会えないものの、月に何度かはピエールと共に修道院へ遊びにいかれることになった。
「うん、すべて異常はないね」
 お屋敷の中をぐるりと見まわって、不審な物事がないかどうか見まわっていたディートリヒが戻ってくる。
「おつかれさまですわ。よかったら、こちらをどうぞ。ピエールさんから先ほど頂きましたのよ」
 キルトがディートリヒにワインを差し出す。
「ああ、ありがとうございます。丁度喉が乾いていたんです」
 キルトからワインを受け取り、くつろぐディートリヒ。
 パーティーは楽しく、明るく進んでいき、冒険者達の活躍により可愛いわん子達は素敵な飼い主を見つけて引き取られていったのだった。