おとなのじかん

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:5人

サポート参加人数:5人

冒険期間:07月01日〜07月06日

リプレイ公開日:2007年07月09日

●オープニング

「さあさあ、子供はもう寝る時間だ」
「そうよ、ここからはオトナのじ・か・ん♪」
 ‥‥いっつもそうだ。
 お父さんもお母さんも、夜になると子供は早く寝なさいって、ぼくを寝かしつけようとする。
 きっとぼくだけ除け者にして、お父さんとお母さんだけでなんか楽しいことしてるんだ。
 ずるいや。
 ぼくにはナイショの楽しいこと‥‥何だろう?
 お父さんとお母さんは、ぼくが寝た後なにしてるんだろう?

 そして今日も、お母さんはぼくに子守歌を歌ってくれてる。
 ぼくはその歌を聞くと、いつもあっという間に眠っちゃうんだ。
 夜中に目を覚ましてお父さんとお母さんの部屋をこっそり覗いてやろうと思うんだけど‥‥気が付くといつも朝。
 いつまでたっても、お父さんとお母さんのヒミツはわかんないまま。
 こういう時は‥‥そうだ、ぼーけんしゃギルド。
 ぼーけんしゃは困ってる人を助けるのが仕事だって、お父さんが言ってた。
 ぼくも、ぼーけんしゃさんに頼んでみようっと。
 お父さんとお母さんが、ぼくにナイショでなにしてるのか‥‥そのヒミツを調べてもらうんだ。


「‥‥お父さんとお母さんの秘密を‥‥?」
 受付係はカウンターの下から自分を見上げる真剣な眼差しにたじろいでいた。
「うん。これ、ぼくのおこづかい」
 そう言って、その小さな子は背伸びをしてカウンターの上に顔を出すと、小銭を数枚チャリン、と置いた。
「いや、でもね、それはきっと‥‥坊やは知らなくていい事なんじゃないかなあ」
 と、受付係は苦笑を交えつつ言った。
 大人、しかも夫婦が、子供に内緒で夜中にやる事と言ったら‥‥ねえ?
「なんで? ぼーけんしゃは困ってる人の味方でしょ? ぼく、困ってるんだよ?」
 うーむ。
 ここはとりあえず引き受けておいて‥‥後は冒険者達に何とか上手く誤魔化して貰うか。
「それじゃあ‥‥ちょっと聞かせてくれるかな。お父さんとお母さんは、何してる人? 髪の色とか、顔の感じとか‥‥坊やに似てるのかな?」
 ふむふむ、二人とも昼間はずっと家にいる‥‥働いていないのか?
 それにしては、この子は身なりも整っているし、生活に窮している風でもなさそうだ。
 家はこの近くだと言うが、どこかの貴族の出か?
 で、父親は金髪碧眼‥‥うん、この子にそっくりだな。
 母親は燃えるような赤毛、か。
「ん‥‥?」
 子供から両親の特徴を聞き出した受付係は、そこに何かひっかかるものを感じた。
 この特徴‥‥どこかで見た事があるような‥‥?
 そうだ、町で見かけた手配書‥‥男女二人組の泥棒。
 イヤミな金持ちの家ばかりに盗みに入るという、いわば義賊の類だが‥‥その特徴に似ているような気がする。
 だが‥‥
「まさか‥‥ね」
 子供の造形能力などたかが知れている。
 それに、金髪と赤毛のペアなど世の中には掃いて捨てるほどいるだろう。
「‥‥ただの思い過ごしだ、うん」
 受付係は独り言を呟くと、新たな依頼を掲示板に貼り付けた。

●今回の参加者

 eb1035 ソムグル・レイツェーン(60歳・♂・僧侶・シフール・モンゴル王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb7358 ブリード・クロス(30歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

マナウス・ドラッケン(ea0021)/ ガイン・ハイリロード(ea7487)/ 陰守 清十郎(eb7708)/ 神島屋 七之助(eb7816)/ ウェンペ(ec0548

●リプレイ本文

「子供に知られたくない、大人の秘密‥‥ですか。一体なんでしょうね♪」
 依頼人の少年、マークの家に向かう道すがら、ソムグル・レイツェーン(eb1035)は何やら楽しそうにクスクスと笑う。
「手配書の人相と両親の風貌に一致する点が多いのがちょっとひっかかるわ」
 その特徴を覚えようと、借りてきた手配書をじっくりと見ながらカイト・マクミラン(eb7721)が言う。
「できれば『おさかん』な二人であって欲しいんだけど‥‥」
「まずはその手配書とご両親が違う方であるかの確認が必要ですね」
 ブリード・クロス(eb7358)はカイトから手配書を受け取り、書かれた罪状を読み上げる。
「主に貴族や裕福な商人宅を狙った窃盗犯‥‥所謂義賊ですよね。金目の物を盗むだけで、人に危害を加えるような事はないようですが‥‥」
「うーん、俺、義賊は程度次第でアリだとは思ってるけれど‥‥なんかカッコ良くね?」
 うん、何となく浪漫な香りがする。
 しかし、そんな夢見る空木怜(ec1783)とは対照的に、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)は現実派だった。
「義賊といったって泥棒は泥棒だよ。それに、もし捕まったら子供の事はどうするの?」
「そりゃ、子供がいるならやっぱ別の生き方をして欲しいとは思うけどな」
 でも、浪漫は止められない。
「本当の所はどうなのかしらね。坊やの話だと昼間は家でゴロゴロしているらしいけど」
「働かなくても蓄えがあるとか‥‥」
 それなら夜の営みだけで生活が出来るかもしれない、と思ったソムグルの脳裏に、何やらピンク色の妄想が浮かぶ。
『こ・づ・く・り☆ しま〜しょっ!』
『はいっ☆』
「‥‥何か頭に浮かびましたが‥‥なんだったのでしょう??」
 そんな事を話しながらブラブラ歩くうちに、一行は目的の家に辿り着いた。
 玄関先では子供が一人で遊んでいる。
「マークくん‥‥かな?」
 ギルドから来たと言うデメトリオスに、少年は嬉しそうに顔を綻ばせた。
「ほんとに調べてくれるの!?」
「ああ、自分の両親の事ならそりゃ気になるよな。おじさんが調べてやろう」
 微笑みながら、怜がその頭をグリグリと撫でる。
「お兄さんじゃないぞー? お姉さんとかはもっとダメだ」
 大抵の場合、人は実際よりも若く見られたがるものだが‥‥って、いや、あの、そんな青筋立てながら微笑まれたら子供が泣きますよ、お兄さ‥‥いや、おじさん。
「お父さんとお母さんは、今どうしてる?」
「えーとね、二人でお買い物」
 デメトリオスの問いに、少年が答えた。
「お母さんが歌ってくれる子守歌ってどんな感じなのかな?」
「どんなって‥‥わかんない。ぼく、すぐ寝ちゃうから」
「歌ってくれてる時に、お母さんが光って見えたりしなかったかい?」
 怜が訊ねるが、目を瞑っているからわからないという。
 スリープの魔法を使って眠らせているのではと思ったが、ただの幼い頃からの条件反射だろうか?
「仕事は何してるのかな?」
「えーとね、困ってる人達を助けるお仕事だって」
 普通に考えれば冒険者か‥‥しかし、義賊もある意味人助けと言えない事もない、ような。
 そこに、両親が帰って来た。
「ただいま、マーク。‥‥この方達は‥‥?」
 母親が冒険者達を不審そうに見る。
「ああ、ごめんなさい。怪しい者じゃないのよ、ちょっと人を探していて‥‥」
 カイトが慌てて架空の人物の名前を挙げるが、勿論心当たりなどある筈もない。
 冒険者達は親子に礼を言うと、そそくさとその場を後にした。

「確かに似てるな‥‥」
「まあ、強いて言えばあの人達の方が格段に美男美女ってトコくらいかしらね、違ってるのって」
「こういうものは、得てして実物よりも人相が悪く描かれるものですからね‥‥」
 手配書を真ん中に額を集め、冒険者達は口々に言い合う。
「とにかくアタシはもう少し調べてみるわ。夜の町なら違った話が聞けるかもしれないし」
「俺はイヤミな金持ちって奴をリストアップしてみるかな」
「おいらは義賊の今までの行動なんかを調べてみるね。手口がわかれば、次に狙う相手や狙う際の侵入路なんかも想像つきそうだし」
「私はもしご両親が夜中に外に出るような事があれば、こっそり尾行してみたいと思います。動きがなければ、近所での聞き込みですね」
「私は‥‥そうですねえ、屋根の上にでも上がって、中の様子でも見張っていましょうか。‥‥え、覗き? いえいえ、そんな不純な動機では‥‥!」
 冒険者達はそれぞれの思惑を胸に、町の中へと散って行った。

「ねえ、最近お騒がせの義賊のコト、何か知ってたら教えて貰えないかしら?」
 夜の酒場で、カイトは吟遊詩人らしく楽器を片手にネタ集めに精を出していた。
「次の曲の題材にしたいと思うんだけど‥‥どう?」
 客達の話によると、誰かが困った時には必ず助けてくれるという。
 だが、誰も彼等の正体は知らない‥‥いや、知っていたとしても、誰も教えてはくれなかっただろう。
 どうやら、彼等はかなりの人気者のようだった。

 一方その頃。
 ソムグルは屋根の上から、何か動きはないかと下の部屋‥‥両親の寝室の様子を窺っていた。
 だが、そこから聞こえてきたのは‥‥。

「‥‥ただの‥‥アレ?」
 翌朝、ソムグルの報告に一同は顔を見合わせる。
「どうしましょう‥‥ある意味正直にばらしましょうか?」
 と言うブリードに、怜も同調する。
「そうだな、この際だから俺が医者として性教育を‥‥あ、ダメ? まだ早い?」
「でも、今日はたまたまその日だったって事もあるんじゃない?」
 毎晩「仕事」に出ている訳でもないだろうし、毎晩「アレ」というのも‥‥と、デメトリオス。
「まだ時間はありますし、もう少し様子を見てみましょうか‥‥」
「そうだな、俺の感性もココが怪しいと告げてるし」
 と、怜はダウジングペンデュラムが教えた地図上のとある一点を指差した。
「俺はこっちを見張ってみるかな」

 そして4日目、もういいかげん見張りにも飽きてきた‥‥と言うか阿呆らしくなってきたと言うか、そんな頃。
 両親が、動いた。
 今夜もまた、いつものように「うふんあはん」なコトが始まるのかと思いきや‥‥二つの影が、開け放たれた窓から夜の闇に忍び出る。
 その後を、リトルフライで宙に浮いたデメトリオスとソムグルが追った。
 二人が向かった先は、怜が狙いを付けた家‥‥二階の窓の鍵を器用に開けて忍び込む。
「ほ〜ら、やっぱり。言っただろ、これもそんなバカには出来ないって」
 などと、怜が得意気に呟く中、やがて仕事を終えた二人が姿を現した。
 家の者には気付かれなかったようだ。
「なかなか、手際が良いですね」
 それに義賊というのも本当らしい‥‥戦利品を一軒のいかにも金に困っていそうな家の中に投げ込んだ姿を見てブリードが呟く。
 だが、義賊だろうと悪は悪だ。
 冒険者達はそんな二人を彼等の家の前で待ち構え‥‥
「ちょっと、一緒に来て貰おうかしら?」
 相手が使うかもしれない月魔法を警戒して、カイトがスリープで先手を打つ。
 自宅を目の前にして気を抜いていたせいもあったのだろう、ふいを突かれた二人は抵抗する間もなく寝入ってしまった。
 念の為、ソムグルが更にコアギュレイトをかける。
 そして‥‥人気のない路地裏で目を覚ました時、二人の手足はロープでしっかりと縛られていた。
「義賊って事についてはどうのこうの言うつもりは無いわよ」
 酷い目に合ってるのはアコギな連中だけだもん、と、カイトが言う。
「だけど連中だってやられっ放しで黙ってるとは思えないのよね〜。そのうちギルドに盗人捕縛を依頼しないとは限らないし‥‥その時無事に逃げ切れるかしら? 現に今アタシ達に捕まえられた訳だし」
「まぁ100歩譲って、義賊も悪を人の手で裁いているのを少しだけ考慮すれば‥‥お説教とお仕置きで放免してあげても良いのですが」
 ソムグルが訊ねた。
「何故こんな事を?」
「‥‥多くを持つ者は、持たざる者にそれを分け与える義務がある。俺達はその義務を怠っている連中に代わって、富を平等に分配する手助けをしているだけだ」
 父親が答える。
 彼自身がその義務を果たしていない貴族の出身で、それを嫌って家を飛び出したクチらしい。
 しかも、実家に盗みに入った事もあると言う。
「確かに聞こえは良いかもしれないけど‥‥でも、あんた達だって盗んだお金で生活してるんじゃないの?」
 デメトリオスの言葉に、父親は首を振った。
「盗んだ金に手を付けた事はない‥‥蓄えがあるからな」
 子供が生まれるまでは二人とも腕の良い冒険者として評判で、地道に堅実に、人助けに励んでいたらしい。
「だったら、そろそろ冒険者稼業に戻ったらどう? あんた達が牢屋に送られたらあの子はどうなるの?」
 カイトが自分達がこの依頼を受けた経緯を説明する。
「今後は泥棒としての経験を活かして、捕まえる方に協力するのはどうですか? 元冒険者なら尚更、難しい仕事ではないと思いますが」
「もしくは真っ当な手段で、義務とやらを果たすように働きかけるとか、だな」
 ブリードの言葉を受け、怜が言った。
「働く親の背中ってのは見せといて悪かないよ。でも、我が子の事、大事に思うんなら足を洗おうぜ?」

「ほんと!? お父さんとお母さん、正義の味方なの? カッコイイ!」
 翌朝、冒険者達に一通りのお説教を食らって家に戻った両親に、マークは嬉しそうに言った。
「ごめんね、誰にも言っちゃいけない、秘密のお仕事だったの」
「だから、お前にも内緒にしていたんだよ。でも、これからは‥‥」
 冒険者達が仕事を引き継いでくれる事になった、らしい。
 勿論彼等が義賊の仕事を引き継ぐ筈もないが、子供を納得させる為にはそう言うのが一番だろうと、そう言われたのだ。
「もう大人の時間はお終い。これからは3人で一緒に寝ましょうね、マーク」
 母親のその言葉に、マークはとろけるような笑顔を見せた。