【美女(?)と野郎】攫われた美女(?)
|
■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:やや易
成功報酬:3 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:07月06日〜07月11日
リプレイ公開日:2007年07月14日
|
●オープニング
葉の緑もすっかり濃くなった木々の枝を透かして降り注ぐ、柔らかな光が川面に揺れる。
キャメロットの市街地では大きな流れとなっているテムズも、少し上流のこの辺りではまだ清流といった趣だった。
その清らかな流れを無表情に見つめるのは、銀の髪を腰の辺りまで無造作に伸ばしたエルフの青年‥‥年齢も、性別すら判然としない浮世離れした雰囲気を持つその人物は、傍らに置いたリュートの弦をリズムを取るように爪で弾いている。
と、その時。
見つめる川面がブクブクと泡立ったかと思うと‥‥
――ザバアッ!
何か‥‥いや、誰かが水底から姿を現した。
「ぷはあっ!」
それは、まだ幼さの残る顔立ちとは不釣り合いな程に胸板の分厚い、筋骨逞しい青年だった。
下着すら身に付けず、素っ裸で水から上がった彼は、大きく肩で息をしながら嬉しそうに傍らのエルフに話しかける。
「どうだ、記録更新だろ?」
銀髪エルフは無表情のまま「まあな」と言うように軽く頷き、ずぶ濡れの若者に手拭いを投げた。
「おっ、さんきゅ」
若者は受け取ったそれで体を拭きながら、あどけない笑顔を見せる。
歌い手である彼にとって、商売道具である声に磨きをかける事は勿論、豊かな声量を維持する為に肺活量を上げる事も重要な課題だ。
その為に潜水トレーニングは欠かせない日課であり、また全身の筋肉をバランス良く鍛えるのも肉体という楽器を磨く為に必要な事だと考えていた。
吟遊詩人とは、以外に肉体労働なのだ‥‥まあ、そこはそれぞれのスタイルにもよるだろうが。
「なあ、今日はどこ行く? どうせだから、このままキャメロットまで行こうか? 大きな町だから‥‥ってか首都だしさ、実入りも良いんじゃないか?」
銀髪のエルフが楽器を奏で、人間の若者がそれに合わせて歌う‥‥若者は歌い手としてはまだまだ駆け出しだったが、これまで回った町での評判は上々だった。
大きな町には自然と実力者が集まる。
その中で自分がどれ程の評価を受けられるか試してみたいと言う若者に、銀髪エルフは「まあ、良いだろう」と言うように軽く頷いた。
その日の夜。
途中に立ち寄った小さな町で一仕事終えた彼等は、宿を取ろうと夜道を歩いていた。
「まだそんなに遅い時間でもないのに‥‥誰も歩いてないな」
周囲の家々からは明かりが漏れていたが、外を出歩く者の姿はない。
「田舎の村なら夜が早いのもわかるけど‥‥わりと大きな町で、こんなに静かなのって珍しいんじゃないか?」
そんな事を話ながら歩いていたその時。
突然、行く手を数人の男に阻まれた。
「よお、昼間は良い歌を聞かせて貰ってアリガトよ」
いかにも真っ当な人物ではなさそうなその物言いに、若者は警戒しつつも丁寧に答えた。
「どういたしまして。喜んで頂けたなら幸いです。でも、今日はもう遅いですし、歌を聞きたいならまた明日にでもお願いします」
「いや、俺達が用アリなのはアンタじゃねえんだ、兄ちゃん。そっちのキレイな姉ちゃんの方さ」
「な‥‥っ!?」
――ガツン!!
後頭部への衝撃と共に、若者の意識は闇の中へと沈んでいった‥‥。
「‥‥おい、大丈夫か兄ちゃん、おい!?」
暫く後、若者は誰かに肩を揺さぶられて目を覚ました。
「う‥‥ッいててて‥‥っ」
後頭部がズキズキする。
「くそっ、後ろにもいやがったのか‥‥っ」
と、若者は周囲を見渡して、相棒の姿がない事に気が付いた。
「‥‥レディ?」
「ああ、あの連れの姉ちゃんかい? 連れて行かれちまったよ、あいつらに」
「あいつら?」
若者の問いに、彼を助け起こした男が答えた。
「ああ、近頃この町じゃ人浚いが横行しててな。自警団の連中も見回りをしちゃいるんだが‥‥」
昼間はまだ安全だが、夜の一人歩きは厳禁なのだ。
「なるほどね‥‥で、オレには用がないって事は‥‥そいつらは女の人しか襲わないの?」
「ああ、どうやら人買いに売り払うのが目的らしいんでな、その前に、その、傷物にされる心配はないと思うんだが‥‥」
「いや、それは大丈夫」
若者は小さく溜め息をついた。
「あいつ男だから。しかもいいトシしたオヤジだし」
「‥‥えぇ!?」
「まったくさ、紛らわしい外見してるくせに、間違われるとキレるんだよね‥‥しかもさ、すぐにじゃなくて、こう、ジワジワと‥‥」
深く静かに怒りを溜め込んで、極限に達すると一気に爆発するタイプ、らしい。
「しかもあいつ、細くて非力そうに見えるけど、ああ見えてもファイターなんだよね。本気で暴れたら、犯人達の方が危ない‥‥って事は流石にないと思うけど」
しかし、それなら何故おとなしく掴まったのか、という男の問いに、若者は苦笑いをしながら答えた。
「多分‥‥面白がってるんだと思うよ。ネタにする気なんじゃないかな‥‥」
それはともかく、浚われたというなら‥‥それに他にも被害者がいるなら、助けに行かねばなるまい。
「それで、そいつらのアジトとかって、わかってるの?」
「いや、自警団の連中も探してはいるんだが‥‥」
どうやら町中ではないらしい。
郊外の森の中か、それとも洞窟か‥‥
「いつも途中までは追いかけるんだがね、どうも逃げ足の早い連中のようで‥‥」
町の外か。
「森や洞窟なら足跡が残ってるかもしれないな‥‥オレ、そういうの探すの得意だから」
だが、一人では少々心許ない。
少し時間はかかるが、キャメロットまで行ってギルドに頼んだ方が良いだろう。
「おじさん、ありがとね。オレ、ちょっとひとっ走り行って来るから!」
そう言うと、若者は闇の中に姿を消した。
●リプレイ本文
「女性を誘拐して、人買いに売るなど許せません」
待ち合わせ場所に指定された宿へ向かう道すがら、シルヴィア・クロスロード(eb3671)はギルドで聞いた事件のあらましを思い返して拳を握り締めた。
「必ず捕まえてみせます!!」
彼女はこのところ何やら怒ってばかりいるようだが‥‥まあ、怒りたくなるような事件ばかりが続くのだから仕方がない。
「ファイターとレンジャーの吟遊詩人さんかぁ。吟遊詩人さんてバードが多いから珍しいな」
システィーナ・ヴィント(ea7435)が、まだ見ぬ依頼人に思いを馳せる。
「女性に見間違えられるほどのファイターなエルフのレディさん、会ってみたいかも」
まあ、これから助けに行くのだから余程のヘマをしない限りは無事に会えるだろう。
しかしティズ・ティン(ea7694)は「うぅん、私は美形よりもかっこいい騎士の方が好きなんだけどなぁ」と、残念そうだ。
「とにかく急いで行った方が良さそうだね。浚われた女性達も心配だし、頑張って助け出さないと!」
「とりあえず、他の被害者救出のほうが先、かもね‥‥」
クァイ・エーフォメンス(eb7692)が何となく溜息混じりに呟いた。
「ガイさん初めまして! 神聖騎士のシスティーナだよ!」
「初めまして、シンプソン殿。騎士のシルヴィア・クロスロードと申します」
出迎えた依頼人ガイに対して、システィーナは元気に、シルヴィアは丁寧に挨拶をする。
「おう、手間かけて悪いけどさ、よろしく頼むぜ!」
ガイはそう言って快活そうに笑いながら、一人一人と握手を交わした。
「美女の救出が任務なんて燃えますね!」
「ん? いや、だからアレは‥‥」
誤った認識を正そうとしたガイの言葉に、グラン・ルフェ(eb6596)が待ったをかける。
「ストーップ! 『男』とか『いい年したオヤジ』とか、テンション下がる情報を俺の耳に入れないで下さいっ!」
相手が「美女」はともかく正真正銘の「女性」でなければ燃えないというのは、まあ男としては健全かつ真っ当な思考ではあるが。
「エルフと人間の寿命は違いますから‥‥ガイさんにかかると、私もオヤジに分類されそうですね」
「や、ホントにオヤジなんだって。俺のばーちゃんが若い頃に憧れてたってトシだぜ?」
「だからそういう情報はーっ!」
クスクスと笑うユリアル・カートライト(ea1249)に、ガイがひらひらと手を振りながら言い、グランが耳を塞ぐ。
そんな漫才のような光景を余所に、シルヴィアは真面目な表情で訊ねた。
「あの、ハイウィンド殿が今回のように間違われることは良くあることなのですか?」
「良くあるって言うか‥‥寧ろそれが普通だな。あいつを見て男だと思う奴は滅多にいないんじゃないか?」
そんなに美人さんなのか〜と感心しつつ、でも男なんだよね、とガッカリしつつ、一同は情報の収集と、その取り纏めにかかった。
「捕まってる人、かなり多いみたいだね」
と、ティズ。仲間に調べて貰った所によると、届けが出ている者だけでも10人以上はいるという。
「自警団さん達に聞いたんですが、奴等はいつも5〜6人の集団で動いてるみたいですね」
用心深いのか、それとも個々の実力は大した事がないので大勢でつるんでいるのか‥‥と、グラン。
一方、クァイは町で聞いた情報やシスティーナがフライングブルームで上空から見た地形などを参考におおまかな地図を書き、その上にダウジングペンデュラムを垂らしてみた。
「‥‥大体、このあたりね‥‥大雑把で悪いけど」
振り子が指し示したのは森の奥深く。
「森の中でしたらいつも仕事でも趣味でも歩き回っていますし、人の潜む場所は見当が付きますよ」
と、アディアール・アド(ea8737)が嬉しそうに言った。
久しぶりの故郷の森、そこに足を踏み入れるのが楽しみで仕方がないといった様子だ。
「女性と思われているうちはまだ良いですが、男性とばれたら相手も容赦しないでしょう。他に被害者もいるようですし‥‥早めに救出した方が良さそうですね」
幸い、自分を含めて森林地帯に土地勘のある者は多い。大体の場所がわかれば迷わず的確に探せるだろうとユリアル。
「可能なら戦闘になる前に人質を救出したい所ですが‥‥とにかく急ぎましょう」
シルヴィアの言葉に、全員が頷いた。
「イギリスの森に来るのも久しぶりです。変わりないようですね」
植物マニアの薬草師アディアールは、楽しげに森の様子を観察しながら歩く。
「ここ暫く、ノルマンで荒れた森ばかり見ていたので和みます」
と、グリーンワードで植物に手掛かりを訊ねたり、ついでに世間話をしたり。
「‥‥いいから、先に行くぞ」
目的を忘れかけて散策を楽しむアディアールの襟首を引掴み、セオフィラス・ディラック(ea7528)が引きずって行く。
この森に入ってから、何度それを繰り返した事か‥‥。
セオ自身も遭遇戦に備えつつ猟師スキルを活かして手掛かりを探るが、目立った痕跡は見つからない。
森の奥は滅多に人が足を踏み入れる事もないらしく、足跡などが残っていればそれを辿るのは容易いだろうと思われたのだが‥‥犯人達は巧妙に痕跡を消しているらしい。
「ペロくん、匂いで追跡できないかい?」
グランが愛犬に頼んでレディの匂いを辿って貰う。
やがて、ダウジングで大体の位置を掴んでいた事もあって、一行は生い茂る木々に隠された怪しげな洞窟に辿り着いた。
「‥‥人数はかなり多そうですね。動いている人数しかわかりませんが‥‥」
ユリアルがバイブレーションセンサーで確認した所、入口付近に見張りらしき者が2〜3人、その奥、20メートルほどの所に4〜5人の動きがあった。
「かなり奥は深そうですよ」
人質は更に奥に集められているらしく、ガイのテレパシーも届かなかった。
「中が複雑な構造になっていたら、下手に踏み込むのは危険だな」
外に誘き出した方が戦いやすいだろうとのセオの言葉にユリアルが頷く。
「そうですね、外ならプラントコントロールも使えますし‥‥」
それに、誘き出した隙に人質を救出した方が安全だろう。
「‥‥そう言えば、私も素で女性と間違えられたことがあります‥‥」
アディアールはその時の事を思い出してちょっとブルーが入るが、その背中をグランが元気に叩いた。
「じゃあ、アディアールさんが囮という事でっ!」
「え!? いや、確かにあの、装備や狙われ安さの点で言えばエルフのウィザードなんかが適任ですけど‥‥あれ?」
「大丈夫、変装の手伝いしてあげるからっ♪」
「私もお化粧してあげようか?」
グランとティズが迫る。
「い、いえ、結構です!」
‥‥素で間違われる自信が‥‥ないわけでもないし?
かくして、囮作戦は敢行され‥‥それは、まんまと成功した。
森で道に迷ったというアディアールの言葉を信じた賊達は、嬉々として彼女、いや彼を洞窟の中へ案内した。
まあ、その精神的なダメージは後でどうにかするとして‥‥
「10分位あれば良いかな?」
レディと接触して事情を説明するには、それ位の時間があれば充分だろう。
やがて頃合いを見計らって、ティズが洞窟の前に飛び出した。
「はぁい、ここに可愛い女の子がいるよぉ!」
しかし、賊達の反応は冷たかった。
「何だ、また迷子か? 今日はよく釣れる日だが‥‥お嬢ちゃん、俺達は子供には手を出さない主義なんでね」
「あと10年位したら、また来な」
わははと笑う賊達に向かって、ティズは傍らの藪に隠した槍を取り出し、いきなりスマッシュEXをぶちかました。
「もう、怒ったんだからね‥‥ティズは子供じゃないんだからっ!!」
それを合図に、身を隠していた冒険者達が躍り出る。
外の騒ぎを聞きつけた賊達も洞窟の中から飛び出して来た。
だが、そこを狙ったユリアルのグラビティーキャノンの直撃を受け、何人かが無様にひっくり返る。
ユリアルは更に、倒れた賊達ににプラントコントロールで蔦を絡ませ、縛り上げた。
「騎士として、女性を浚うなんて見過ごせません。覚悟して下さい!」
最前列に飛び出したシスティーナがディザームで敵の武器を落とし、隙が出来た所を狙ってバーストアタックスマッシュで敵の防具を壊す。
「女性を拐かし売り飛ばそうなどとする輩に容赦は無用」
セオは洞窟から賊達を切り離すような位置に切り込み、人質救出班に道を作った。
一方、囮として内部に入り込んだアディアールは、味方が踏み込んだ気配を察して見張りの男達にアグラベイションをかける。
そこに、途中に立ちはだかる邪魔者達を蹴散らしながらクァイとシルヴィアが現れた。
「人攫いをすることも許せませんが、特に弱い女性ばかり狙うのは許しがたいですね。しっかりと反省していただきましょう」
そう言いつつ、シルヴィアは容赦なく残った賊達を斬り伏せていく。
少し離れた敵にはグランが弓矢で攻撃を仕掛け、人質に危害を加えられる前に確実に仕留めていく。
そんな様子を、女性達の中でもひときわ目立つ美女が興味深そうに眺めていた。
‥‥あれがハイウィンド殿に違いない‥‥一通り賊達を片付けたシルヴィアは女性達の救出に協力してくれるようにと、何とかそれをジェスチャーで表現しようとするが‥‥
「姉ちゃん、そいつ耳は聞こえるから」
同行したガイに、笑いながら言われてしまった。
「そう言えばレディさんは口がきけないって‥‥魔法でもかけられているんでしょうか? それとも願かけかな?」
グランの問いかけに、銀髪美女‥‥いや、美形はただ微笑むだけだった。
「‥‥美人‥‥」
無事に救出されたレディを見てシスティーナは思わずそう呟く。
だが、相手が女性と間違われる事が嫌いだと聞いた事を思い出して慌てて謝った。
「本当に美形だね。お化粧してあげようか?」
と、ティズが無謀にも化粧道具を持ち出して美しさに更に磨きをかけようとする。
だがそんな二人に、レディは怒った風もなく柔らかく微笑みながら首を振る。
どうやら女性には寛大なようだ‥‥その代わり、うっかり彼を女性扱いしたセオに対しては思いっきり冷たい視線が投げられたが。
「もう大丈夫ですよ。怪我はありませんか?」
シルヴィアは突然攫われてとても不安だっただろう女性達に微笑みながら手を貸し、気持ちが静まるように穏やかに声をかけた。
出来れば賊達と繋がりがあるであろう人買い達にも制裁を加えたい所ではあったが、今回はそこまでは手が回らないようだ。
後は自警団が上手くやってくれる事を祈ろう。
賊達を官憲に引渡し一息ついた所で、町の宿屋で小さな演奏会が開かれた。
冒険者達へのお礼も兼ねた、貸し切りのコンサートだ。
レディの指が流れるようにリュートの弦の上を滑り、それに合わせてガイの力強いバリトンの歌声が古の英雄達の物語を紡ぐ。
一通り堪能した所で、クァイが自作の詞の提供を申し出た。
「もし迷惑でなかったら‥‥」
遠慮がちに言う彼女の申し出を快く受け、レディがその詞に即興で曲を付けた。
「じゃあ、一緒に歌おうか?」
ガイが人懐こい笑顔でクァイを誘う。
旅立ちの陽は昇る 眩い光の中
僕らは歩き出す 輝く夢を背負って
後ろを振り返るな 過ぎたものを惜しむな
前に広がる道を 恐れず歩き続けよ
海を見るため西へ 真理求め東へ
その目に映る全てを 深く心に刻んで
やがて見つかるだろう 長い旅路の果てに
心が安らぐ場所 そこが新たなる故郷‥‥
「うん、なかなかイイね。レパートリーに加えさせて貰うよ、ありがとう!」
そう言うと、ガイは派手な音を立ててクァイの頬にキスをした。
「‥‥それにしても、ネタって、今回の事件を元にどんな曲を作るつもりなんでしょうねい?」
と、グラン。
まあそのうち‥‥美女達の救出に颯爽と駆けつけた冒険者達の華麗なる活躍を綴った歌が、彼等のレパートリーに加わるかもしれない‥‥かな?