【病室の道化師・その後】今の僕に出来る事
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:07月10日〜07月15日
リプレイ公開日:2007年07月18日
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●オープニング
昨日、療養所に新しい子が入院してきた。
僕の弟よりまだ小さな女の子‥‥名前はフィーっていうらしい。
両親に手を引かれてやって来たフィーは、そんなに重い病気って訳でもなさそうだった。
シスターの話だと、暫く静かな環境でゆっくり休む必要があるって事だったけど、フィーの家は商売をやってるから静かな環境とは縁遠いんだって。
それに、忙しくてちゃんと面倒が見られないからって。
フィーは最初、珍しそうに建物の中をキョロキョロと見回したり、僕と目が合うとニッコリ笑ってくれたりもした。
だけど、両親がフィーを置いて帰ろうとした時‥‥火が付いたように泣き出した。
そりゃそうだよね。
僕だってここに置いて行かれた時は捨てられたと思ったもん、小さい子なんか余計にそう感じると思う。
夕べはシスターが付きっきりで面倒見てたらしいけど、フィーの機嫌は今朝になっても治らなかった。
昨日の夕食は勿論、今朝も何も食べてくれなかったんだって。
ああ、もう、なんか他人事とは思えない。
僕にも何か出来る事、ないかな‥‥。
「フィーはお話を聞くのが大好きだって、お母様が仰っていたわ」
思い切って相談した僕に、シスターが言った。
「夕べもずっと色んなお話をしてあげたのよ。でも、あんまり喜んではくれなかったようね」
シスターが軽く溜め息をつく。
そりゃ、しょうがないよ。入院して最初の夜だもん。
「あの子、動物は好き?」
「‥‥動物のぬいぐるみは大好きみたいね。それにお人形も」
ああ、そう言えば何かの大きなぬいぐるみを大事そうに抱えてたっけ。
「でも、本物は少し怖いみたい。飼った事がないそうよ」
そうか、じゃあ僕の犬、ジョンに会わせるのは無理かな‥‥大人しくて良い奴だけど、あの子には大きすぎるかも。
「‥‥そういうのが好きなら‥‥人形劇とか、どうかな」
それなら少しは興味を持って‥‥もしかしたら喜んでくれるかもしれない。
シスターも良い考えだって言ってくれた。
でも僕は、人形なんか作れないし、お話だって父さんに聞かされた残酷な自慢話くらいしか知らない。
そんなの、小さな女の子に聞かせられるわけないし、聞いたって面白くもなんともない。
‥‥昔、寝る前に母さんが聞かせてくれたのはどんなお話だったっけ‥‥。
どっちにしろ、僕ひとりじゃ無理だ。
「‥‥ねえ、いいかな?」
「そうね、お願いしてみましょうか」
僕の問いかけに、シスターは「何が」とは聞かなかった。
「でも、今度は‥‥ウォル、あなたが自分で行ってみたらどうかしら? そんなに遠くないから、お散歩だと思って‥‥ね?」
僕が自分で‥‥冒険者ギルドに?
うん‥‥そうだな。一度、見学に行きたいと思ってたし‥‥多分、これからお世話になると思うから。
それに、誰か知ってる人に会えるかもしれない。
「じゃあ、行ってくるね。ジョン、おいで!」
僕はシスターに書いて貰った地図を握り締め、お供のジョンを連れて、ちょっとドキドキしながら歩き始めた。
●リプレイ本文
「人形劇・どうぶつのお茶会」
原案:エスナ・ウォルター(eb0752)
脚本:全員
人形制作:マイ・グリン(ea5380)・クリステル・シャルダン(eb3862)・エスナ・ウォルター
大道具:オーガ・シン(ea0717)
キャスト
・フィー:クリステル・シャルダン
・猫の王子様:ウォルフリード・マクファーレン
・猫の長老:リデト・ユリースト(ea5913)
・兎の給仕係:マイ・グリン
・猫と狐の手品師:猫小雪(eb8896)
・犬の吟遊詩人:エスナ・ウォルター
・ナレーション:オーガ・シン
お客様‥‥フィー・ロバーツ
ある日の事。
フィーという、それはそれは可愛い女の子が、飼い猫のウォルと庭で遊んでいたのじゃ。
その時、一匹の犬が二人の目の前を大慌てで通りすぎた。
「うわーん、せっかくのお茶会の日なのに遅刻しちゃう!」
その犬は、何故か人間のように服を着て、二本足で走っておった‥‥そして、慣れない格好をしていたせいか、それともただのドジか‥‥
「きゃうん!」
コケたのじゃな。
そしてそのまま、姿が見えなくなったのじゃ。
「わんちゃん、どこに行ったのかしら?」
フィーが探しに来てみると、そこには大きな穴があいておった。
「お庭に、こんな穴なんてあったかしら‥‥きゃあっ!」
奥を覗いたフィーは、穴の中へ真っ逆さま‥‥気が付くとそこは動物の国。
目を覚ましたフィーの目の前を、さっきの慌てん坊の犬が走って行った。
「あ、待って! どこに行くの?」
「ふぇ? なんですか、君は? ボクはこれから猫の王子様のお茶会に行くから急いでいるのです。ああ、急がないと‥‥!」
「王子様のお茶会? フィーも混ぜて!」
フィーは犬の後を追いかけて、お菓子の家に入って行ったのじゃ。
そこではまず最初に、猫の長老が出迎えた。
「ん? お嬢さんのポケットから、大好きなお魚の匂いがするにゃ」
「これは‥‥ウォルにあげようと思ってたおやつなの。これをあげたら、フィーもお茶会に入れてくれる?」
「子供は猫の髭や尻尾をひっぱるからダメであるにゃ。お土産を持ってきてもダメであるにゃ」
「フィーはそんなことしないもん。でも‥‥尻尾を踏んじゃった事はあるかも」
「あれも痛いにゃ」
「でも、フィーはいつもすぐに謝ってくれるよね?」
「ウォル?」
フィーが声のした方を振り向くと、そこにはキラキラと輝く王冠を被った猫の王子様がおった。
「フィーには黙ってたけど、僕は本当は猫の王子様なんだ‥‥にゃ」
「ウォルが‥‥王子様?」
「ええと、ようこそ、お茶会へ。歓迎するよ。長老さんも許してくれるよね?」
「うにゃ、謝るなら許すにゃ」
「おや? 君はさっきの女の子ですね?」
そう言って立ち上がり、丁寧にお辞儀をしたのはさっきの慌てん坊の犬じゃ。
「新しいお友達を歓迎しましょう。お祝いして歌うですよ、ららら〜♪ 今日は楽しいお茶会〜♪ ららら〜♪」
「‥‥お嬢さん、お菓子をどうぞ。どれでも好きな物を食べて下さいな」
と、兎の給仕係が家の中を指差した‥‥その家は、壁や床、柱や天井まで、全部お菓子で出来ていたのじゃ。
「すごい、これ全部あなたが作ったの?」
「‥‥ええ、お菓子作りとお茶を淹れるのには、ちょっとだけ自信があったりするのですよ。でも、あんまり食べ過ぎると家が壊れますから、ほどほどに」
「こんちゃー! ボクは猫の手品師だよ! ボクの手品はスゴイんだからー!」
猫の手品師がクルっと回ると、なんと! 猫が狐に変身!
「どう? どう? ね、スゴイでしょ!」
「‥‥お茶のお代わりなど、いかがです?」
こうして、みんなとのおしゃべりを楽しんだり、美味しいお茶やお菓子をお腹一杯に詰め込んだフィーは、いつのまにかウトウトと居眠りを始めてしまったのじゃ。
そして、目が覚めると‥‥
「‥‥あら? お菓子の家は? みんなは?」
そこはフィーの家の庭で、膝の上では猫のウォルが丸まって眠っておった。
「‥‥夢‥‥だったのかな‥‥」
じゃがその時、フィーの耳元で、あの慌てん坊の犬の歌が聞こえたのじゃ。
「ららら〜♪ またすぐに会えるよ〜♪ 夢は終わらないから〜♪」
――おしまい――
「ねえねえ、フィーちゃん、お芝居面白かった?」
手に人形をはめたまま、小雪が訊ねた。
「うん、面白かった! ねえ、それ、どうなってるの?」
フィーは早変わり人形に興味を示したようだ。
「へっへ〜、ヒミツ! これあげるから、自分でやってごらん?」
小雪は人形を外し、それをフィーの小さな手に被せた。
「これ全部、フィーにプレゼントするであるよ」
リデトが人形の中から這い出しながら言う。
人間用のパペットは、シフールにとっては丁度「まるごと」のような被り物サイズなのだ‥‥彼はその中に入って、汗だくになりながら長老さんを熱演していた。
「ウォルさんの人形も作ってみましたの。気に入って貰えるかしら」
と、クリステルがフィーの人形の頭に小さなティアラを、ウォルの人形には王冠を被せて手渡した。
「わあ、フィー、おひめさま?」
どうやら喜んで貰えたようだ。
「これ‥‥貸してあげるね」
エスナがフィーの頭に猫耳を被せた。
「ほら‥‥ウォル君も、これ」
「ええ、ぼ‥‥お、オレも!?」
ウォルは近頃、硬派なイメージを作ろうとしているらしい‥‥まあ、そういうお年頃なのだろうが、かなり無理をしているらしく、いつものように「僕」と言いそうになって慌てて言い直す。
「やだよ、そんなの‥‥恥ずかしいし、みっともないし」
「そんな事はないであるよ。大の大人でも、平気でそれを付けているである」
リデトの言葉に何やら思い出し笑いをする者が2名ほど。
「ねえ、ウォルは猫の王子様でしょ?」
フィーが初めて、ウォルに話しかけた。
彼女にそう言われては覚悟を決めるしかない。
ウォルは恥ずかしそうにヘアバンドを頭に被った。
「フィーの事が気になるのかのぅ?」
オーガが人の悪い笑みを浮かべている。
「え、だって、そりゃ‥‥騎士は弱い者には優しく親切にしなきゃいけないものだし‥‥別に、ぼ‥‥オレが騎士になるって訳じゃないけど」
「まあ、そう照れんでもいいわい。後でいくつか手品を教えてやるからのう、フィーに見せたら喜ぶじゃろうて」
「う‥‥うん」
「手品ならボクも出来るよ! オーガさん、二人で競演しよっか!」
小雪が言い、手に持ったコインが別の所から出てきたり、ハンカチが消えたりするような、子供にも分かり易い手品を披露する。
オーガはリングに通したヒモがあっという間に外れる手品を見せた。
「どうなっておるかって? さあ、どうなっとるんじゃろうな?」
もう一度それをゆっくりとやって見せると、オーガはその道具をフィーに手渡した。
「フィーにも出来るかのう?」
「‥‥さあ、動物のお茶会の続きをしましょうか‥‥」
マイがトレーにお菓子を乗せて運んで来る。
頭に兎の耳を付けたその出で立ちは、劇中の役と全く同じ‥‥どうやら、これが彼女の天職のようだ。
翌日には、フィーはウォルや冒険者達とすっかり仲良くなっていた。
クリステルが連れて来た兎、セレネの扱いにも慣れた様子で、膝に乗せて優しく撫でている。
「そろそろ他の動物も大丈夫そうであるな。猫仲間を連れてくるである」
と、自分も猫耳を付けたリデトが小さな真っ白い子猫を連れて来た。
「まだ子供だから私のように人間の言葉は話せないであるが、フィーの言う事はわかるであるよ、多分」
「じゃあ、この子達も〜!」
小雪が子猫のトラをベッドの上にに乗せ、大きな猫の小春は自分で抱き上げてフィーに見せる。
「えっと‥‥わんこも大丈夫でしょうか?」
犬のカカオと、その尻尾にじゃれついて遊んでいる子猫のアリシアを従えてドアから顔を覗かせたエスナだったが、カカオはウォルの顔を見るや飼い主の制止を振り切って『遊ぼーっ!』と飛び付いて行った。
「うわ、お前どっち?」
ウォルは飛び付かれて顔じゅうを舐められながら嬉しそうに言う。
「あー、トロそうな顔してるから、カカオだな?」
「‥‥フィーさんも今朝はちゃんと朝食が食べられたようですね」
マイは練習中の新芸「ぐるぐる」を披露するラビを見ながら言った。
「うん、昨日はすごくご機嫌だったし‥‥やっぱりマイが作るとなんか違うみたい」
と、ウォル。
「ぼ‥‥オレも、久しぶりだったし、その、不味くはなかったぞ」
素直じゃないなあ。
「でも、ほんとに冒険者って動物飼ってる人が多いんだな」
「私も、犬や猫を沢山飼っている騎士さんを知っていますわ」
ウォルの言葉に、クリステルが幸せそうに微笑みながら言った。
「生後間もない子猫を拾ったので世話の仕方を教えてほしいという依頼を受けた事もありますの。とても穏やかで優しい方です」
「‥‥その、さ。騎士で優しいって、やっぱりどうしてもイメージ湧かないんだよね。そんなんでちゃんと戦えるの?」
まあ、円卓の騎士だし。
しかしウォルに刷り込まれた「騎士像」は、そう簡単には崩せそうもないようだ。
「そうそう、こないだウォルくんに変な人呼ばわりされた子、覚えてる?」
と、小雪。
「ウォルくんに会いたがってたんだけどね、今回は用事の途中でどうしても間に合いそうにないって、残念がってたよ」
「ふーん‥‥べつにぼ‥‥オレは、どうでもいいけど」
ホントに素直じゃないなあ、相変わらず。
「でも、ウォルが元気になって嬉しいである。外に出て歩いても大丈夫なんであるな」
「うん、走ったりはまだだけどね」
「それもきっと、この調子ならすぐであるよ。良かったであるな」
残りの数日、彼等はペットと遊んだり、人形を使って即興の劇を演じたり、それぞれに好きなお話を語って聞かせたりと、楽しく過ごした。
気合いの入った作りの人形達は、これからも長い間フィーの友達でいてくれるだろう。
「‥‥ねえ、おじーちゃんのお話は?」
聞き役に徹していたオーガにフィーが言った。
「‥‥いや、儂の冒険譚は色々と間違った方向に偏っておるでのう」
小さな子供には聞かせられないものばかりじゃ、と、オーガは苦笑しながら答えた。
「じゃあ、ぼ‥‥オレには後でこっそり聞かせてよね。オレ、もう小さな子供じゃないんだからさ」
耳打ちしたウォルに、オーガは例によって人の悪い笑みを浮かべた‥‥。