慰霊碑を守れ

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 40 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:07月13日〜07月19日

リプレイ公開日:2007年07月21日

●オープニング

 緑豊かな山あいの草原に、古びた慰霊碑がぽつんと建っていた。
 草に埋もれるようにして佇むそれは、一見するとただの岩のように見える。
 だが、よく見ればその表面には何か文字のようなものが彫ってあった事がわかるだろう‥‥ただ、長い間風雨に晒されて、既に判読不可能になってはいたが。
 土地の者によれば、この草原では昔、大きな戦があったらしい。
 慰霊碑はその戦で亡くなった戦士達の魂を鎮める為に建てられたものだという。

「‥‥その慰霊碑が、倒されてたんだ」
 近くの村の代表だという青年が、ギルドのカウンターで受付係に言った。
「誰かの悪戯か、それとも自然に倒れたのか、それはわからない。でも、あの慰霊碑が倒れてから、草原を、その‥‥死体が歩き回るようになって‥‥」
 草原では毎年夏になると羊の放牧が行われているが、アンデッドが徘徊するような場所では放牧など出来る訳がない。
「そいつらを土に還して‥‥ついでに慰霊碑も元通りに起こしてやってくれないかな。そう重いものじゃないと思うし、俺らでも出来ない事はないと思うんだけど‥‥」
 もし慰霊碑を倒した事がアンデッド発生の原因なら、退治をしてもまたどこからか湧いてくるだろう。
 モンスターに襲われる危険が去るまでは、自衛手段を持たない村人達は慰霊碑に近付かない方が良い。
「もし誰かの悪戯なら、その犯人は俺らで探してとっちめるから、とにかくモンスターを頼む。村までは俺が案内するからさ」
 青年は窓から見える小さな宿を指差し、そこに泊まっているから準備が出来たら声をかけてくれと言い残し、ギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb1915 御門 魔諭羅(28歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2020 オルロック・サンズヒート(60歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ギリアム・バルセイド(ea3245)/ グラン・ルフェ(eb6596)/ ハロルド・ブックマン(ec3272

●リプレイ本文

「へえ〜、すごいもんだな、この魔法の靴は」
 水琴亭花音(ea8311)に借りたセブンリーグブーツを履いて歩く依頼人の青年は、初めての経験に目を輝かせていた。
「冒険者ってのは、色々と便利な道具を持ってるんだな。俺達なんか、せいぜいロバか馬くらいしか持ってないのに‥‥まあ、だからこそ色んな場面で重宝がられるんだろうけどさ」
「‥‥でも、最近は高速で移動できない事が罪悪のように聞こえてしまいますわ‥‥」
 青年の言葉を受けて、御門魔諭羅(eb1915)は溜息をついた。
 彼女は最近、高速移動について行けないという理由で手持ちのゴーレムを手放したらしい。
「ま、急いでくれるならこっちも有難いし、それだけヤル気って言うか誠意が見える事は確かだな」
 と、青年。
 それに依頼期間の設定は徒歩での移動時間を元に算出される。それよりも移動速度が遅くなるからといって追加料金は出せないし、全てが終わった頃に現場に辿り着き、結局何も仕事が出来なかったとすれば、報酬が出ない事もあるだろう。
 ゴーレムも移動の必要がない依頼なら壁役に最適だろうが‥‥。
「その慰霊碑がある草原というのは、どのような地形なのじゃ?」
 花音が青年に尋ねた。
「両側に低い山があって、そいつに挟まれたちょっと細長い感じの所だな。それを斜めに横切るように浅い川が流れてるから、そこを挟んで軍隊が向き合うには丁度良い場所だったらしい」
「という事は、馬を走らせるようなスペースは充分にあるという事だね」
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が言う。
 後衛に被害が及ばないような状況なら、馬で蹴散らすのも良いだろう。
「その川は馬で渡れるような深さかね?」
「ああ、雪解けの季節でなければ歩いても渡れる程度だ。ただ、慰霊碑は川のこっち側にあるんだが、その周辺にしか奴等は現れないんでね‥‥多分、川を超える必要はないと思うな」
「その慰霊碑なんだが‥‥倒れた原因はわからないのか?」
 空木怜(ec1783)が訊ねた。
「ああ、調べようにも近付くだけで奴等がわらわら出て来るんでね」
 それを片付けない事には調査も出来ない、という事だ。
「村の方で何か様子がおかしかったり、後ろめたい事がありそうだったり‥‥そんな奴はいなかったか?」
「いや、特に‥‥」
「‥‥そうか。もし誰かの悪戯なら、村の方でも説教はきっちり、頼むよ。ホント、これは人として物凄く大事なことだと思うからさ」
 だが今回の事件があるまで、草原の真ん中にぽつんと佇む古びた石塊が慰霊碑だと知る者は殆どいなかったらしい。
 どこの世界でも世代を越えて記憶を伝えるのは難しいという事か。

「‥‥さて、そろそろお出ましになる頃合いかのう?」
 オルロック・サンズヒート(eb2020)が朝日に手をかざしながら言う。
 遠くに見える少し小高くなった丘の上に例の慰霊碑があるようだが、ここからではまだ、その様子は見えない。
「それじゃ、眠れる死者達を起こして来るとしようかね」
 イレクトラが愛馬を駆って草原を走る。その音と地響き、それに生者の気配に揺り動かされ、慰霊碑の周囲から腐った死体がゾロゾロと沸き上がって来た。
 慰霊碑の周囲を一周し、イレクトラが仲間の元に戻ったのを見届けると、オルロックはまだ距離がある死者達に向けてファイヤーボムを放つ。
 それだけでもズゥンビには中傷ダメージが行き、ただでさえ鈍い動きが更に鈍くなった。
 しかし、その中にさほどダメージを受けた様子もなく、死人にしては素早い動きでこちらに向かって来るものが‥‥3体。
「あれがグールか‥‥ズゥンビはまあ、いいとして‥‥グールは結構やるんだよな。爺さん、エリベイション頼むぜ」
 怜の要請に、オルロックはズゥンビ達に向けてもう一発ファイヤーボムを放ってから、フレイムエリベイションとバーニングソードを付与した。
「よし、1体までなら任せろ。何とかする」
 だが、それ以上は流石にキツい。
「なら、わしはファイヤーバードで攻撃するかのう」
「飛ぶのかよ、若いなあ爺さん。男気を感じるぜ!」
 そう言いながら、怜は近付いてきたグールに向かって飛び出した。
 メチャクチャに腕を振り回し、隙あらば噛みつこうとする相手の攻撃を盾で防ぎ、殴る。
「単純だが、それっきゃないよな‥‥だが、押し切ってやるさ!」
 それを見て魔諭羅が後方から援護すべくシャドウバインディングを唱えた。
「従属せし者よ。主を裏切りその動きを縛れ!」
 グールの動きが止まる。
 そこへ魔法の炎を身に纏ったオルロックが4連続体当たりを食らわせるが、余り効いている様子はない。
「こいつ、思った以上にタフだな」
 怜はグールの動きが止まっている隙に少し後ろへ下がり、ローリンググラビティーを唱えた。
 グールは何度も地面に叩き付けられ、その体は漸く動きを止めた。

 一方イレクトラは馬から下りて槍を振るっていた。
「噛まれたりするのは有り難くないし、突き刺すと抜けなくなったりして厄介なのだね」
 なるべく頭を潰していくように振り下ろし、薙ぎ払う。
 彼女の方には2体のグールが向かって来ていたが、流石にそれを同時に迎え撃つのは難しい。
 片方の動きを魔諭羅がシャドウバインディングで止めている間に急いで攻撃を叩き込む。
「ありがとうよ。でも後ろには絶対に行かせないから、安心しておくれな」
 確かに普段は飛び道具を使う事が多いが、だからといって後衛の盾として前線で戦う事が苦手な訳ではない。
 イレクトラは1体の動きを完全に止めると、呪縛が解け始めたもう片方に槍を向けた。

「‥‥グールは耐久力が高いからのう‥‥」
 花音は忍犬のダイと共にズゥンビの片付けに回っていた。
 グールは耐久力だけなら倍以上のレベルのモンスターさえ上回る場合がある。彼等の攻撃力ではカスリ傷を付けるのがやっとだろう。
「ならば、数を減らすのが先じゃな」
 自らに疾走の術をかけた花音は攻撃を回避しつつズゥンビの背後に回り込み、時折ダイの援護も受けつつ木剣で切りつけていく。
 既に魔法のダメージが蓄積しているズゥンビ達は、ただでさえ鈍い動きが更に鈍くなっていた。
 彼等の手が回らない所ではオルロックがファイヤーバードで飛び回り、次々と薙ぎ倒していく。
 やがて、慰霊碑の周囲から殆ど動けないままに、彼等は土へと還っていった。

「‥‥ガキのイタズラかとも思ったが‥‥」
 死者達を片付けた後、慰霊碑の様子を見に来た怜が呟く。
「随分深く土に埋もれていたようじゃのう。大人でもこれを倒すのは難しそうじゃ‥‥それに、ただ倒されただけでもなさそうじゃな」
 花音が言うように、慰霊碑は倒れていると言うより引き抜かれていると言った方が正しいようだ。
 穴から少し離れた場所に、それは寝ていた。
 周囲には人の足跡らしきものも、馬で引いたような跡もない。
 誰か魔法の使える者の仕業か、それとも‥‥
「慰霊碑とアンデッドか‥‥また悪魔かね?」
 イレクトラが言うように、どこかの低俗なデビルが面白半分に引き抜いたのかもしれない。
「死人憑きは、元になる死体が無いと現れんからのう。当時の死体が原型を留めておる可能性は低いじゃろうし、少なくとも死体は別口で現れたと見る方が自然じゃな」
「アンデッドはそいつの置き土産‥‥か?」
 怜が言うが、確証はなく、手掛かりも殆ど残っていない。
「どっちにしろ、やっぱ命は尊ばなきゃダメだよな。生きたくて、でもそれが叶わない。そんな魂への冒涜が新たなアンデッドを生むんだ」
「倒すのは難しそうだが、引き起こすのはそれ程でもなさそうさね」
 イレクトラは慰霊碑にロープをくくりつけて、それを愛馬グレンヴィルに引っ張らせた。
 それが填っていたであろう穴のすぐ上まで手繰り寄せ、後は人手で引き起こす。
 慰霊碑は上手い具合に元の穴に収まった。
「よし、これできっちり元通り‥‥か?」
 穴の隙間に土を入れ、石に付いた汚れを落とすと、怜はその上から清らかな聖水を振りかけ、手を合わせた。
「俺はクレリックじゃないから、あんまり本格的なのは出来ないけど、一応形式だけでも、な」
 鎮魂の儀、と、ここに祀られた人々に受け取って貰えれば良いのだが。
「‥‥‥‥」
 花音が近くで咲いていた野の花を黙って手向ける。
 何も言わない花音に代わってイレクトラが呟いた。
「ここに元からいる者も、どこからか連れて来られた者も、安らかに眠るが良い‥‥」