騎士の本分

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月01日〜08月04日

リプレイ公開日:2007年08月09日

●オープニング

「‥‥近頃じゃ、金さえ積めばどんな馬の骨でも騎士や聖職者になれるらしいな」
「まったく、地位も名誉も、地に堕ちたもんだぜ」
 キャメロットに数ある酒場のひとつ、一般庶民から王宮の騎士達まで幅広い客層を誇るその店の片隅で、騎士と思しき数人の男が真っ昼間から愚痴をこぼしては安酒を煽っていた。
 どう見てもうだつの上がりそうもない彼等は、先頃エチゴヤで売り出された各種許可証について、延々と文句を垂れ続けていた。
「そもそも騎士とは、然るべき家柄と血筋に生まれた高貴なる者がそれに相応しい高等な教育を受け、肉体的にも精神的にも厳しい試練を乗り越えた上で、初めて認められるべきものだ。それを‥‥!」
「素性も分からぬ成金どもが、金に物を言わせて装備を整え爵位を買い、見てくれだけはどうにか『騎士でござい』などと、そんな連中と戦場で肩を並べる事になったら‥‥どうする?」
「それは仕方がない。どんな状況だろうと、自分は己の本分を全うするまでだ。‥‥しかし、騎士の中にそんなものが混じっていると敵に知れたら‥‥恥だな」
「ああ、この国の‥‥ひいては国王陛下の恥だ」
 男達は他の客の耳に入る事も憚らず、大声で話し続ける。
 いや、寧ろ店じゅうの客に聞かせたがっているかのようだ‥‥まあ、この時間帯に酒場に出入りする暇人など、そう多くはなかったが。
「‥‥あいつら、あんな事言って‥‥自分達の方がよっぽど恥だって、気付かせてあげたら?」
 小さなシフールが、肩を椅子代わりにしている暇人‥‥いや、全くもって暇ではないのだが、ちょうどキャメロットへ来ていたついでに視察という名の現実逃避を謀っていた円卓の騎士に話しかける。
 だが、彼はほんの少し苦笑いを浮かべただけで、首を横に振った。
「あの人達の気持ちも、わからないでもありませんからね」
「え? なんで? ボールス様も、金で出世を買う奴なんてロクなモンじゃないと思ってるワケ?」
「そうではありませんよ。でも、それを選んだ人達が何を望んで‥‥どんな思いでそうしたのか、それは少し気になります」
 現実に、権力者とのコネを求めて爵位を買うような、騎士道精神の欠片も持ち合わせていないような連中も、いない訳ではない。
 もっとも、生まれながらの貴族達が、その中身まで「貴い」とは限らないというのも、また事実ではあったが。
「‥‥時間があったら、少し話をしてみたいですね」
 それを選んだ者と、選ばなかった者。
 それぞれの思いや決意、彼等が思い描く理想や、その目に映る現実。
 そして、現にその職にある者に対して彼等が何を求めているのか‥‥そんな事を。

●今回の参加者

 ea0021 マナウス・ドラッケン(25歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3530 カルル・ゲラー(23歳・♂・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

「にゃっす! ぼくカルルっていいます。今回はぼーるす卿にお招きいただき感謝感激なのっ! んと、よろしくよろしくです☆」
 カルル・ゲラー(eb3530)は部屋に足を踏み入れるなり、天使の笑顔で明るく元気にご挨拶。
「今日は子供の視点から大人の世界をみてみるねっ☆ 騎士を目指す子供たちの為に、ぼーるす卿とゆかいな騎士さんたちにれっつ取材だよ〜♪」
 カルルは『きゃめろっとこども新聞』なるモノを作るつもりらしい。早速テーブルの真ん中に陣取って筆記用具を取り出した。
「ボールス卿には初めてお目に掛かります。エリンが騎士、エスリン・マッカレル(ea9669)と申します。名高き円卓の騎士のお招き、光栄に存じます」
 主催者及び他の招待客の動向に興味津々、楽しそうに瞳を輝かせているカルルとは対照的に、エスリンは表情も硬く険しい。
 こんな改まった挨拶を受けるのはボールスにとっても久しぶりだが‥‥何となく居心地が悪いのは、遠慮会釈なくタメ口を叩く冒険者達との気楽な付き合いに慣れてしまったせいだろうか。
「普段通りにして貰って構いませんよ。ほら、皆さん好き勝手にくつろいでいますし‥‥」
 確かに客間には思いっきりリラックスした雰囲気が漂っていた。
 マナウス・ドラッケン(ea0021)がお茶を煎れ、ルーウィン・ルクレール(ea1364)はそれを静かに楽しんでいる。デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)は床に座り込んで猫達と戯れていた。
 ‥‥が、その中でひとり、落ち着きなく視線を宙に漂わせているのは‥‥
「蒼汰さん、どうしました?」
 声をかけられて、転職組の七神蒼汰(ea7244)は弾かれたように椅子から立ち上がった。
「こ、こんにちはボールス卿。ジャパンの浪人改め‥‥王国の騎士見習い七神蒼汰、です」
 蒼汰は少し照れたような笑顔を向ける。
「ええと、10日ぶりくらい‥‥ですか‥‥って、なに笑ってんスかっ!?」
「あ、ごめ‥‥すみません、その、見慣れないもので‥‥っ」
 ボールスは肩を震わせながら必死に笑いを堪えている。
 うん、まあ、確かに‥‥洋装は‥‥
「あーくそっ! ハリセン持って来れば良かったっ!」
 笑いの発作を起こしたボールスに蒼汰が悪態をつく。
 だが、そのお陰でさっきまでの悶々とした気分は吹き飛んだらしい‥‥自分が転職組である事に対して何となく後ろめたいような居心地の悪さを感じていたようだが。

「成る程、そのような話が‥‥」
 ボールスから事の発端になった酒場での出来事を聞いたエスリンは僅かに目を伏せた。
「俺はこれまで色んな依頼で騎士やら貴族やらを見てきたが、声高に血筋を言う奴でまともな奴はいなかったと思うぜ」
 ギリアム・バルセイド(ea3245)が鼻を鳴らす。
「ですが正直に申し上げれば‥‥その者達の言に頷ける処もあります。いえ、血筋云々ではなく。高潔なる誇りと名誉の称号たる筈の騎士位を、金銭で購い得るという事実に‥‥です」
「でも、おいらの国じゃお金で官位を買うのって昔からの伝統だよ」
 と、ビザンチン帝国出身のデメトリオス。
「だから、何が悪いのか良くわかんないんだよね。実際の実力があるか、お金で国に貢献するかの違いってだけでしょ?」
「いえ、悪いと言っている訳ではありません。ただ‥‥血筋を問わず騎士の心を持つ方のみが、無償で叙勲されるが道理の筈ではないかと‥‥」
「まあ、誰でもその機会に恵まれるって訳でもないだろうし、な」
「俺も本当は誰かの目に止まって騎士に取り立てて貰うのを目指していたんですけど‥‥」
 転職組のマナウスと蒼汰の言葉に、シルヴィア・クロスロード(eb3671)が言った。
「地位を買うのではなく、認められる機会を買うのだと考えてはどうでしょうか?」
「そうだな、それぞれに思う所があるから転職を選んだんだろうし、わざわざそれを選ぶって事は、色々と覚悟も出来てるって事だろう?」
 と、ギリアム。
「うん、最初に違う道を選んで別の生き方をした人が、富と実力を身につけて住む国に貢献する為に騎士になるって、むしろ騎士道に則った事だと思うんだよね。イギリスの騎士にはイギリスの貴族しかなれない訳じゃないし‥‥今回主催のボールスさんだって、元々イギリスの人じゃないんだし」
 まあ、そのせいで一部には未だに反感を買っている面もなきにしもあらず、だが。
「血筋や家柄にやたら拘る奴は、それしか誇れる物が無いと言っているのと同じに聞こえるな。そいつに拘る余りに肝心の本分が疎かになっていないか、とな」
「騎士とは出自に関わらず、その行いによって認められるものです」
 シルヴィアが自らに言い聞かせるように語る。
「相応しい行いを続ければ自ずと騎士となり、相応しくない行いをすれば剥奪される。騎士の名は誇るようなものではなく、自らを戒める為のものです。いつも騎士の名に恥じぬようにと‥‥」
「そうですね、生まれながらの貴族でもどうしようもない人物もいますし‥‥私としては、騎士としての意味を間違えていなければいいと思いますよ」
 権力者とのコネを求めて爵位を買うような、騎士道精神の欠片も持ち合わせていないような連中でない限りはと、ルーウィン。
「‥‥では、その相応しい行い、本分とは何だと思いますか?」
 ボールスの問いに、エスリンが即座に答えた。
「主君と神への忠誠、法と正義、寛容と名誉、勇気と礼節――即ち騎士道の体現者こそ騎士‥‥私も未熟者なればこそ、其の意味と重さを承知し、いつか理想の騎士たらんと日々励んでいるつもりです」
「名誉、寛容、奉仕ってのが騎士の基本理念ではあるな」
 ただ‥‥と、マナウスは続けた。
「俺は騎士の理想とやらを体現する為に騎士になった訳じゃない。前にも言ったが、俺が戦うのは好きなものを護る為だ。だが、護りたいものが増えて、自分の限界を知った‥‥勿論、超える事も出来るだろうが、それを繰り返すのが正しいとも思えなくて、な。それに、個人の力がいくら強くてもどうしようもないのが多いからな。俺は誰かの泣き顔を見るのも、誰かの死を見るのも真っ平だ。だからそれを防ぐ為なら、俺はあらゆる手段をとる。今回の転職も、その一つと考えて貰って構わない」
「友人は、ファイターをしていましたが、冒険を続けてデビル等と対峙しているうちに、魔法の武器を使ってはいましたが決定力に欠けているので、オーラを習得したい、守る力が欲しいと言っていましたね」
「確かに地位や名声は上がるし、習得を許される技もある。これまでに出来なかった事が出来るようになるかもしれん」
 ルーウィンの言葉を受け、ギリアムが言った。
「だが、地位が上がることで手が届かなくなる事も多い。俺なんかは『何かあれば全力で守る』と誓った奴が何人かいる。気心の知れたかけがえの無い友人がいる。そんな連中の近くにいる為に、おれは転職を選ばない。俺が冒険者であり続ける理由はそこら辺だ」
「確かにそれはあるだろうな。地位が上がる程、縛りもきつくなる」
 マナウスはちらりとボールスの方を見る。
「何か事が起これば、そちらは色々動く‥‥いや、動かざるを得ないだろう? その時代行やらフォローやらに走る騎士は一人でも欲しいだろうからな。そういう意味でも力になれればって思ったのさ」
「俺も‥‥そうだな、最初は街の子ども達が騎士に憧れるのと同じで、騎士って格好いいな、なりたいなって漠然と考えていた程度だったんですけど‥‥」
 蒼汰が照れたように言う。
「円卓の方達と依頼なんかで関わるようになって、皆それぞれの信念を持っていてとても凄い、立派な人達だと感じました。そして『少しでも近付きたい、役に立ちたい』と思った。なんか、子供っぽい理由かもしれないけど、でも後悔はしてません。そんな暇があったら少しでも自分を高めたいですから」
「私は小さな人々の助けの手になりたい。そうして人々の笑顔を守って行きたい‥‥」
 と、シルヴィア。
「私の小さな手では全てを救えない事は分かっています。でもせめて、目の前で起こる悲劇だけは食い止めたい。悲しい話が少しでも減るように、今の私にできる精一杯をして行きたい。それは簡単な事ではないけれど、苦難のその先に人々の微笑があるのなら‥‥私はその為に剣を握り続けます。それが私が剣を握る理由。騎士である理由なのです」
「うん、大事なのは騎士になって何をするかであって、どんな風に騎士になったかじゃないよね。これから騎士になる人も今騎士の人もお互い切磋琢磨しあって頑張ってほしいな。お互いが高めあえればそれに越した事はないんじゃない?」
 デメトリオスの言葉で何となく締めの雰囲気になった時、それまでひたすらメモをとり続けていたカルルが口を開いた。
「んとんと、皆の騎士道はわかったけど、ぼーるす卿はまだ何にも言ってないのっ! だから質問するねっ☆ そのいち、ど〜したら円卓の騎士になれるんですかっ?」
「さあ、どうしたらなれるんでしょうねえ?」
 何とも頼りない答えだが、実際その道はひとつではないし、決まったルートがある訳でもない。
「とにかく、自分に出来る事を精一杯頑張る事、でしょうか。必要とされるのは剣の腕だけではありませんからね」
「そ〜だね、ぼーるす卿もあんまり強そうに見えないしっ☆」
 天使の笑顔で言われては反論する気も起きないと言うか‥‥まあ、事実ほぼその通りだし。
「そのにっ! ぼ〜るす卿にとって騎士として一番大切だと思うことは何ですか?」
「信頼‥‥かな。自分を信じ、他人を信じる事。信じて貰えるような人間であり続ける事、ですね」
 円卓の騎士と言えどもひとりで出来る事は限られている。誰かの助けが必要な時に手を差しのべて貰う為にも、自分の力を存分に発揮する為にも、それが一番大切なように思う。
「んとんと、じゃあ最後の質問っ! 神聖騎士って騎士で聖職者だと思うけど、『道ならぬ恋』についてご意見をどうぞだよ〜?」
 何故そこでそんな質問が出るか。
「いや、その、道‥‥と言われても」
 道にも色々あるし。
「何にしても、人の道に反してさえいなければ問題はないと思いますが‥‥」
 ましてや誰かが勝手に決めた道に従う義理はない、という思いは辛うじて喉の奥に押し込む。
「ふみゅ、そういう家系だから仕方ない、と」
 コラ、誰がそんな事を言った!?
「答えてくれてありがと〜なのっ。ちゃんと日記につけておくねっ。んと、それから、ぼくの騎士道はね、みんなが幸せに、だよっ☆」
 だから、そんな笑顔で言われたら反論する気力が‥‥。
「さて、場が和んだ所で‥‥ここからは普通にお茶会と行きましょうか」
 ボールスが苦笑と溜息混じりに言うが、招待客の皆さんは既に勝手に和んでいる。
 その中でも相変わらず硬い表情を崩さないのは‥‥
「ボールス卿」
 エスリンが立ち上がり、頭を下げる。
「御許しを頂けるなら、この機会に円卓の騎士たるボールス卿の前で、我が誓いを新たに‥‥」
 だがボールスは首を横に振った。
「私はまだ、あなたの事を良く知りませんし、私も円卓の騎士とは言え、あなたが何事かを誓うに足る存在であるとも限りません。もう少しお互いに様子を見てからでも遅くはないでしょう。それに‥‥どなかた心に決めた方がいらっしゃるのではありませんか?」
 その問いに、エスリンはうっすらと頬を赤らめる。
「‥‥ならば、焦らずその機を待つのが良いでしょう。騎士の誓いは、そんなに軽いものではない筈ですよ」
 そう言うと、ボールスはもう一人の銀髪女性騎士に向き直った。
「こちらはその後、何か進展は?」
 自分の所がそれなりに落ち着いたので余裕かましてます、この人。
 だが返ってきた答えは、やっぱり相変わらず論点が微妙にズレているような。
 うん、まあ‥‥頑張れ?