【ジューンブライド】綺麗な薔薇には‥‥

■ショートシナリオ&プロモート


担当:STANZA

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:06月19日〜06月24日

リプレイ公開日:2006年06月26日

●オープニング

 ヲトメの憧れジューンブライド。
 しかし今、その花嫁衣装を飾るブーケに危機が迫っていた‥‥。

 ここはキャメロット郊外の、とある貴族の邸宅。広大な庭に作られた、イギリスの象徴とも言える豪華なローズガーデンでは、今まさに満開の薔薇が咲き誇ろうとしていた。
 だがしかし。
「キャアァァァっっっ!!!」
 衣を裂くような少女の悲鳴が、朝露に濡れた庭に響き渡る。
「どうなさいました、ユリアナお嬢様!?」
 執事と思しき初老の紳士が、その声を聞きつけ、何事かとすっ飛んできた。
 ユリアナと呼ばれた10代前半と思しき少女は、ローズガーデンの入口にある大きなアーチの数歩手前で、つぼみの開きかけた薔薇を見つめたまま固まっている。
 執事がその視線の先に目をやると、そこには‥‥。
 毛虫。
 しかも、ウジャウジャと。
 つぼみと言わず葉と言わず、至るところにモゾモゾとうごめくそれは、よく見れば庭の薔薇の殆どを覆い尽くしていた。
「いつの間にこんな事に‥‥!?」
 呆然と、独り言のように呟く執事の問いに、これまた呆然と少女が答える。
「わからないわ。昨日お庭をお散歩した時には何も‥‥」
 しかし、心当たりがない事もなかった。
 広大なローズガーデンは、先代の頃からこの家に仕える数人の庭師によって管理されている。その仕事ぶりには誰もが満足していたが、その彼等が数日前に相次いで体調を崩し、ここ数日は誰も薔薇の手入れをしていなかったのだ。
 その間に、爆発的に増えたらしい。
「これは、大変な事になりましたな‥‥」

 執事の行動は早かった。
 彼はすぐさま手近のギルドに駆け込むと、息を切らしながらまくしたてた。
「お願いします、どなたか助けを‥‥人手が必要なんです。お嬢様と薔薇をお助け下さい!」
 寝惚け眼だとは傍目からは伺い知れない糸目の受付係が詳しく事情を聞くと、大体こんなところらしい。
 彼の仕える家は最近当主を亡くし、今では一人娘のユリアナが家督を継いでいた。先代は元々薔薇作りが趣味で、広大な薔薇園はただ彼と家族の目を楽しませる為だけに作られたものだった。だが、病で亡くなる直前、まだ幼い娘の生活を案じた彼は、庭の薔薇を結婚式のブーケ材料として使い、収入を得る事を許したのだ。
「なるほど、貴族とは言え何かしらの収入がなければ、いずれは財産を食い潰してしまいますからね」
「はい‥‥今はちょうど薔薇の花が満開になる季節、そしてジューンブライドの伝説にあやかろうと結婚式が増える時期でもあります。なのに‥‥」
「肝心の薔薇が出荷出来ない‥‥と。それでは、ご依頼は薔薇に付いたイモムシケムシの退治、という事でよろしいですね?」
「はい。それに、出来ればブーケ作りも‥‥何しろ納期が迫っているもので」
 執事は溜め息をつきながら続けた。
「たかが毛虫退治に冒険者の手を借りるなど、大袈裟すぎると思われるかもしれませんが、他に急ぎ人を集める手だてを思いつきませんで‥‥」
「そんな事はありませんよ、これはモンスター退治です。立派に我々の仕事の範疇ですよ」
「モンスター‥‥ですと?」
「ええ、庭師の方々は恐らくパピヨンの毒にやられたのでしょう。蝶がたくさんいませんでしたか?」
「そう言えば‥‥お嬢様が、綺麗な蝶々がたくさんいると、喜んでいらっしゃいました。あんな笑顔は久しぶりで‥‥」
 執事が思わず目頭を押さえる。
 その様子を見なかったふりをして、受付係は続けた。
「今年はどうもあちこちで大量発生しているようですからね。素人目には普通の蝶と区別が付かないので、ちょっと厄介なんですよ」
 書類に必要事項を書き終えた受付係がニッコリと笑う。
「大丈夫、お任せ下さい」
 そして最後に、こう付け加えた。
「お嬢様には、綺麗な蝶々だという事にしておきますから」

●今回の参加者

 ea7222 ティアラ・フォーリスト(17歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7252 レイン・レイニー(32歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8274 京極 唯(37歳・♂・僧兵・人間・ジャパン)
 eb3343 イリーナ・リクス(37歳・♀・ファイター・人間・ロシア王国)
 eb3671 シルヴィア・クロスロード(32歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4710 クラリス・ロイス(60歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb5288 アシュレイ・クルースニク(32歳・♂・神聖騎士・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5417 御堂 康祐(49歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

クル・リリン(ea8121)/ デュランダル・アウローラ(ea8820)/ リースフィア・エルスリード(eb2745)/ アーシア・アルシュタイト(eb3852

●リプレイ本文

 青い空、緑の風、そして赤い薔薇には大量の毛虫。
「聞きしに勝る惨状ね‥‥」
 作業前に庭の様子を見に来た冒険者達が、パピヨンの毒を浴びないように離れて様子を窺っている。毛虫に食い荒らされた葉の様子は、特に目が良いという訳でもないイリーナ・リクス(eb3343)の目にもはっきりと見えた。
「‥‥広い庭ね‥‥魔法力がもつかしら‥‥」
 面倒臭そうにレイン・レイニー(ea7252)が呟く。
「これは気合いを入れてかからねばならんのう。非力ではあるが少しずつでも手伝うのじゃ」
 隣の若者とは正反対に、クラリス・ロイス(eb4710)は元気いっぱいに顔を輝かせている。
「パピヨンの大量発生現象‥‥何かの前触れでなければよいが‥‥」
 難しい顔で考え込む御堂康祐(eb5417)の隣で、京極唯(ea8274)は早速用意してきた道具を使って、大団扇作りを始めている。だが、なかなか上手くいかない様だ。
 そこへ、庭師の治療に行っていた面々が戻ってきた。
「みんな、お待たせー!」
 ティアラ・フォーリスト(ea7222)が元気に走って来る。
「庭師のおじさん達、みんな元気になったよ」
「リカバーが効かなかった時は少々焦りましたが‥‥毒消しが効いてくれたので助かりました」
 アシュレイ・クルースニク(eb5288)が嬉しそうに微笑む。
「皆さん、害虫退治に協力して下さるそうです。必要な道具も貸してくださるそうですよ」
 シルヴィア・クロスロード(eb3671)の後ろに、3人の庭師が立っていた。皆それぞれ、手袋やマスク用の布、大きな麻袋などを携えている。
「皆さん、本当に助かりました。モンスター相手にどれほどお役に立てるかわかりませんが、精一杯お手伝いさせて頂きます」
 年かさの庭師が頭を下げる。ふと、杖と毛布を相手に苦戦する唯の姿が目に留まった。
「‥‥おや?そちらの方は何を‥‥?」
「む、毒鱗粉を吸い込まないように大団扇で風を送ろうと思ったのですが‥‥」
「なるほど、それは良い考えです。そういう事なら我々にお任せ下さい」
 普段から薔薇のアーチや柵などを作り慣れている庭師達、あっという間に大団扇を2つ、作り上げてしまった。
「おお、これは使いやすい!」
 唯は一方をイリーナに渡すと、バッサバッサと団扇を振ってみせる。
 そこへ、依頼人の少女‥‥ユリアナが現れた。少女は冒険者達に丁寧に頭を下げ、礼を述べる。
「他に必要な物がありましたら何でもご用意しますので、遠慮なく仰って下さいね」
「では‥‥沢山のお湯を用意していただけないでしょうか? 今日の作業に参加された方が体調を崩さないよう、念のため作業後に予防の治療をしておきたいと思いますので」
 と、アシュレイが申し出ると、少女が可愛らしい顔を曇らせた。
「予防‥‥ですか? 先程、執事も何かお薬を買いに行くと申しておりました。庭師のおじさま達が倒れたのも、このお庭に原因があるのですか?」
 なかなか鋭い。
「あ、いや、そういう訳では‥‥」
 思わず口ごもるアシュレイに、クラリスが助け船を出した。
「蛾じゃよ、お嬢ちゃん。毒蛾じゃ」
「毒蛾‥‥?」
「昼間は葉の陰なんかに隠れておるから、お嬢ちゃんは見た事ないじゃろ? 庭師のおじちゃん達は、そういう虫を退治するのが仕事じゃから、うっかり触ってしまったんじゃろ、のぉ?」
 流石は年の功、見事なフォローだ。
「そ、そうです、毒蛾です! 中には強い毒を持つものもいるんですよ」
「‥‥そうなんですか‥‥。じゃあ、私はお湯を沸かしてきますね。皆さん、どうかご無理をなさらずに‥‥」
 ペコリと頭を下げると、少女は屋敷の中へ戻って行った。
「では、今のうちにまず成虫のほうを片付けるとするでござるか」
 一同がホっと胸をなで下ろす中、康祐が毒対策の為に水で湿らせた布をマスク代わりに装備すると、先頭に立って歩き出した。


「えーとね」
 薔薇園のアーチの手前で、ティアラが出発前に友人から教わった知識を披露する。
「パピヨンは遠くからだと普通の蝶と見分けが付かないけど、近付くと鱗粉を出してるからすぐわかるって」
「なるほど‥‥近付けば見えるなら、区別はそう難しくなさそうですね」
 と、シルヴィア。
「‥‥毒を浴びる距離まで近付けば‥‥って事よね‥‥」
 レインが気乗りしない様子でツッコミを入れる。
「だから、私と京極さんで後ろから毒粉を吹き飛ばすのよ、この大団扇で」
 イリーナが手にした団扇をバサッと振る。2人は腕力には自信があった。
「じゃあ、風上から行くわよ!」

「‥‥まあ、面倒だけどやってあげるわ‥‥」
 いかにもダルそうにプラントコントロールの呪文を唱えるレインだったが、言葉や態度とは裏腹に、仕事は素早くきっちりとこなす。
「‥‥あなた達、自分の事なんだからちゃんと手伝って貰うわよ」

「うーむ‥‥パピヨン相手といえど、流石にアイスブリザードは使えぬじゃろうな‥‥」
 かといって、この場合アイスコフィンも実用的とは言い難い。
「あたた、腰が‥‥っ」
 クラリスは、ここは若者達に任せる事に決めたようだ。

 パピヨンはモンスターとは言え所詮は蝶。毒鱗粉さえ食らわなければ怖い相手ではなかった。
 背後からの風を受け、ティアラがアグラベイションで動きを止めたところをアシュレイが切る。
 パピヨン達はそれほど高くは舞い上がらず、シルヴィアの剣でも難なく届いた。
 康祐は団扇係との連携も取らず、普通の蝶さえ手当たり次第に斬り刻んでいく。おかげで余計な毒を浴びるハメになったが、鱗粉対策のお陰で大事には至らなかった。
「綺麗な蝶といえどもこの時期は害虫でござる」
 死骸は後に続く庭師が拾って袋に詰めていく。成虫退治は思いのほか速く終わった。
 ‥‥だが、問題はこの後だ。


 うぞうぞ、うぞぞぞ‥‥‥‥‥‥‥‥。
 毛虫が、うごめいている。
「う、うう‥‥いっぱいいる‥‥。でも、愛情込めて今まで大事にしてきた薔薇だもんね。頑張らなきゃ!」
 厚手の手袋をはめていても、毛虫の感触は伝わってくる。ティアラは背筋を走るトリハダと戦いながら、毛虫をつまんでは袋に入れていく。葉の裏も注意して、虫の卵をこすり取っていった。
「あまり心地よい感触とは言えませんね‥‥。しかし、これも人助けです。我慢しましょう」
 我慢我慢、と自分に言い聞かせながら毛虫をつまむシルヴィアの隣では、クラリスが2本の小枝で器用に毛虫をつまみ取っていた。
「これはハシというもんじゃ。ジャパンで教わったんじゃよ。さて、フレイムエリベイションで気合いを入れるかの!」

 毛虫相手にやや腰が引けている女性陣とは対照的に、男性陣はテキパキと作業を進めていた。
 庭師達はその後から虫や卵の取り残しがないか確かめながら、比較的被害の少なかった花をブーケ用に切り取っていく。使えそうな花はそれほど多くなかったが、必要な数には充分だった。

 虫取り作業も終わりかけた頃、裏庭に掘られた大きな穴では毛虫で一杯になった袋が次々と焼かれていた。悪臭を放つ煙が空に舞い上がるが、ここでも大団扇が役に立つ。
「煙が屋敷の方へ行かないようにしなくては‥‥っ」
 団扇係の2人は交代で風を起こし、煙を吹き飛ばす。額には玉の汗が光っていた。
「こんなに‥‥重労働になるとは‥‥思わなかったわ‥‥っ」


 果てしなく続くかと思われた幼虫退治もようやく終わり、用意された湯で服や髪に付いた鱗粉を洗い流すと、一同はブーケ造りを手伝う為に屋敷の一室に集まった。
「いたたっ」
 薔薇のトゲ抜きを手伝っていたティアラが小さく声を上げる。
「ティアラあんまり器用じゃないけど、これくらいならって思ったのに〜」
「コツを掴めば簡単ですよ、ほら、こうして‥‥」
 隣では唯が大きな手で器用にトゲを抜いていく。
「唯さん両手利きだもん、そんなのマネ出来ないよぉ」
「大丈夫ですよ、お嬢さん。傷薬と毒消しはたっぷり買っておきましたから」
 後ろから執事が声を掛ける。
「そういう問題でしょうか‥‥」
 庭師の一人からブーケ作りを教わり、こちらもかなり苦戦しているらしいアシュレイが苦笑いする。
「ブーケって、男の人が愛する女性に永遠の愛を誓うための花束なのよね」
 イリーナが自らの体験を思い出したのか、幸福そうに目を細める。
「だからブーケは渡す側も貰う側も間違いなく記憶に残る大事な品なの。これから式を迎える人たちのためにも、心をこめて作らなくちゃね」
「ティアラもいつか、貰えるかなあ?」
「ほっほ、案外もうすぐかもしれんのう」
 皆が談笑しながらブーケ作りに励む中、レインはひとりブツブツ言いながら手を動かしていた。
「はぁ、ジューンブライドなんて私には縁はないのに‥‥プラントコントロールで勝手にブーケになってくれないかしら‥‥」
 ブツブツブツ。
 背後で、クスクスと笑う声がした。
「皆さん、お疲れ様です。お茶の用意が出来ましたので、一休みなさって下さい」
 少女が一同を薔薇園の中にセットされたテーブルに案内する。
 作業が終わり、それなりに美しさを取り戻した薔薇園を背景に飲むローズティーは格別だった。
「お嬢さん手ずから入れて下さったので、ことさら美味しく感じるのでしょうね」
 シルヴィアが香り立つカップを片手に、心底から賞賛の意を表す。
 その向かいでは唯が身振り手振りを交えてジャパンの伝承を面白可笑しく披露している。もっとも、本人は面白可笑しくやっているつもりでも、表情も変えず語り口もまるで棒読みのようだった。
 だが、その話の内容と語り手とのギャップが可笑しいのか、少女はコロコロと楽しそうに笑っていた。


 帰りがけ、冒険者達にはお礼として一束の薔薇の花が贈られた。ブーケとして商品にするには難があるが、鑑賞には申し分のない花だ。
 そして、庭師の治療のために毒消しを提供した3人の花束には、薬代と、僅かばかりだが謝礼の金子が添えられていた。