あの鐘を鳴らすのは、どなた?
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:フリーlv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:08月18日〜08月23日
リプレイ公開日:2007年08月26日
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●オープニング
その町の教会には独特の風習があった。
結婚式に鳴らされる教会の鐘‥‥それを最初に鳴らした者は男女問わず、現在フリーなら素敵な相手が見付かり、既に相手がいる場合は近いうちに幸せな結婚が出来るというのだ。
御利益はそればかりではない。既婚者は子宝に恵まれ、既に子供もいる場合には末永く幸せに暮らせるというサービス満点のスグレモノだ。
それがどこまで信じるに足るものか、それは個人の判断に委ねるとして‥‥。
そして今日も、町外れの教会では結婚式が行われようとしていた。
式の開始を告げる鐘の音が遠くから響く‥‥と、そのちょうど反対側に位置する町の門が開かれる。
そこから若者達、いや、老若何女問わず、血気盛んな一団が雪崩を打って吐き出された。
真夏の太陽が照りつける中、彼等は走る。狭い路地を抜け、広場を横切り、ある者は家の屋根を伝って、祝福の鐘を一番に鳴らす為に。
勿論、幸せな二人を祝福するという純粋な目的も、あるにはある。が、それよりは多少不純な目的の方が彼等の原動力となっているようだ。
即ち‥‥
「今年こそ彼女をゲットするぜーっ!」
「さらば独身ーっ!!」
「今年の冬は暖かく過ごしたいーっ!」
「待っていろ○○○、俺はやるぞーっ!!」
「息子達よ、父の勇姿をその目に焼き付けるがいいっ!」
「男なんかに負けるもんですか! 幸せを手にするのは私よっ!!」
‥‥等々。
女性の場合は花嫁のブーケを狙った方が良いような気がしないでもないが、まあ、それは人それぞれ。
暑苦しく燃える一団はピンク色の情念を身に纏いつつ町を駆け抜ける。
町外れの教会、その登楼の天辺に見える「あの鐘」に向かって。
沿道では観客が彼等にアツい声援を送っていた。
中には自分達の未来の為に頑張る恋人を、祈るような面持ちで見つめる者も。
‥‥さあ、あの鐘を鳴らすのは誰だ!?
●リプレイ本文
町外れの大門‥‥その閉ざされた扉の向こうにみっしりと詰まった人々の頭上には、一種異様な熱気が渦巻いていた。
「この戦い、負けられないな」
その中のひとり、ソフィア・ハートランド(eb2288)も気合い充分だった。
彼女が目指すのは玉の輿‥‥具体的には円卓の騎士の妻、らしい。ちょっとやそっとでは叶いそうにないその望みを叶える為に、あの鐘を一番に鳴らす必要があるのだ‥‥どんな手段を使ってでも。
「なあ、あの人怖いんだ。何とかしてくれないか?」
下見ついでに誘惑しておいた優しそうな男達に、傍らのむちゃくちゃ気合の入った人物を排除してくれるように頼んでみる。
‥‥が、気合いが入っているのは皆同じ。平時はレディファーストを旨とする心優しき男達も、この場においては情け無用の問答無用、相手が女性だからといって加勢や手加減は一切ない。
「姉ちゃん、ここは戦場だ‥‥自分の命は自分で守るしかない。人をアテにしてると真っ先に死んじまうぜ?」
そう、戦いは既に始まっている。今ここに集う全員が互いに敵同士なのだ。仲間はいない‥‥少なくともリタイアするまでは。
「やっぱり、真面目に走るしかないか」
ソフィアは前日までに頭に叩き込んだ経路を反芻し、覚悟を決めた。
合図の鐘が鳴ると同時に、開かれた扉に向かって人の波が押し寄せる。
扉の真ん前に陣取った屈強な男が、後ろから押された弾みでバランスを崩し、人波の底に沈んだ。
そして、波が去った後に残ったものは‥‥死屍累々。いや、死んではいないだろうし、肉体的にもそれほどのダメージは受けていないだろうが‥‥何となくそう表現したくなるような痛ましい光景が広がっていた。
まあ、ここで脱落するという事は、いわば不戦敗だ。戦わずして敗れ去るその無念さは察するに余りある。
「‥‥やはり怪我人が出ましたか‥‥」
集団の最後尾に付け、のんびりと歩いてきたルーウィン・ルクレール(ea1364)は、その惨状に溜息をついた。
待機していた救護班の活動を手伝い、とりあえず怪我の具合が重そうな者から順に救護所へ運ぶ。女性を優先にと思っていたのだが、流石の殺気立った集団も女性を踏み潰すような事はしなかったようだ。
「あの、あなたも参加者では?」
救護班の女性の問いに、ルーウィンは爽やかな笑顔で答えた。
「そうですが‥‥私はどちらかというと楽しみたいだけですので」
最初から勝利は狙っていないらしい。
それでも、怪我人を運び終わった彼は既に追いつけない事を承知で走り出す。その背中に、何人かの女性の熱い視線が向けられていた。
彼は恐らく勝負には負けるだろう。しかし、別の意味で既に勝利を手にしているような気がしないでもない‥‥。
「ふむ、お祝いの祭と言うか、祭そのものがお祝いと言う感じなのさね」
集団の中程を無難にキープしながら、イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)の顔からは楽しそうな笑みがこぼれる。
彼女も勝利にはさほど拘らず、一緒に混ざって楽しみたいクチだ。勝っても負けても、祭の余韻を楽しみたい‥‥その為に彼女は既に町で評判の酒場を借り切り、宴会に雪崩れ込む手筈を整えていた。
「しかし結構な重さだな、このロープは‥‥」
勝利を目指して真剣に走るマナウス・ドラッケン(ea0021)の肩には丸めて袈裟掛けにされたロープが2本。最初はそれほどでもなかったものが、走るにつれて段々と重さが増して来る。
いつものように体力の底上げが出来れば多少なりとも楽になるのだが、これは己の実力だけが頼りの真剣勝負。キツい部分は気力でカバーだ。
予め下見をしておいた脇道の中から、なるべく人の少ない場所を選んで走る。
途中に何ヶ所か「最短距離」と書かれた怪しげな札が置かれているが、勿論そんなものに騙されはしない‥‥どうせ遠回りルートに決まってるし。
中には釣られる連中もいるようだが、下見もせずに参加した横着者だろう。
「自業自得だな。何事も周到な準備と緻密な計画が物を言うのさ」
「う〜ん、流石にマナウスは引っかからないか」
怪しげな札を設置した張本人、フレイア・ヴォルフ(ea6557)は屋根の上を走りながら下の様子を窺う。
勿論、そこを走る事は持ち主の了解を取ってある‥‥と言うか、既にそこは確定ルートらしく、彼女の他にも何人かが軽快に屋根から屋根へと飛び移っている。
「何とか食い込めるか‥‥?」
先頭集団に食いつけない場合は冷やかしに回る事も考えていたのだが、どうにかなりそうだ‥‥いや、どうにかしてみせる!
「ま、これはあたしより旦那の方が最適な気もするがな‥‥とにかく、もうひと頑張りしてみるか」
「見えたっ!」
狭い街路を抜け視界が開けたところで、何とか先頭集団に食い込んでいたソフィアの目に飛び込んできたのは「あの教会」と、そして‥‥
「あの鐘だ! あの鐘を鳴らすのは私だっ!」
だが、登楼に通じる入口も、それに続く階段も狭い。屈強な男達にはどうしてもパワーで劣るソフィアは、その狭い入口に突進する筋肉ダルマ達にあっさり突き飛ばされ尻餅をついた。
その目の前を殺気立った一団が走り抜け、入口に殺到する。既に入り込む余地はなさそうだった。
「‥‥しかたがない、最終手段だ」
ソフィアは懐から取り出した火打ち石を鐘に向かって投げ付けた!
――カーン!
「よし、これで円卓の騎士と結婚できるぞ!」
小躍りして喜ぶソフィア。
‥‥だが、その音を耳にしても、誰ひとり動きを止めようとはしない。
「何故だ!? 武器、魔法、トラップは使っていないし、鐘を鳴らした者の勝ちだろう。間違えているか!?」
「‥‥お嬢さん」
見物人が肩を叩く。
「確かに鐘は鳴ったが‥‥カーンはないだろう、カーンは。葬式の鐘じゃないんだからさ、もっと派手に景気良く鳴らしてくれなきゃ‥‥」
一方、真っ当に入口から入る事など端から考えにない二人‥‥マナウスとフレイアは、ほぼ同時に登楼の下へ辿り着いていた。
マナウスは重石代わりにナイフを取り付けたロープを2本、フレイアは熊手のような鈎爪を取り付けたロープを投げる。
二人とも射撃の腕は良い。しっかりと引っかかった事を確かめると、これもほぼ同時に登り始めた。
「まにゃ、レディファーストだぞっ」
「ふ、勝負は割りと非情なのだよ」
だが、壁登りにかけてはクライミングのスキルを持つフレイアが僅かに有利か。
その同じ頃、ようやく登楼の下に辿り着いたイレクトラは入り口付近ですし詰めになった様子を見て肩をすくめた。
「やっぱり無理だったね‥‥」
だがその時。
ドドーっと大きな音がして、登楼の中に詰まった男達が逆流してきた!
どうやら狭い階段の先頭で争った二人が足を踏み外し、そのまま下の者達を巻き添えにして雪崩れてきたらしい‥‥巻き込まれた者達は、どうやら暫く動けないようだ。
「これは‥‥あたしに行けって事かね?」
ほんの一瞬躊躇った後、イレクトラは肉の絨毯をなるべく踏まないようにしながら「あの鐘」へ続く階段を上がる。
「あと少し‥‥!」
――リンゴンリンゴンリンゴーン!!
景気の良い鐘の音が青空に響き渡る。
「‥‥ああ、もう誰かが辿り着いたんですね」
相変わらず怪我人を助け起こしながら、のんびりと走っていたルーウィンが空を見上げる。
「一体、誰が‥‥」
「‥‥あたし?」
鳴らした本人も、にわかには信じられなかったようだが‥‥鐘を鳴らす為のロープは、フレイアの手にしっかりと握られていた。 或いはイレクトラも、あの一瞬の躊躇いさえなければ、というタイミング。マナウスもあと5センチ腕が長ければ‥‥いや、それは無理だが。
「おめでとう、何を祈るんだい?」
イレクトラがフレイアの背を軽く叩く。
「ん、末永く幸せに、ってな」
自分達夫婦と、いずれ増えるであろう家族の為に。
「まあ何にしてもお互い怪我がなくて何より、かね?」
階段の下で伸びている男達はマナウスの目には入らないようだ。
「じゃあ、降りるとするかね」
と、これも肉の絨毯をあえて無視したイレクトラ。
「まずは新郎新婦への祝福が先さね。その後は‥‥」
「‥‥どうせ私は一生独身だよっ」
皆がお祭り気分に沸き返る中、ソフィアはひとり喉に酒を流し込みながらクダを巻いていた。
「そんな事はないさね。まだ若いんだし、良い相手はいくらでも‥‥」
イレクトラが慰めようとするが、ソフィアの標的はあくまで円卓の騎士らしい。だが具体的に誰を狙っているのか‥‥酔い潰れて眠ってしまった彼女から聞き出す事は出来なかった。
「しっかし、マナウスが参加するとは思わなかったぞ。一体何を祈るつもりだったんだ?」
「この世全ての女性が、幸福でありますよーに、とね。男は割とどうでもいいが、俺含め」
マナウスらしいな、とフレイアは笑う。
「イレクトラは?」
「あたしは‥‥そうさね、一人娘も適齢期だから良い縁があるようにと祈っておこうかと思ったんだが」
「一人娘って‥‥子持ち!?」
とてもそうは見えない。しかも適齢期。いいなあ、若さの秘訣を聞いてみたい‥‥というのは記録係の独り言だが。
「ルーウィンは何を‥‥」
と見るが、彼は店の隅で女性達に囲まれていた。彼はもう、願い事の必要なさそうだ。いや、元々願い事をする為に参加した訳でもないのだが‥‥無欲の勝利?
「よし、じゃあ皆の代わりに、あたしがコイツに願っといてやろう。きっと御利益あるぞ?」
フレイアは記念に貰った「あの鐘」のレプリカ‥‥ハンドベルのようなそれを、チリンと鳴らす。
「皆に幸いがあるように‥‥乾杯」
イレクトラが笑顔と共に酒杯を掲げた。
祭りの夜は、まだまだ終わらない。