雨よ!!!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月22日〜08月27日

リプレイ公開日:2007年08月30日

●オープニング

 その村にはここ一ヶ月間、一滴の雨も降っていなかった。
「まあ、恐らくはこの私の存在を快く思わない者の仕業だろうとは思うのだがね、キミ」
 ギルドのカウンターで受付係を前に、そう言って額にかかる金色の巻き毛をかき上げるのはコンテスト好きな有閑貴族、ノーブル・プライズ。
「下々の目には、どうもこの私が遊んでばかり、無駄な金を浪費してばかりいると、そう映るようだね」
 自分としては殺伐とした世の中に少しでも潤いを与えようと、純然たる奉仕の心でやっている事なのだが、と、ノーブルは溜息をついた。
「遊びは人生のスパイス、例え余裕がなかろうとも全力で遊び、人々の心に希望の光を灯すのがこの私の使命なのだよ‥‥わかるかね、キミ?」
「‥‥はあ」
「だが、流石に懐に全く余裕がない状態では何も出来ん。無い袖は振れぬとはジャパンのコトワザだったかな?」
「‥‥ええ、多分」
「今年の麦の収穫は無事に終えたからね、主食に関しては当分困る事はないだろう。だが、人はパンのみにて生きるにあらず。野菜や果物、肉だってたまには必要だろう?」
 しかし、彼が治める村々の‥‥畑や牧草地は地面が乾ききって痛々しいまでの様を見せていた。
「このままでは人々は飢え乾き、家畜は全滅してしまうだろう‥‥そうなったら、コンテストどころの話ではない」
 ノーブルの表情はいつのまにか、いつものお気楽有閑貴族から人々の生命を預かる者の表情へと変わっていた。
「恐らく我が領内のどこかに、天候を操る能力を持つ者が潜んでいるのだろう。それを探して身柄を確保して欲しい‥‥ついでに雨を降らせて貰えれば完璧だ」
 雨が降らないのは自分の領内にある村だけ。自然現象ではありえない。
「私も協力は惜しまないが、表立って動くのは拙かろう。もしもこの私に非があっての事ならば、事を荒立てたくはないのでね‥‥私が遊びに興じるのは、あくまで人々の為だ。それがもしも、誰かに犠牲を強いているなら、行いを改めるのも吝かではない」
 ふむ、この有閑貴族、チャラチャラといいかげんなように見えて、実は案外デキるのかもしれない。
 ‥‥まあ、本当にただ遊び好きなだけで領民の暮らしを顧みないような領主なら、とっくに反乱でも起きているだろうが。
「私も少しは調べてみたのだが、彼等はなかなか本音を話してはくれないのだよ。その点、冒険者が相手なら少しは心を開いてくれるだろう。頼むよ、人々の心のオアシスを守る為に‥‥ね」

 ‥‥その一月ほど前。
 キャメロットの下町、いかにも怪しげな小路の一角に奇妙な看板を掲げた店が開かれた事を、ノーブルは知らなかった。
『あなたの怨み、ズバっと解決。安心価格でよろずマジナイ応相談――闇のエージェント――』
 そして、ひとりの男がその店の戸口を潜った事も、その男の畑では今年、実りが極端に少なかった事も。

●今回の参加者

 ea0673 ルシフェル・クライム(32歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2834 ネフティス・ネト・アメン(26歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea3888 リ・ル(36歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 eb2745 リースフィア・エルスリード(24歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

「この領地では面白い催し物が開かれて賑わっているという話しだったが、この有り様はどうしたことだい?」
 外のカラカラに乾いた様子とは裏腹に、酒場にはどんよりと湿った空気が漂っている。
 リ・ル(ea3888)は、そんなお通夜のような人々に向かって陽気に話しかけた。
「‥‥なるほど、そりゃお祭りどころじゃないな」
 暫く何事かを考えるようなフリをして、リルは急に思い立ったかのように手を打った。
「そうだ、ちょっと懐にも余裕があるし、何なら俺が原因を調べてみようか? 勿論わかる範囲で、だが‥‥なに、解決できたら領主様にでも掛け合って報酬をもらうさ」
 その言葉に、どんよりと重く曇った空気が僅かに軽くなる‥‥が、客達が顔に浮かべた固くぎこちない笑み見るに、余り期待はされていないようだ。
 これは、相当に参っているらしい。作物の被害もさる事ながら、人々の精神的なダメージもそろそろ限界に達しているようだった。

 別の酒場では、ルシフェル・クライム(ea0673)が旅の騎士を装って情報を集めていた。
「どうもこの村は他と様子が違うようだが‥‥何か最近困っていることはないだろうか? 平和を守るのは騎士の務めでもある故、私に出来る事であれば力を貸すが‥‥」
「でもなあ、騎士様の力でどうなる事でもないし」
「何しろ相手はお天道様だ。その立派な剣で脅しても冷や汗ひとつかかないだろうさ」
 ここの客も、すっかり諦めモードだ。
「天気が相手という事は、誰か天候を操っている者でもいるのだろうか? 例えばジプシーには、そのような技の心得がある者が多いと聞く。彼等は占いや踊りを得意とするようだが‥‥」
 ルシフェルの問いに、人々は揃って首を横に振った。
「いやいや、こんな小さな村だ。余所者がいれば嫌でも目立つだろうさ」
 表だった活動はしていないという事か、それとも‥‥
「ジプシーとは限らない、か」
 どうやら、もう少し詳しく調べてみる必要がありそうだ。

「天候を操る、かぁ‥‥。私にはまだ無理だけど、お師匠様や一座の姉様達は頼まれて雨を降らせたりしてたっけ」
「どのような儀式を行うのですか? ウェザーコントロールを使うにしても、普通に魔法を唱えただけでは極端な変化などはできないと聞き及びますが」
 白くひび割れた畑を前に、ジプシーのネフティス・ネト・アメン(ea2834)は傍らに立つリースフィア・エルスリード(eb2745)の質問に答えようと記憶を手繰る。
「確か、こんな雲ひとつない天気からいきなり大雨を降らせたりするには、三日くらい祈祷を続けないといけない筈よ。篝火を焚いたり歌ったり踊ったり‥‥」
「そうなると、嫌でも目立ちますね」
 だが、彼等が今までに得た中にはそのような派手な事をする人物の情報はない。
「ええ。でも少しずつこまめに変えていくなら、そんな大がかりな儀式は必要ない筈よ」
「天候をまめにチェックして、雲が多くなってきたら晴れに戻す、とか‥‥でしょうか」
 それなら、さほど目立つ事もない。誰にも存在を知られずに隠れている事も可能だろう。
「ただ、精霊ミントリュースの仕業って事もあるかも」
「でも、それなら目撃情報があってもいいはずです。ここは無難にウェザーコントロールの使い手が関わっていると考えるのが妥当でしょう」
「そうね‥‥。では、太陽神のお告げを聞いてみますね。隠れているにしても、全く外に出ない事はないでしょうから‥‥」
 ネフティスは対象を「一番最近、村の天気を変える魔法を使った者」「村の旱魃の原因」としてサンワードの魔法を唱えてみる。
 だが、今のところ反応はないようだ。
「ご同業のせい‥‥だったら、こんな悪さ許さないんだから!」
「では、私はもう少し情報を集めてみる事にしましょう。何かわかったら酒場に集まる、という事で」
 時間をずらして何度か試してみるというネフティスをその場に残し、リースフィアは更なる調査の為に酒場に向かった。

 一方その頃‥‥キャメロットの裏町、怪しげな店の前に、一人の怪しげな女性が佇んでいた。
 帽子を目深に被り、いかにも何か後ろ暗いところがありそうな雰囲気を醸し出したその女性‥‥アクテ・シュラウヴェル(ea4137)は、人目をはばかるようにして狭い戸口を潜る。
 雨はとても大事な物だという事が分からない人はまずいない。それでも雨を降らさないなら相当な恨みか妬みが原因だろう。しかし、天候を変える技量を持つ者はそういない‥‥怨みを持つ者と実行犯は別にいるのだろうと見当を付け、聞き込みを重ねて辿り着いたのがこの店だった。
 おそらくは金銭等で請負う者がいる‥‥その推測は正しかった。
「こちら‥‥お金さえ払えばどんな頼みでも引き受けて下さると伺いましたが‥‥」
「ええ、人間の力で出来る事なら、何でもお引き受けしますよ。ただし、勿論対価に見合った程度に、ではございますが」
 応対に出た男は、この種の店には似つかわしくない丁寧な口調で答える。
「では‥‥天候を変える事も?」
 アクテは懐から金袋を取り出し、その口を開いて中を見せる。かなりの金額だ。
「生憎、今すぐには都合が付きませんが‥‥手配しましょう」
「それは、いつ頃に? 急いでおりますの」
「そう‥‥2、3日中では?」
「‥‥では、その頃にまた」
 アクテは金袋を懐に戻すと、来た時と同じように静かに、目立たないように店を後にした。

 その夜、村の酒場の一角に冒険者達が顔を揃えた。
「どうも、領主に怨みを持つ者の仕業らしい‥‥いや、その者が直接関わっている訳ではないようだが」
 と、ルシフェル。
「何でも、村にひとりだけ、小麦の収穫が殆どなかった者がいるらしい。もっとも、日頃の手入れを怠り害虫が大量に発生したのがその原因らしいのだが‥‥」
 領主に頼めば税を軽減して貰う事も出来ただろう。だが、その男はプライドだけはやたらに高く、そして自分だけが不幸に見舞われた事が我慢ならなかったらしい‥‥自業自得にも関わらず。
「領主に頭を下げる代わりに、業者に頭を下げた‥‥という訳ですね」
 アクテが調べてきた店の様子を話して聞かせた。
「舞い込んだ依頼の内容に合わせて人を雇い、派遣しているようです。今、この村で悪さをしている者も、恐らくただの雇われ者でしょう」
「依頼した男はあちこちから借金をして金を工面したようです」
 リースフィアが呆れたように言った。
「そんな金があるなら生活費にでも充てればいいものを」
「他の所では今年は豊作だったって聞くからな‥‥余程悔しかったんだろう」
 だからといって同情の余地はないが、とリル。
「そいつの家は突き止めてある。いつでも身柄の確保は出来るぜ」
「実行犯の方も、太陽神のお導きで居場所を特定出来たわ。実際に魔法を使っている所もホルスの眼‥‥テレスコープで確認済みよ」
「よし、そこまでわかれば後は身柄を確保するだけだな」

「‥‥どうも理解に苦しむのだがね、キミ」
 その村の統治者、ノーブル・プライズは犯行を依頼したという男を前に首を傾げていた。
「日照りが続き、次の作付けの準備も出来なければキミだって困るだろう? その、キミが作ったという膨大な借金は、一体どうやって返すのかね?」
「‥‥キサマが払え」
 男は下を向いたまま、くぐもった声でそう言った。
「キサマは俺達が汗水垂らして稼いだ金を吸い上げて、下らん遊びに注ぎ込んでるんだ‥‥だから、思い知らせてやったのさ、俺達が働かなければキサマがどういう事になるか‥‥!」
「下らん遊びと言うが、キミ達もそれを楽しみにしているのではないかね? それに私はキミ達の生活を犠牲にしてまで‥‥」
「黙れっ!」
 領主に飛びかかろうとした男をルシフェルが押さえ付ける。
「どうもこの男は、理屈抜きで貴殿が気に入らないらしい」
「ふむ‥‥そのようだね。人に憎まれるのも領主の仕事ではあるが‥‥しかし、今回の件は領民の命にも関わる」
 と、領主はアクテの方を見て頷いた。
「お任せ下さい。このような根性腐りには徹底的に、容赦なくお仕置きをさせて頂きますわ」
 イリュージョンを使い、乾いた砂漠風景の中で飢え渇く幻想を見せる‥‥それが男に対する罰だ。
「頼むよ。それが終わったら、この男には畑を元通りにする為に働いて貰おう。いや、その前に雨が降らなければどうにもならないのだが‥‥」
「大丈夫です。実行犯の方もきっちり捕まえて来ましたので」
 リースフィアが、ロープ‥‥いや、ヒモで縛り上げたシフールの少女を領主の目の前にブラ下げた。
「コレです」
「コレとは何や、人を虫ケラみたいにっ!」
 ヒモで縛られたシフールはジタバタと暴れるが、その端をしっかりと握ったリースフィアの手は微動だにしない。
 全く反省した様子がないと見て、ネフティスが怒りをぶつけた。
「ちょっとあなた、見たところご同業の様だけど‥‥太陽神の恵みは、こんな事をする為に与えられたんじゃないわ!」
「ウチは何も悪い事してへんで! 契約通りに、報酬に見合った仕事をきっちりやっただけや!」
 その仕事がどんな影響を及ぼすか、そこまでは考えていなかったらしい。
「聞いての通り、こいつは金さえ貰えば言われた通りの仕事をするらしい‥‥どうだい、こいつを雇ってみちゃ?」
 リルが言った。
「天候操作は領地の経営に極めて有利に働くんじゃないかな? それに大事なお祭りが雨、なんて事もなくなるし」
 ニヤリと笑ったリルに、領主も不敵な笑みを返した。
「なるほど‥‥それは良い。素晴らしいアイデアだね、キミ」
「なんやオッチャン、ウチを雇うんか? ウチはプロや、安うないで?」
「キミの言い値で雇おう。その代わり、この乾いた大地が潤いを取り戻すまでは、タダで働いて貰うよ」
「嫌ならこのまま軒先にぶら下げて、そこの男のように地獄を見せて差し上げましょう」
 と、アクテは息も絶え絶えの様子で床に蹲る男を指差し、にこやかに微笑んだ。

 後日、しとしとと雨が降る中、領主の下へひとつの報告が入った。
「ふむ‥‥元締めには逃げられた、か」
 雇った実行犯が捕らえられた事を察知したのだろう、冒険者達が例の怪しい店に踏み込んだ時には、そこは既にもぬけのカラだった。
「まあ、ああした連中は、そうしたものだ」
 窓の外を見ると、庭に出来た水溜まりで小鳥たちが嬉しそうに水浴びをしていた。