【老犬ガルム】奴等を高く吊るせ!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:10 G 85 C
参加人数:6人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月01日〜09月06日
リプレイ公開日:2007年09月09日
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●オープニング
「‥‥旦那、まずはブツを見せておくんなせえ‥‥あっしらと取引したいんなら、ねえ?」
痩せぎすで目つきの鋭いその男は、目の前の無精髭を生やした初老の男に向かって欠けた前歯を見せてニヤリと笑った。
陽の光も射さない地下室の薄暗がり。地下にあるせいか、外からの音も遮断されている。
そこは彼――ガルムが漸く探し当てた、人身売買組織のアジトのひとつだった。
「ブツか‥‥残念だが、そいつはまだ手許にねえ。何しろこれから始める所なんでね‥‥『商売』を」
ガルムも相手に劣らぬ邪悪な笑みを返す。老いたとは言え元は荒くれ者を束ねる傭兵団の首領、お世辞にも人相が良いとは言えない。それに、まだまだ眼光ひとつで相手を黙らせる位の事はやってのける自信があった。
「それで、どんなブツが高く売れるんだ? 相場は?」
いかにも乗り気な様子で身を乗り出したガルムに、男は鼻を鳴らし、ニヤニヤと笑いながら言った。
「相場なんて、ありゃしませんぜ、そんなもん。まあ、とりあえずは生きてさえいりゃ、それなりの値段は付きやすがね‥‥客の好みは何しろ予測不能でござんして、中には何でこんなモンがと思うようなのが馬鹿高い値段で売れる事もあるって訳でさぁ」
売れるモノでさえあれば、年齢も種族も性別も一切不問、という事のようだ。
「勿論、女子供の方が需要が多いのは確かですがね、それに女ならやっぱり見た目が良い方が。だが世の中にゃ好事家も多いってワケでして‥‥所謂レア物って奴でさぁ、旦那」
「なるほど‥‥とにかく、どんな物でもカネにはなるんだな?」
「ま、そういう事でさ」
まずは手始めに一人か二人、正式な取引はそれからだ‥‥男はそう言い、屈強な男達に両脇を固められながらアジトを後にするガルムの背中を見送った。相変わらずニヤニヤ笑いを顔に張り付かせたまま‥‥。
「‥‥誰か、人買いに売られてみたい奴はいるか?」
「‥‥はあ!?」
数日後、冒険者ギルドに姿を見せたガルムは受付係の顔を見るなりそう言った。
「ああ、アンタでもいい。その目の細さはかなりのレア度だ‥‥高く売れるかもしれん」
「はあっ!?」
細い目の代わりに口を大きく開けた受付係に冗談だと笑って、ガルムは用件を切り出した。
「実はな、以前俺が関わった事件なんだが‥‥」
今から4ヶ月ほど前の事だ。
ガルムの生まれ故郷が賊に襲われ、浚われた女子供が人買いに売られるという事件が起きた。事件そのものは彼がアジトを突き止め、冒険者達と協力して被害者を無事に救出する事で解決したが、その際に一部、人買いの一味を取り逃がしてしまった。
「そいつらは結構大きな組織の一員だったらしくてな‥‥どうやら、この国のあちこちに支部があるらしい。その2ヶ月ほど後にも近くの町で同じ様な事件が起きているが、それにもその組織が関わっていたようだ」
「ああ、そう言えば確かに‥‥」
「俺の事件で逃げた連中が、そこに逃げ込んだらしい」
そこ、というのは二度目の事件で人浚い一味が獲物を売り飛ばそうとしていた組織だ。
「そこも支部のひとつに過ぎないようだが‥‥まあ、見付けた以上は放っておく訳にもいかないんでな」
どうやらガルムは最初の事件からずっと、逃げた連中の行方を探していたらしい。彼にとっては生まれ故郷を土足で踏みにじった連中だ、見つけだして制裁を加えない事には気が済まないのだろう。
「ただ、俺も場所を正確に知ってる訳じゃねえ」
「‥‥と言うと?」
「奴等、用心深くてな‥‥連絡を取るには、町のとある場所にある木に手紙を結ぶ必要がある」
「はあ、結び文ですか。それはまた、何というか‥‥」
古風と言うか面倒と言うか。恋人同士のやりとりなら、趣があって良いかもしれないが。
「返事もまた、その木に結ばれるんだが、そこに書かれた日時、指定の場所に行くと怪しげな連中がお待ちかねって訳だ。そこから先は、目隠しをされて荷馬車で運ばれる‥‥ご丁寧に耳栓まで付けられてな」
「なるほど、アジトの場所がわからないように、ですね」
最初の事件の連中も、それくらい用心深ければ潰されずに済んだかもしれない‥‥いやいや、賊達にはいつもユルく抜けていて欲しいものだが。
「まあ、そんな用心深い連中だからな、万一の襲撃に備えて武装もしているだろう。‥‥かなり危険な仕事だ」
次に人買いと連絡を取る時には「商品」を連れて行く必要がある。
冒険者の誰かに、その商品になって貰いたいと言うのだ。商品は何人いても構わないし、女性に限った事でもない。勿論、それを救い出し、組織を壊滅させる為の襲撃班も必要だ。
だが組織の規模も、戦力も、場所や建物の構造さえ殆どわかっていない。
「だからな、腕に覚えのあるベテラン連中が必要なんだが‥‥どうだ、受けて貰えるか?」
「それはまあ、ご依頼とあれば‥‥って、なに人の顔をじろじろ見てるんですか!? 私はダメですよ!?」
額に冷や汗を浮かべてブンブンと首を振る受付係を面白そうに眺めながら、ガルムは冗談とも本気ともつかない口調でこう言った。
「‥‥惜しいな、相当なレアだと思うんだが」
そして、ふと真面目な表情に戻る。
「かなり儲けてるらしいな。買い手ばかりじゃねえ、売りたい連中も多いらしい‥‥中にはてめえの子を売りに来る奴もいるって事だ。そんな腐った連中には情けも手加減も必要ねえ‥‥頼むぜ」
●リプレイ本文
「ガルム殿、ご壮健そうで何より」
事前の打ち合わせの為に集まった酒場で、エスリン・マッカレル(ea9669)はガルムに声をかけた。
「おお、あんたか。あん時には世話になったな」
エスリンは以前にも、このガルムの依頼を受けて共に仕事をした事があった。
「今までその組織を追っておられたのか」
「ああ、まあな。こいつは俺の因縁みてえなモンだ。関わっちまったからには最後まで、な。しかし‥‥」
と、ガルムは集まった顔触れを見て正直な感想を漏らす。
「‥‥5人‥‥か。もう少し集まるかと思ったが‥‥正直、ちと厳しいな」
確かに、商品役を除けば襲撃班は4人。決して充分な数とは言えない。
「奇襲をかける場合、問題は数よりも状況を把握する能力であると思われます」
シエラ・クライン(ea0071)が言った。
「幸い私達はセンサー系の魔法で敵の位置を正確に把握する事が出来ますし、幾つかの魔法攻撃を集中させれば一瞬で敵を戦闘不能に持ち込む事も十分に可能な筈です」
「非合法な商売をする組織は、アジトや『商品』の売買ルートを隠し、それらを分散配置してガサ入れされた時のリスクを最小にする事などやってたりするそうでござる」
葉霧幻蔵(ea5683)、ゲンちゃんが真面目な表情で言う。いつもは妙な格好をしている事が多い彼も、今回はどこから見ても真っ当な冒険者だった。
「そういうのを一網打尽にするには、組織の上層部に近しい者‥‥幹部クラスを捕まえ、売買ルートと組織の構成員を吐かせるのが最良な手段だそうでござるな」
「確かにそうだろうが‥‥」
ガルムは迷っていた。この人数で強行し、もし失敗すれば商品役ばかりではなく、一緒に捕まっているであろう他の者達の命も危険に晒す事になる。それに、一度取り逃がせば二度目はないだろう‥‥少なくとも同じ手段は二度と使えない。
「襲撃が中途半端になっては組織の根は残り、再び復活してしまうだろうな」
エスリンも同じ迷いを抱いているようだ。
「ここは割り切って、商品役を送り込んで情報を集めた後は、その救出のみに専念する事も考えた方が良いかもしれない」
「確かに、お金で買い戻して貰えれば怪しまれないで帰って来れるかもしれないわね」
商品役を志願したレヴィ・ネコノミロクン(ea4164)が言う。
「でも、すぐには売り出されないかもしれないし‥‥」
「売る前に奴等が味見をする可能性もある‥‥か」
ガルムが言った。味見とは何か‥‥まあ、言うまでもないだろう。
「正直もう少し調査の時間が欲しい‥‥が、早く組織を潰せば犠牲も少なくなるか。斯様な非道、許す訳にはいかん」
エスリンは腹を括った。
「だがガルム殿、レヴィ殿。くれぐれも気をつけてくれ。いざという時は己の身を第一に考えて欲しい」
「ああ、わかった」
「うん、任せといて♪」
組織との取引日時は既に連絡を受けている。
迎えを待つ間、ガルムは商品役のレヴィを少しでも安心させようと、あれこれ話しかけた。
「商品役は一番危険なポジションだ。よく引き受けてくれたな‥‥あんたの勇気と度胸に敬意を表するぜ」
「そんな大したモンじゃないわ」
レヴィは照れたように笑った。
その体からは、シエラから借りた香油のきつい香りが漂う。少し使いすぎた気もしないではないが、これも追跡を容易にする為の手段だ。
そして今日のレヴィは商品らしく見せる為に髪にゆるいウェーブをかけ、装備も外してごく普通の町娘を装っていた。
「あ、そうだ。これもガルムさんに預けとくね」
レヴィは懐から金袋を取り出してガルムに手渡す。
「あたしの全財産‥‥けっこう重いでしょ? あ、でも使っちゃイヤよ? 珍しいお酒を買っといてくれるなら良いけど」
「酒が好きなのか?」
「うん、大好き!」
レヴィは屈託なく笑う。
「そうか‥‥まあ、今回はそんな暇はなさそうだが、どこかで珍しい酒でも見付けたら手に入れておくか」
そんな事を話しているうちに、闇の中から馬の蹄と、車輪のガタガタという音が聞こえてきた。
二人は無言で頷き交わすと「業者」と「商品」の顔に変わる。
月のない真っ暗な夜の中を、二人を乗せた荷馬車はゆっくりと走り出す。
「‥‥組織のある『店』と商品となる人のいる『倉庫』、取引場所はそれぞれ別の場所にあると思われますね」
その様子を物陰から見張っていたリアナ・レジーネス(eb1421)がフライングブルームでふわりと舞い上がる。
下の様子は真っ暗で何も見えないが、ブレスセンサーで二人の呼吸を辿る事は出来る。
同じように空に舞い上がったシエラはインフラビジョンで馬車を引く馬の体温を追った。
一方、地上からはゲンちゃん‥‥いや、今回は幻蔵と呼んだ方が良いか‥‥彼が夜の闇に紛れて秘かに後を追う。
そして隠密行動が得意ではないエスリンは、馬車からかなり離れて後を追った。愛犬セタンタに二人の服の匂い、それにレヴィが付けている香油の匂いを嗅がせてある。それを辿れば見失う事はないだろう。
先の報告でカファール・ナイトレイドがどこにも目立った痕跡は見付けられなかったと言っていた。彼等は痕跡を残したりパターンを知られたりしない為に、わざわざ毎回違ったルートを取るようだ。
数刻後、何度も角を曲がり遙かに遠回りをした荷馬車は、出発地からさほど遠くない一軒の家の前で止まった。
外から見た分には一般の民家と何ら変わらない。
「ここが店のようですね‥‥」
少し離れた物陰から、リアナがブレスセンサーで中の様子を探り、追い付いてきた幻蔵とエスリンにそれを告げる。
上の建物には誰もいないが、地下には囮で入った二人の他に2〜3人の反応がある。だが、それは組織の本拠地にしては少なすぎた。いや、ただの出先機関としても少なすぎるだろう。
「やはり、拠点は他にあるようです。商品が運ばれるのも、恐らくそこでしょうね」
この人数ならば一気に制圧する事も容易いと見るか、それとも放置しても問題はないと見るか、判断が微妙なところだ。
「ガルム殿がすぐに解放されるなら、ここは敢えて放置しても構わないか‥‥なるべく消耗は避けたい所であるしな」
エスリンが言った。冒険者だけでは流石に手が足りず、ガルムも戦力に加えてある。本拠地を叩くなら彼の合流を待つ必要があった。
しかし、中に運び込まれた二人と連絡を取るべく建物に近付いたシエラのテレパシーには何の反応もない。
「おかしいわね、ブレスセンサーには反応があるのに‥‥?」
その少し前、店の地下に招き入れられたガルムは、建物の様子が前回と違っている事に気付き、嫌な予感を覚えていた。
応対に出た人間も先日とは違う‥‥どうやら彼等はいくつもの小規模な取引拠点を持ち、交渉の場を必要に応じて変えているらしい。
――思った以上に用心深い連中だな‥‥。
そして、彼の嫌な予感は的中した。
「ご苦労だったな、爺さん。だが、芝居はもういい」
「‥‥何!?」
相手の男は口の端でニヤリと笑った。
「よくいるんだよ、囮を送り込んで俺達を潰そうと考える連中が、さ。センサー系の魔法が使えるの、あんたらだけだと思ったか?」
「‥‥‥‥!!」
「尾行にはとっくに気付いてる‥‥詰めが甘いんだよ、爺さん」
――ドスッ!
鳩尾への一撃で、ガルムはその場に崩れ落ちた。
「ガルムさんっ!?」
レヴィが叫ぶ。が、彼女もまた鳩尾へ一発食らい、気を失って倒れた。
「お嬢さんは有難く頂戴しよう。ジジイは人質にでも使うか」
「どうしたのでしょうか、ガルムさん‥‥」
テレパシーに反応がないというシエラの報告を受けて、リアナが心配そうに言う。
「‥‥これは、何かあったと見た方が良いか‥‥」
エスリンが言ったその時、店の方で動きがあった。
目で確認する事は出来ないが、どうやら店にいた全員が荷馬車に移動したらしい‥‥潜入した二人も含めて。
そして、荷馬車は走り出した。先程までとは違い寄り道をせず一直線に、郊外の廃屋に向かって。
「どうやら、こちらの動きを読まれていたようですね」
廃屋を遠巻きにしながらリアナが言う。
そこには大勢の‥‥20人程の反応があった。
「ここが倉庫だとしたら、殆どが商品‥‥捕まっている人達である可能性もありますが‥‥」
だが、反応はあちこちに散らばり、しかも動き回っている。商品ならば一ヶ所に集められ、しかも殆ど動かないだろう。
それに、彼等がここに着く直前、別の荷馬車が屋敷を出て闇の中へ消えて行ったのをシエラがインフラビジョンで確認していた。
「あれに、商品が乗せられていたのかもしれませんね」
その時、屋敷に近付いて呼びかけていたシエラのテレパシーに反応があった。
『ごめん、バレちゃった!』
レヴィだ。
彼女は事の次第をかいつまんで説明した。
『あたしはこのまま、商品にされちゃうみたい』
『ガルムさんは?』
『わかんない、一緒じゃないわ。この部屋にはあたし一人しかいない。部屋の外に見張りが何人かいるみたいだけど』
やはり、先程出て行ったのは他の商品だったのだろうか。
「とにかく、二人を救出しなければ‥‥!」
エスリンが震える拳を握り締める。
恐らく相手は待ち構えているのだろうが、仕方がない。
『あたしに出来る事、何かある?』
『そうですね‥‥ガルムさんに騙された事にしてみるのはどうでしょうか』
シエラが答える。
『見張りの人が、ガルムさんとグルではないと思ってくれれば隙が生まれるかもしれません。今すぐに助けるのは無理かもしれませんが、必ず助けますから‥‥』
『わかった、何とか頑張ってみるわ』
「拙者は中に潜入して様子を探るでござる」
幻蔵が言った。
「出来るだけ情報を集めて‥‥ガルム殿も探してみるでござる。シエラ殿、連絡役を頼めるでござるか?」
「わかりました。ただし、余り離れると届きませんので‥‥」
屋敷はかなりの広さがある。場所によっては届かない可能性があった。
だが、見たところ屋敷の外に見張りはいない。幻蔵の動きに合わせてこちらも場所を変える事は難しくなさそうだった。
「では、行くでござる!」
幻蔵はそう言うと、闇の中へ滑り込んで行った。
「ねえ、誰かいる?」
レヴィは閉ざされたドアの向こうに向かって不安げな声をかけた。
「あたし、どうなっちゃうのかなあ? あの人に、言う事をきけば大金が入るって言われて‥‥ねえ、あたしが売れたら、ちゃんと家族にもお金渡して貰えるのかしら?」
返事はない。だが、レヴィは独り言のように身の上話を続けた。
「この間の戦争でお父さんが死んじゃって‥‥お母さんも病気で寝込んでしまったの。弟妹達のためにもお金がいるから、長女のあたしが働きに出る決心をして‥‥今までは酒場で働いてたんだけど、つい‥‥魔が差したって言うのかしら。あの人が『良い話がある』なんて言うから‥‥」
レヴィはわざとらしく大きな溜息をついた。
「あたし、騙されたのね。ううん、大金に目がくらんだあたしがいけないの。酒場で地道に稼いでいれば良かったのに‥‥」
どうやらドアの外の人物は彼女の話に熱心に耳を傾けているようだ。
「あ、これ。この香水はお父さんの最後のお土産なの。遺品の中から見付かったのよ。お父さんさえ生きていてくれれば、こんな事には‥‥なんて言っても仕方ないわね。ねえ、あたしの引取先が決まるのはいつ?」
「‥‥知らん。市が立つのは不定期だ‥‥俺達にも前日になるまでわからん。日時も場所もな」
「へえ‥‥そうなんだ」
どうやら、外にいる男は少々口が軽いようだ。
「ねえ、もし引取先が決まったら、家族にお手紙書けるかなぁ?」
「さあな。買い取られた相手次第だろう」
「買い手‥‥って、どんな人が買いに来るの?」
「上物は貴族に人気だな。後はまあ、色んな趣味の金持ち連中だ‥‥貴族とは限らんが。売れ残りは娼館に引き取られるらしい」
「‥‥そんな所にやられる位なら、誰か貴族に買って貰った方が良いな。ねえ、あたし売れると思う?」
「知らん」
あわよくば顔を見る為にドアを開けてくれないかな、などと思ったのだが‥‥流石にそれは無理だったようだ。
「案外、職務に忠実なのね」
と、これは独り言。
一方、忍法を駆使して潜入に成功した幻蔵は内部の様子を探りつつガルムを探した。
勿論、素のままではなく、見付かった時の為に最初に出くわした人物に人遁の術で化けてはいたが‥‥本物は不意打ちを食らってお休み中だった。
それでもなるべく見付からないように注意深く、間取りや見張りの配置などをチェックしながら、時折テレパシーでシエラにその情報を送る。
屋敷の外でその情報を元にリアナが魔法用スクロールにおおまかな見取り図を作り、ブレスセンサーで得た情報を書き加えて行った。
「恐らく、向こうは襲撃がある事を予想しているのだろうな」
エスリンが呟く。
「いや、予想と言うより待ち構えていると言った方が良いかもしれない‥‥あの馬車の動きは、いかにも追って来いと言わんばかりだったからな」
「そうですね。それにわざわざ私達をここまで案内したという事は、あの屋敷にはもう重要な手掛かりも人物も残っていないと見た方が良いかもしれません」
と、シエラ。
「だがそれでも‥‥あの二人を見殺しには出来ん」
「ええ、中に入った方が何とか隙を作って下さると良いのですが‥‥」
『ガルム殿を見付けたでござる!』
シエラのテレパシーを受けて、幻蔵の返事が返ってきた。
『しかし見張りが多くて近付けないでござる。ガルム殿に拙者が間もなく騒ぎを起こす事を伝えて欲しいのでござるが‥‥』
ガルムは今、装備を剥ぎ取られて丸腰だった。それはどこかにある筈だが、今は探す余裕はない。
『ガルム殿は北側の裏口付近にいるでござる。拙者が反対側で大ガマを出して騒ぎを起こすでござるから、その隙に裏口を突破してガルム殿を救出してほしいでござる』
「わかった、武器は私が余った物をお貸ししよう。ガルム殿にも協力して頂かない事には攻撃陣がどうにも手薄であるしな」
エスリンが言う。
「レヴィさんが捕まっているのは西側の部屋でしたね。では私は東側へ飛んで、上空からライトニングサンダーボルトをお見舞いしましょう。大きな音がしますから敵の注意を引き付けられるでしょう。壁を壊す事が出来ないのが残念ですが‥‥」
と、リアナ。
その言葉と作戦の概要は、シエラ経由でガルムに、そしてレヴィにも伝えられた。
その少し後。
屋敷の南側でちょっとした騒ぎが起こり、東側では空気を咲くような大音声が轟く。
それと同時に、オーラエリベイションで気合いを入れ、裏口を力ずくで突破したエスリンとシエラがガルムの元へ向かう。突然の騒ぎに驚きうろたえる見張りを手早く排除し、エスリンはドアにかけられた鍵を槍の一撃でぶち壊す。
それをガルムが内側から蹴破った。
「ガルム殿、ご無事か!?」
「ああ、済まん。世話をかけた」
エスリンから短刀を借り受けると、ガルムは先陣を切って屋敷の奥へと走る。
「セタンタ、援護を頼む!」
「ワン!」
エスリンは愛犬に一声かけるとその後に続く。誰一人逃がさず、逃げる者は騎乗して後ろからでも討つ覚悟だ。
二人の後ろからはシエラと、地上に舞い降りたリアナが続いた。
彼等が駆けつけた先では‥‥巨大なガマガエルが通路いっぱいに、みっしり詰まっていた。
「いや、少し狭すぎたようでござるな」
幻蔵が他人事のように笑う。使い魔を出したは良いが、これでは何も出来ない。
「ガマの向こうに、大勢‥‥10人以上集まっています」
ブレスセンサーを使ったリアナが言う。
「このガマが消えてからが勝負ですね」
その同じ頃、西側の部屋では囚われのレヴィがドアに向けてグラビティーキャノンを撃ち込んでいた。
ドアを壊す事が出来なくても、外の見張りが何事かとドアを開けてくれるだろう‥‥そして、その目論見は当たった。
「何だ!?」
ドアを開けて中を覗き込んだ見張りに、レヴィはアグラベイションをかけ、動きが鈍った所をグラビティーキャノンで吹っ飛ばす。
「ごめんね、ほんとは仲良くなれれば良いなって思ってたんだけど」
転倒した拍子に頭でもぶつけたのか、気を失った見張りをその場に残し、レヴィは仲間達と合流すべく廊下を急いだ。
「レヴィさん! 無事ですか!?」
リアナがその姿を見付けて駆け寄ったその時‥‥通路を塞いでいた大ガマが消えた。
「来るぞ!」
エスリンと幻蔵、そしてガルムが前に立つ。
突然現れて、そして突然消えたガマの姿に呆気にとられていた賊達も、彼等の姿に気付いて向かって来た。
エスリンは得物を弓に持ち替え、向かってくる敵を次々に射抜く。
幻蔵はスタンアタックをかけて気絶を狙う。本当は幹部クラスの敵を狙い撃ちしたかったのだが‥‥
「見渡す限り、ただの戦闘員のようでござるな」
彼等を捕まえて尋問しても、恐らく重要な情報知るまい。だがとにかく今は数を減らし、ここの制圧に専念するしかない。ここが最早捨てられた拠点だとしても、潰しておけば何かしらの打撃は与えられるだろう。
そんな彼等の後ろから、レヴィがアグラベイションとグラビティーキャノン、そしてローリンググラビティーのコンボを見舞う。
リアナはライトニングサンダーボルトで容赦なく薙ぎ倒し、そしてシエラはファイアーコントロールで敵を分断し、ひとりの味方に集中する事がないように上手く誘導していた。
「あー、くそ。明後日あたり筋肉痛になりそうだぜ」
お陰で腕の鈍ったガルムにもそんな軽口が叩ける余裕が生まれている訳だが‥‥多分、本人はシエラのフォローに気付いてはいないだろう。
「‥‥逃げた者はいないようだな」
最初に馬車で出て行った者以外は、とエスリンが溜息をつく。
彼等の目の前にはロープで繋がれた賊達がずらりと並んでいた。
念のため、シエラがそれぞれを尋問してみるが‥‥顔面ギリギリまで炎を近付けられても、知らないものは吐きようがない。
店で応対に出ていた男でさえ、現場で必要な事以外は知らされていないようだった。
ようやく聞き出せたのは、彼等には組織同士の横の繋がりはない事、そして縦方向にも情報の管理を徹底している事‥‥その程度だった。
「横の繋がりがないというのは‥‥こうして手入れがあった時に連鎖的に壊滅状態になる事を防ぐため、でしょうね」
シエラが言う。
「この拠点にどの程度の価値があったのか‥‥もしかしたら最初から捨てる為に用意されていた物かもしれません。だとしたら、私達は彼等に殆ど打撃を与えられなかったという事になりますね」
「まあ、そう悲観することもないだろうさ」
ガルムが床に腰を下ろし、トントンと腰を叩きながら言った。
「少なくともこの町じゃあ、当分は商売がやり辛くなっただろうしな。‥‥それに、元はと言えば俺の見通しの甘さが原因だ。‥‥ったく、腕ばかりじゃねえ、頭まで鈍っちまったらしい‥‥情けねえな」
「そんな事はない。ガルム殿が追い続けてくれなければ、我等には組織の存在さえわからなかっただろう」
エスリンが問うた。
「これからも、追うおつもりか?」
「ああ、手掛かりは殆どなくなっちまったが‥‥地道にやるさ。また尻尾を捕まえた時には、アテにしてるぜ?」
ガルムがニヤリと笑う。まさかこの人数でここまで出来るとは、正直思わなかった。高レベルの冒険者というものは‥‥
「敵に回したくはねえな」
その時、奥の部屋からレヴィの嬉しそうな声が聞こえた。
「‥‥あったぁーっ!! あたしの全財産っ!」
ガルムが身ぐるみ剥がされた時、一緒に奪われたレヴィの財布。
「良かったー、これがなくなったら、あたしホントに身売りしなきゃいけなくなっちゃうもん」
その声に、冒険者達にほんの少し笑顔が戻る。
だが、ガルムの表情は曇ったままだった。
「嬢ちゃんの財布だけか? 俺の装備は‥‥?」
恐らく、店に置き去りだろう。
「畜生、あれだって俺の大事な相棒なんだぞ」
仕方がない、戻って探すか‥‥
「ついでに、何か手掛かりでも残ってりゃ良いがな」
期待はしていないが、と、ガルムは苦笑混じりに溜息をついた。