24時間葱 葱は何かを救う!?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月08日〜09月13日

リプレイ公開日:2007年09月16日

●オープニング

「‥‥そんな訳でね、キミ。私としても葱の素晴らしさを世に知らしめる為の活動とあらば、何を置いても協力を惜しまぬ心づもりではあるのだが‥‥」
 真っ赤な葱――葱型改造フライングブルーム――を手にした赤毛の少女を前に、コンテスト好きの有閑貴族ノーブル・プライズは残念そうに首を振った。
「領地がこの有様では、そのような派手なイベントは当分自粛せざるを得ないだろうね」
「うん、そりゃそうよね。皆が畑を元に戻そうと頑張ってる時にそんな事したら、かえって葱の印象悪くしちゃうかもだし」
 赤毛の少女、ワンダは言った。
 彼女は葱の啓蒙活動に理解のある‥‥と言うか寧ろ積極的推進派のこの貴族に頼んで、また何か派手なイベントを企画して貰おうと考えて、久しぶりにこの地を訪ねたのだが。
 しかし彼の領地では先日来の日照り事件に漸く決着が付いたばかりで、人々にもイベントを楽しむ余裕などなさそうだった。「私達も何か役に立てれば良いんだけど、畑仕事なんかやった事ないし‥‥ほんと、葱の事以外は何も知らないし、出来ないのよね」
 ワンダは考えた。
 葱で、何か人々を元気付け、励ます事は出来ないか。
 そして、丸一日考えた末に出た結論、それが‥‥

「24時間耐久、連続葱騎乗大作戦‥‥?」
 赤い髪に赤い服、名前まで赤い男が目を丸くしてワンダを見つめる。
 彼、レッド・クリムゾンは今や彼女と共に葱の開発に勤しむ立派な葱エンジニア。そして私生活ではちょっとした仲でもあったりする。
「そう、こないだの貴族さんトコの日照り事件ばかりじゃなくて、この国にはまだまだ嫌な事や悲しい事がいっぱいあるでしょ? 大きな戦争は終わったみたいだけど、その代わりにデビルがいっぱい出てきたとか、そんな噂も聞くし」
「‥‥そうだな、確かに明るい話題ばかりじゃない‥‥」
「でしょ? でも私達には葱しかない‥‥ううん、葱でしか出来ない事があるわ!」
 ワンダは拳を握り締め、瞳を輝かせた。
「限界まで葱に乗り続けながら、お祈りをするのよ。皆が元気で明るく楽しく過ごせますように、もうこれ以上、嫌な事が起きませんようにって」
 葱に乗り続けるのは、痛くて苦しい。だが、その痛みや苦しみに耐えながら祈る‥‥それでこそ、祈りも天に通じ、見る人々を元気付けられるとワンダは主張した。
「確かに‥‥だが、ひとりで24時間というのは、どう考えても無理だぞ?」
 形は葱だが、実体及び性能はごく普通のフライングブルーム。1時間に5MPを消費するそれを24時間連続で乗れる者など、まずどこをどう探してもいないだろう。
「わかってるわよ、だからリレー形式にするの。ひとりが限界まで乗って交代しても良いし、少しずつ回復しながら交代しても良い。とにかく24時間、この空から葱の姿が消える事のないように、祈りが途切れる事のないように‥‥!」

 葱で何かを救う為、勇者よ集え!

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

●プロローグ
「にゃっす! みんなっひさしぶり〜♪ こんかいもよろしくっよろしくなのっ!」
 パラーリア・ゲラー(eb2257)は相変わらず、いつでもどこでも元気いっぱいだ。
「久しぶりの葱、みんなでがんばろーね。できることは少ないかも知れないけど、少しでも誰かに元気をおすそ分けできると嬉しーな」
 その元気な挨拶に真っ先に答えるのはチップ・エイオータ(ea0061)だ。この二人が仲良く並んでいる姿はいつ見ても可愛らしい。
「さて、24時間耐え抜く為に、まずは事前の準備が必要だね。食事作りは僕に任せてよ」
 レイジュ・カザミ(ea0448)が、大きな袋をどさりと肩から下ろす。中にはメンバー全員が出し合ったお金で仕入れてきた食材の数々が詰め込まれていた。
「あたしはフリーズフィールドでひえひえ休息所をつくるね〜♪ えとえと、それからっ、蜂蜜レモン水とか冷たい果物とか用意して、チャージとアイシングができるようにしておくねっ」
「おいらは女の子達が手当てや休憩に使えるよーに、テントを用意するね」
「じゃあ俺は設営の準備でも手伝うかな」
 来生十四郎(ea5386)が射撃の的を手に立ち上がり、チップに声をかける。
「こいつは、この辺で良いか?」
「うん、周りも安全みたいだし、そこなら見やすいよね」
「‥‥何をするつもりだ?」
 お馴染みの赤フン姿で現れたレッドが訊ねるが、チップは見てのお楽しみだと笑って教えてくれなかった。
「薬は私達が用意したから、必要な時に使ってね」
 まるごとねぎに身を包み、レッドの片腕に腕を絡ませたワンダが包みを差し出す。中には卵形の小さな容器がいくつか入っていた。発案者として皆の体調を気遣うのは当然、という配慮らしい。
「頑張りましょうね、私達の祈りが皆に届くように‥‥!」

●チップの祈り
 その日の午後一時、戦いは始まった。
 敵は誰でもない、己自身。痛みに耐え、楽になりたいと思う弱い心に打ち勝ち、葱に乗り続けた者の祈りだけが、天に届き、そして人々の心を打つのだ。
「じゃあ、まずはおいらから飛ぶね!」
 チップが正統派スタイルで元気に飛び立つ。その手には弓が握られ、背には矢筒を背負っていた。
 彼は上空に大きく円を描くように何度か旋回すると、高度を落として先程立てた的に近付く。
「おいらの射撃の腕を、大好きな友達やみんなを守る為に捧げるから‥‥」
 チップは高度と軌道を一定に保ったまま、弓を引き絞り狙いを定める。手で柄を押さえなくても飛べる正統派スタイルは、こういう時に便利だ。
「だから、神様もみんながずっと笑顔でいられるよーに守って下さい!」
 ――バシュ!
 チップは持てる技術の全てと、思いの丈を込めて矢を放つ!
 だが非情にも、矢は的の端を掠めて地面に突き刺さった。やはり葱を制御しながらの射撃は難しいようだ。
 しかしチップは諦めない。矢が的の中心を射抜くまで、何度でも繰り返し挑戦する。
「チップせんぱぁ〜い、がんばってなのぉ〜!」
 下からパラーリアの声援が聞こえる。
 失敗しても挫けずに頑張る彼の姿はきっと、見る人に勇気を与えるだろう‥‥今その姿を見ているのは仲間達だけではあったが。

●レイジュの祈り
「皆の為ならこの体も最後まで奉仕するよ! だって、僕は世界のHERO・葉っぱ男★ 」
 葱での飛行は1時間交代。合図と共に、チップと入れ替わりに飛び立ったレイジュは幸せの黄色いフンドーシを風にはためかせて颯爽と飛ぶ!
「この僕が世界に幸せをもたらすんだ♪ そう、人々は僕の事を、愛と平和の使者と呼んでいる! 僕がやらずに誰がやる!」
 そう叫びながら、彼は手にしたナイフで様々なフルーツを切り分け、皮を剥き、葱にくくり付けた大皿に盛り付けて行く。
 その料理は彼の最初のパフォーマンスが終了すると共に、仲間達に提供された。
「元気の元は美味しい料理さ! さあ、好きなだけ食べてv」
 葱から降りた後も、彼に休む暇はない。順番待ちの皆が気軽につまめるようにと、お菓子や軽食を作る。
 そして次の順番が来た時、彼の手には小さな竪琴があった。
「今度は葱の伝道者として、僕らが作ってきた葱の歴史を語るよ!」
 レイジュはこれまでの経験を、竪琴の音に合わせて‥‥いや、竪琴の弦を適当に弾きながら語る。この際、伴奏の上手下手は気にしない。雰囲気さえ出れば良いのだ。
 彼の歴史は葱と共にある‥‥そう、彼は葱の歴史の、まさに生き証人。話に多少の脚色があろうとも、気にする者はいない。いや、気にしてはいけないのだ。
 やがて語りは葱の壮大な歴史から、レイジュ自身の葉っぱ男伝説へと移る。
「‥‥そして、その村は葉っぱ男によって平和になったのでした」
 ――ポロ〜ン♪

●パラーリアの祈り
「24時間ネギで幸せになろ〜♪ よくわかんないけどみんなが幸せになんだよねっ! ワンダちゃんとレッドさんもいい仲だし、お〜えんしちゃうよぉ〜♪」
 パラーリアがレイジュの後を受けて、みょい〜んと飛び立つ。
「1回目はまるごとクマさんを着て、愛嬌を振りまきながらとぶねっ」
 2回目はまるごときたりすさんを着てぴょんぴょんするよ〜に元気に、3回目はまるごとオオカミさんを着て颯爽とスピードをあげて、そして4回目はまるごとねぎを着て。
 飛び立つごとに衣装を変え、飛び方まで変える。これがいつものコンテストなら、その仮装行列のようなパフォーマンスはきっと観客に大ウケする事だろう。だが今、空を見上げ、彼女の姿に気付いた者は果たして何人いただろうか‥‥いや、誰も見ていなくても構わない。祈りさえ届けば‥‥!
「大丈夫? どこかで1回おいらが代わろうか?」
 心配したチップが声をかけるが、パラーリアは元気に頑張る。そして彼女は無事、4回の飛行を乗り切った。

●十四郎の祈り
「俺もせいぜい頑張るから、これ以上弱い者が泣かなくて済むように‥‥大それた格好は勘弁な」
 十四郎はそう呟きながら空へ舞い上がる。
 大それた格好とは‥‥金の長髪のカツラをかぶり、その上には大天使の兜。手にした大天使の剣を高く掲げ、白保呂を羽に見立てて葱に結んで刺した部分を隠している。それは彼がイメージする「葱天使」の姿だった。
「見て判りやすく、希望や勇気等をイメージ出来るような姿‥‥それがこの葱天使だ。俺はこれで人々を元気付ける!」
 ただ飛ぶだけとは言え、その乗り方は肉体に想像以上の負担をかける。しかし彼等は皆、葱リストだ。それを名乗るからには、いかに苦しくともそのスタイルを変える訳にはいかない。
「葱リストの誇りにかけて、全員で24時間頑張り抜いて見せるさ。 この痛みに耐えて、皆に希望と勇気を与えられるのが葱リストだと信じてるからな」
 十四郎はまず自分が人々の苦しみや悲しみを笑顔に変える努力をすると誓った上で、全ての人の加護を神に祈った。

●ワンダとレッドの祈り
「むう、俺も何かのぱほーまんすとやらを用意してくれば良かったか‥‥!?」
 仲間達の演技を見て、レッドはそう呟く。しかし、何かと不器用な彼には気の利いたパフォーマンスなど思いつく筈もない。単純でストレートな表現こそが、彼が出来る事の全てだった。
「俺ただ、飛ぶだけだ‥‥そう、ワンダが作ったこの葱の性能を最大まで引き出す、それが俺の使命っ!」
 レッドは赤い葱をまるで自分の体の一部であるかのように自在に操り、限界ギリギリの速度で飛び回る。
「俺の尻は鍛え方が違うのだーっ!」
 などと叫びながら‥‥。
 そして入れ違いに飛び立ったワンダは両手を胸の前で合わせながら静かに飛ぶ。
「どうか世の中から嫌な事がなくなりますように。そして私の作った葱が世界の平和と愛と正義の為に役立ってくれますように‥‥!」

●そしてフィナーレ
「流石に2時間ぶっ通しはキツイな‥‥」
 最後のフライトを終えて仲間を待つ間、十四郎は薬を一気に飲み干した。
「だが最後の1時間、何としてでも飛び続けて見せるっ!」
 やがて仲間達がグランドフィナーレの為に空に舞い上がる。昼時のこの時間、荒れた畑を元に戻すべく忙しく働いている人々も、ふと空を見上げる瞬間がある筈だ。彼等の為に葱リストは飛ぶ。この尻の痛みが見知らぬ誰かを必ずや元気付けるであろう事を信じ、最後の力を振り絞って!
「葱は愛を運ぶ乗り物さ! この僕が英国に愛をもたらす!」
 レイジュは葉っぱをまき散らしながら歌を歌い、自信満々に言い放つ。
 パラーリアは女神の薄衣を着て飛び、チップと共に空中にハートを描いた。
「ワンダちゃんとレッドさんおめでと〜♪」
「ワンダさん達がずーっと仲良しでいられますよーに。それから、葱の明るい未来もお祈りするね!」
 十四郎も痛みの為に半ば朦朧とした意識の中で祈った。
「ワンダとレッド、そして葱リストの未来に神の祝福を‥‥!」
 らぶらぶな二人を先頭に、葱リスト達は華麗に空を飛ぶ。
「おいらもパラーリアさんと‥‥何でもなーい!」
 そんな独り言が聞こえたのだろうか、パラーリアが頬を赤らめたチップの傍らに寄り添うように近づき、何かを手渡した。
 それは彼の為に作った革手袋。
「みんなが幸せにっ☆だよぉ〜。ねっ♪ チップせんぱい」
 ――ちゅっ☆
 パラーリアはチップのほっぺにキスをして、ついっと遠ざかる。
「じれったいなあ、さっさとくっついちゃえば良いのに〜」
 それを見たワンダがクスクスと楽しそうに笑った。
 一方、十四郎は「葱は何かを救う、か。30過ぎの独身男も救ってくれねえかな‥‥」などと呟いている。
「よし、じゃあ今度の聖夜祭では、葱サンタでプレゼントを配りながら合コンパーティーしましょ!」
 ワンダが言った。
「やっぱり葱リストには理解のあるパートナーが必要よねっ!」
 そして後継者も。
 葱の歴史はまだまだ終わらない。いや、終わらせてはならないのだ。
 そして彼等は飛び続ける。愛と正義と平和の為に!!