【ボクらの未来】肝試しは命がけ?
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月09日〜09月12日
リプレイ公開日:2007年09月17日
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●オープニング
「お願いします、チビ達を助けて下さい!」
既に夜も更けた頃、そう言って息を切らしながらギルドに飛び込んで来たのは、12歳くらいの人間の少年と、それよりは少し年下に見えるシフールの少年。
「あれ、君は‥‥」
受付係は、この二人に見覚えがあった。そう、今までに何度かギルドの世話になった‥‥エストと、シフールの方はチャドといった筈だ。
「エスト君、どうしたの? そんなに慌てて‥‥」
受付係の問いに、少年は乱れた息を整えながら事情を話しだした。
「うちのチビ達が、教会の廃墟に肝試しに行ったんだ。周りに全然手入れされてない墓地があって、近所でも有名な肝試しスポットなんだけど‥‥でも、本物のオバケなんか出ないのはわかってた。だから、チャドとチビ達だけで行かせたのに‥‥その教会、すごく古くて、床が腐ってたみたいで‥‥」
「と、途中で雨が降ってきて‥‥オレ達、雨宿りしようと思って教会の中に入ったんだ」
チャドが泣きながら言う。
「そしたら、床がバキッって! チビ達が落っこっちゃったんだ! そんで、中からズゥンビがウワァ〜って出てきてっ!」
「そこの教会、地下墓地もあったみたいなんだ。チビ達はそこに落ちたらしくて‥‥そのショックでズゥンビ達が目を覚ましたんだと思う」
チビ達というのは、彼等が世話になっている孤児院の子供達の事だろう。その中で、エストとチャドが一番の「お兄さん」であり、彼等のリーダー的な存在だった。
「僕が悪いんだ。僕が、皆を守ってあげなきゃいけなかったのに‥‥!」
だが、エストはそういったもの‥‥幽霊や怪談が、ちょっと苦手だった。出ないとわかっていても、行きたくない。そして、出ないとわかっていたからこそ、付き添いをチャドひとりに任せたのだが。
すっ飛んで帰ってきたチャドから知らせを受けて、エストが駆けつけた時にはもう、上から見える範囲に子供達の姿はなかったと言う。
「多分、ズゥンビに追いかけられて‥‥逃げ回ってるんだと思う。上手くどこかに隠れてくれてると良いんだけど‥‥」
「わかった、急ぐ必要があるね。場所は、遠いの?」
受付係の問いに、エストは首を振った。
「すぐ近くです。チビ達が歩ける程度だから、走れば20分くらい。僕が案内します。だから、急いで‥‥!」
「聞いての通りです。どなたか、手の空いている方はいませんか!?」
受付係は店内の冒険者達に向かってそう呼びかけた。
●リプレイ本文
「まぁ大変!」
居合わせたギルドで一部始終を見ていたサリ(ec2813)が声を上げた。
「‥‥え? 何? 何があったの!?」
騒然とした雰囲気に、何かが起きたらしいとは感じたものの言葉がわからないアネカ・グラムランド(ec3750)は、助けを求めるようにオロオロと左右を見回している。
「教会の地下墓地で、子供達が助けを求めているようだ」
その様子に目を留めたジョン・トールボット(ec3466)が、ゲルマン語で解説をしてくれた。
「あっ、ありがとう! えぇと‥‥」
彼等が話す間にも冒険者達は続々と集まり、出発の準備が整えられる。
「大丈夫、必ず貴方達のお友達は助け出します」
青い顔をしたエストとチャドに、レイディア・ノートルン(eb7705)は安心させるように微笑みかけた。
「では急ぎましょうか。エストさん、案内をお願いしますね」
ディラン・バーン(ec3680)に促され、一同は急ぎ足でギルドを後にする。
「あっ! ボクも、ボクも手伝うよ〜っ!」
アネカが慌てて後を追う。が、勢い余ってマントに足を引っかけ‥‥
――ずでーん!
「いたたた‥‥あっ! 待って! ボクも行くってば〜!」
大丈夫なんだろうか、この子は。この調子で教会の床を踏み抜かなきゃ良いけど‥‥。
「少しくらい苦手でも、恥じ入ることはないのよ。皆を守ってあげなきゃっていう、その想いが勇気をくれるのではないかしら」
「誰だって苦手なものはあります。でも、貴方の大事な人達を想うことで乗り切れないでしょうか」
子供達が落ちた穴を覗き込み思わず後ずさったエストは、サリとレイディアに言われて「わ‥‥わかってるよ」と口を尖らせる。
それでも膝が震えているのは仕方がない‥‥苦手なものはどうしたって苦手なのだから。
「子供が踏み抜くくらいだ、大人の体重なら気をつけていようが踏み抜くことは十分考えられるが‥‥」
床の様子を調べながらアクア・ミストレイ(ec3682)が言う。どうやら子供達が踏み抜いた場所は腐ってボロボロになっていたようだ。上を見上げると、屋根の隙間から星空が見える。
「他の部分は大丈夫そうだな」
その報告を受けて、エルティア・ファーワールド(ec3256)は穴から縄梯子を下ろした。
とりあえずそこから光が届く範囲には子供達も、そしてズゥンビもいないようだ。
「エックスレイビジョンで透視出来るかと思ったのですが‥‥明かりがなければ見えないのですね」
ディランが残念そうに言いながら梯子を降り、サリとアネカがそれに続く。
「ああ、ちょっと待って」
続いて降りようとしたエストを呼び止め、エルティアは持っていたクッキーを渡した。
「少しだけど、子供達を見付けたら食べさせてあげてくれないかしら。お腹を空かせてるかも知れないし、甘いものを食べれば少しは気分も落ち着くかもしれないから」
「うん、ありがと」
包みを手に下へ降りたエストの後から、アクアに託された10個のランタンを体に括り付けたジョンが、ガシャガシャと派手な音を立てながら降りてくる。まるで墓場じゅうの死者に「起きろ」と呼びかけているようだ‥‥と思ったら。
「‥‥何か、動きましたよ」
ディランのバイブレーションセンサーに何かが引っかかる。だが、その同じ場所にブレスセンサーの反応はない。という事は‥‥
「お、起こしちゃった?」
と、アネカ。
「それとも、元々起きていたものでしょうか‥‥だとすれば、子供達からは注意が逸れたかもしれませんね」
サリの言葉に、ディランは子供達の反応を探す。
「いました、ここから直線で‥‥30m位。3人一緒にいるようです」
「良かった、別々に逃げていたらちょっと厄介な事になるかもしれないと思っていましたが‥‥」
サリはほっと溜息をつく。
だが安心するのはまだ早い。今はまだ、とりあえず息がある事を確認出来ただけなのだ。
「私は先に行って、子供達の無事を確かめます。ついでに安心するように伝えますね」
そう言うと、ディランはアースダイブで地面に潜り、姿を消してしまった。
「‥‥行っちゃったね‥‥どうする?」
アネカが仲間達の顔を交互に見ながら訊ねる。
「大体の方角はわかりましたし‥‥後はほら、床を見て下さい」
サリがランタンの明かりを石畳の床に近付ける。そこには小さな足跡と、何かを引きずったような跡‥‥恐らくズゥンビの足跡だろう、それが厚く積もった埃の上に残っていた。
「これを辿れば遭えるのではないでしょうか?」
「では‥‥ズゥンビを引き付けつつ、追い付かれないように子供達を探す。それで良いか?」
そう言って先程よりも大きな音でランタンを鳴らすジョンを殿に、一行は残された痕跡を慎重に辿り始めた。
一方、地上に残った者達は地下墓地へ通じる階段を探していた。
「あの穴からでは、逃げるのにも苦労しそうですものね」
レイディアは柱や崩れた壁、瓦礫の影などを慎重に見て回る。頭上に星が見えるような場所では、腐った床を踏み抜かないように特に慎重に‥‥。
「私は建物の外を探してみよう。この体重では腐っていない床まで踏み抜かないとも限らないからな」
アクアは手伝いに来たアトルシャンと共に教会の外周に沿って藪を掻き分け、生い茂った草を薙ぎ払いながら入口を探す。
やがて、建物の裏手に半ば土に埋もれ、朽ちかけた木の扉が見付かった。
丁寧に土を払い除け、今にも崩れ落ちそうなそれを開けると‥‥
「見付けた」
アトルシャンを上に残し、レイディア、エルティア、アクアの3人は今にも崩れそうな石の階段を慎重に下りる。
「まずは先行班が降りてきた穴を目指して移動ですね」
レイディアが目印の釣り糸を張りながら狭い通路の先に目をこらした。曲がりくねった通路の先に、淡い光が見える。
「あれだな」
ランタンの光に照らされたその場所には、天井から縄梯子が下ろされていた。そして、そこに結び付けられた細い糸。
しかし、もし糸の目印が途中で切れていたとしても、後続班が道に迷う事はなかっただろう‥‥曲がり角のひとつずつにランタンの明かりが揺れているのだから。
「こんなに明るくては、無害な死者の安眠まで妨げてしまいそうね」
エルティアがそのひとつひとつに油を継ぎ足しながら言う。だが、周囲に何かがいる気配はない。先行した仲間達が全て引き付けてくれているようだ。
やがて、光の向こうから彼等の声が聞こえてきた‥‥。
「おチビちゃん達、ボクから離れないで!」
やっと見付けた子供達の前に、ディランから借りた妖精の盾を手にしたアネカが立ちはだかる。見たところ彼等に怪我はないようだった。
「遅くなってごめんね。でも、もう大丈夫だよ!」
「にーちゃあぁん!」
エストの顔を見た子供達は安心したのだろう、火が付いたように一斉に泣き始める。だが、その声で新たな死者が蘇ったとしても、もう心配はいらない。
「大丈夫、オバケはみんなやっつけるから、もう少しだけ待っててね」
サリは子供達を通路の奥‥‥背後から襲撃を受けないような場所まで誘導し、そこに座らせた。ここならズゥンビからは見えないし、子供達も戦いの場面を目にしなくて済む。
その安全地帯を背に、ジョンが狭い通路いっぱいに立ち塞がっていた。
「エスト、剣の使い方を見せてあげよう。剣に自分の願いを移らせるんだ!」
ジョンはディランから借りた妖精の剣で、迫り来る死者達を薙ぎ払う。
その後ろからディランが放った魔法の矢は、通常よりも大きなダメージを与えていた。
だが、狭い通路にはズゥンビがみっしり詰まっている。動きが鈍いので攻撃を当てられる心配は余りないが、倒しても倒しても、まるで地面から湧いて来るように新手が現れるのだ。ただひたすら、鬱陶しい。
「くそっ、キリがない‥‥!」
ジョンが思わず弱音を吐いたその時。
「加勢する!」
ズゥンビの波の向こうから声が聞こえた。
アクアとエルティアが背後から切り込んで来る。エルティアの右手にはアクアから借りたローズ・ダガーがあった。その後ろからはレイディアの矢が飛来し、死者達に容赦なく突き刺さる。
前後を冒険者達に挟まれ、狭い通路にはまり込んだズゥンビ達は次第にその数を減らし‥‥やがて、地下墓地には再び静けさが戻った。
「ねえ、あいつら無事だよね? 大丈夫だよね?」
上で待つチャドがアトルシャンに向かって15回目に同じ質問を繰し返したその時。
古びた階段の下から、揺れる炎の明かりが静かに近付いて来た。
「‥‥チビ‥‥っ!」
「しーっ!」
思わず叫び声を上げそうになったチャドを、列の先頭でランタンを持つエストが慌てて止める。
見れば、3人のチビ達は冒険者達の背に負われ、安らかな寝息を立てていた。
「おチビちゃん達に、ちょっとお説教してあげなきゃと思ってたけど、それはまた今度だね。その代わり‥‥」
と、アネカはエストとチャドに向き直る。
「もう、あんま危ない事はしちゃ駄目だよ?」
「危なくないと思ってたのかな? でも、今度からは用心しなくっちゃね」
「‥‥はい‥‥」
素直に反省する二人に、サリは少し言い過ぎたかな、と微笑む。
「しかし、苦手を押しても弱きを守る、それこそが誠の騎士というものだ。エスト、立派だったぞ?」
ジョンの言葉に、レイディアがその通りだと言うように微笑みながらエストの頭を撫でる。
「チャドさんもよくがんばったね」
サリもチャドの頭を撫でようと手を伸ばし‥‥
「こ、子供扱いしないでよ!」
「子供扱いすんなよ!」
二人の子供は同時に口を尖らせた。
「あとで謝りに来ましょうね。起こしてしまってごめんなさいと」
ディランが微笑むが、二人はもう二度と来たくないと首を振った。
「大丈夫だ、そんな時の為に地下にはランタンも残してある」
アクアの言葉は冗談か本気かよくわからない。
「でも、本当に危ないですよね。あまり近づかない様に、ギルドなどを通して注意を促しておいたほうがいいかしら?」
と、サリ。
「う〜ん、でも子供ってこういうトコが好きだよね。ダメって言っても来ちゃうんじゃないかな?」
「そうね、禁止するよりも危ない所はきちんと修理したり、塞いでしまった方が良いかもしれないわ」
アネカとエルティアの言葉に、サリはそうかもしれないと頷く。
来年の夏もきっと、この場所は子供達で賑わうのだろう。本物が出るスポットとして‥‥。