お宝が俺を呼んでいる!?
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:やや難
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:09月13日〜09月18日
リプレイ公開日:2007年09月20日
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●オープニング
「ほれほれ、見ろこの足! 新品だぞ!」
裏切り事件から数日、ようやく傷が癒えたイアンは元通りになった足を嬉しそうに見せびらかす。
だが、見せられたトムは、嬉しいような嬉しくないような、喜んでる場合じゃないと言いたそうな、複雑な表情で答えた。
「ああ、良かったな‥‥」
それもその筈、今彼等がいるこの家‥‥トムの家だが、先日の襲撃でとりあえず雨露をしのげるスペースは残っているものの半壊状態。これを修理するにはかなりの費用がかかりそうだった。
それに、壊れたのは自宅ばかりではない。近所の家にも相当な被害が出ている。それを全て弁償するとなると、一体どれほどの金が必要なのか見当も付かなかった。
トムは既に、イアンの治療費を支払う為にあちこちから借金をしている。これ以上、頼る当てはなかった。
「大丈夫だ、心配すんな!」
ドンヨリと沈んだトムの背中を、イアンが勢い良くどついた。
「そんなもん、この俺様がすぐに百倍にして返してやる!」
この男、言う事だけはデカい。しかし、その言葉には何となく人を信じさせる、信じたくなるような力があった。
そして大抵の場合、実際に何とかしてしまうのだ‥‥手段はどうあれ。
「あの、俺がハメられた洞窟な。あの奥には絶対に何かあるぜ」
まあ確かに、何かがありそうだ‥‥「ある」なのか「いる」なのか、それはわからないし、或いは両方かもしれないが。
幸い崖崩れの現場までは前回冒険者が残してくれた目印がある。そこまでは迷わずに行けるだろう。
「奴等にも何か礼をしないとな。俺は義理だけは欠かさねえ男だ」
見付けたものは全て俺のもの。だが、恩を受けた相手には好きなものを好きなだけくれてやる‥‥そう言って、イアンは豪快に笑った。
まだ宝を見付けた訳でも、それどころか、あると決まった訳でもないのに。
「さあ、そうと決まったら早速準備だ!」
だが、今すぐにという訳にもいかない。イアンには鈍った体を鍛え直す時間が必要だった。
「トム、お前はギルドに行って話を付けて来い。何が出るかわからねえからな、仲間は必要だ。料金は後払いだが、損はさせねえ‥‥特に、世話んなった連中にはな」
「ああ、わかった」
イアンは立ち上がり、両腕をブンブンと振り回すと楽しそうに叫んだ。
「お宝が俺達を呼んでるぜ!!」
●リプレイ本文
「お宝か‥‥まあ、そう簡単に手に入る代物ではないだろうが、あればあったで心躍る物はあるだろうな」
「さ〜て、お宝が俺を呼んでるぜ。ダンジョンアタックは冒険の醍醐味の一つだよな」
探検、冒険、そしてお宝。
ジェイス・レイクフィールド(ea3783)も空木怜(ec1783)も、共にそうしたキーワードに心を動かされるクチのようだ。特に怜は足どりも軽く、鼻歌でも歌い出しそうな程に楽しげだった。
「前は怪我人の事考えててその辺、何も考えずに潜ってたから今回はじっくり味わおう」
レッツダンジョン。依頼人であるトムとイアンも楽しそうだ‥‥この洞窟であった事は、彼等にとって決して良い思い出ではない筈なのだが。
しかし、そんな浮かれ気味の男性陣とは対称的に、女性達はいささか慎重かつ現実的だった。
「それにしても、何が手に入るんでしょうね。貴金属のような換金しやすいものだと良いのですが」
「なんでしょうか、イアンさん達の想像する宝物とは別種のものだ、と主に囁かれてる気がします。例えば、誰かが他の人から貰った恋文とか‥‥」
衣笠陽子(eb3333)が独り言を呟き、マロース・フィリオネル(ec3138)が余り嬉しくない予想を立てる。
「ああ、これだから女ってヤツは‥‥わからねえかな、ロマンだよロマン!」
そんな女性達の言い分に、イアンは大袈裟に首を振って見せた。
「宝物の中身は正直どうでも良いんだ。大事なのは宝を探す、それ自体が持つロマンの香りを堪能する事なんだぜ?」
「でも、イアンさん達もお宝を見付けて借金を返済するという、現実的な目的の為にここにいるのでは‥‥?」
マロースに言われ言葉に詰まったイアンは、聞こえないフリをする事に決めたようだ。
「地道に働いて借金を返したほうがいいような気もしますけど‥‥」
それが出来れば、そもそも仲間に裏切られ洞窟に閉じ込められるなどというトラブルには遭っていないだろう。
マロースは軽く溜息をつくと仲間達の後に続いた。
「此処に来るのも久しぶりですね。こうして全てが終わった後に来ると、なにやら少し違う印象を受けます」
先日の依頼で訪れた崖崩れの現場。そこに辿り着いたロッド・エルメロイ(eb9943)は感慨深げに周囲を見渡す。だが、彼にもその先には何が待ち受けているのか全く分からなかった。
「この探検に何が待っているか楽しみです」
「‥‥そういや、前に洞窟の中にいた時、何か見たり聞いたりしなかったか?」
怜が訊ねるが、イアンはその時、足の痛みに耐えながら自分をハメた仲間達への復讐を考える事だけで頭が一杯で、何かに気付く余裕はなかったらしい。
「そうだよなあ、あの状況じゃ‥‥しかし、マジに元通りだな」
当時の状況を思い返しつつ、怜はイアンの再生した足に目を落とす。
「やっぱ、外傷治療じゃまだ魔法には適わないなぁ」
「気にすんな!」
そんな彼の背中をイアンが思い切りどつく。
「足をぶった切られても死なずに済んだのは、あんたの外傷治療ってヤツのお陰だろ?」
適切に処置をしなければ、感染症で命を落としていたかもしれない。
「‥‥では、行くぞ。ここから先は、今までとは違うようだ」
気を引き締めないと命に関わる、そう言って篁光夜(eb9547)は真っ先に崖下へ降りると、明かりを手に、足元と周囲の様子に警戒しながら先頭に立って歩き始めた。
しかし、ランタンの光は周囲にある筈の壁や天井までは届かない。無闇に歩き回れば方向感覚を失い、二度と外へは出られなくなるだろう。
「なるほど‥‥何かを隠すにはうってつけの洞窟のようだな。‥‥持ち出すのは骨だろうが」
真っ暗な洞窟の中でもフードで目元以外を覆い隠し、決して素顔‥‥特にその耳を見せないという暑苦しいスタイルを崩さないレオン・クライブ(ea9513)が真っ暗な空間に目を凝らす。
時折ブレスセンサーを唱えてみるが、呼吸をするものの反応はない。だからと言って何もいないとは限らないのだが。
「これじゃ真っ直ぐに進んでいるかどうかもわからないわね」
光夜の腕に不安げに掴まりながら、星宮綾葉(eb9531)が言った。
「壁伝いに歩いた方が良いんじゃない? ‥‥あ、ごめんなさい、余計な事を言ったかしら?」
「‥‥いや、それが良いだろう‥‥どうだ?」
洞窟探索は初めてだが、何とか皆の役に立ちたいと一生懸命な綾葉の提案を、光夜がジャパン語がわからない仲間に通訳した。
その提案を受け入れ、冒険者達は地図を作りながら慎重に歩く。
「‥‥この通路は‥‥僅かですが風が通っているようです」
壁伝いに発見した通路のひとつに明かりを差し入れた時、陽子が持つランタンの炎が僅かに揺れた。
どこかに通じているという事だろうか。
「どこか? お宝の所に決まってる!」
イアンが何故か自信たっぷりに言い、さっさと歩き出す。
「ああ、待って下さい。この辺りはジメジメして滑りやすいですし、こんな所には‥‥」
ジェル系のモンスターがいるかもしれない、とロッドが言いかけたその時。
――ぼとっ!
「うわあっ!」
イアンの頭上に、予想通りの物が降って来た。
「スライムか‥‥ダンジョンの基本装備だな」
「グレイオーズです。捕まると大変な事になりますよ」
怜とロッドが落ち着き払って解説する。って言うか、イアンもう捕まってるから。
「おいおい、勝手に飛び出すんじゃねえよ。こういう場所で単独行動は命取りだぜ?」
イアンが自力で振りほどいたそれを、ジェイスが槍の先に引っかけ、壁に叩き付ける。
だが、耐久力の高いグレイオーズはその程度の攻撃ではビクともしない。スライムとは思えないほど素早い動きで身体を伸ばし、新たな獲物‥‥わざわざ注意を引くように動いた光夜に向かって飛びかかってきた。
光夜がそれを上手く避けた所を狙ってマロースがコアギュレイトを唱える。上手い具合に動かなくなった所にロッドがマグナブローを放ち、ジェイスがスマッシュEXを叩き込んだ。レオンと陽子がムーンアローを放ち、最後に怜がローリンググラビティーで低くなった天井と床に往復で叩き付ける。
「イアン、怪我は?」
移動診療所の院長先生が訊ねる。グレイオーズに密着された時に酸を被っている筈だ。
「ああ。薬ならトムがどっさり持ってきたからな。後で飲んどくさ」
「怪我を軽く見るなよ。丁度良い、そろそろ休憩にしないか?」
冒険者達は少し行った所に乾いた地面を見付け、そこで暫しの休憩をとった。
「‥‥家が破壊されながらも友人の傷の治療に尽力するとは見上げたものだ‥‥」
荷物から薬を取り出してイアンに渡すトムを見て光夜が呟く。彼等の境遇に同情すると共に、その心意気にいたく感心しているようだ。
「ところで、この先はどうしますか?」
ロッドが訊ねる。ある程度の成果を得る度に一度外に出るか、それとも可能な限り探索を続けるか。
だが、既にだいぶ深く潜っている。いちいち戻っていたのでは先に進めないだろう。
怜が言った。
「行ける所まで行ってみるか‥‥時間は有効に使いたいしな」
やがて何も見付からないまま時は過ぎ、そろそろ戻る事を考え始めた頃‥‥
槍の石突きで地面や壁を叩き、不審な場所を探しながら歩いていたジェイスが何かに気付いて立ち止まった。
「この壁‥‥音が違ってないか?」
もう一度、叩いてみる。確かに他の壁とは微妙に音が違う‥‥そこだけ壁が薄くなっているような音だ。
周囲を警戒していた光夜も何かを見付けたようだ。
「これは‥‥」
半ば地面と一体化したような、古びた人骨。
「罠にでもかかったのか?」
それとも、ここ‥‥壁の向こうに在るであろう何かの番人か。
「罠だとしても、もう作動はしそうにないな」
レオンがその人骨の古さや周囲の状況を見て言う。この分だと、宝があったとしてもこの人骨同様、相当な年代物だろう。
「よし、罠がないなら俺に任せろ!」
イアンが巨大な斧を壁面に向かって振り下ろした。その一撃で、壁が音を立てて崩れる。
その時、足元の人骨が動いた。
「‥‥眠りを妨げてしまったようですね。スカルウォーリアーでしょうか‥‥」
番人なのか、それとも罠にかかって命を落とした盗人か。いずれにしても、哀れみを誘う姿ではあった。
「速やかに天に還して差し上げましょう」
ロッドのマグナブローとマロースのホーリーで、それはあっけないほど簡単に動かなくなった。
綾葉は念の為、清らかな聖水を振りかけて冥福を祈る。
それが守っていた‥‥或いは執着していたもの。それはやはり、壁の向こうにあった。
マロースがウッドゴーレムに瓦礫を取り除かせ、一行はその小部屋のようになった所に足を踏み入れる。
「‥‥お宝‥‥か」
誰かが呟いた。確かに、それはお宝だった。かつて、それが輝いていた時代には。しかし今では‥‥
「殆ど、ガラクタの山だな」
ジェイスは緑青の浮いた青銅の剣を手に取り呟く。辛うじて残る凝った装飾を見るに、かつてはかなりの値打ち物だったのだろう。
「何か使えるスクロールでもあればと思ったのだが‥‥」
レオンが手に取ったそれは、広げようとした途端にボロボロと崩れてしまった。
ロッドが手にしたビーズの首飾りも、紐が切れてバラバラと飛び散る。
「‥‥なんつーか‥‥哀しい、な」
怜が呟く。
だがイアンはこんな状況を目にしても元気一杯だった。
「お、見ろよ。マトモな物もあるぜ? こいつは結構売れるんじゃないか?」
宝の山を乱暴に物色すると、古いメダルを投げて寄越す。
「記念に取っとけよ。それに‥‥ホレ、こつは錆びも腐りもしねえぞ」
そう言って取り出したのは金の装飾品だった。確かに、纏めて売ればいくらかは金になりそうだ。
「お前らには世話んなったからな。もうちょいマシなモンが出て来りゃ良かったんだが‥‥ちょうど5個ある。ま、何かの足しにはなるだろ」
と、イアンは細かな装飾が施された金の腕輪を怜達5人に手渡した。残りの者にはシンプルな金の指輪。
「さーて、持てるだけ持って戻るか。売った金はきっちり山分けにするからよ」
それでは借金返済には到底足りない気もするが、受けた恩はきっちり返すのが彼の信条だ。
「‥‥あの二人もこれを期に真っ当な生活を送ればとは思うがな‥‥無理か」
ジェイスが呟く。
少しでも値打ちのありそうな物を手当たり次第に袋に詰め込みながら、イアンは上機嫌だった。
「また今度、お宝の匂いを嗅ぎつけたら呼びにやるからな。今度こそ一攫千金だ!」