傷心のサムライ騎士

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月17日〜09月22日

リプレイ公開日:2007年09月25日

●オープニング

「頼みがあります! 一度でよろしいので、彼女と会わせて欲しい事を希望するのだ!!」
 異国の風貌をした青年ロウ・カスミがギルドでそう訴えたのは、今から一月ほど前の事だった。
 生まれ故郷のジャパンでは芽が出ず、やむなくこのイギリスに渡って来た彼はそこで運にも恵まれたのだろう、今では周囲もその実力を認める立派な英国騎士だ。
 そんな彼がギルドに出した依頼とは‥‥

 彼には結婚の約束を取り交わした女性がいた。
 しかし、彼女は所謂深窓の令嬢、貴族の箱入り娘だ。結婚の許可を貰いに両親を訪ねたところ、両親から生粋の英国人でなければ娘はやれぬ言われ、会う事さえ禁じられてしまった。
 それ以来、彼は門前払い、そして相手の女性マーガレットは自宅に軟禁状態‥‥彼女の両親がどこかの貴族との縁談を強引に進めているという噂も耳にした。
 武家の出身である彼も、結婚は家の為である事は知っていた。諦めろと言われれば諦めるしかない事も分かっていた。
 だが、せめて‥‥手が届かなくなる前に、もう一度会いたい。会って、彼女の本心を確かめたい。彼女の心が変わらず自分にある事さえわかれば、潔く諦めるつもりだった。
 そこで、秘密裏に彼女と会う手助けをしてほしいと頼んだのだが。

「拙者が悪いのだった。自分の事であるのに、他人の力を借りようなどと思った事が諸悪の根元でした」
 自室の窓から彼女の家がある筈の方角に想いと視線を向けつつ、ロウはなかなか上達しないイギリス語で呟いた。
 彼の依頼は手が足りず、マーガレットには会えなかった。そして、今後も会える見込みはない。
 そんな彼のもとに、彼女の結婚式への招待状が送られて来たのは、つい先日の事。
 いや、正確には彼の主人に送られたものだが、従者である彼も当然、同行する事になる。
「拙者に、愛する女性が他の男に嫁ぐ、その一部始終を見届けろと言うのか‥‥?」
 口から出た言葉は、生まれた時から慣れ親しんできた故郷の言葉だった。
 それに気付いたロウは、何事かを決心したらしい。
 彼は机の引出から一枚の羊皮紙を取り出すと、几帳面な字で手紙をしたため始めた。

 ‥‥数日後、その手紙はギルドのカウンターの上に置かれていた。
「あのバカ、こんな書き置きを残して家出しやがったんだ畜生!」
 その手紙に置いた拳を握り締め、上品そうな顔立ちと整った身なりには似つかわしくない言葉を吐いたのは、ロウの主人‥‥まだ20歳前後に見える若者だった。
「俺は奴の腕を買ってるし、それに、主従関係は抜きで親友だと思ってる。それは奴もわかってる筈なんだ。なのに、たかが女の事くらいで国に帰るなんて‥‥!」
 どうやら、ロウは傷心のあまり国に帰る事を決め、黙って家を出たらしい。
「恋愛なんてモンは、一時の気の迷いだ。たとえどんなに燃え上がっても、どうせすぐに冷めて燃えカスになる‥‥冷え切る前に別れるのが『良い思い出』にするコツなんだ、そうだろ?」
 と言われても、その思い出さえ作れない受付係には何とも答えようがない。
「その点、政略結婚は燃え上がらない分だけ長続きする。長い目で見りゃ、それほど悪くはないモンさ。熱い恋なら余所でいくらでも出来るしな」
 この若者は、どうやらその手の経験が豊富らしい‥‥最後の発言は問題アリだろうが。
「だが、奴はウブだからな。これが初恋だとも言ってたし‥‥まあ、わからんのも無理はない。無理はないが、奴に去られるのは困る。女はいくらでも替えが効くが、優秀な人材はそう多くないからな」
 いや、だからその発言は問題が‥‥。
 だが若者は居合わせた冒険者‥‥主に女性達の殺気のこもった視線は気にせずに続けた。
「だから、連れ戻してくれ。どこにいるかは知らんが、まあ国に帰ると言うからには港か月道の辺りだろう。町中で刃傷沙汰になると、主である俺の立場もヤバくなるんでね、手段は問わないが穏便に頼むぜ」
 まあ、戻れない理由があるならそれを何とかしてやっても良いとは思うが、と、若者は付け加えた。
「奴がそうしたいって言うなら手助けしてやっても構わない。後で燃えカスの処理に困っても、そいつは奴の問題だからな」
 ただし、あくまで合法的に、穏便に頼むと言い残して若者はギルドを後にした。


 ――その頃、キャメロット市内にある彼女の家では‥‥
「お嬢様、お願いですから何か一口でも召し上がって下さい」
 深窓の令嬢マーガレットは、結婚式の日取りが決まって以来、ハンストを続けていた。
「花嫁がやせ細って青い顔していたのでは格好が付きません!」
「格好が付かないなら、取りやめればいいわ。私は結婚なんてしたくない!」
 懇願する侍女に、マーガレットはきっぱりと言い放った。
「結婚なんてしたくない。他の誰とも‥‥!」

●今回の参加者

 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 ec1007 ヒルケイプ・リーツ(26歳・♀・レンジャー・人間・フランク王国)
 ec3466 ジョン・トールボット(31歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec3769 アネカ・グラムランド(25歳・♀・神聖騎士・パラ・フランク王国)
 ec3805 レンドル・ギリアム(31歳・♂・ウィザード・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

小 丹(eb2235)/ ピエール・キュラック(ec3313

●リプレイ本文

「不潔ですー」
 詳しい話を聞く為に集まった屋敷で、ヒルケイプ・リーツ(ec1007)は依頼人を横目で見ながらこっそりとそう呟いた。
「結婚は、愛し合う者同士がするもんだよ。ましてや、どうして愛し当っている者同士が結婚できないの!?」
 ティズ・ティン(ea7694)に到っては、憤慨を隠そうともしない。
 口には出さないが、アネカ・グラムランド(ec3769)も恐らく同じ様な思いでいる事だろう。
「まあ、子供のうちは夢を持っておくのも良いだろうさ」
 依頼人に鼻で笑われ、3人はますます憤慨する‥‥が、今はそれどころではない。彼への説教は後でたっぷりとする事にして‥‥
「ジャパン人は一本気な人が多いであるから早く探すである。‥‥ひょっとするとひょっとするである」
 リデト・ユリースト(ea5913)が不吉な事を言う。
 依頼人から探し人の特徴を聞き、彼が書いた例の置き手紙を預かると、冒険者達はそれぞれ町なかへ散って行った。

「手紙にも国に帰るって書いてあるし、停車場や港を中心に探すと見つかる可能性が高いかもね」
 デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が特徴を聞いて作ったロウの似顔絵を道行く人に見せて歩く。
「捜索対象は宿、エチゴヤ、月道、港‥‥こんなところか?」
 ジョン・トールボット(ec3466)は思い当たる場所を次々と上げてみた。
「月道は閉じているそうですから、行くとしたら港でしょうか‥‥ジャパンへ行くにはパリを経由する必要があると聞きましたが」
 ヒルケイプは前回ロウからの頼みを受けながらも、手が足りずに断念するしかなかった事を悔やみ、申し訳なくも思っていた。
 今度こそ、彼の願いを叶えてあげたい。そして出来れば、二人で幸せになって欲しいのだが‥‥。
「月道を使うつもりなら、開くまで近くの宿にいるかもしれないであるな」
 リデトは愛犬のオニギリにロウの手紙の匂いを嗅がせ、その跡を追わせる。
「‥‥ふむ、この距離感じゃと恐らく港じゃろう。その辺りでぼ〜っとしとるようじゃ。まあ、移動していなければよいんじゃがのう」
 ギルドと教会の前、2ヶ所でサンワードの巻物を使ったカメノフ・セーニン(eb3349)は大体の位置を掴むと、二頭のボーダーコリーに指示を出した。
「さあ、行くんじゃ! ガウさん! オリビーさん! きゃつをとどめるんじゃ!!」
 そこにピエール・キュラックの愛犬も加わり、総勢四頭のボーダーコリーが一斉に走り出す。
 そして‥‥探し人は拍子抜けするほどあっさりと見付かった。
 昼下がりの港、その桟橋の先端に座り込み、黄昏ている男がひとり。
「‥‥あれ、かな?」
 レンドル・ギリアム(ec3805)が仲間と顔を見合わせる。
 長い黒髪を後ろで一つに縛り、羽織袴に洋風のマントというちぐはぐな格好をしている‥‥依頼人に聞いた通りだ。
「あの‥‥ロウさん、ですよね?」
 ヒルケイプに声をかけられ、ロウは驚いて海に落ちそうになる。
「あ、ごめんなさい! 驚かせてしまいました‥‥よね?」
「そなた、確かこの間の‥‥?」
「はい、この前はお力になれずすみません。でも、今度は協力してくれるという方も居るんです」
 と、ヒルケイプは後ろに居並ぶ冒険者達を振り返る。
「今度こそマーガレットさんの気持ちを確かめに行きませんか?」
 だが、ロウは黙って下を向き、彼等に背を向けてしまった。
「いや、自分の大切な事であるのに、他人に任せようとした拙者が悪いのであったよ。頼むから、そっとしておいて欲しいのだ」
「そうは行かん。貴殿の主人から、連れ戻すようにと依頼を受けているのでな」
 ジョンの言葉に、ロウはますます背中を丸めた。
「探さないでくれと頼みましたのに‥‥」
「ねえ、おいらも田舎貴族の家の生まれだから、貴族の関係はいろいろ難しいのはわかってるよ」
 デメトリオスが言った。
「でも、人生を幸せに生きるためには、それをあえて突き進むことも必要だと思うんだ。ましてや、今回は彼女も貴方のことを思ってくれているんでしょう?」
「それは‥‥わからぬ。わからぬが、彼女の結婚はもう決まった事なのです。今更、彼女の想いを知ったところで‥‥」
「それで良いんですか? ロウさんはそれで諦めもつくかも知れませんけど、好きでもない人と無理やり結婚させれれるかもしれないマーガレットさんのことを考えた事はないんですか!?」
「そうだよ、ロウさんがあきらめたら、ロウさんだけが不幸になるわけじゃないんだよ? 彼女は生きる目的を失って、屍のようになってしまうかもしれない。ロウさんは、その可能性があるとわかっていてあえて彼女を不幸にしたいの?」
 ヒルケイプとデメトリオスに畳みかけられ、ロウは思わず後ずさる。あと一歩で海に落ちそうだ。
「真面目な話、おまえさんは育ったところでダメじゃったからこっちに来たと聞いたのう。それをこの程度のことで帰るとは、その程度の覚悟だったということかのう」
 カメノフが他人事のようにそっぽを向きながら話す。
「まあ、そんなヤツが騎士として大成できるわけなかったんじゃ。どうせまた故郷でもうまくいかんじゃろうから、こっちの『友達』に泣きつくじゃろうて」
「う‥‥っ」
 ロウはもう一歩、後ずさり‥‥
 ――ざっぱーん!
「どうだ、頭は冷えたか?」
 ずぶ濡れになったロウに手を貸し、引っ張り上げながらジョンが言う。
「今度こそ何とかお嬢様の意思を確かめられるよう段取り組むであるよ。だから、諦めないでもう少し待っていて欲しいである。侍や騎士は困難な事をすぐ諦めてはいけないであるよ」
 リデトの言う通り、一方ではマーガレットとの接触が試みられていた。
「まずは手紙で、今の気持ちをきちんと彼女に伝えてみたらどうかな?」
 レンドルが勧める。
「そうじゃ、当たって砕け散るんじゃ!」
 言いながら、カメノフは生意気な事を言っただろうかと落ち込むヒルケイプのスカートをサイコキネシスで‥‥ぺろん。
「きゃああぁぁっ!!」
「お。黄色いフンドーシかのう。わしも持って‥‥ほげっ!」
 カメノフはその言葉通り、見事に当たって砕け散った。

 一方その頃。
 依頼人の手配でメイドとして屋敷に潜入したティズとアネカは、なかなかマーガレットと接触出来ずにいた。
 それはそうだろう、いくら馴染みの貴族の紹介状があるとは言え、入ったばかりの新人に大事なお嬢様‥‥しかも今は厳重な監視下に置かれている‥‥の世話を任せる訳にもいかない。
 仕方なく二人はごく普通にメイドとしての仕事をこなしつつ、機会を伺っていたのだが‥‥
 ――がっしゃーん!!
 どこかで、陶器の壺が割れた。
「ちょっとあなた、これで何度目!?」
「ご、ごめんなさいっ!」
 犯人はアネカだ。ドジな上に家事技能もさほどではない彼女は、先程から先輩メイドに怒られてばかりいた。
「ああ、もう良いわ。あなた一体何しに来たのよ? 何か得意な事はないの?」
「あの、お話相手くらいなら‥‥ボクにも出来るかな〜って」
 それを聞いて、先輩メイドは子供(に見える)二人をお嬢様の話し相手として送り込む事に決めたようだ。
「‥‥まあ、相手が子供なら、お嬢様も少しは心を開いて下さるかもしれないし」
 かくして、何はともあれ接触成功。
「ちゃんと食べないと素敵な恋ができないよ?」
 ティズは早速、食事を運ぶフリをしてマーガレットの耳元で囁いた。
「ロウはそんなマーガレットを見たくはないと思うなぁ」
 その言葉に、何を話しかけても人形のように無表情だったマーガレットの顔に生気が戻る。
「ロウを‥‥知ってるの!?」
 二人はこれまでのいきさつを手短に話し、彼女の気持ちを確かめた。
「よし、じゃあ待ってて。絶対、私達がロウや両親を説得して、結婚式なんかやめさせるから!」
「自分達の幸せは、自分達で掴まなきゃ、ね♪」

 その翌日。
 リデトの俄シフ便で互いの気持ちを確認したロウは、正装をしてマーガレットの屋敷を訊ねた。
 その手にはジョンが集めてくれた連判状が握られていた。彼の主人オスカーのお抱え騎士数名‥‥という数はいかにも少なかったが、仲間内にも異国の出である彼を快く思わない者もいる。とにかく何とか形になっただけでも上等だろう。
「騎士の名誉とは出身を選ぶような代物ではないのだが‥‥」
 と、背後で見守りつつジョンは軽く溜息をついた。
 実はこの他にも円卓の騎士や国王のお墨付きまでも貰えないかと画策してはみたのだが、円卓の騎士はいずれも不在、国王への謁見は「せめてこの町で1、2を争うような名声を得てから来るように」と言われ、叶わなかった。
 だが、その連判状を見せればマーガレットの両親の心も少しは動く‥‥と、良いのだが。
 しかし応対に出た両親の態度は変わらなかった。
「何故であるか? ジャパンの侍は国許では騎士階級、身分に不足はないである。ましてやロウはこの国でも騎士の身分を持っているであるよ?」
 リデトの言葉にも、異国人に娘はやれぬとの一点張り。
「大事なのは出身ではなく人物の器量。血筋だけで家は栄えないであるよ」
「何で好きな人同士が結婚できないの? 結婚ってそういものじゃないの!?」
 両親の背後からメイド姿のティズが叫ぶ。
「大人の事情なんて、そんなの知らない! 何で変えていこうとする努力をしないで諦めるの!?」
「‥‥まあ、騎士にとっては、貴族の夫人との恋愛こそが醍醐味なんじゃがのう‥‥お前さんがたも、身に覚えがあるじゃろ?」
 カメノフが両親に言った。
 依頼人の言う通り、恋愛は結婚相手以外と楽しめば良い。彼等もそうしてきた筈だ。
「でも、それで本当に幸せだって言える? 後悔してない?」
 デメトリオスが言った。
「もし、少しでも後悔してるんなら、同じ思いを娘さんに味あわせたくない‥‥よね?」
 と、遠慮がちにアネカ。
「式を中止しろとは言いません。ただ、少し猶予を頂けませんか? あなた方は、まだロウさんの事を何も知りません。ロウさんを認めてもらう為の猶予を貰えないでしょうか?」
 例えば‥‥と、ヒルケイプは言った。
「花嫁の体調不良とか理由をつけて、式を延期するとか」
 だが、花嫁の体調を含め、約束の日までに準備が整わないとあっては体面が保てない。答えは勿論、ノーだった。
「‥‥体面さえ保てれば、良いのでありますか?」
 それまで黙っていたロウが口を開いた。
「ならば‥‥拙者、相手の男に決闘を申し込むのだ!」
「‥‥確かに、正式な決闘なら花嫁を奪ったとしても体面は保たれるか‥‥」
 ジョンが呟く。
 断れば、それこそ体面に傷が付く。相手としても受けざるを得ないだろう。後は互いの技量次第‥‥

 かくして、投げた手袋は相手に受理され、決闘はいずれ日を改めて行われる事となった。
 その結果がどうなったか‥‥それはまた、別の話。