【もえでび】わたしたち、おてつだいねこ?
 |
■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 81 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月28日〜10月01日
リプレイ公開日:2007年10月06日
|
●オープニング
その日の早朝、キャメロットにある自宅‥‥通称猫屋敷を出ようとした円卓の騎士ボールス・ド・ガニスの目の前に、それは現れた。
「‥‥インプ‥‥?」
背中にコウモリの羽を生やし、先端が矢尻のような形をした長い尻尾を持つ小悪魔。悪戯好きで、よく町なかに現れては様々な悪さをしていく最下級のデビルだ。
その悪戯デビルが三匹、玄関の前にちんまりと並び、互いに顔を見合わせてにんまりと笑った。
明らかに何かを企んでいる様子だ。
「ここには、お前達が悪戯をして楽しいようなものは何もありませんよ」
ボールスは近所の悪戯っ子に対するような穏やかな口調で言った。
相手はデビルとは言え、そう危険なものではない。インプは高位のデビルの使い魔をしている事もあるし、ボールスにもそうしたデビルに狙われている心当たりはある。だが、このインプ達に限っては、それとは無関係なようだ。
斬り捨てる事は簡単だが、例えモンスターでも、現時点で何も悪さをしていない彼等を斬る事は躊躇われた。
少し脅せば逃げて行くか‥‥
「巣に帰りなさい。さもないと、痛い目を見る事になりますよ」
そう言って腰の剣に手をかけたその時。
奴等の姿が変わった。
「‥‥!?」
今、ボールスの目の前にいるのは‥‥三匹のネコ。
しかも、ケット・シーのように二本足で立ち上がり、両方の前足を胸の前で合わせて小首を傾げている。胸にはフリルの付いた真っ白なエプロン、そして大きな耳の間には小さなカチューシャがちょこんと乗っていた。
三匹は子猫のような愛らしい円らな瞳で、じっとボールスを見上げていた。その態度からは「この姿ならば絶対に攻撃をされない」という自信と確信のようなものが伺えるのは気のせいだろうか。
「か‥‥」
可愛い、と思わず出そうになった言葉を、ボールスは慌てて呑み込む。だが、それ以外に言うべき言葉が見当たらなかった。
『オテツダイ?』
小首を傾げたまま、それが言った。
『オテツダイ! オテツダイ!』
三匹はそう言いながら、呆然と立ちすくむボールスの脇をすり抜け、開け放されたままになっていた玄関から屋敷に上がり込む。
「ああ、ちょっと‥‥! こら! 待ちなさい!」
だが三匹は『オテツダイ♪』と鼻歌のように繰り返しながら、屋敷の中へと姿を消してしまった。
やがて‥‥
――ガッシャーン!
――どさどさどさーっ!
――バリバリ、ベリベリッ!
屋敷の到る所から、彼等の破壊活動を物語る音が聞こえてきた。
『オテツダイ♪ オテツダイ♪』
‥‥暫く後。
冒険者ギルドのカウンターに力なく突っ伏した円卓の騎士の姿があった。
「‥‥お願いします、奴等を追い出して下さい‥‥」
ボールスも何とか追い出そうと努力はしたのだが、その度にキラキラの瞳に涙を溜め『オテツダイ、ダメ?』だの『ゴメンナサイ、イヂメル?』『アタシ、ドジダカラ‥‥』などと言われ‥‥
結果、何も出来なかったらしい。
彼の「キュート抵抗」は‥‥もしもそんな数値があるならば、だが‥‥それは限りなくゼロに近い、いや、寧ろマイナスかもしれない。
「‥‥ダメなんです、相手はインプだとわかっていても、あの姿を見ると力が抜けてしまって。どうしても‥‥剣を抜く事さえ出来なくて‥‥」
もっと他の、強力なデビルが化けた物なら、いくら見た目が可愛いくても‥‥自分の息子に化けていたとしても、斬り捨てるのに躊躇いはしないだろう。
だが、相手はインプ。放って置いてもそれほど害のないモンスターだという思いが、彼の腕と決意を鈍らせていた。
そこで、冒険者達の力を借りに来た、という訳だ。
「お願いします、追い払って貰うだけで構いませんので‥‥それに、出来れば急いで頂けると、とても助かります」
「ああ、息子さんの誕生パーティーがあるんでしたよね」
受付係が言う。その依頼は先日受けたばかりだ。確か、パーティーは自領の城で行うのではなかったか?
「でも、間に合うんですか? 確かあそこまでは、歩いて2日程かかるのでは‥‥」
「ええ、馬を飛ばせば何とか。もし間に合わなければ‥‥仕方がありませんね。息子にはまた怒られてしまいますが」
「いや、ダメですよ。折角の誕生日なんですから、ちゃんと行ってあげなきゃ! それにボールス卿が一緒にいても役に立たないでしょう?」
受付係が言いにくい事をスパッと言うが、ボールスは頑固だった。
「それはそうですが‥‥でも、任せきりにして自分は遊びに行くような事は出来ませんから」
最後まで見届けると譲らない。
「‥‥わかりました。では、急ぎという事でお受けします」
依頼を受けた冒険者達が「おてつだいねこ」の可愛らしい外見に惑わされず、迅速に仕事を片付けてくれれば良いのだが‥‥そう思いつつ、受付係は依頼書を掲示板に張り出した。
「しかし、円卓の騎士からインプ退治を頼まれるとは‥‥まあ、あの人らしい事ではあるかな」
そう言えば去年の今頃も、ネコに化けたデビルを倒し損ねて‥‥それが確か、彼がギルドに出した初めての依頼だった筈だ。
「あれから一年‥‥か」
受付係は感慨深げにそう呟くと、仕事に戻って行った。
●リプレイ本文
「ゴシュジンサマ、オカエリナサイマセ♪」
玄関で出迎えた三匹を見て、後ろに続く冒険者達を振り返ったボールスは言った。
「‥‥これです」
だがしかし、キュート抵抗の低い何人かは初っ端から目的を忘れ、魂が抜けたように目をハート型にしている。
「‥‥はっ!」
ありったけの気力を振り絞って抜け出た魂を引き戻したマロース・フィリオネル(ec3138)は、仲間の肩を掴みガクガクと揺さぶった。
「み、皆さん。し、しっかりしなきゃダメです! 正気に! 正気にー!」
「そ、そうだよね、今回ばかりは心を鬼にしないと‥‥」
ネコ好きの林深雪(ec3852)も拳を握り締め、これはインプだと自分に言い聞かせながら、目の前に並んだネコ達を睨み付ける。だが‥‥
「だ、ダメだよ林ちゃん! 目を見ちゃダメっ! ゆーわくされちゃうよっ!
アネカ・グラムランド(ec3769)が盾で自らの視界を塞ぎつつ、その前に立ち塞がる。
「さっさと追い出しましょう。別に見たってどうってこと‥‥どうってこと‥‥どうって‥‥」
自らと仲間の志気を鼓舞し、決意を固めた筈のマロースの目が泳いでいる。片方の頬がヒクヒクと痙攣していた。
「ど、どどどどうってことない、です、よ?」
しかし言葉とは裏腹に、一度ユルみだした頬の筋肉はトロけて流れ、もはや痙攣する力もない。
「ニ、ニヤけてなんかないですっ! 絶対にないっ!」
いや、無理しなくていいから。
そんな彼等の後ろでは、かわゆいネコ達の姿を見ても眉一つ動かさない硬派な男達が、骨抜きにされた仲間達を生暖かく見守っていた。
「‥‥ボールス卿、貴殿は何をしておられるのですかまったく‥‥」
ウィンディオ・プレイン(ea3153)が大きく溜息をつく。
「急いでおられるのでしょう?」
「だったら、さっさと追い出そう」
インプも、この家の主人も。
ジョン・トールボット(ec3466)が腰の刀を抜き放つ。朝の光にキラリと光ったその怜悧な刀身を見て、ネコ達は怯えたように身を寄せ合った。
「例えどんな絶世の美女だろうが、この世にある魔法の薬をどれだけ飲もうが、私には貴様等は幻としか映らぬ。インプはインプだ」
ジョンは抜き身の刀を手に、ネコ‥‥いや、インプ達ににじり寄る。それを見て、三匹は一斉に屋敷の奥へと逃げ去った。
「‥‥さあ、今のうちに他の子たちを避難させて下さい」
漸く我に返ったディラン・バーン(ec3680)がボールスに言った。
「間違えて攻撃してしまっては可哀想ですし‥‥猫とか犬とか色々いるのでしょう?」
「はいはい、猫さん達。こちらですよ」
リーシャ・フォッケルブルク(eb1227)が盾を構えてインプ猫達の襲撃に備えながら、猫屋敷の住人‥‥いや、人ではないが‥‥を、避難所である食堂に誘導する。
「でも、荒らされたのが一階の部屋だけで助かりましたよ」
寝ていた所を起こされてすこぶる不機嫌な猫を抱えながら、ボールスは厨房に隠れているインプ達に向かって聞こえよがしに言った。
「二階の突き当たりにある客間には、今夜大事なお客様が泊まる事になっていますから‥‥」
実際は殆ど何もない空き部屋なのだが、そこなら少々暴れても被害は少ない。誘い込んで心置きなく退治しようというディランの発案だった。
台詞が多少棒読みなのは仕方がない。インプにさえ通じれば良いのだ。
「ダイジナオキャクサマ! オモテナシ!」
‥‥通じた。インプ達はこっそりと二階へ上がっていく。
その姿を確認して、セフィア・リーンナーザ(ec3279)は食堂の扉を静かに閉めた。
「ええと‥‥猫さんが‥‥何匹だっけ? 全部いる? ああ、もう、動かないでよ〜!」
足元を動き回る尻尾の生えた毛玉の数を数えようとしたセフィアだったが、似たような柄が6匹もいる上、彼等は少しもじっとしていない。
「15匹です。犬が7頭‥‥大丈夫、全部いますよ」
さすが飼い主、数えなくてもざっと見ただけでわかるらしい。
「では、片付けが終わるまでここにいて下さいね‥‥ボールス卿も」
ディランが微笑む。
「退治の邪魔をされては堪りませんから‥‥」
と、これは独り言。
「上手く誘導出来たみたいだね」
階段の一番上の段から顔を覗かせたアネカが、二階の様子を窺う。その下には、いつでも踏み込めるように仲間達が待機していた。
廊下は真っ直ぐに奥まで延びている。ここからなら弓で狙い撃ちするのもそう難しくはないだろう。
「この距離なら、よく見えませんしね‥‥例えウルウルの瞳で見つめられても」
ディランが苦笑混じりに言った。
扉が開け放しにされた突き当たりの部屋では、インプ達が何かを企むように額を付き合わせている。
「‥‥何の相談してるんだろ?」
やがて、部屋の中から聞こえてきたのは‥‥
「ペッタン♪」
――びしゃ!
「ペッタン♪」
――べちっ!
楽しげな声と共に、何かを壁に打ち付けるような音‥‥
そう、彼等は殺風景な部屋の壁に、インクで「にくきゅうもよう」を付けていたのだ。
だがしかし。
――ぶちっ!
ディランの隣で何かが切れる音がした。
「あ、アネカさん!?」
止める間もなく、持っていた盾を放り出し、代わりに棍棒をひっ掴むと、アネカは廊下を突進した。
「‥‥ぺったんこって‥‥言うなあぁぁぁ!!」
‥‥意味、違うんですけど。聞こえてない‥‥ね。
怒りに任せた攻撃をかいくぐったインプ猫は、インクのたっぷり付いた前足をアネカの眼前にかざし‥‥
「ペッタン?」
にくきゅうもようが、アネカの胸にも咲いた。
「こぉおんのぉお‥‥待ぁあてえぇぇぇっ!!!」
部屋の中で、追いかけっこが始まってしまった。
それを尻目に、リーシャが残る二匹に向かってスタスタと歩み寄る。武器も盾も、置きっぱなしだった。
「‥‥可愛い猫さん‥‥もっと近くで見たいですね」
「カワイイ?」
言われて気を良くしたらしいインプ猫は、とっておきの悩殺ポーズを作る。すなわち、両方の前足を胸の前で合わせ、小首を傾げて‥‥
「本当に、可愛いです‥‥」
むぎゅうっ!!
「みぎゃあぁぁっ!?」
「どうしました、猫さん? あたしは多分‥‥それ程‥‥力は強く無い筈ですから、ギュッとしても窒息したり苦しくなったりする筈がありませんよ‥‥ねえ?」
いや、悶絶してるから、もう。
リーシャの腕から、くてっとなったインプ猫を引き取ったディランは、それを袋に詰めて深雪に手渡す。
「じゃあ、私が見張りしてるね!」
袋を庭に運び出す深雪の後から、セフィアが嬉々として続いた。
「‥‥はっ! い、いけません、依頼を忘れるとこでした!」
呆然と成り行きを見守っていたマロースがふと我に返り、デティクトアンデッドで目の前の相手が確かにインプである事を再確認し、気合いを入れ直す。そしてアネカから逃げ回るインプにコアギュレイトをかけた。
「きゃあっ!?」
急に動きを止めたインプに蹴躓き、盛大にコケたアネカはそのまま無言でロープを取り出すと、インプ猫を簀巻きにし、更にマントで包んで‥‥窓から庭に、ポイ。
「あはは☆ ごめんねネコちゃん♪ ボク‥‥わんこ派なのっ!!」
残る一匹はここに至って漸く危機感を覚えたのか、廊下の向こうで弓を構えるディランに向かってキラキラの瞳を潤ませ、もうこれ以上は曲がらないと言う位、めいっぱい首を傾げ‥‥
「イヂメル?」
だが、彼の距離からその表情は見えない。
そして、その射線を塞がないような位置にハリセンを手にしたウィンディオが立ち塞がった。
「フン、私をその様な姿で惑わす事は出来んぞ」
ニヤリ。
「このハリセンで叩かれるか、それともディラン殿の弓で射抜かれたいか‥‥それともジョン殿に斬られるか」
好きなものを選べと言われ、インプ猫はふるふると首を振る。
そして、そのままの形で固まった‥‥マロースのコアギュレイトによって。
「みゃー、みゃー、みゃー!」
三つの袋の中から、可愛らしい鳴き声がする。
「‥‥ねえ、これホントにインプ猫だよね? 間違えて本物の猫ちゃんを詰めちゃったりとか‥‥ないよね?」
セフィアはその声を聞くうちに心配になってきたらしい。いや、それよりもかわゆいネコを見たい、という気持ちの方が強かったかもしれないが。
「ねえ、ちょっとだけ‥‥見ても良いかな?」
「そうだね、ロープで縛ってあるし、見るだけなら大丈夫じゃない?」
深雪が答え、袋の口をそーっと開けてみる。
「うみゃぁ〜〜〜!」
袋の口から、顔だけ出したネコ。これまた‥‥
「可愛いーっ!」
むぎゅうう。
「みぎゃーっ!」
しかし、その声に慌てて腕を解いた時、それは既にインプの姿に戻っていた。
「イヤあぁっ騙されたあぁっ!!」
セフィアは手にしたスリングを投げ付けた。ほんの少し、涙目になりながら‥‥。
「‥‥ボールス卿」
インプ達にお仕置きとお説教を済ませ、二度と近付くなと言って解放した後。
殆ど何の役にも立たなかった円卓の騎士に、ジョンが声をかけた。何となく、お説教を食らいそうな予感。
「まあまあ、良いじゃないですか。無事に追い出せた事ですし‥‥」
次はこの人をさっさと追い出しましょう、とディランの目が語っている。
「後は任せて行って下さい、向こうでも待っていらっしゃるのでしょう?」
「そうだな、御子息と友人達と‥‥愛しの君が」
後片付けは執事殿が監督すれば良いと、ウィンディオはボールスの背中を押す。
「あ、はい‥‥では‥‥すみません、お言葉に甘えて‥‥ありがとうございました。行ってきます!」
ペガサスに飛び乗った王子様は、あっという間に空の彼方へと姿を消した。
「‥‥じゃあ、心置きなく掃除しようか!」
深雪が笑う。
「そうそう、ボク、鍛冶道具持ってるから、何か壊れた物があったら直せるよ!」
「私は力仕事かな」
片付けながら噂話に花が咲き、何やらおかしなイメージが出来上がってしまった事を、屋敷の主人は知る由もなかった。