最強勇者犬軍団!
|
■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:11〜lv
難易度:普通
成功報酬:5 G 55 C
参加人数:7人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月01日〜10月06日
リプレイ公開日:2007年10月09日
|
●オープニング
「キャンキャン!」
「クゥ〜ン!」
「キュン!」
冒険者ギルドの内部に、何故か子犬たちの鳴き声が充満していた。
5匹の子犬‥‥何やらボーダーコリーと柴犬が混ざったような‥‥に、まとわりつかれながらカウンターの前に立っているのは、東洋風の風貌をした男だった。
煮しめたような色の擦り切れた着物に、もつれて絡まった長い黒髪。日焼けした顔には無精髭が踊っている。
「あなた‥‥まだこの国に居たんですか? と言うか、いいかげんその着物、新調したらどうです?」
受付係が懐かしがるような、呆れたような声で言った。
この男は受付係の顔馴染み、以前にもギルドの世話になった事がある自称天才絵師、連素太左右衛門(むらじ・すたざえもん)その人であった。
そう、あれはもう一年以上前のこと‥‥あの時は洞窟で迷子になった素太左右衛門を助けてくれと、小さな柴犬が飛び込んで来たのが始まりだった。
その時の犬、豆太郎の姿が見えないが‥‥
「随分、増えましたね」
「おお、そうなんじゃ。豆太郎の奴、いつの間にか近所の犬といい仲になりおってな‥‥」
豆太郎、こんな名前だが歴とした女の子だった。
「いや、そんな事はどうでも良いんじゃ! 豆太郎が、豆太郎が‥‥っ!」
素太左右衛門は突然もつれた髪を振り乱すと、受付係に掴みかかった。
「洞窟に閉じ込められてしまったのじゃ!」
それは今朝のこと。
本業である筈の絵を描く事よりも、絵の具の材料となる鉱物を集め、まだ誰も見た事がない色を作り出す事に情熱を燃やす彼は、例によって絵の具の材料となる珍しい鉱物を探しに、犬達をお供にとある洞窟の奥深くに潜っていた。
と、その時。洞窟の奥からこの世のものとは思えぬ恐ろしい唸り声が聞こえてきたのだ。
身の危険を感じた彼は、犬達を連れて洞窟の外へと走った。犬達の鼻があれば迷う事はない。だが、暗い上に足元も悪く、転んで足を挫いた素太左右衛門は、その恐ろしい声の主に追い付かれてしまったのだ。
その時、主人の前に立ちはだかった豆太郎が、一声「ワン!」と吠えた。その行動の意味を察するのは、テレパシーなど使わなくても容易い事だ。豆太郎が相手を引き付けている間に、素太左右衛門と子犬たちは無事に洞窟の外に出る事が出来た。
しかし‥‥その直後。
――ドドドーッ!!
落盤が起きて、洞窟の出口が塞がってしまった。
「豆太郎っ!?」
「キャンキャン、キャウ〜ン!」
素太左右衛門と子犬達が呼びかけるが、返事はない。入口を塞いだ大小の岩は、素太左右衛門ひとりの力では到底動かせるものではなかった。
「なるほど‥‥それで、ギルドに?」
「お願いじゃ、豆太郎を助けてくれっ! 崩れた岩には、犬一頭位なら通れそうな隙間が開いておった。じゃが、この子犬達にはそこから潜って中の様子を探らせるなど、まだとても無理じゃ。あの、恐ろしい声の主も近くにいるかもしれんし‥‥」
そこで、人間が岩をどかしている間に賢い犬達に先に潜って貰い、豆太郎の無事だけでも確かめて欲しい。
「その、声の主‥‥姿は見なかったんですか?」
受付係の問いに素太左右衛門は首を振った。
「いや、何しろ暗かったし、慌てていたものでな‥‥数もようわからん。それに‥‥どうもその洞窟はだいぶ脆くなっておるようでな、今思い返せば、あちこちに崩落の跡があった‥‥」
それを聞いて、受付係は頭を抱えた。
「あなたはいつもいつも、どうしてそう危ない所ばかりに潜るんですか!?」
「いや、すまぬ。その、どうにも止まれぬ性分なのでな‥‥いや、今度こそ、危険な場所へは近付かぬと誓う! だから、豆太郎を助けてくれっ!!」
●リプレイ本文
「これは‥‥なるほど、見事に崩れておるな」
件の洞窟に辿り着いた尾花満(ea5322)は、荷物として運んで来た埴輪を馬の背から下ろす。
「ただ犬の救助というだけならばともかく、正体不明の化け物が棲んでいるらしい洞窟か‥‥。何にせよ、放置は出来まい」
崩れた岩の間には、依頼人が言った通り犬一頭位なら出入りが出来そうな隙間がある。中の豆太郎が無事なら、ここから脱出出来そうなものだが‥‥
「‥‥ふむ、とりあえず息はあるようじゃな‥‥小さいのが豆太郎のものじゃろう」
カメノフ・セーニン(eb3349)がブレスセンサーで確認する。場所はそれほど深くはない。
その奥、かなり深い所にもうひとつの大きな反応があった。
「上手くすれば、気付かれずに助け出せるやもしれんのう」
「よし、とにかく犬達に様子を探らせてみるか」
リ・ル(ea3888)は自分の犬、ワンコに命じた。
「敵に出会ったら吠えて敵の注意を惹け。戦わずに後退しろ。豆太郎を先に逃がせ‥‥良いな、頼んだぞ!」
言われて、ワンコは岩の隙間に体を押し込み、洞窟の中へと入っていく。
「セタンタ、周りの犬と協力し、この子犬達と同じ匂いのする犬を守れ」
エスリン・マッカレル(ea9669)は愛犬の頭をわしわしと撫で、褒めちぎってから送り出す。
その後に葉霧幻蔵(ea5683)、ゲンちゃんの茶助が続いた。
「あたしも身長ならこの子達に負けてないと思うんだけど」
負けてないと言うか、勝ってないと言うか‥‥李斎(ea3415)の身長は愛犬の劉くんよりも低かった。しかし、横幅の方は‥‥いや、まあ、肩幅も広いし?
「仕方ない、劉くん先に行ってて。すぐに追い付くから!」
「ガウさんや、中ではできる限り吠えたりせんようにのう」
カメノフは犬の首輪にリカバーポーションを結び付ける。
「ま、用心じゃな」
犬達がそれを自ら使う事は出来ないだろうが‥‥
「大丈夫ですわ、私も犬達と先行しますので」
アクテ・シュラウヴェル(ea4137)がゲンちゃんに借りたアースダイブのスクロールを唱え、地中に潜って行った。
「‥‥とは言え、一人では心配だ。急いで片付けよう」
エスリンが洞窟の周囲を確認しながら言う。そこにはかなり大きな足跡が残っていた。これを見れば中に何かヤバそうなものがいる事位はわかりそうなものだが‥‥。
「まあ、そういう奴だよ、あの旦那は」
「そうじゃのう」
以前にも関わった事のあるリルとカメノフは諦め顔だ。
「ふむ、しかし‥‥一体何じゃろうな? クマかのう?」
それはともかく、まずは人間が通れる程度には入口を広げる必要がある。
崩落を防ぐには、まず岩の隙間を土で埋め、ストーンで固めた所にウォールホールを使うのが確実だろう。だが、ウォールホールの効果時間は6分。もし中に入ったまま効果時間が過ぎ、しかも魔法が使えないような状況になったら‥‥実に楽しい事になりそうだ。
「中にいるのがモンスターなら、そのまま埋めちまうのも良いだろうが、野生動物だったりしたら‥‥」
生き埋めにするのは可哀想だ。と言うか、そもそもこんな洞窟にのこのこ入って行く依頼人が悪いのだが。
その彼は‥‥流石に反省しているのか、それとも豆太郎が心配で何も手に付かないのか、子犬達に囲まれて大人しくしていた。
「邪魔の入らぬうちに、地道に人海戦術と行くか」
言いつつ、満が手近な岩に手をかける。途端に、周囲の岩がガラガラと音を立てて崩れた。
「‥‥これは、相当脆くなっておるな‥‥再崩落を起こさぬように、慎重に作業せねば」
洞窟の外で地味で地道な作業が行われている間、中では‥‥
『任侠と書いて「忍犬」と読むきん! 任しとけ、親父ぃぃぃ!』
親父とはゲンちゃんの事らしい。茶助は犬達の先頭に立って、覚えた匂いの主を探して歩く。
『親父達の話じゃ、妙なもんがおるらしい‥‥とっとと女見つけて連れ帰るぞ!』
何故こんなにガラが悪く、しかもチンピラ風なのか‥‥おまけに仕切ってるし。まあ、それは置いといて。
『皆さん、頑張って下さいね。頼りにしていますよ』
アクテがテレパシーで犬達に話しかける。本当は自身の愛犬も連れて来たかったのだが、その子はフロストウルフに変化して以来、すっかり無愛想で人見知りするようになってしまっていた。
「でも、いつかは元通りの関係になってみせますわ」
手探りで歩きながら、アクテはそう自分に誓う。
用心の為に明かりは付けない。インフラビジョンに映る犬達の体温だけが頼りだった。
やがて犬達の足が早まり‥‥止まった。
アクテは犬達の前に手をかざしてみる。そこには崩れた岩のような感触があった。
ここも崩落したのだろうか‥‥
『豆太郎さんはこの奥にいるようですわね。私達の力ではどうにもなりませんから、誰か仲間達を呼んできて頂けませんか?』
それを聞いて、二頭の犬が飛び出して行った。
『おう、しっかりせぇ、お前ぇさんのガキ共とご主人が待ってるからよぅ』
ワンコとガウが周囲を警戒する中、茶助は豆太郎に向かってそう呼びかける。崩れた岩の向こうから、かすかに喉を鳴らす声が聞こえた。
「‥‥一頭くらい、手許に残しておけば良かったか‥‥?」
片手に持った松明で足元を照らし、犬達の足跡を辿りながらエスリンが言う。僅かな隙間に体を押し込み、強引に潜り抜けてきた彼女と斎は少々後悔していた。
「それにしても、あの連くんの言う事はまるっきりアテになんないわね‥‥深くもないし、複雑でもないなんて言ってたけど、思いっきり複雑じゃない、この洞窟」
斎が溜息をつく。松明の明かりに照らされた洞窟内は大小の通路に複雑に枝分かれしていた。ただ、その大部分が既に崩落している為に、通れる場所は限られてはいたが‥‥
「こりゃ下手に暴れたりしたら生き埋めになりそうだね」
暴れる気満々だったらしい斎は少し残念そうだ。
その時、洞窟の奥から微かに犬の足音が聞こえてきた。
「‥‥セタンタ!」
「劉くん!?」
二頭の犬は飼い主を見付けるや、こっちだと言うように尻尾を振り、元来た方に踵を返す。
「どうやら、見付けたらしいな」
「この程度なら、あたしらでも何とか出来そうだね」
犬達に案内されて辿り着いた現場を見て斎が言う。人ひとりがやっと通れそうなサイズの穴を、大小様々な岩が塞いでいた。
その岩や、周囲には何かの爪痕のような引っ掻き傷が無数に付いている。
「追われてここへ逃げ込んだのか‥‥相手は恐らく、この穴には入れない大きさなのであろうな」
エスリンが言うように、獲物が逃げ込んだ穴に入れない為に、怒って暴れ‥‥その結果、入口が崩れて塞がってしまったのだろう。
「待っていろ、今助ける」
今度は、「クウ〜ン」という先程よりも少し元気そうな返事が返って来た。
そして数分後。
どかされた岩の間から、豆太郎が自力で這い出してきた。見たところ、怪我などはしていないようだ。
「お腹がすいたでしょう? よく頑張りましたね」
アクテが保存食の肉を差し出すと、豆太郎は勢い良くかぶりついた‥‥と言うよりも、丸呑みした。
やがて人心地‥‥いや、犬心地のついた豆太郎を連れて洞窟を出ようとしたその時。
獲物が解放された事を感じたのか、それとも侵入者の気配を察したのか‥‥洞窟の奥から恐ろしげな声が聞こえてきた。
「おっ、出たね?」
斎は何だか楽しそうだが、ここは豆太郎の救出と全員の無事な脱出が先だ。冒険者達は犬達を案内に、出口へと走る。
『豆太郎さん、走れますか?』
アクテの問いに、豆太郎は一声吠えると元気に走り出した。
「しかし、せめて正体だけでも確かめねば‥‥」
殿を務めるエスリンが後ろを振り返る。
暗がりの中、松明の光りに照らし出されたそれは‥‥
「む、中が何やら騒がしくなってきたでござる!」
ゲンちゃんが岩をどかす手を止める。洞窟の出口は、既に人が余裕で通れる程の大きさになっていた。
「ま、豆太郎! 豆太郎は無事かっ!?」
それを聞いて騒ぎ出した素太左右衛門の上に、大きな岩がのしかかる。
「ええい、静かにしておれ。邪魔をするでない!」
冒険者達は犬と仲間達、そして、彼等を追って来るであろう何かを待ち、それぞれの得物を手に息を殺す。
やがて犬達が穴から飛び出し、続いてアクテ、斎‥‥殿のエスリンが叫んだ。
「熊だ! まだ若い‥‥ジャイアントベア!」
――ドガアァァン!!!
エスリンが飛び出した直後、それが洞窟の出口に向かって突っ込んで‥‥止まった。と言うか、埋まった。
狭い出口に向かって頭から突っ込み、それが新たな落盤を誘ったようだ。
「‥‥死んではいない‥‥な?」
リルが恐る恐る覗き込む。
「どうする? 出来れば山奥に放してやりたいんだが‥‥」
「フライングブルームで運べる重さなら良いのですが」
アクテが言う。気絶したままなら釣り下げて運ぶ事も出来るだろうが‥‥若いと言っても体格は立派な大人だ。
「まずは掘り出して‥‥この洞窟はやはり埋めてしまうか。さすれば、熊もこの場所は諦め、どこか余所へ移るであろう」
と、満。
「う、埋めてしまうのか‥‥?」
豆太郎を腕に抱きながら名残惜しそうに洞窟を眺める素太左右衛門に、リルと満が釘を刺す。
「当たり前だ。他に誰かが入り込んで事故に遭ったら大変だしな」
「今回は良かったが、次も犬が無事とは限らぬ。何より、このような場所で連殿に何かあれば遺された者達はどうなる。自分ひとりの身ではないことを念頭に、無茶は慎むことだ」
かくして、埴輪によって体の上の瓦礫を取り除かれ、蒙古馬の黒曜に引っぱり出された熊が目を覚まさないうちに、洞窟の入口は更に崩され、ストーンで完璧に固められた。
これでもう、この洞窟に誰かが入り込む心配はない。もっとも、この手の人間は懲りるという事を知らない。いつかまたきっと、別の場所でお呼びがかかるのだろう‥‥。