秋の味覚を、あの人に

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:5人

サポート参加人数:2人

冒険期間:10月12日〜10月17日

リプレイ公開日:2007年10月20日

●オープニング

「あのね、お婆ちゃんに美味しいお料理を食べさせてあげたいの」
 冒険者ギルドとは、言ってみれば「何でも屋さん」のようなもの。時にはこんな「冒険」とは縁もゆかりもなさそうな依頼も舞い込んで来る。
「でも私、お料理って苦手で‥‥こないだも家族に、もう少し上手くならないと嫁の貰い手がないなんて失礼な事言われたし」
 そう言って頬を膨らませる彼女の年齢は、見たところ15歳位か。この時代なら、一般にはもう適齢期だろう‥‥もっとも、その基準は冒険者の女性には当てはまらないが。
「あ、でも、私は良いのよ。料理なんか出来なくてもいい、君さえ傍に居てくれればそれだけで充分だ、な〜んて言ってくれる人が必ず現れるから!」
 どうやら、まだまだ夢見るお年頃のようだ。
「それに、お爺ちゃんみたいにお料理の得意な人が現れるかもしれないもん」
「お爺さんは料理が得意なのですか?」
 受付係の問いに、少女は少し寂しそうな笑顔を見せた。
「うん、去年、死んじゃったけど。それ以来、お婆ちゃんまで元気がなくなっちゃって‥‥なんだか、お爺ちゃんの後を追っかけて行きそうなのよね」
 少女は溜息をついた。
「私、お婆ちゃんに何とか元気になって欲しくて‥‥」
 食材が豊富な秋には、山や森で摂れたキノコや山菜、木の実などを使って色々な料理を作り、パーティを開いていたのだそうだ。しかも毎年レパートリーが増え、今年は何が出てくるのかと皆で楽しみにしていたらしい。
 しかし今年は、作れる人がいない。
「こんな事なら、お爺ちゃんに習っておけば良かった。でも、すっごい元気で‥‥死んじゃうなんて思わなかったんだもん」
 それは恐らく、祖母も同じだったのだろう。長年連れ添った伴侶を突然失ったショックは大きかったようだ。
「お婆ちゃんも、最近めっきり体が弱っちゃって‥‥歯もだいぶ抜けちゃったみたいなのよね。でも、お爺ちゃんがいた頃と同じようなパーティを開いてあげれば、少しは元気になってくれると思うの」
 材料は一般家庭で容易に手に入る物。それに森や山の恵み。特別な物は何も使わない。
「材料を採りに行く時は私も手伝うわ。よくお爺ちゃんと行ってたから、少しは場所もわかるし‥‥じゃあ、よろしくね」
 そう言うと、少女はギルドを後にした。

●今回の参加者

 ea1060 フローラ・タナー(37歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 eb2092 シスフィーナ・フォン・リオネル(19歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ec3954 オブシディアン・ソウル(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

フリッツ・シーカー(eb1116)/ 篁 光夜(eb9547

●リプレイ本文

「どうぞ安心して行ってらっしゃいませ。私は皆さんがお出掛けの間、お婆さんのお相手をさせて頂きますので」
 フローラ・タナー(ea1060)はそう言って、依頼人の背中を押した。
「お爺さんがどんな食材を手に入れていたのか、詳しい種類や場所はご本人の方が良くご存知でしょうから」
「じゃあ、お言葉に甘えて、行って来るわ。お婆ちゃんをお願いね」
 依頼人の少女レラは大きな籠を腕に抱えると、冒険者達を伴って材料の調達に出掛けて行った。
 それを見送り、フローラは改めて、日溜まりに置かれた椅子に腰掛け、ウトウトと居眠りをしている老婆に話しかける。
「さて、どんなお話をしましょうか‥‥」

「えーと、確かこれ‥‥食べられたと思うんだけど?」
 レラは木の幹に生えたキノコを指差すと、ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)に訊ねた。
「はい、大丈夫です。でも、そちらの‥‥」
 と、ソラムは少し離れた所に生えている似たようなキノコを指差した。
「似ていますが、そちらは毒キノコですから」
「へえ‥‥詳しいのね。って言うか私には見分けが付かないけど」
「ええ、キノコ類はソラム様にお任せして大丈夫だと思います。知識が豊富な方ですから」
 シスフィーナ・フォン・リオネル(eb2092)は、自分もほぼ同程度の知識を持っているにも関わらず、ソラムを持ち上げる。二人は婚約者同士だが、なにぶん親が決めた事ゆえ、まだ今ひとつ盛り上がりに欠けるようだ。もっとも、シスフィーナは初めて会って以来彼に夢中で、機会を伺ってはアタックを繰り返していたが‥‥ソラムはそんな彼女を少々持て余している様子だった。
 そして3人がキノコや薬草、木の実などを探す傍らで、マイ・グリン(ea5380)は幾つかのポイントを見繕って罠を仕掛けて回っていた。
「‥‥これで上手くかかってくれると良いのですが‥‥」
「そうそう、お爺ちゃんも狩りは得意だったわ。いつだったか、大きな鹿を仕留めた事があったけど‥‥」
 流石に鹿狩りとなると技術が心許ないが、ダガーが通用するような小動物なら愛犬のラビと連携して捕らえる事が出来そうだ。
「ウサギなら、この先にあるお花畑にいっぱいいる筈よ」
 言われて、マイは一行からひとり離れ、ウサギ狩りに向かった。

 一方、依頼人の家に残ったフローラは、起きているのか眠っているのかよくわからない老婆を相手に、独り言のように語りかけていた。
「愛する人を失ったというのは、どんな気持ちなのでしょう?  私ももし、夫を失ったら、子供たちを失ったら‥‥ 今、私が感じている気持ちの何倍も悲しいのかしら?」
 もしもそんな時が来たら、と想像してみる。だが、彼女の夫はエルフ、子供たちはハーフエルフだ。余程の事がない限り‥‥
「先に寿命を迎えるのは私なのでしょうけれど‥‥」
 寂しそうに微笑む彼女の膝を、老婆がポンポンと軽く叩いた。大丈夫だよ、と言うように。
 眠っているように見えたが、ちゃんと聞こえていたらしい。
 後になって家族に聞いた話だが、彼女は話し相手が出来た事にとても喜んでいたという事だった。
 普段、家族は皆忙しく、暇な老人に付き合ってゆっくり話をする余裕が殆どなかったらしい。

 さて、ゆっくりと時間をかけてたっぷりと材料を集めた冒険者達は、そこにどんな家庭にも常備してあるような一般的な材料を加えて食事作りに取りかかった。
「‥‥人数は、かなり多いようですね。‥‥肉が少なめになりそうですが‥‥何とかなるでしょう」
 パーティーには家族だけでなく、近所の人や親戚まで招待するのが常だと聞いて、マイは活き活きと目を輝かせた。彼女は大人数の調理、給仕から後片付け中はとにかく元気になる人なのだ。
 マイは依頼人から過去のメニューを聞き、そこに何品か付け加えるように献立を考える。
「私も、料理の御手伝いをさせて貰って構いませんか? ‥‥実は、余り得意ではないのですけれど‥‥出来れば色々と教えて頂いて、帰ったら家族にも美味しい料理を作ってあげたいと思いますの」
 少し不安げなフローラに、マイは言った。
「‥‥食べるのならみんなで楽しく、美味しく食べて貰いたい。‥‥その想いがあれば、技術は二の次です」
「ええ、そうですわね。難しい仕事はできませんが、何でも言いつけてくださいませ」
「‥‥私はお皿の準備などをお手伝いしますね。料理は出来ませんので」
 と、シスフィーナ。アタックするなら料理も多少は出来た方が良さそうな気もするが‥‥まあ、それは余計なお世話か。

「‥‥うん、そうそう、この味!」
 料理の味見をしたレラは、懐かしそうに目を細めた。
「お爺ちゃんが作ったのと、同じ味がする。あなた、スゴイわ!」
 もう少し濃くだの薄くだの、なんかちょっと違うだの、具体性に欠けるアドバイスを元にしたにもかかわらず、完成した料理は依頼人の理想に近いものに仕上がっていた。
 そして味付けは同じでも、お年寄りでも苦労せず食べられるようにと、おかずや具材の固さ、大きさなどにも配慮が行き届いている。
「うん、これならお婆ちゃんも大丈夫。きっと喜んでくれるわ」
「‥‥もし良ければ、レシピを書いておきましょうか?」
「え? でも、教えて貰っても私に作れるかな‥‥」
「‥‥大丈夫です。‥‥特に目新しいものではありませんし、誰にでも手軽に作れるメニューばかりですから」
「ほんと? じゃあ、毎日でも作ってあげられるって事よね。ありがと!」
 セッティングの終わったテーブルには大皿に盛った料理が次々と運ばれて来る。
「楽しいパーティーになってほしいですわ」
 堅苦しくならないようにと聖者風の服装を解き、普段着‥‥とは言え、白で統一する事は外せない様だ‥‥に着替えたフローラが、老婆の手を引いて席に案内する。
「これで、お爺さんがいらっしゃれば‥‥」
 そう呟いたフローラに、老婆は自分の胸に手を当てて言った。
「‥‥じいさんは、ここにおるよ」
「‥‥ええ、そうですわね」
 フローラが微笑みを返す。そう、望めばいつでも、いつまでも一緒にいられるのだ‥‥そう考えれば、別れの辛さも多少は和らぐかもしれない。
 やがて、ソラムが奏でるリュートの音色に合わせて、シスフィーナの歌声が聞こえてきた。
 それは予め希望を聞いておいた、思い出の曲。
「うわあ、綺麗な声‥‥それに、とってもお似合いだわ」
 その声にうっとりと聞き入ったレラが言う。
「ね、お婆ちゃん?」
「‥‥ああ、昔の、わたしらみたいだよ‥‥ねえ、お爺さん」
 目を閉じて、ゆっくりと体全体でリズムを取りながら曲に聴き入っている祖母の傍らには、確かに彼女の大切な人がいた。例え目には見えなくても‥‥。

「ありがとう、皆のお陰で楽しいパーティが出来たわ。お婆ちゃんも喜んでくれたし‥‥」
 翌日、帰り支度を始めた冒険者達を訪ねたレラが言った。
「お婆ちゃんも来年が楽しみだって言ってくれたし、きっと来年は今よりもっと元気になってるわ」
 音楽に合わせて踊り出すくらいに‥‥そう言って笑う。
 そんな満足そうな笑顔をお土産に、冒険者達は帰途についた。