でっかいものだらけっ!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:4人

サポート参加人数:3人

冒険期間:10月14日〜10月19日

リプレイ公開日:2007年10月22日

●オープニング

 長い冬を卵の状態で過ごす生き物にとって、秋は子孫を残すために自らの命を削る季節。
 キャメロットからほど近いこの草原でも‥‥二匹の巨大なカマキリが一匹のメスを巡って争いを続けていた。
 そして、藪の陰からその様子を見守る、これまたでっかい影が、ぞろぞろわらわら。
 近くの木の上でもでっかい影が翼を休め、大きな目を光らせている。
 草原は、でっかいものだらけだった。

「いや‥‥まあ、カマキリがナニをしようと、それは良いんだけどさ‥‥いや、良くないか」
 冒険者ギルドのカウンターで依頼書を書きながらそう呟くのは、近くの村からやってきた青年。
「体長3メートルもあるカマキリなんて、そうそう増えられちゃ困るって言うか、出来れば一匹も増えて欲しくないし」
 しかし、カマキリの獲物は主に森や草原の小動物。人間を襲う事はそう多くない。
 問題は、カマキリの死体を狙って集まって来た他のモンスターだった。
「ほら、オス同士が争えば、必ずどっちかは‥‥まあ殺されないにしても、かなりの怪我をするわけだろ? それを狙ってるのがいるのさ、これまたでっかいアリとか、フクロウとか、そんなのが」
 ラージアントは大きな獲物にも集団で襲いかかり、餌がなければ家畜を遅う事もある。ジャイアントオウルに到っては人間さえ平気で遅う凶暴なモンスターだ。そんなものが村の近くにある草原に集まっている事、それ自体が脅威だった。
「実際、近くを通りかかった村のモンが、でっかいフクロウに襲われそうになってな‥‥幸い、そいつは無事だったが、子供なんかが襲われたらひとたまりもないだろ?」
 だから、そのでっかい奴等を何とかして欲しい。退治しても、追い払うだけでも‥‥奴等の潰し合いを狙っても良い。ただ、人間を襲う可能性のあるジャイアントオウルだけはきっちり退治すること。
 それが、今回の依頼の内容だった。

●今回の参加者

 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

陰守 森写歩朗(eb7208)/ レア・クラウス(eb8226)/ ファルナ・フローレンス(ec1519

●リプレイ本文

 午後の陽射しをいっぱいに浴びた草原に、二つの巨大な影が落ちる。
 冒険者達が現場に着いた時、闘いは今まさにクライマックスを迎えんとする所だった。
「‥‥何と言うか‥‥壮観、だな」
 そのスケール感の違いに、空木怜(ec1783)が溜息をつく。体長3メートルのカマキリが巨大な鎌を振り上げ死闘を繰り広げる様は、昆虫好きには堪らなく魅力的な光景だろう‥‥虫嫌いにとっては正に地獄だが。
 だが、ここに虫好きがいたとしても、ぼんやりと眺めている場合ではない。
「何の因果か解りませんが、こんな所に巨大生物達の生態系が出来上がるとは、傍迷惑な事です」
 周囲の藪に隠れた、これまた巨大なアリ達の姿を目にしたロッド・エルメロイ(eb9943)が言う。
「一度成立した生態系は、容易に崩せないですが、今回は、死体を片付ければ何とか為るでしょう」
「それにはまず、ジャイアントオウル退治さね」
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)はざっと周囲を見渡してみる。草原のあちこちに、大きな木が点在していた。ジャイアントオウルが巣を作れる程のものではないが、まだ葉を付けているそれは姿を隠して獲物を見張るには最適な場所だろう。
「昼間のうちに何とかしたいね。夜間だと、動きは速いわ、見え難いわ、殆ど音もしないわ、最凶最悪らしいが‥‥」
 その時、彼等と同じように死闘の様子をじっと窺っていたアリ達がぞろぞろと動き出した。
「仕掛けておいた罠に気が付いたようです」
 陰守辰太郎(ec2025)が言った。
「‥‥どうしましょう、先に片付けておきますか?」
 オウルの巣は息子の森写歩朗にも探して貰っているが、見付かったという報告はまだ来ていない。
「今から探しに行っても、陽が暮れてしまう危険がありますね」
 と、ロッド。見渡す限り、オウルが巣を作れそうな程の巨木はない。そんな木は、あるとすれば森の奥‥‥もしくは、木がなければ洞窟を住処にしているか。だが、そのどちらもここからは遠い。
「減らせるものから減らした方が良い‥‥か」
 もしも今オウルが何処かで見ているなら、アントを弱らせて囮にすれば出て来るかもしれない、と、怜が言った。
 出て来なければ、予定通りに巣を探しに行けば良い‥‥足かけ2日はかかるだろうが。
「戻って来る頃にはカマキリの方は決着がついて数も減ってるかな?」
 そう上手く行けば良いのだが。
 4人は音を立てないように、慎重にその場を離れた。

 ――ゴオッ!
 餌が仕込まれた穴の中に火柱が立った。
 それほど深くはないが、填った相手の動きを鈍らせるにはそれで充分だ。それに、穴の中に可燃物はない。ロッドの火魔法も遠慮なく使う事が出来た。
 ダメージを受けて慌てて穴から這い出したそれに、今度は矢が突き刺さる。
 突然の出来事にアリ達は隊列を乱し、襲撃者の姿を探すが、弓や魔法の射程ギリギリの所に身を潜めた冒険者達の姿は見付からなかった。
「‥‥マグナブローは射程が長いのが良いよなあ‥‥」
 怜の魔法、ローリンググラビティーはその半分。15メートルの距離では、流石に相手に勘付かれる危険がある。
「多勢に無勢ですからね。その代わり、オウルが相手の時には思い切り暴れて貰いますから」
 隣で矢を放ちながら辰太郎が言った。
 ラージアントは一つの目標に対して集団で襲いかかる。この人数で誰かが囲まれたら、救い出すのは至難の業だろう。
「ああ、わかって‥‥」
 わかっている、と言おうとした瞬間。
 手負いアリの上空から音もなく飛来した大きな影‥‥
「出たっ!」
 ジャイアントオウルだ。やはりどこかで見ていたらしい。そして、なかなか決着が付かないカマキリよりも、ハーフサイズのお手軽な餌を選んだようだ。
 大きな鈎爪で獲物をひっさらい、上空へ舞い上がろうとするそれに、イレクトラと辰太郎が矢を放つ。
 それはオウルの大きな翼に突き刺さる。と、オウルは獲物を放すと一直線にイレクトラに向かってきた。そして鈎爪で一撃を加えると再び獲物を掴み、空へと舞い上がった。巣穴に持ち帰って、ゆっくり味わうつもりらしい。
「大丈夫か?」
 駆け寄った怜が薬を手渡す。
「ああ、大した事はないが‥‥すまないね。ありがとう」
「追うよな?」
「勿論」
 怜は落ちた羽根を拾って愛犬のラッシェルに嗅がせると、上空で待機していたペガサスのブリジットを呼び寄せ、その背に飛び乗った。
「飛んでるヤツを匂いで追うのは難しいとは思うけどな」
 冒険者達は未だに死闘を続けるカマキリと、つい今し方仲間が浚われた事などすっかり忘れたようなアリ達をその場に残し、オウルの後を追った。

「森に入る所までは確認したのですが‥‥」
 フライングブルームで後を追った辰太郎が仲間にそう報告する頃には、日は既に西にに傾き始めていた。
「今日の所は、この辺りで夜営した方が良さそうだね」
 イレクトラが言った。
「後は明日の朝、ロッド殿の知識を頼りに探せば良いさ。近付けば犬の鼻も役に立つだろうしね」
「ええ、そうですね。あの巨体が巣に出来るような木は限られていますから、この森に入ったとわかれば探すのはそう難しくないと思います」
 森の周辺で夜を明かした一行は、夜明けと共に行動を開始した。
「大きな木か、洞窟を探せば良いんだよな?」
 念の為に夜の間も見張りを立てておいたが、オウルがあの草原へ戻ったような気配はなかった‥‥少なくとも、冒険者達の感覚で捉えられる範囲では。
 二時間余りも探し歩いただろうか、突然、犬達が騒ぎ出した。
「何か見付けたのでしょうか?」
 後を追った辰太郎が見たものは、小さな洞窟と、その入口付近に散らばった鳥の羽根‥‥
 辰太郎の虎牙と狼牙、そして怜のラッシェルが、洞窟に向かって盛んに吠えたてていた。
「どうやら、ここが巣のようですね」
 ロッドが奥の暗がりを覗き込む。
「洞窟の中なら燃えても大丈夫そうですし‥‥」
 そう言って、ロッドは洞窟の奥に向かってファイアーボムを撃ち込んだ。
 ――グオッ!
 狭い洞窟の中で行き場を失った炎が出口から吹き出す。それを予測していたロッドは、すぐさま横に飛び退いた。
 だが‥‥
「うわっ!」
 その直後にオウルの体当たりを食らうとは。
 オウルは直撃を受けたらしく、体のあちこちで炎が燻っていた。
「よーし、ボコれ!」
 ロッドを後ろに下がらせた怜は、パニックを起こしたように走り回っているオウルにローリンググラビティーの一撃を見舞った。
 地面に叩き付けられた時に折れたのか、翼をだらりと伸ばしたオウルに容赦なく矢の雨が降る。
 やがて、ジャイアントオウルは動かなくなった。
「‥‥ひとまず、最低限の依頼は果たせたようだね」
 暫くの間構えたままにしていた弓を漸く下ろし、肩で大きくひとつ息をついてからイレクトラが言った。
 洞窟の前の枯草を払い、そこでオウルの死体を燃やす。残った灰は洞窟の中に投げ入れた。
「さてと、向こうはどうなってるかね?」

 彼等が戻った草原では、闘いに終止符が打たれていた。
 敗れたオスには巨大アリが群がり、そして勝者は‥‥食われていた。頭からバリバリと、愛しのメスに。
 事の終わったオスは逃げおおせる事も多いのだが、長い戦いの末に勝者も傷つき、疲れていたのだろう。逃げる気力も体力も、残っていなかったようだ。
「‥‥オスって‥‥哀れだよなあ」
「ええ‥‥でも、生まれて来る子供達の糧になると思えば‥‥」
 などと、同情している場合ではない。
「どうする?」
 最低限の依頼は果たした。これ以上は言わばサービス‥‥などと言っている間にオスを食べ終えたメスカマキリは‥‥
 ――じろり。
「今‥‥こっち見た?」
 怜が仲間に確認を求める。だが、答えを待つまでもなく‥‥それははっきりと、草むらに隠れている冒険者達の方に向き直り、巨大な鎌を振り上げていた。
 向こうでもう一匹のオスの残骸に群がるアリ達よりも、人間の方が美味しそうに見えるらしい。
「そう言えば、ジャイアントマンティスはメスの方が体も大きく凶暴で‥‥うわっ!」
 蘊蓄を披露しようとしたロッドの頭上で、巨大な鎌が空を切る。
「問答無用かよ!」
 怜はローリンググラビティーを一撃当てると、鎌の届かない場所までロッドを引きずって後退した。
「後は任せた!」
 任されたイレクトラと辰太郎は弓を引き絞る。見晴らしの良い草原で、しかも的は巨大だ。おまけに地面に叩き付けられた衝撃で動けない。
「射撃訓練には物足りないかね?」
 カマキリが動かなくなったと見るや、すぐさまアリ達が群がってきた。
「アリはどうするね? 矢はまだまだあるが‥‥」
 その様子を遠巻きに見ながらイレクトラが言った。
「上手い具合に、カマキリの死体も片付けてくれそうですし‥‥」
 残ったのが片付け屋だけなら、放っておいても問題はないだろうと、ロッド。
「そうですね、下手につついて藪蛇になっても‥‥この人数では厳しそうですし、被害が出ないうちに撤退した方が良いでしょう」
 辰太郎に促され、一行は静かにその場を離れた。
 その背後で、獲物を運ぶアリ達の黒い列が動き出す。その姿はまるで、葬列のようだった。