キューティーバニー!
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■ショートシナリオ
担当:STANZA
対応レベル:6〜10lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 9 C
参加人数:5人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月21日〜10月26日
リプレイ公開日:2007年10月29日
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●オープニング
――カタン。カタカタ、ギイイ‥‥
――パリパリ、パチッ
真夜中のキャメロット。
怪しげな物音に目を覚ましたその家の主人は、布を被せて光量を落としたランタンを持って、足音を忍ばせながら音の出所を探る。
「ここか‥‥?」
静かにドアを開け、その隙間からそっと部屋の中を覗いてみた。
開け放たれた窓。月明かりもないのに、闇の中にぼんやりと人影が浮かび上がっていた。
「誰だ!? そこで何をしている!?」
驚いたように振り返ったその人影にランタンを突き付け、その覆いを外す。溢れ出た光に眩しそうに目を細めたそれは‥‥
「う、ウサギ!?」
だが、次の瞬間‥‥
――バリバリバリッ!!
「ぎゃああああっ!!」
体じゅうが痺れるような衝撃を受け、彼はその場に昏倒した‥‥。
「いや、落としたランタンで火事にならずに済んだのが奇跡だよ、まったく」
その数日後、冒険者ギルドにはブツクサと文句を言いながら依頼書を書く彼の姿があった。
「近所の連中に聞いたんだが、ここんとこ流行ってるらしくてね‥‥いや、泥棒の被害を流行ってるなんて言うのは不謹慎か」
とにかく、彼の家の周囲では泥棒の被害が続出しているらしい。金持ち貧乏人を問わず、屋敷の規模も無関係。評判の悪い人物を狙う義賊という訳でもなさそうだ。
「まあ、被害は大した事ないんだ。盗られた事もわからないような、つまんないものばっかり盗んで行くらしくてね‥‥うちも、引出しに仕舞ってあった娘のリボンが1本、なくなってただけだし」
だが、例え被害は軽微でも犯罪は犯罪。
「それに、相手の顔を見た者が言うには、まだ子供らしいんだよな。子供のイタズラなら尚更、きっちりお仕置きをして、悪い事だとわからせにゃならんだろ?」
彼が見た時にウサギだと思ったのは、どうやらその頭に付けているウサギの耳が原因だったらしい。
「まあ、子供とは言え油断はしない方が良いと思うな。何か妙な技を使うようだし‥‥」
あの夜に受けた衝撃を思い出したのか、男は身震いをしながら両腕をさすった。
「‥‥えーと、これで‥‥20軒目、かな?」
塀伝いに身軽に屋根の上に登った少女は、そこに座り込むと腰に付けた小さなバッグから戦利品を取り出し、目の前に並べてみた。
「でも、おじいちゃんの記録にはまだまだよね。ねえ、チコ。おじいちゃんの誕生日まで1ヶ月‥‥それまでに出来ると思う?」
少女は傍らにちょこんと座った小さなウサギに話しかけた。
チコと呼ばれたそれは、可愛らしく首を傾げる。
「おじいちゃんがあたしくらいの時に作った、泥棒成功連続100軒の大記録‥‥あたしがそれを抜いたら、おじいちゃんきっと喜んでくれるわ。立派な後継が出来たって」
彼女の祖父はその昔、人には言えない裏稼業で生計を立てていたらしい。結婚して子供が生まれてからは足を洗ったようだが、孫である少女にその頃の自慢話を話して聞かせるのが、今では体の自由もきかなくなった彼の唯一の楽しみだった‥‥勿論、堅気の息子、つまり少女の父親には内緒で、だが。
そして少女は、泥棒が悪い事だなどとは、これっぽっちも思ってはいなかった。
お話の中で警備の裏をかいてお宝を華麗に盗み出し、追っ手を出し抜き、颯爽と夜の町を駆け抜ける若き日の祖父は、彼女の憧れだった。
「あたしはおじいちゃんみたくカッコ良くは出来ないけど‥‥でも、チコがいるもん、絶対に捕まったりしないわ」
ウサギの体の周囲に小さな火花が散り、パリパリという乾いた音がした。
●リプレイ本文
「ふ〜ん、ウサ耳を付けた女の子ねえ」
キャメロットの町を上空から偵察しながら、フィオナ・ファルケナーゲ(eb5522)が言う。
「この頃流行りの女の子は、ウサギの耳した女の子なのかしら?」
その眼下では、仲間達が情報収集に当たっていた。
その結果わかった事は‥‥
戸締まりがしていなかったり不完全だったりと、不用心な家ばかりが狙われている事。
犯行時間は夜の比較的早い時間である事。
「そして、侵入経路の付近に置かれた机や箪笥の上、引出しなどにある、比較的小さな物が多いようです」
マロース・フィリオネル(ec3138)が言った。
「ガラクタのような物から高価な品まで‥‥とにかく持ち運び易さが優先されているように思えますね」
「目撃者の話によると、彼女自身がウサギの耳を付けているだけではなく、本物のウサギも連れているようですね」
と、ロッド・エルメロイ(eb9943)。
「ただ、普通のウサギではなく‥‥」
「うん、触ると体が痺れたって言ってたから、ライトニングバニーだと思うよ。山奥にいるウサギの妖精で、人前には滅多に出てこないんだけどね」
ケリー・レッドフォレスト(eb5286)が知識を披露する。
「そんなウサギを連れているなら相当目立つだろうと思うのですが、どうも昼間はどこかに身を潜めているようですね」
「私の忍犬達に匂いを追わせてみましたが‥‥」
木下茜(eb5817)が残念そうに首を振る。
「どうやら追跡をかわす方法も心得ているようです」
それを聞いて、ロッドが言った。
「不用心な家ばかり狙うという事は、恐らく鍵開けの技術などは未熟なのでしょうね。けれどその反面、上手く身を潜める方法や追っ手の撒き方などの知識は豊富なようです。なんとなく、ちぐはぐな印象ですね」
「やっぱり子供だから‥‥かしらね?」
とフィオナ。
「そうなると、やはり現場で捕らえるしかありませんね」
マロースが懐から小さな壺を取り出した。
そして夜‥‥まだ深夜とは呼べない時間帯。
わざわざ狙いやすいように庭に面した一階の窓を開け放した家に、少女は現れた。
青白く光るウサギの、その明かりに照らされた室内に目を凝らした少女は、手を伸ばせばすぐの所にある机の上に、小さな壺を見付けた。
「これがいいわ、小さくて軽そうだし‥‥」
そう言って手を伸ばした瞬間。部屋の隅で何かが白く光り‥‥
「‥‥!?」
部屋の隅に潜んだマロースがコアギュレイトをかける。が、流石に警戒はしていたのだろう、少女はそれに抵抗した。
「チコ、逃げるわよ!」
だが、囮のスターサンドボトルを掴み、窓から飛び出そうとした少女の前に、茜と二頭の忍犬が立ち塞がる。
「逃げるなら‥‥君もこうしてあげようか?」
その後ろから声がして、庭に置かれた置物が一体、ケリーのアイスコフィンで氷の中に閉じ込められた。
思わず足を止め一歩下がった少女にの目の前に、上空からフィオナが舞い降りる。
「え‥‥? な、なに? きゃああっ!」
少女は突然、その場にしゃがみ込んだ。何故か両腕で胸の辺りを覆い隠している。
「い、いや、やめて‥‥チコ‥‥? あ‥‥や、イヤ‥‥っ」
‥‥内容はわからないが、えっちなシフールのお姉さんに、何やらえっちな幻影を見せられているらしい。
そんな主人の姿を見て、小さなウサギがパリパリと体から火花を散らす。
「わお、これがバニーフラッシュってやつね♪」
上空に避難しながらフィオナが言った。
そこへ後ろから近付いたマロースが再びコアギュレイトを放ち‥‥
――バサッ!
ウサギの頭から大きな袋を被せた。
「さて‥‥どうしてこんな事をしたのか、教えて貰おうかな」
明かりのついた部屋の真ん中で膝を抱えた少女ステラに、ケリーが訊ねた。
ドアも窓もきっちり閉められ、おまけに親友のチコを人質(?)に取られている。
‥‥逃げられない。捕まってしまった。
「どうして邪魔するの!? また‥‥最初からやり直しになっちゃうじゃない! 間に合わなかったら、あんた達のせいなんだから!」
「間に合わないって、何に? どういう事?」
だが、ケリーの問いに答える気配はない。ステラはふくれっ面をしたまま、横を向いている。
「‥‥理由を聞かせて貰えませんか? その内容次第では、私達もお手伝い出来るかもしれませんよ」
ロッドが丁寧かつ紳士的に言った。
「あなたはこの近くの方ではないようですが、お家はどこですか? こんな時間に出歩いていては、ご家族も心配なさるでしょう?」
だが、ステラは相変わらず黙ったまま。
「あなた、ちゃんと盗賊ギルドに入ってる? 入ってないと怖いお兄さんに連れてかれるわよ?」
「そんなの嘘よ。お爺ちゃんは一匹狼だったって言ってたもの」
適当な事を言うフィオナに、ステラが反論した。
「お爺ちゃん?」
「そうよ、お爺ちゃんはスゴイんだから!」
ステラにとって、祖父は憧れの人。頼まれもしないのに、祖父の自慢話の数々を披露し始めた。そして、彼女が目指す「目標」の事も。
「でも‥‥泥棒は悪い事だよね?」
「どうして?」
ケリーの問いに、ステラはきょとんと首を傾げた。
「そりゃ、大事な物を盗むのは良くないって、それくらいわかってるわ。でも大事な物ならちゃんと大事にしまっておくでしょ? あたしが盗んだのは鍵もかかってない所に置いてある物ばかりだもん。どうってことないじゃない」
「では‥‥貴方からこの兎さんを盗んでも文句はありませんね?」
マロースが袋に入れたチコを目の高さまで持ち上げて見せる。袋の下部の丸くふくらんだ部分からパチパチと火花が散っていた。
「ちょっと! なんでそうなるのよ!? チコはあたしの大事な親友よ! 返して!」
「でも、この兎さんは鍵を掛けた宝箱に入っていた訳ではありませんよ?」
「当たり前じゃない! チコは物じゃないわ!」
「あなたにとってはそうかもしれませんが‥‥私達にとっては、これはただのモンスターです。あなたがさっき盗もうとしたこの壺‥‥」
と、マロースはスターサンドボトルを見せた。
「これも、他の誰かにとっては大事な‥‥ただの『物』ではないかもしれません。ものを盗む、というのはそういうことです」
「私も似た様な職業ですが、ステラさん、貴方は心も身体も未熟です」
と、茜。
「そうそう、ウサギちゃんに守ってもらってるようじゃ泥棒としてもまだまだね」
などと茶々を入れるフィオナの言葉はとりあえず脇に置いて、茜は続けた。
「祖父を喜ばせたいと言う気持ちが有りながら、貴方が盗んだ品に、同じ様に大切な思い出が篭められているとは思えないのは、真に思いやる心をまだ得ていない証拠です。盗むと言う事は時に、相手を酷く傷つけます。痛みを知り、行うべき事と行ってはいけない事を知ってこそ、真の忍び。貴方の盗みには心が有りません。それでは、何れより大きな力に潰されるでしょう」「盗む事は人を怒らせます。あなたも今‥‥親友を取られて怒っているでしょう?」
と、ロッド。
「人との繋がりを大切にしない者は何れ全てを失います。盗む事で、人との絆を失ってはいけません」
「でも‥‥! お爺ちゃんは悪い事なんかしてない! 悪い事だなんて言わなかった!」
「多分それは‥‥ただの『お話』として君に聞かせる為に、わざと言わなかったんじゃないかな?」
ケリーが言った。
「面白おかしく話して君を楽しませてあげたいって、そう思ったんだよ」
「でも!」
「貴方の祖父も心を大切にしていたからこそ、ある時点から盗む事を辞めたのですよ」
「‥‥‥‥」
「貴方は祖父の心を知らなければいけません。その事をよく考えて下さい」
「‥‥じゃあ、あたし、どうすれば良いの? 他に、お爺ちゃんに喜んで貰える事なんて‥‥!」
それを聞いて、冒険者達は互いの顔を見合わせた。
「盗んだ物を返して、謝りに行きましょう」
そう言いながら、マロースは袋の口を開け、チコを解放する。
「‥‥チコ!」
――バリバリバリッ!
思わず抱き締めたステラは思いっきりシビレるが‥‥幼い頃から慣れているせいか、全く平気な顔をしている。いや、平気な顔ではないか‥‥その目に、いっぱいの涙を溜めていたのだから。
「それが終わったら、お爺さんやご両親にも謝りに行きましょうね。黙って家を出て来たのでしょう?」
ロッドの言葉に、ステラは無言で頷く。
「きちんと謝れば、あなたの祖父も喜んでくれますよ」
茜が言った。
「まじめに泥棒するつもりなら、ちゃんと腕を磨いてらっしゃい。第一、女の子なんだからわざわざ忍び込まなくても女の武器で‥‥まあ、これはもう5年は待たないとだめね」
何やら一人だけ明後日の方向を向いている人がいるが‥‥そこはまあ、気にしない。
そして、反省と謝罪を終え、両親に連れられて帰って行くステラの手には、星の形をした砂の入った小さな壺が握られていた。