散り際の美学

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:5 G 55 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月23日〜10月28日

リプレイ公開日:2007年10月31日

●オープニング

「なあ、もし自分があと10日の命だとしたら、最後に何をしたい?」
 秋の夜長、村の若者達が集会所に集まって下らないおしゃべりを楽しんでいる時、誰かがふとそんな話題を持ち出した。
「そうだな‥‥そうなったら男たるもの、やっぱ、酒池肉林?」
「俺はひたすらのんびり寝てたいな‥‥うん、寝てるうちに死んじまうのが楽で良いかも」
「オレは絶対、彼女をモノにする!」
「お前、もうすぐ死ぬってのに、それ無責任じゃん?」
「そりゃそうだけど、咲かずに死ねるかよ!?」
 ‥‥などと、他愛もない話で盛り上がる中‥‥ひとり、青い顔をして下を向いている若者がいた。
「‥‥そうか‥‥俺、もうすぐ死ぬんだな?」
 それを聞いて、そんな事はないと素直に否定してやれば良いものを、仲間達は悪戯心を起こしたらしい。
「そりゃまあ、誰だって生まれた以上はいつかは死ぬさ。明日かもしれないし、今夜かも」
「そうだな、生きるって事はそれ自体が死に至る病だ、なんて事も聞くし‥‥お前、そろそろかもよ?」
 仲間の間で軽い笑い声が起こる。勿論、みんな冗談のつもりだ。本気にする者など‥‥
「わかった。今まで世話になったな‥‥ありがとう。そして、さらばだ!」
 ‥‥いた。本気にした者が。
 彼は勢い良く立ち上がると、集会所のドアを開けて走り去る。
「お、おい、ちょっと待て! どこ行くんだ!?」
 だが、彼の足が止まる事はなかった。

「そりゃ、わかってたさ。あいつが生来の慌て者で、傍迷惑な勘違い野郎だって事は。でも、まさか‥‥」
 後日、そう言いながらギルドのカウンターで溜息をつくのは、仲間を代表してやってきた一人。
「奴を見た人の話じゃ、最後の最後に男らしく死に花を咲かせるんだと、武器を持って山に入ったらしい。ちょうど何日か前から、山からモンスターが下りて来るようになって、困っていた所ではあったんだが‥‥」
 元々、その退治の為にギルドで人を雇う話は出ていたらしい。
「だが、誰が金を出すかで揉めててな‥‥自分の所は被害に遭ってないのに、村人全員で平等に負担するのはおかしい、とかぬかすバカがいて」
「それで、モンスターというのは‥‥どんなものかわかりますか?」
「ああ、多分‥‥ゴブリンだと思う。ただ、話に聞くよりはちょっとデカいような気もするが」
 ゴブリンというものが、褐色の肌をした貧相な子供のようなモンスターだという事は彼も知っていた。だが、彼が見たものは子供のようには見えなかったという。
「盾を持った奴が警戒してる間に、他の奴が畑から作物を盗んで行くんだ。わりと狡賢そうな感じだな」
 しかし、彼等は山奥に縄張りを持っていて、人里へ下りて来る事は滅多にない筈だった。
「何か他の奴に縄張りをとられて、それで出て来たのかもしれない‥‥そう言えば、こないだ猟師がでっかい熊を見たと言ってたし」
 去年まで‥‥いや、ついこの間まで、その山に熊はいなかった。
 そして、問題の勘違い男は武装したゴブリンさえ逃げ出すような相手がいる、そんな場所にたった一人で踏み込んだのだった。

 その頃‥‥
「俺は村の皆を守ってカッコ良く死ぬんだ! 英雄になるんだ!」
 そう言いながら、道なき道を進む若者が一人。
 だが彼は、大きな斧を手にしているとは言え実戦経験も殆どない上に、山に入るのも初めてだった。
 果たして、モンスターに出会ってやられるのが先か、それとも道に迷って行き倒れるのが先か‥‥?

●今回の参加者

 ea1249 ユリアル・カートライト(25歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3245 ギリアム・バルセイド(32歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb8942 柊 静夜(38歳・♀・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

「まったく‥‥とんでもない馬鹿野郎がいたもんだ」
「ええ、本当に‥‥面白い勘違いをされる方がいらっしゃるものですね」
 行方不明の若者‥‥いや、馬鹿者の足どりを追って山道を歩きながら、ギリアム・バルセイド(ea3245)が吐き捨てるように言い、ユリアル・カートライト(ea1249)がそれに同意してニコニコと楽しそうに笑う。
 笑い事ではないのだが‥‥まあ、気持ちはわかる。
「人はいつか死ぬもの、いつどんな形でと考えるのは誰しもある事だと思います。ですが‥‥」
 柊静夜(eb8942)が苦笑いを浮かべながら、深〜い溜息と共に言葉を吐き出した。
「今回の若者は少々度を過ぎていますね。子供ではないのでしょうから、もう少し自分の行動に責任を持ってほしいものです」
「とはいえ、命を落としては反省も出来ぬな」
 若者の匂いを辿らせた愛犬セタンタの後を追って歩くエスリン・マッカレル(ea9669)が言う。
 地元の猟師くらいしか入る者のないその山には、道らしい道はない。山の素人ならば山道を外れれば跡も残るだろうというエスリンの予想通り、そんな道もない所を闇雲に突き進んだらしい若者の痕跡がはっきりと残っていた。
 しかし、その足どりは村で猟師に聞いたモンスターの住処があるという場所とはまるっきり反対の方へ向かっている。
「‥‥モンスターを退治に行ったのではないのでしょうか‥‥」
 メグレズ・ファウンテン(eb5451)が呆れたように呟く。だが、戦闘力ほぼゼロの彼が冒険者達よりも先にモンスターに遭遇すれば、まず間違いなく命を落とす事になるだろう‥‥本人の希望通りに。その点からすれば、彼が道に迷った事は幸運と言えなくもない。
 しかし村人に聞いた話では、彼は手にした斧以外には殆ど何も持っていないらしかった。
「例えモンスターに出会わなくても、山は危険な場所ですからね。食糧も防寒具もなしでは本当に命を落としてしまいます‥‥どうにか連れ戻せれば良いのですが」
 この山には退治を依頼されたホブゴブリンだけでなく、最近は熊も現れるようになったらしい。近くにそんな気配がないか、ユリアルは時折立ち止まり、バイブレーションセンサーで動きを探る。
「‥‥しかし、熊か‥‥」
 エスリンが呟く。
 この山は先日の依頼で訪れた洞窟からそう遠くない。
「あの時に逃がした熊がここに逃げ込んだのだとしたら、責任の一端は私にもある」
 だが、外部からの侵入者によって生態系のバランスが崩れるのは自然の状態でもよくある事だ。熊に縄張りを奪われたゴブリン達が里に下りて来たなら、それを排除するまでだ‥‥人間の縄張りを守る為に。
 エスリンは熊除けも兼ねて若者の名前を大声で呼びながら先を急いだ。

 そうして周囲を警戒しながら若者の後を追うこと数時間。早くも暮れかけた空に、冒険者達は早めに夜営の準備に入った。
「その方は食糧を持っていないそうですから、煮炊きの匂いでもすれば誘われて出てきて頂けるかもしれません」
 探し人だけでなく、ゴブリン達も‥‥と、静夜。
 いや、寧ろおびき寄せたいのはゴブリンの方だ。野営地に選んだ場所は比較的広く、見晴らしの良い高台‥‥ここなら例え襲撃を受けても多少は有利に戦える。
 
 そして日没から数時間。狙い通りに、彼等はやって来た。まずは‥‥
「は、腹減った‥‥っ! どこの誰かは知らんが、頼む、何か食い物を‥‥っ!」
 呆れるほど簡単に、探し人が網にかかった。
「もうすぐ死ぬ奴が、飯なんぞ食ってどうする?」
 鼻で笑いながらギリアムが言う。
「その為に、飯もろくな装備も持って出なかったんだろうが?」
 相手が自分を探しに来た冒険者と知って、若者は言った。
「す、少し予定が狂っただけだ! 今頃はゴブリンどもを巻き添えに華々しく散ってる筈だったんだ。でも、奴等なかなか見付からなくて‥‥」
「命懸けで皆の役に立つ為ならば、まだ志のみは褒められようが‥‥」
 エスリンが溜息をついた。
「自己満足の為では、周囲の冗談を差し引いても呆れるばかりだ」
「し、失礼な事を言うな! 俺はこの命を村の皆の為に投げうつ覚悟で‥‥っ」
「とにかく、あなたが死ななければならない理由は何もありません」
 メグレズはそう言って手持ちの保存食と発泡酒を若者に手渡し、ギブライフで自分の体力を分け与えた‥‥まあ、そんな事をしなくても普通にリカバーで事足りるのだが、そこは気持ちの問題。
 若者はその手から引ったくるようにして食糧を受け取ると、夢中で頬張る。
「‥‥とても、そうは見えませんが‥‥」
 ユリアルがその様子を見ながら呆れたように言う。
「もしあなたがもうすぐ死ぬとして‥‥その原因は何でしょう? 何か大病をしていますか? よく考えてみて下さい」
「はんふぁえなふはっへ‥‥(ごくん)考えなくたって、死は突然やって来るものなんだ! 生きてるって事は、死に至る病なんだぞ。そいつは、いつ突然襲ってくるかもわからない‥‥そして俺は、啓示を受けたんだ!」
 まったく、思い込みの激しい人間は手に負えない。
「‥‥それは、冗談です。あなたはお仲間にからかわれたんですよ」
 メグレズがそう言うが、相手は聞く耳を持たない‥‥いや、聞かないだろう事は最初からわかっていた。
「‥‥やる気は充分のようですね‥‥方向は間違っているようですが」
 肩をすくめた静夜は首を振る。
「現実を見据えてもらう必要があるようですね」
「仕方がありません。あなたにはここで‥‥本物の命のやりとりを、とくとご覧頂きましょう」
 そう言って、メグレズは若者にコアギュレイトをかける。凍り付いたように動きを止めたその体を、ギリアムがロープで縛り、手近な木にくくり付けた。
「途中で拘束が解けて、邪魔でもされちゃ敵わんからな」
 そして、振り向いた眼下には‥‥無数の敵。いつの間にか、野営地はホブゴブリンの群れに囲まれていた。
「やはり、殲滅するしかないのでしょうね‥‥可哀想ですが、仕方がありません」
 静夜が腰の曲刀を抜く。
 ランタンの明かりに閃いたその光を合図に、冒険者達は一斉に攻撃を開始した。
 ユリアルは男の脇にに立ち、敵のの群れにアグラベイションをかける。
 その二人を包むようにホーリーフィールドを張ってから、メグレズは前に出ると、斜面を登って来ようとする敵に向かってソードボンバーを放った。
「破刃、天昇!」
 それでも歩みを留めないゴブリン達にはエスリンが次々と矢を放ち、更には数の多い場所にユリアルがグラビティーキャノンを見舞う。
 それさえも耐えきって高台に登って来た敵の前には、ギリアムと静夜が立ちふさがる。それは殆どが鎧を着込んだホブゴブリン戦士だった。
 ギリアムは相手の攻撃を盾で受け止め、フレイルで反撃する。
 静夜は相手の首を切り落とそうと狙ったが、流石にそれは難しかったようだ。一撃試した所でそれを諦め、手堅い攻撃に切り替える。
「撃刀、落岩!」
 メグレズもスマッシュに切り替えて、確実に相手の数を減らす。
 そうして、ホブゴブリンとホブゴブリン戦士、併せて20匹以上いた敵は、熟練の冒険者達の前に次々とその数を減らして行った。
 そんな戦いぶりを、身動きも出来ずに見つめるしかない若者は一体何を感じていたのだろうか‥‥

「命が散るのに美しさなどないと、これでご理解頂けました?」
 ゴブリン達の無残な死体が転がる光景を前に、メグレズが言った。
「死んで英雄になるなんて‥‥幻想ですよ?」
 ユリアルもそう声をかける。
 しかし、若者は懲りなかった。先程食べた物を吐き戻しながら、それでも‥‥
「う、美しくなくてもいい! どんな汚い死に方をしたって、それで村が救えるなら、俺は英雄に‥‥っ」
 まだ言ってる。
 ――ブォンッ!
 そんな彼の鼻先を、ギリアムのフレイルが掠めた。
「‥‥ひっ!?」
 若者は思わず顔を仰け反らせる。
「‥‥見ろ。体が強張っただろう? 逃げようとしただろう? 体は生きようとしたるんだぜ?」
 そして‥‥
「簡単に命を棄てるような台詞を言うんじゃない!!」
 ――バキィッ!!
 振り上げた拳は、脅しではなかった。
 その時‥‥
 背後の森から、黒く大きな影がのっそりと現れた。
「ジャイアントベア‥‥!?」
 エスリンがその姿に目を凝らす‥‥が、この間の熊かどうか、判別は付かない。付いたとしても‥‥
「どうしようもない、か」
 熊は血の匂いを嗅ぎつけて来たのか、ゴブリン達の死体を嗅ぎ回っている。
「今はゴブリンの巣穴を叩くのが先だな」
「‥‥ええ、これで全てとは限りませんしね‥‥逃げますか?」
 静夜の問いに、エスリンは黙って頷いた。
 餌さえあれば、熊は人里には下りて来ないだろう。そして、熊をこの森で生かす為にはゴブリンを根絶する必要がある。
 ロープで巻かれたままの若者をギリアムが肩に担ぎ、一行は静かにその場を後にした。

 そして翌日、すっかり大人しくなった若者を連れたまま、冒険者達はゴブリンの巣穴に向かった。
 しかしそこにあったのは‥‥
「‥‥熊の毛?」
 ユリアルのバイブレーションセンサーに、動くものの反応はない。
「あの熊に、巣穴まで追い出されてしまったようですね‥‥」
「という事は、ゴブリンはあれで全部だったのでしょうか」
 メグレズが辺りを調べて言った。
「あの‥‥」
 どうやら事件は解決したらしいと見て、若者がおずおずと口を開く。
「あ、ありがとう、ございました。あの、どうも、ご迷惑をおかけしたようで‥‥」
 昨日の修羅場を見せられ、今日もこうして冒険者達の強行軍に付き合わされ、それでも死なないという事実を前に、彼も漸く納得したらしい‥‥お迎えはまだまだ先の事だと。
「謝る相手は私達ではない。村に戻り、皆に心配と迷惑を掛けた謝罪と感謝をするのだな」
 エスリンがそう言って背を向ける。
 新参者の熊を後に残し、若者を連れて、冒険者達は山を下りて行った。