【ハロウィン】Trick or‥‥?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月28日〜11月03日

リプレイ公開日:2007年11月05日

●オープニング

 秋の夜長、円卓の騎士ボールス・ド・ガニスは久しぶりにのんびりと、子供達の遊びに付き合っていた。
 今この家のブームは、先日の誕生日にエルが貰った双六だ。大人も子供も真剣な様子でサイコロを振る。
「やったぁ、オレいっちば〜ん!」
「えへへ、えう、またさいごになっちゃったー」
 負けると本気で悔しがる子守のウォルとは対称的に、エルは負けてもニコニコと上機嫌。これはきっと、父親の影響に違いない。
「‥‥さて、勝負が付いた所で今夜はお終いにしましょうか。エルはもう寝る時間ですよ」
「はーい」
 うん、聞き分けの良い子だ。
「じゃあオレ、寝かしつけてくるね」
 そう言ってウォルが手を引こうとした時。
「とーさま、はよいんって、なに?」
 エルがだしぬけに訊ねた。
 去年はカブのランタンごと悪戯好きのモンスターに浚われ、大変な目に遭ったのだが、それは覚えていないらしい。いや、大変な目に遭ったのはそれを追いかけた父親の方であって、浚われた当人は遊んで貰っていると思って大喜びしていたのだが。
「年に一度、亡くなった人達に会えるかもしれない、特別なお祭りがある日ですよ」
「なくなったひと?」
「ああ‥‥死んでしまった人の事です」
 子供には難しい表現だったかと言い直したボールスに、エルは「ふ〜ん?」と首を傾げる。
「じゃあ、ほんとのかーさまにもあえゆ?」
「‥‥え?」
 思わず聞き返したボールスの袖を引っ張り、エルは階段の下まで来ると上を指差した。
「ほんとのかーさまでしょ?」
 その指差した先、踊り場の壁に掛けられた絵の中で、エルの産みの親であるフェリシアが微笑んでいた。
 どうやら、エルは彼なりにきちんと理解しているらしい。
「‥‥会いたい、ですか?」
 訊ねたボールスに、エルは暫く考えて「わかんない」と答えた。
 まあ、そんなものだろう。何しろ全く記憶にないのだから。それでもきちんと理解し認識していた事に、ボールスは軽い驚きと嬉しさ、それに‥‥ほんの少し罪悪感を覚えた。

「この間の申し出‥‥断らない方が良かったのかな‥‥」
 エルをウォルに任せ自室に戻ったボールスは、ベッドに体を投げ出すと天井を見つめながら先日の事を思い返す。
 誕生日に母親の形見のネックレスを贈りたいと言われ、断ったのは‥‥ただの我侭だ。我侭で、身勝手。それはわかっているつもりだ。
 だが‥‥
「良いんじゃん、べつに?」
 開けっ放しのドアからウォルが顔を覗かせて言った。
「チビのくせに結構わかってるみたいだけどさ、でも、エルに必要なのは死んじゃった人の思い出じゃないし。師匠だってそうだろ?」
「‥‥それは‥‥まあ」
「いくら願ったって、死んじゃった人は帰って来ないんだからさ。いくらハロウィンでも」
 ウォルが病気で療養している間、何人かの仲間が病室から旅立っていった。
「オレも、もうあいつらとは遊べないけど‥‥もっと仲良くしとけば良かったとか思うけどさ。でも、もう出来ないもんはしょうがないじゃん。だから‥‥」
 ウォルはそっぽを向きながら、何となく怒ったような様子で言う。そんな表情をするのは照れ隠しと‥‥それに、涙を堪える為か。
 そんなウォルの頭を、ボールスはくしゃくしゃと掻き回した。
「ありがとう。私もそのつもりですよ」
 去って行った人達にしてあげられなかった事を、出来るうちに。
「でもオレ、エルに変なこと教えなくて良かった」
 撫でられて子供扱いするなと怒りながら、頬を赤く染めたウォルが言った。
「ハロウィンってそういう日だったんだ。オレ、イタズラするとお菓子が貰える日だと思ってた」
「それも間違いではありませんよ。子供達にとっては、ただの楽しいお祭りですからね」
「え、じゃあ‥‥やっぱりパーティとか、やる?」
「勿論。死んだ人に会う事よりも、生きている者同士で楽しく過ごす方が大事‥‥でしょう?」
 ボールスはそう言って、悪戯っぽく笑った。


「そーゆーワケで、これ、パーティーの招待状ね」
 数日後、ボールスの使いで冒険者ギルドに赴いたウォルは、受付係に一枚の羊皮紙を手渡した。
「依頼状と一緒に張っといてよ」
 そこにはこう書かれていた。

 ――ハロウィンパーティ開催――
 10月31日 午後3時頃〜
 タンブリッジウェルズの城、及び城下町にて
 参加条件:必ず仮装すること
 同時開催:イタズラ大会(参加自由)

「‥‥イラズラ大会‥‥?」
 首を傾げる受付係に、ウォルが言った。
「そ。ハロウィンって言ったら、やっぱイタズラだろ?」
 大会とは言っても競技のように順番を決めて行われる訳でも、勝ったからといって賞金や賞品が出る訳でもない。そもそも勝ち負けを競うものでもない。
「ま、よーするにパーティの間じゅういつでも誰にでもイタズラOKって言うか寧ろ歓迎って、そーゆーコト」
 パーティとイタズラ大会は城内で、仮装パレードは城下町に繰り出して行われる。
「パレードは町じゅうの人が参加するらしいよ。パーティも、ええと、なんだっけ‥‥ぶれーこ?」
「無礼講、ですか?」
「そうそう、それ! 去年はこっちでやったから、今年は地元でやるんだって。皆、楽しみにしてるみたい」
 それともうひとつ、とウォルは付け加えた。
「前の日が師匠の誕生日なんだって。師匠には内緒で何かやりたいんだけど‥‥こないだのサプライズ返しってヤツ。そうだ、イタズラのプレゼントでも良いかな」
 ウォルは何かを企んでいるように、うしし、と笑った。
「師匠ってさ、女装似合いそうだよね‥‥」

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2913 アルディス・エルレイル(29歳・♂・バード・シフール・ノルマン王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 eb7208 陰守 森写歩朗(28歳・♂・レンジャー・人間・ジャパン)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec3769 アネカ・グラムランド(25歳・♀・神聖騎士・パラ・フランク王国)

●リプレイ本文

「Trick or treat!」
 ハロウィンの夕刻、祭りで賑わうタンブリッジウェルズの城下町に、子供達の楽しそうな声が踊る。
 大通りは老若男女を問わず、思い思いの仮装をした人達で溢れかえっていた。
 定番の魔女やオバケ、大きなカブのランタンを頭からすっぽり被った者、中にはこの国の王を真似たと思われる濃ゆ〜い仮装もあったりするが、この土地の領主を真似た者はいないようだ‥‥まあ、真似る程の特徴もないのだが‥‥敢えてするなら頭から猫を被る事くらいか。
 それはさておき、その領主様御一行も、勿論このパレードに参加していた。
 魔女の衣装が良く似合う怪しい錬金術師メアリー・ペドリング(eb3630)、同じく錬金術師だが今回ばかりは布教を休んで祭りを楽しむエリス・フェールディン(ea9520)‥‥彼女は頭に二本の角の飾りを付け、この寒いのに露出が多い‥‥いや、多すぎる衣装を纏い、手にはゴツゴツとした突起の付いた棒と、もう片方の手には酒瓶を持っている。
「ジャパンには鬼と呼ばれるオーグラに扮する風習があるらしいのでちょうどいいでしょう」
 そしてメアリーの頭上には、自身の身長と同じくらいの直径のランタンがふわふわと浮いていた。彼女は時折パレードの列を離れ、道行く人に後ろから近付き‥‥
「そこの御仁、こちらを向け。トリックオアトリート!」
 振り向いた途端、顔面すれすれに迫り来る巨大ランタン。
「ぎゃあぁぁっ!??」
 本人はランタンの影に隠れている。
「ははは、たまにはこうしてハジけるのも悪くない。さて、次の獲物は‥‥」
 その後ろには「まるごと」シリーズを着た冒険者達が続く。真っ赤なまるごとベリーさんを着たルーウィン・ルクレール(ea1364)、まるごとだいぶつを着た本気でデカいメグレズ・ファウンテン(eb5451)、まるごときのこを着て何故か忍び歩くヴェニー・ブリッド(eb5868)、特注のスモールアイアンごーれむ着ぐるみをまるで中身が入っているような形にして馬に乗せ、まるごときたりすを着込んだ陰守森写歩朗(eb7208)そして‥‥
「私も猫さん好きなんですよ。ニャーニャー♪」
 まるごとではないが、猫耳と尻尾を付けてネコになりきったサクラ・フリューゲル(eb8317)。
「といっくおあといーと〜〜」
 相変わらず舌足らずな調子でお菓子を配っているのは、クリステル・シャルダン(eb3862)とお揃いの天使の格好をしたエル。その頭上では妖精のルビーが花びらを散らしながらクルクルと踊っている。二人はゆっくりと歩くペガサスの背に乗っているが、さすがハロウィン、見物客の誰もそれを本物の天馬とは思っていないらしい。と言うか、乗っている二人の方に注目が集まりすぎて、誰も馬まで気にする余裕がないと言うか。
 そんな二人を少し心配そうに、そして眩しそうに後ろで見守っているのは‥‥ええと‥‥だ‥‥誰?(え

 ‥‥ここで少し、時を遡ること数時間。
「いいえ、私は特に何も‥‥」
 仮装はしないのかとの問いに、そんなノリの悪い答えを返す円卓の騎士に、集まった冒険者達はニヤリと笑って顔を見合わせた。
「ボールスさま、ダメですよ。せっかくのお祭りなんだから、思いっきり楽しまなくちゃ!」
 そう言ってアネカ・グラムランド(ec3769)が差し出したのは、何やら怪しげな液体の入った怪しげな壺。中から酒の匂いが漂ってくるが、色々な酒を一緒くたにぶち込んだその中身が一体どんな事になっているのか。ましてやその壺は、中身によっては脱衣衝動に駆られるという、飲むエロスカリバー「禁断の壺」だった。
「ほらほら、お酒でも飲んで気分をほぐして、楽しくやりましょう!」
 ただし、差し出した本人はその効果を知らない‥‥らしい。
「ダメですよ、今日は酔う訳にはいきませんから。パレードやパーティでの警備もありますし」
「大丈夫ですわ。そちらは私達がお引き受けしますので」
 サクラが言い、壺から注いだ酒を入れた杯を手渡そうとする。せっかく振る舞われたものを断れる性分ではないだろうという読みだ。
「今宵は無礼講。ささ、お飲みくださいませ‥‥」
 しかし、相手は意外に頑固だった。
「折角ですが、お気持ちだけ頂いておきます」
 と、にっこりやんわり、しかしきっぱり拒否。
「‥‥仕方ないわねぇ‥‥こうなったら直球で行きましょうか」
 そう言ってヴェニーが取り出したのは一着のドレス。そう、貴族のお嬢様が夜会で着るような、そんな豪華な。
「単刀直入に言うわね。ボールスくん、これを着なさい」
「‥‥はい?」
 一瞬どういう事だろうと首を傾げ、ドレスとその持ち主を交互に見比べ‥‥
「ちょ、どうして私がっ!?」
 漸く理解したらしい。
「どうしてもこうしても、今日はハロウィンでしょ? 仮装はお約束よ。ただし、言い出したのはあたしじゃないケド♪」
 と、ヴェニーが視線を流した先には‥‥
「‥‥ウォル?」
 にこやかに振り向いた師匠の背に殺気を感じたウォルは、一目散に逃げ‥‥ようとしても無駄ですね、相手は曲がりなりにも円卓の騎士ですから。
「だ、だって、似合いそうじゃんっ!? 皆もそう思うよねっ!? ねっ!?」
 首根っこを掴まれたウォルが冒険者達に同意を求める。
「そうそう♪ それに、他にも線が細い子が揃っていていい感じよね♪ 折角だから、男の子全員でやる?」
「私は構わないであるよ。お祭りであるからして、特に格好には拘らないである」
「うん、ボクも付き合っても良いよ〜♪」
 リデト・ユリースト(ea5913)とアルディス・エルレイル(ea2913)には、まるっきり抵抗がないようだ‥‥まあ、二人とも童顔だし‥‥って言うか、男臭いシフールってあんまり見た事ないし。
「とーさまが、かーさまになゆの?」
 そんなやりとりを脇で聞いていたエルが言った。かーさまは今、エルの衣装を準備中。この場にいれば、きっと反対して‥‥くれるだろうと思いたい。反対して‥‥ほしいなあ。でも、いないものは仕方がない。
「エル殿、こういうお祭りでは一番偉い人で、似合いそうな人が女装する慣わしがあるのだ。今回の場合、ボールス殿‥‥エルの父さまだな」
「ふーん?」
 メアリーの言葉に、エルは首を傾げる。
「だが、ボールス殿は無責任にも嫌だと逃げているのだ。お父上に責任感を発揮していただくよう、お願いしていただけぬであろうか?」
 エルは何だかよくわからないながらも、父親が皆の頼みを拒んでいるらしい事だけは理解したようだ。上着の裾を引っ張ってボールスを見上げ、首を傾げた。
「とーさま、こまってゆひとのおねがいは、きかなきゃいけないんだお?」
「そうである。か弱い子供や女性陣の頼みを断らないのが騎士の務めであるよ」
 と、リデトが肩ぽむ。
「‥‥まったく‥‥」
 ボールスは大きく溜息をついた。
「‥‥どうなっても知りませんからね?」
「どうなっても‥‥とは?」
 女装計画にこっそり参加していたメグレズが訊ねたが、その答えは‥‥

「つまり、めちゃくちゃ似合うって事」
 仮装パレードのさなか、お手製のラージビー着ぐるみに身を包んだルルがボールスの周囲をくるくると回る。
「昔もよく間違われて、売り飛ばされそうになったりとかしてたけど‥‥今でも充分、通用するわね、うん」
 ちょっと背が高めで肩幅が広くはあるが‥‥恐ろしい事に違和感は、ない。人目を引くような派手さはないが、しっとりと落ち着いた‥‥まあ、美人の部類に入るだろう。こんなタイプが好みの男性も少なくないだろうし、実際に沿道からは、ちらほらと熱い視線が向けられていたり‥‥。
 体型が隠れるような、ゆったりとした衣装に変更したのは本人の希望だった‥‥という事は、けっこう乗り気?
「‥‥どうせなら、似合った方が良いでしょう?」
 まあ、確かに。
 そして、その両肩にはこれまた違和感のない二人の女装シフールが乗っかっていた。
 リデトはりんごの形をした帽子を被り、りんごの色をしたドレスを着て、手にした杖の先には小さなりんごを刺し‥‥りんごづくしのりんご妖精。
 アルディスは連れている火妖精のフレイアとお揃いの魔女の仮装だった。
「ルルの仮装も似合うであるな」
「そうそう、ルルも似合ってるよ♪」
「‥‥あ、そう」
 そして、女装ペアに褒められたルルの返事は相変わらずコレだ。
 ‥‥ん?
「もしかして、あの二人ってライバルなのかな?」
 その様子を見ていた、座敷童子姿で頭に大きなリボンを付けたアネカがぽつりと呟いた。
「ま、いっか♪ とりっく・おあ・とり〜と〜♪」
 アネカは特大の籠を手に、沿道の見物客から沢山のお菓子を貰って歩く。お菓子を貰えるのは子供だけであるという事実をわかっているのかいないのか。そして、胸に詰めた二つの大きな丸いパンの効果にも、誰一人気付いていないという以下略。
 そして、その後ろからは戦闘馬のアリスに乗った可愛い二人組‥‥ドレス姿のマイ・グリン(ea5380)と、彼女に借りた礼服とマント、そしてレイピアを腰に差し、緊張した面持ちのウォル。
「‥‥騎士を目指すのであれば、色々と覚える事がありますから。‥‥この機会に少し練習されてみませんか?」
 そう言われ、更にはサクラにも半ば強要され‥‥普段なら「騎士なんか目指してない!」と意地を張る所だが、今回は師匠に付き合って女装させられる位ならその方がマシだと思ったらしい。それに、ウォルはこの二人には何となく逆らえないのだった。
 マイは仕事上、メイド修行中の良家の子女に礼儀作法を教えたり、裏方として貴族の舞踏会に接する機会があるらしく、お嬢様としての立ち居振る舞いもかなり様になっている。ただし、表情は相変わらず固く、変化に乏しいのだが‥‥
「あのさ、折角そんなカッコしてんだから‥‥もう少しこう、ニッコリ笑ってみたら?」
 馬の背で、ウォルが後ろからマイの両頬をむに〜っと引っ張ってみたり。
「‥‥‥‥‥‥」
 しかし、それでもマイは表情を崩さない。何となく余計に気まずい雰囲気になったような‥‥。
「あの、さ。楽しい‥‥?」
「‥‥はい」
「あ‥‥そ。まあ、それなら、良いんだけどさ」
 まあ、楽しみ方は人それぞれだし、ね。

「えー、なんだよ、もう着替えちゃったのー?」
 仮装姿で町を巡り終えた人々が城内に雪崩れ込み、無礼講のパーティが始まって暫く経った頃。普段の服装に戻って現れた師匠に、ウォルが文句を垂れた。
「いつまでもあんな格好をしていられますか」
「えー、ノリノリだったくせに〜」
 ぺしん!
 ウォルの頭に軽くハリセンが飛ぶ。だが、その表情はいつものように穏やかで‥‥楽しそうだ。
「今日はもう、エルの相手は大丈夫ですから。あなたも楽しんでいらっしゃい」
「え、良いの? じゃあ早速‥‥トリックオアトリート!」
 そう叫ぶと、ウォルは返事も待たずにボールスの背中をべちっと叩き、走り去った。
「‥‥?」
 どうも何かをされたらしいが、背中は見えないし、わざわざ服を脱いで確かめる気もない。何しろハロウィンだし。
 ボールスはそのまま、彼を待つ人々の元へゆっくり歩いて行った。

 とうに陽も落ちてすっかり暗くなった空の下、城の前庭は大小様々なカブのランタンや篝火のお陰で、昼間のような‥‥とは行かないまでもかなりの明るさを保っていた。
「あれ? ボールス卿、背中が真っ黒だよ?」
 白い布を被ったオバケ‥‥いや、こちらもやはり女装から着替えたアルディスが目ざとく見付けて声をかける。
「ああ、やっぱり‥‥」
 どうやらウォルは手にべったりと炭を塗りたくっていたらしい。
「まあ、大変‥‥」
 ブラシを取り出したクリスがそれを払おうとしたが、ボールスはそれを制した。
「大丈夫、後で洗えば落ちますから。それより、折角の衣装が汚れてしまいますよ?」
 クリスは先程のパレードと同じ、天使の装いをしていた。純白のドレスに花冠を被ったその姿はまるで本物の天使のようだった。
「とーさま、こえね、おっきいおねーちゃんがくえたの。そんでね、かーさまがえうにぴったいにしてくえたんだよ」
 おっきいおねーちゃんとは、そこの大仏‥‥いや、メグレズの事だ。
「良かったですね。ちゃんとお礼は言いましたか?」
「うん、ゆったよ、あいがとーって、ね?」
 エルはメグレズを見上げてにっこりと微笑み、ついで父親にも笑いかける。
 ただでさえ天使のように可愛いエルが天使の仮装をして微笑むのだから、もう、何というか、堪らない。更にそれが親子セットなのだから‥‥
「あの‥‥似合いませんか?」
 思わず目を逸らし、なるべく二人を見ないようにしているボールスに、クリスがおずおずと声をかけた。
「と、とんでもないっ! 似合います。似合いすぎて‥‥」
 眩しくてまともに見られないらしい。
「‥‥よかった」
 クリスはそう言って微笑むと、ボールスに少し身を屈めるように頼み‥‥
「Trick and treat」
「‥‥え?」
 その首にふわりと何かをかけた。そして、そのまま軽く引き寄せると頬に口付け‥‥
「一日遅れてしまいましたけれど、お誕生日おめでとうございます」
 それは彼女の瞳と同じ、済んだ青い色の手編みのマフラー。
 ボールスは暫く呆然と、頬を赤らめながら微笑みかけるクリスと、自分の首にかけられたマフラーを交互に見つめていた。
 昔、いつも母親のお手製の服を着せて貰っていたロランを羨ましく思っていた事を思い出す。まあ、向こうは向こうで様々な面でボールスを羨んでいたようだが。
「あ‥‥あり‥‥がとう‥‥」
 余程嬉しかったらしく、それ以上は言葉にならない。ボールスはそのまま、クリスをぎゅっと抱き締めた。
 その瞬間‥‥
「誕生日おめでとう!」
「おめでとうございます♪」
 あちこちから声が上がった。
「‥‥!」
 顔を上げたボールスの目が赤い。
「へっへー、サプライズ返しだよ!」
 どこからともなく現れたウォルが言った。
「ボールス卿、お誕生日おっめでとぉ〜♪」
 アルディスがぽろろ〜んと竪琴を鳴らす。
「僕は元々参加予定じゃなかったから、用意してあったプレゼントは持って来れなかったんだよねぇ〜。仕方ないから、僕からはお祝いの曲をプレゼントだよ♪」
「今年一年がボールスにとって良い年であるよう願ってるであるよ」
 リデトがそう言って手渡したのは素焼きの茶碗。
「ジャパンではこれでお茶を飲むであるよ。お茶はあったであるかな‥‥なければ紅茶でも」
「私からはこの子を‥‥荷物ごとどうぞ」
 そう言って森写歩朗から渡されたのは、忍犬の珠。
「え、い‥‥良いんですか!? 忍犬は育てるのが難しいと‥‥いや、あの、私も欲しいな、とは、あの‥‥」
 しどろもどろに言うボールスに、森写歩朗はクスクスと笑いながら言った。
「良いんですよ、うちにはまだ他にいますし、今も育成中ですから」
「あ‥‥ありがとう。大切にします」
 そして、犬の正面に座り込む。
「ええと、よろしくお願いします。名前は‥‥そのままで良いですよね。あなたも急に変な名前で呼ばれるのは嫌でしょう?」
 言われて、珠は軽く尻尾を振った。飼い主としてとりあえず合格、らしい。
「では、私からはこれを」
 ルーウィンが座り込んだままのボールスの頭に獣耳ヘアバンドをすっぽりと被せた。
「えぇと、じゃあ、あたしはこの子‥‥うきゃあぁぁぁっ!?」
 アネカが差し出そうとした子猫リリムは、飼い主の顔をバリバリと引っ掻いて‥‥逃げた。
「あ! 待ってよ! どこ行くの!?」
 子猫を追って駆け出したアネカを見送り、アルディスが言った。
「じゃあ、ハロウィンのパーティを楽しもうか♪」
「うん! とーさま、といっくおあいーと!」
 そう言ってエルが差し出したのは、ちょっとした仕掛けのびっくり箱。中から飛び出したのは‥‥小さな火妖精。
「うわ!?」
「えへへー、びっくいした? だいじょぶだよ、いまはいってもやったばっかだかや。くゆしくないもん、ね?」
「ねー?」
 微笑ましい笑い声に包まれながら、ハロウィンの夜は更けゆく。

「‥‥では、大人の時間になる前に‥‥」
 サクラが竪琴を奏でるアルディスに何かを耳打ちした。
「なに? うん、良いよ。任せといて♪」
 リクエストに応えてアルディスが弾きだしたのは、ダンスにぴったりの曲。
 曲が流れ出す中、サクラはあちこちのテーブルを回って料理をつまんでいるウォルに声をかけた。
「ウォル、一曲踊って頂けますか?」
「へ?」
 一瞬、何を言われたのかわからずにウォルは目を丸くして頓狂な声を上げる。
「オ、オレ、ダンスなんか‥‥」
 まあ、多少は習ったが。
「踊って下さらないと、イタズラしちゃいますよ? 小さな騎士様」
「ち‥‥小さなな余計だっ!!」
 だが実際に小さいのだから、そう言われても仕方がない。渋々手を取ったサクラとの身長は、その差17センチ。一応ウォルが男性パートを踊っているのだが‥‥
「ちくしょう、サマにならねえっ!」
 ウォルは急に手を離し、ぷいと後ろを向いた。
「ウォル?」
「‥‥オレがサクラの背を追い越したら、そしたら踊ってやる。だから、それまで待ってろ!」
 自分の方が背が低い事が、どうしても気に入らないのだ。
 そしてポケットから何かを取り出すと、そっぽを向いたままサクラの目の前に突き出した。
「‥‥やる」
「‥‥はい?」
「こないだっから、オレ、色んな人に色々貰いっぱなしだから。でもオレ、あんまりカネ持ってないから全員にお返しは出来ないし。でも、こないだ誕生日だっただろ?」
 誕生日のプレゼント、という事らしい。
「い、いらないなら返せよ!?」
 突き出された手から、それ‥‥刺繍入りのハンカチを受け取ったサクラは嬉しそうに微笑んだ。
「いいえ、頂戴しますわ。ありがとうございます」
 しかしウォルはそれには答えず、脱兎の如く駆け出して行く。
 そして‥‥
「病気にさえなんなきゃ、オレだってもう少しは背が高かったのに‥‥去年は全然伸びなかったもんなあ‥‥」
 ひとり離れたテーブルに座り、独り言を呟くウォルの前にメグレズが現れた。
「きちんとした御挨拶がまだでしたね」
「え? あ、ああ‥‥多分」
「初めまして、ウォルさん。神聖騎士のメグレズ・ファウンテンと申します。どうぞよろしく」
「あ、うん、よろしく。あ、ウォルでいいから」
 ウォルは遙か遠くにある相手の顔を見上げて溜息をつく。
「でかいな〜‥‥そんだけでかいと、便利そうだよな。このへんの飾り付けも、全部やったんだろ?」
 そればかりではなく、ランタン作りや木材の加工も。
「へえ〜。でっかい人って細かい事は苦手かなって思うけど、メグレズは器用なんだな。うちの師匠なんか、りんごの皮ひとつマトモに剥けないんだぜ? 円卓の騎士なんだから、剣だってそれなりに使える筈なのにさ」
「どんな人にも得手不得手はありますからね」
 そう言いつつ、メグレズは懐から絵巻物を取り出すとウォルの目の前に置いた。
「ジャパンに伝わるお化けが勢ぞろいした絵だそうです。よろしければ後学のためどうぞ」
「オレ、ジャパン語読めないんだけど‥‥」
「絵巻物ですから、大丈夫ですよ。内容が知りたければ、どなたかに読んで頂けば良いのではありませんか? もしくはご自分で勉強を」
「うん‥‥そうだね、ありがと。でも、良いのかな‥‥オレ、皆に貰ってばっかりで」
「今はそういう時期だと思って、遠慮なく貰っておくのが良いと思いますよ。貰ったものが多いほど、返せるものも増えますから」
 いつ、どんな形で、何を返せるか‥‥それはわからないけれど、いつか来るその日の為に。

 そしてこちらにも一人、未来の為に一歩を踏み出そうとする者がいた。
「あの、ボールスさま‥‥ちょっとお話があるんですけど‥‥」
 くつろいでいる所を邪魔しては悪いかと思いつつ、少し緊張した面持ちで、アネカは遠慮がちに切り出した。
「ボクをボールスさまの所で雇って貰えませんか? あの、お手伝いとかしながら、修業させていただけたらな、って‥‥」
 暫く相手の目を真っ直ぐに見つめてから、ボールスは言った。
「それは、構いませんが‥‥でも、何故?」
「それは‥‥だってボク、大事な人達みんなを守れるような盾になりたいんです! 強くなって、立派な騎士になって、それで、少しでも多くの人を‥‥その、守ってあげられたら良いなあって。だから、えんそ‥‥円卓の騎士であるボールスさまから色々学びたいと思って」
「私は何も教えませんよ?」
「はい、盗みますから!」
 それを聞いて、ボールスはクスクスと笑い出した。
「わかりました。では‥‥テストを受けて貰いましょうか?」
「て‥‥テスト!? は、はいっ、どんと来いですっ!」
「では‥‥」
 と、ボールスはエルを呼んだ。
「エル、このお姉さんがエルと仲良くしたいそうですよ。仲良くしてあげてくれますか?」
 問われて、エルはアネカをまじまじと見つめ‥‥
「うん、いいよ」
 にこっと笑う。
「はい、合格」
「へ‥‥?」
「子供と動物に好かれる人に、悪い人はいませんからね」
 そう言われてアネカは罰が悪そうに下を向いた。
「子供はともかく、ボク、動物には‥‥」
 と、先程ようやく捕まえ‥‥そして今はちゃっかりボールスの膝に乗って甘えている子猫のリリムを恨めしげに見た。
「あの、その子‥‥ボールスさまに懐いてるみたいだし‥‥プレゼント、します。丁度、誕生日だし」
「良いんですか? 随分名残惜しそうに見えますが?」
「だって、その子ボクには全然懐いてくれないんだもん!」
 確かに、先程も盛大に引っ掻かれていたような。
「でも、うちで働くなら無理に手放す必要はないでしょう。時間が経てば懐いてくれるかもしれませんし‥‥それに、もしかしたら好きな子には意地悪をしたくなるという、アレかもしれませんよ?」
「そう‥‥かなあ‥‥」
「ひとまず、先程の事は了解しました。まずは見習いという事で暫くやってみましょう。合わないと思ったらいつでも辞めて構いませんから」
「いいえ、大丈夫です。ボク、頑張りますから!」
「では、最初の仕事を頼みましょうか‥‥ウォルを探して、二人でエルを寝かしつけてきて貰えますか? ついでにウォルにも、もう寝るようにと」
「わっかりましたっ!」
 そんなやりとりを見ていたルーウィンが呟く。
「仕官か‥‥私は今後どうするかな」
「かなー♪」
 肩にとまった妖精が、その語尾を真似て繰り返した。

 かくして、ここからは大人の時間。
「お酒をくれなきゃ、イタズラしますよ?」
 毛皮のコートに身を包んだ怪しいお姉さん、エリスが森写歩朗に近付く。本当はウォルをターゲットにしたかったのだが、子供は寝てしまったので仕方がない。
「お酒ですか? はい、どうぞ」
 森写歩朗は準備万端、用意してきたお酒を手渡す。
「どぶろく、ワイン、ベルモットなど、色々ありますが‥‥どれにしましょう?」
 彼はお菓子の用意も万端だった。小麦粉を練った中に様々な種類の具材を入れ、蒸したり焼いたり油で揚げたり。
「お菓子であるか? 頂くであるよ!」
 お菓子に目のないリデトが喜んで飛んで来る。見た目からして甘そうなその菓子にかぶりついたリデトは‥‥
「‥‥うっ!? か、辛いであるっ!?」
「ああ、外れを引いたようですね」
「は、外れがあるのであるか!?」
「はい、酸味、塩味、辛味、苦味、渋味、色々ありますよ。でも、どれもちゃんと食べられる物ですから安心して下さい」
 勿論、ランタンを作る為に取り除いた中身もきちんと食材に使ってある。
 食べ物を粗末にしてはいけないのです、と、森写歩朗はニコニコ。
「と、とりあえず水が欲しいである!」
 だがしかし、フラフラと飛んで行ったリデトが手に入れた甘い水は、エリスがスウィルの杯に注いでおいたお酒だったり。
 そして、手近のテーブルでお菓子のヤケ食いをしているルルに声をかけてみる。
「ルル嬢、そのドレス似合うであるよ〜」
 ルルもまたパレードの時から着替えて、昨年の聖夜祭に貰ったドレスを着て精一杯のおめかしをしていたのだが‥‥見せたい人は、向こうでピンクの結界を張っている。よって、すこぶる不機嫌だった。
「‥‥なによ、ヨッパライ」
 冷たい。
「ねぇねぇルル、どう? 僕の竪琴の腕前は?」
 オバケの衣装から顔を出してニッコリと微笑むアルディスにも
「ふん、まあまあじゃない?」
 楽器演奏技能超越所持者にその評価とは、いかに不機嫌かがわかろうというもの。
「ルル殿、一緒にボールス殿に悪戯をして鬱憤を晴らさぬか?」
 メアリーの誘いにも
「悪いけど遠慮しとくわ。あたし、あの結界には近付きたくないの」
 それはまあ、気持ちはわかる。近付きたくないと言うか近付けないと言うか。
「‥‥ボールス殿のルル殿に対する態度が、近頃急に変わりでもしたのであろうか?」
 冷たくなった、とか。
「変わんないわよ、まるっきり。だから余計に悔しいんじゃない!!」
 うーん、わかるような、ワカランような、複雑な乙女心。まあ、暫くそっとしておくしかないでしょう、この場合、うん。
 そして確かに、その結界は強力だった。アルディスがオバケの姿で目の前を通り過ぎても、メアリーが鼻先に虫を垂らしてさえ気付かない程に。
 もしかしたら超越ホーリーフィールドよりも強力かもしれない、これ。
「‥‥致し方あるまい」
 メアリーは溜息をついた。
「では、今宵はルル殿に付き合って思う存分に飲み明かすと致そうか」
「メアリー、あんな良い人ね。男じゃないのが残念だわ」
 ルルはそう言ってメアリーの肩をばんばんと叩いた。
「よーし、今夜はヤケ酒でもヤケ食いでも、とことん行っちゃうんだからーっ!」
 何やら盛り上がってます。
「‥‥これで素敵な殿方でも居れば万々歳なのだがな」
 メアリーが言う。あのー、そこにいる二人の殿方じゃ‥‥ダメ?

 そして、その結界の背後にはきのこが根を張って‥‥いや、きのこだから菌糸を伸ばしていた、か。まあ、それはどうでも良いが。
 まるごときのこに身を包んだヴェニーは、息を潜めて結界の様子を子細に観察していた。
「相も変わらず、ゴシップの臭いがするわ〜♪」
 しかしそこにはもう一人、息を潜めて結界の様子を見守る者が。
「あら、ブレスセンサーに何かひっかかったわね」
 そこにいたのは、城内で保護されているワケあり人物、フォルティナ。
「ちょ‥‥何よアンタ!?」
 いきなり目の前に現れたきのこ人間に、フォルティナは目を丸くする。
「ああ、私はただのきのこですからお構いなく続けてくださいな。ささ、遠慮なくどうぞ」
 しかし、どうぞと言われてはいそうですかと観察を続行する訳にもいかない‥‥特にこんな怪しげな人物の前では。
 フォルティナはひとつ舌打ちをすると、闇の中に消えた。
「ふ〜む、これはやはりボールスくんにご注進した方がいいかしらね?」
 だが、報告を受けた本人は特に気にした様子もない。
「知られて困るような事は何もありませんからね」
 ゴシップというのは隠し事があってこそ。確かにこれだけ開けっぴろげにされればゴシップも何もあったもんじゃない。
「‥‥面白くないわね‥‥」
 いや、そんな事を言われても。
 一方、パーティ会場のイタズラ大会はまだ終わらない。
「お酒をくれなきゃ、イタズラしますよ」
 エリスの今度のターゲットはルーウィン。
「‥‥お菓子なら用意してありますが‥‥」
 だが、お菓子ではダメなのだ。
「そうですか、それではイタズラしますね」
 エリスはそう言うと、おもむろに相手の腕に手を触れた。たちまち、女王様ご降臨。
「さぁ、わたくしと一緒に飲み明かしますわよ!」
「い、いや、私は‥‥」
「問答無用! 口答えは許しませんわ。いいですこと? ハロウィンとは子供が変装して大人を脅かすお祭りですが、ジャパンの鬼は逆に大人が変装して子供を脅かすらしいですから、ちょうど今の状況があっていますわ。さあ、観念してお付き合いなさい!」
 ‥‥ご愁傷様です。

 そして、いつの間にやら自然解散となったパーティから一夜明けた翌朝。
「かーさま! こえ、かーさまでしょ!?」
 枕元に特製のランタン型クッキーを見付けたエルは、起こしに来たクリスに飛び付いて大喜び。
「‥‥もう! 子供じゃないって言ってんのに!」
 自分の枕元で同じものを見付けたウォルも、そんな事を言いながらも内心では喜んでいたりする。
 そして大人達は‥‥
「‥‥お酒のおかげで風邪はひきませんでしたが二日酔いです‥‥」
 と、エリス他数名が二日酔い。もしくは食べ過ぎで胸焼け状態に陥っていた。
「仕方がありませんね。では動ける人だけでも手伝って頂いて‥‥手分けして片付けましょう」
 しかし、散らかりっぱなしのパーティ会場を前に森写歩朗がそう提案するよりも先に、マイは既に嬉々として片付けを始めていた。やはり彼女、根っからそういう仕事が好きらしい。
「へえ、ハロウィンってほんとはそういうお祭りなんだ?」
 片付けをしながら、本来の意味‥‥死者を迎える祭りである事を知ったアネカが呟く。
「おとーさまにグラムランドの騎士道を継いで神聖騎士になったボクを、見せてあげたかったな‥‥」
「大丈夫、ちゃんと見ていますよ‥‥特別な日でなくても」
 椅子を運ぶ途中で思わず立ち止まったアネカの頭を、誰かがくしゃっと撫でて追い越して行った。
 その背に、後ろから走ってきた小さな影が飛び付く。
「とーさま、ぱーてぃたのしかったね! またやおーね! えっと、たばなたと、はよいんと、せーやさいと、あと、えうのたんじょーび!」
 そんなエルにもうひとつのプレゼントが届くのは、もう少し先の事だった。
「Happy halloween!」