【ハロウィン葱】勇者よ、集え!

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 65 C

参加人数:6人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月31日〜11月05日

リプレイ公開日:2007年11月08日

●オープニング

 秋晴れの空の下、天高く一匹の赤トンボが‥‥いや、よくよく見ればそれは人間。
 上から下まで真っ赤っかの男だった。
 そして彼がそこに装着しているそれは、フライング‥‥
「ワンダ、やはりお前は素晴らしい!」
 地上に舞い降りたその赤い男レッドは、待っていた少女を大袈裟に抱き締めた。
「当然でしょ、私は巨匠の孫娘だもん」
 その少女、ワンダは誇らしげに言うと「それで?」と訊ねた。
「乗り心地はどう? 痛くなかった?」
「ああ、この通り魔力が切れるまで乗り続けても何ともないぞ」
 レッドは長時間の騎乗にも関わらず殆ど疲れを見せない様子で答える。
「やっぱり、この丸みが効いてるのね」
 ワンダはそれを受け取ると、先端部を愛おしそうに撫でた。
 彼女が手にしているそれは、改造フライングブルームの最新作、先端部を球状に加工した、その名も‥‥

 ――『フライング蕪』!!

 先端部が球状である為に動きが滑らかで、どんなに急な方向転換をしても‥‥どこに、とは言わないが負担がかからない。
 角をなくした滑らかで触り心地の良い、誰にでも優しいデザイン。
 それは、葱の歴史に於ける革命とでも呼ぶべき一大発明‥‥だと、二人は信じていた。
 ‥‥もはや葱には見えず‥‥いや、堂々と蕪を名乗っているという事実は置いといて。
「きっとみんな、葱は痛いと思ってるのよ。だから、さっぱり普及しないんだわ‥‥こんなに素晴らしい乗り物なのに」
 ワンダは蕪を両手でぎゅっと握り締め、誇らしげに天高く掲げた。
「でも、これなら! 痛くないものだって、みんなにわかって貰える。 葱は小さい子にもお年寄りにも、みんなに優しい乗り物に生まれ変わるのよ!」
 いや、だからそれは、もはや葱では‥‥
 その時。
 どこからともなく、いかにもソレっぽい高笑いが聞こえた!
「はーっはっはっは! 待っていたぞ、この時を!」
 そして巻き起こる一陣の風!
 風は高く掲げられた蕪と共に、ワンダまでをも上空に連れ去った!
「蕪と娘は貰って行く!」
 上空からガサツな声が響く。
 風の正体は、フライングブルームに乗った男‥‥そいつは片腕に蕪とワンダを軽々と抱え込んでいた。
「これまで、葱はマイナーな存在だった。だが、これからは違う。蕪の誕生で、葱は一躍メジャー、全国区! いや、全世界区! もはや葱に国境はないっ!」
 ‥‥葱なのか、蕪なのか‥‥こんがらがってきた。
 とにかく、その男は蕪が欲しいらしい。多分、有名になる為に。
「待て! 蕪が欲しいならくれてやる。だが、ワンダを渡す訳にはいかん!」
 下からレッドが叫ぶ。だが、男は「ノンノン」と指を振った。
「そうはいかんのだ赤い坊や。いいかね? 私は葱をこの世に大量に普及させようとしているのだよ。だが、今までの葱は欠点が多すぎた。とても万人に受け入れられる物ではない‥‥だが、蕪は違う。これは、はっきり言って売れる! そう、これは売れるのだッ!」
「金儲けの為か!?」
「そう、金儲け、イケマセンカ? ワルイコトデスカ? 否! 良き物には相応の値段が付いて当然! そして、普及すなわち売れる事!」
 男は、ここで急に声の調子を変えた。
「ですが、職人がいなければ新たな蕪の生産は出来ませんね? 彼女には職人として生産に携わって貰う一方、後進の指導にも当たって貰わねばならないのですよ。そして腕の良い職人を増やし、ヒット商品である蕪を大量に生産する事でウハウハガッポリ! そして、そこで得た資金を元に、彼女は更なるスーパーヒット商品を生み出すのです。そうなれば金が金を呼び、わーっはっはっは!」
 ‥‥多分、言ってる事はまともなのだろう。世の中って、きっとそういうものだ。だが、無性に腹が立つのは何故だろう?
「葱は、金儲けの道具じゃない! その蕪だって‥‥俺の為に作ってくれたんだ!」
 そうじゃないかもしれないが、そう思っていたいオトコゴコロ。
「そう、ですから、あなたには特別に、生産が軌道に乗った暁には蕪を一本、進呈いたしましょう。それまで暫しの間‥‥ぼんじゅ〜むっしゅ〜?」
「レッド、助けて!」
 男が飛び去ろうとしたその時、あまりの展開に放心していたらしいワンダが、漸く我に返って叫ぶ。
 レッドは咄嗟に手近の葱を装着し、空へと‥‥空へ‥‥‥‥
 ‥‥飛べない。
 彼は先程のテスト飛行で魔力の全てを使い切っていた。
「くそ‥‥っ! 飛ばない葱は、ただの葱だーーーっ!!!」

 そして数時間後。
 自前の足で走って来たらしいレッドが冒険者ギルドに飛び込んで来た。
「頼む、ワンダを取り戻してくれ!」
 浚われた方角は南の方。相手の男はやたらとピカピカ光る服を着た成金風のイヤミな奴‥‥と、それしかわからない。
「だが、そんな奴が女の子を抱えて空を飛んでいれば嫌でも目立つだろう‥‥いや、頼むから目立っててくれ!」
 レッドの期待と言うか願望通りに目立っていれば、追跡は難しくないだろう。
 だが、問題はどうやってワンダを取り返すか。
「葱で勝負だ。奴も葱で商売をしようと言うなら、断りはしないだろう。いや、勝負を拒むような奴に、葱に関わる資格はない!」
 何だか無茶苦茶な理屈だが、妙に説得力がある‥‥ような気がする。
「だが、もし奴が蕪に乗って来たら‥‥あれは、良いぞ。とても楽だ‥‥実際に乗った俺が言うんだから、間違いはない」
 性能は同じだが、どんな乗り方をしても、何時間乗っても痛くない、らしい。それは相当なアドバンテージだろう。
 しかしそこは世界に冠たる葱リスト。いかに不利な状況だろうと、必ずや勝利をその手に掴んでくれる事だろう。
 いや、絶対勝つ。勝つに決まってる。勝たねばならぬのだ!
「葱は人数分用意してある。勿論、俺も一緒に行く。だが‥‥戦いには参加しないつもりだ。俺などが出ても、足手まといだからな」
 さあ、勇者よ集え!
 今こそ葱リストの誇りにかけて、葱の未来を守るのだッ!!

●今回の参加者

 ea0061 チップ・エイオータ(31歳・♂・レンジャー・パラ・イギリス王国)
 ea0448 レイジュ・カザミ(29歳・♂・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea2207 レイヴァント・シロウ(23歳・♂・ナイト・エルフ・イギリス王国)
 ea9027 ライル・フォレスト(28歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb2257 パラーリア・ゲラー(29歳・♀・レンジャー・パラ・フランク王国)
 ec4045 フィムス・ルーン(22歳・♀・バード・シフール・イギリス王国)

●サポート参加者

来生 十四郎(ea5386

●リプレイ本文

 秋も深まった高い空の下、葱ま団の勇者達が南へ向かって飛ぶ。
「僕も商人の子だし儲けたい気持ちはわかるけど、強引なやり方はだめさ」
「そうだよね。おいらも葱がお金儲けの手段にされるのやだし、巨匠だってワンダさんだって、そんなこと思ってないはずだよ」
「葱は金儲けの道具じゃない、勇気と感動を与える物なんだ。それを教えてくれたカマバットの名にかけて、レッドさんと葱の名誉の為に必ずワンダさんは取り戻してみせる!」
「そうそう、愛と勇気とせーぎの為に、ワンダちゃんを救出して、誘拐犯さんにお仕置きするのっ!」
 レイジュ・カザミ(ea0448)、チップ・エイオータ(ea0061)、ライル・フォレスト(ea9027)、そしてパラーリア・ゲラー(eb2257)‥‥そんな彼等の勇姿を、少し遅れて飛ぶレッドは目を細め、眩しそうに見つめていた。
 大丈夫だ。この人達に任せておけば、きっとワンダは無事に救い出せる。何故なら彼等は‥‥葱リストだから。
 そして地上からはもうひとりの勇者が‥‥
「一度旗を掲げたからには、引かない媚びない省みない。ないない尽くしの男道。葱ま団の次の祭りは、南の地だ!」
 ひとり地上で馬を駆るレイヴァント・シロウ(ea2207)はそう口上を述べながらギャラリーを集めつつ仲間の後を追う。
 その口上に引っかかったのは‥‥
「何か面白そうなことが起こっていますね〜。私もまぜてもらえますか〜?」
 ふよふよと飛んできたシフール、フィムス・ルーン(ec4045)だった。
「ついでに荷物も乗っけて貰えるとありがたいのです。これ持ってると飛べませんので〜」
「まあ、良いけどね?」
「それで‥‥何をするんですか?」
 まあ、それは現場に着いてからのお楽しみ。
「何をするのか楽しみですね〜」

 そして目当ての人物‥‥ド派手に目立つピカピカ衣装の上に、手足を縛り猿轡を噛ませたワンダを脇に抱えた見るからに怪しいその男は、あっという間に見付かった。
「どうしても葱で儲けたいなら‥‥」
 男の姿を見るなり、ライルは言った。
「俺達と黄金の葱を賭けて勝負しろ!」
「‥‥黄金‥‥の、葱?」
 黄金、という言葉に男の耳がぴくりと動く。
「そう、この黄金葱はかつて諸国の王達が奪い合い、ついには葱戦争まで引き起こした秘宝。これを今、貴方との勝負にかけたい!」
 男の食指が動いたのを見て、レイジュは柄の一部を金色に塗った葱を目の前に付き出した。
 しかし‥‥
「ノンノン、キミ、それはどう見ても黄金ではあり得ない。見たまえ、その安っぽいチャチな色合いを?」
 確かに、それには金属的な光沢も輝きも、そして黄金の煌びやかさもない‥‥黄金色と言うよりは、ただの黄色。錬金術のスキルでもあれば、もう少し何とかなったかもしれないが‥‥
「それに諸国の王が争ったなどと、よくも恥ずかしげもなく言えたものだよ。キミ達は一体、何様のつもりかね?」
「僕? 僕は葉っぱ男、そして葱の勇者にして伝道者!」
 開き直ってレイジュが叫ぶ。
「僕は数々の葱なる戦いを切り抜けてきた。ただの成金男なんかには負けないよ! あなたも葱で商売をしようと言うなら、葱で勝負だ!」
 しかし黄金の葱が偽物である事は既に看破されている。相手には勝負を受ける理由も義理も、何もないのだ。
「う〜ん、お話がこじれてるみたい? これで何とかなるかなあ‥‥うん、やってみる価値はあるはずですよ、ねっ」
 そう言うと、フィムスは男にチャームの魔法をかけた。
「ねえ、折角だから勝負してみない? ほら、そのええと‥‥蕪、だっけ? その性能を試すにも丁度良いんじゃないかと思うんだけど」
「蕪の性能‥‥。確かに、これだけの人数を纏めて倒したとなれば、ますます価値が上がり、より高く、より多く売れる‥‥」
 どうやら男はその気になったらしい。
「良いでしょう‥‥して、どのような勝負を?」
「この黄金葱の争奪戦さ」
 既に賞品としての価値は地に堕ちているが、バトンとしての使い道はある、とレイジュ。
「制限時間は5時間。その間に僕達の誰かから黄金葱を奪えればあなたの勝ちだ。そして、僕達がこれを守りきれば僕達の勝ち。ワンダさんは返して貰うよ」
「途中で葱から落ちたり、MPが切れて飛べなくなったりしたらそれまでだ。それで良いね?」
 ライルの言葉に、相手が頷こうとしたその時‥‥
「お前も商売人なら、口約束の危うさはよく心得ているだろうね?」
 と、シロウが言った。
「そういう訳で、だ。きちんと契約を交わしておこうか? それからこれは、誓約書だ‥‥負けた場合は今後一切、ワンダさんには手を出しません、とね。誓って貰おうじゃないか」
 男は2枚の書類にサインをすると、ソルフの実をいくつか口の中に放り込んだ。
 そして、フライングブルームから手に持っていた蕪に乗り換えると空高く舞い上がった‥‥相変わらずワンダを抱えたまま。
「ねえ、ずっと抱えたままだと不利になるよ? 勝負の間だけでも、ワンダさんを降ろしてくれないかな?」
 ワンダに怪我をさせたくないと、チップが頼み込む。
 しかし男は高らかな笑い声と共に言い放った。
「ははははは! 蕪の前には寧ろこの程度のハンデは必要でしょう! かかって来なさい葱リストの諸君!!」

「さぁ金ぴかよ、この黄金の葱略してゴールデン葱くんが欲しければ以下略!」
 最初に黄金葱を持って空高く舞い上がり、華麗なる飛行技術を見せつけたレイジュからそれを受け取ったシロウが叫ぶ。
 だが相手はそんな挑発には乗らなかった。
「言ったでしょう、そんな紛い物に興味はないと。それよりも‥‥落ちたら負け、でしたね?」
 言うが早いか、男は猛スピードで手近な葱リスト‥‥パラーリアの所に突っ込んで来た!
「‥‥危ないっ!」
 ――ドカッ!!
「チップせんぱいっ!?」
 狙われたパラーリアの前に飛び出したチップは相手の体当たりをまともに食らって吹っ飛ばされた。だが、この程度の事で戦線離脱するような者は、ネギリストにはいない!
 チップはすぐに体勢を立て直すと、再び上空へ舞い上がり、パラーリアから貰った手袋をはめた手をぎゅっと握り締める。
「大丈夫、おいら達は絶対に、あんな奴には負けない。葱の平和と精神は、おいら達葱リストが絶対守るんだから!」
 既に勝負は黄金葱の争奪戦から、ただのドッグファイトへと様相を転じていた。
 男は相変わらず片腕にワンダを抱えたまま、縦横無尽に空を駆け回り、葱リスト達を追い回していた。
「はははは! 流石は蕪! 私が見込んだだけの事はある! 見たまえこの素晴らしく滑らかな機動性を! キミ達のその無骨な葱には真似出来まい!?」
「葱とか蕪とか大根とか、そんな言葉に惑わされるな!」
 シロウが叫ぶ。だが状況は明らかに、葱リスト達に不利なものとなっていた。何しろ相手はワンダを抱えたまま。下手に体当たりでもしようものなら彼女を傷付けてしまう。
「何とか先に、ワンダさんを助けないと‥‥!」
 既に疲れの見え始めたライルが言う。
 事前に来生十四郎と共に特訓はしていたものの、長い間葱から離れていたブランクはそう簡単には埋まらなかった。
「がんばって〜、みんなファイト〜!」
 葱には乗れない為に地上で見守るフィムスの声援が飛ぶ。
 その隣ではレッドが心配そうに空を見上げていた。開始から1時間も経たないというのに、葱リスト達の顔には疲労が滲んでいる。片や蕪に乗った男は余裕たっぷりに、空中を自在に飛び回っていた。
「‥‥もう、限界なのか‥‥!?」
「まだだ、まだイケるぞ私達は!」
 そう呟いたレッドの声が聞こえたのか、シロウが叫んだ。
「‥‥そうだ、僕達は葱リスト! 葱の前に不可能はない!」
 レイジュが答える。
「とにかく、先にワンダさんを助けなきゃ!」
「アクロバット飛行でグルグルにさせちゃおう〜!」
 チップとパラーリアが息を合わせて、男の周囲を掠めるように飛ぶ。素早く飛び回る二人の動きに進路を妨害された男は、空いている方の手でまるでハエでも払うように二人を振り払おうとした。
「ええい、うるさい!」
 その時、男の死角から現れたライルが渾身の力を込めて、背中から体当たりを食らわせた。
「うぐっ!?」
 不意を付かれた男の腕が弛む。その瞬間、もがいたワンダがその腕からこぼれ落ちた。
「レッドさん、受け止めて!」
「言われなくても‥‥!」
 地上から急発進したレッドがその体を受け止め、戦場から離脱する。
「さあ、存分に暴れてくれ!」
「言われなくても!」
 今度の返事は誰のものだったか。とにかく、これでもう何も気にする必要はない。既に黄金葱の存在も忘れ去られ、勝負はただ‥‥
「奴を落とすぞ!」
 チップとパラーリアが周囲を素早く動き回り、男の動きを制限する。その隙を狙ってレイジュが、シロウが、そしてライルがフェイントをかけてバランスを崩すように仕向け、或いは体当たりで強引に蕪から落とそうとする。
 彼等の描く軌跡には、いつの間にか赤い線が走るようになっていた。だが、彼等は止まらず、休まず、そして決して音を上げない。
「な‥‥何故だっ!? 蕪の方が遙かに性能は勝っているというのに‥‥!?」
 何故?
 それは彼等が‥‥
「葱リストだからさ!!」
 そしてパラーリアが最後の‥‥そして渾身の力を込めて
「いっくよぉ〜〜〜! パ・ラ・きいぃーーーっく!!!」

 戦いは終わり、ワンダと蕪は無事、あるべき場所へ戻った。お説教とお仕置きを受けた男は‥‥さて、どこへ行ったのか。
 まあいい。そんな事より‥‥
「ハッピーハロウィン!」
 ワンダの家では小さなパーティが開かれていた。
 レイジュは葉っぱを全身に貼り付けた姿で料理を振る舞い、ライルがそれを手伝う。
 そしてチップは‥‥パラーリアに手作りクッキーの入った袋を手渡していた。その中にこっそり忍ばせた物は何だったのか、それを見付けた彼女の返事は‥‥また今度、ね。