憎みきれない役立たず?

■ショートシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:7人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月11日〜11月16日

リプレイ公開日:2007年11月19日

●オープニング

「‥‥お前さあ、足手まといなんだよね」
「そうそう、今まではオレ達も駆け出しだったし、そんな厳しい仕事はなかったけどさ」
「もう中堅なんだし、半端なスキルじゃはっきり言って邪魔なんだよ」
「まあ‥‥戦力外ってヤツ?」

 仲間の口から次々と出てくるそんな台詞に、彼は唇を噛みしめながらじっと耳を傾けていた。
 彼等五人は幼なじみ。数ヶ月前からチームを組んでギルドでの依頼をこなし、近頃ようやく初心者マークが外れた所だった。
 仲間の構成は、ファイターが二人にレンジャーが一人、風のウィザードが一人。そして彼、火のウィザードであるアダム。戦士団としてはオーソドックスなタイプだ。
 だが‥‥
「火の魔法ってさ、使いどころが難しいんだよな。下手すると大火事だろ?」
「それにお前、トロいじゃん? お前が呪文唱え終わる頃には全部片付いてるっつーの」
「ろくなスキルも持ってないし、お前、冒険者には向かないよ」
「って事で、お前の代わりにクレリックに入って貰う事にしたから‥‥、ま、野郎なのがアレだけどな」


「‥‥僕は‥‥足手まといじゃない。役立たずなんかじゃない!」
 仲間達が冒険に出掛ける中、ひとり残されたアダムはギルドに駆け込んだ。
「‥‥よし、これだ‥‥!」
 彼が手にしたのは、そのレベル帯にしては敵が強すぎるせいか、まだ誰も参加を表明していない一件の依頼‥‥森に現れた5〜6体のオークロードを退治して欲しいというものだった。
「これくらい、ちゃんとした仲間がいれば僕にだって‥‥! そうさ、あいつらが僕を上手く使えないのが悪いんだ。チームワークなんか、全然なっちゃいないんだから‥‥!」
 早速参加を登録した彼は、その場で仲間が集まるのを待つ。

 依頼内容は次の通り。
『キャメロットから徒歩1日余りの森に現れたオークロード5〜6体の退治』
『彼等はその森のどこかに巣を作るつもりらしく、現在巣穴を探して森のあちこちを徘徊中』
『森は近隣の住民達にとっては食糧など生活に必要な物を手に入れる為の大切な場所。そこに住み着かれる前に、速やかに退治して欲しい』

「僕は、役立たずなんかじゃない‥‥!」
 アダムはもう一度そう呟くと、ぎゅっと拳を握り締めた。

●今回の参加者

 ea8311 水琴亭 花音(29歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3759 鳳 令明(25歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb5286 ケリー・レッドフォレスト(32歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb5549 イレクトラ・マグニフィセント(46歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb5868 ヴェニー・ブリッド(33歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)
 ec2025 陰守 辰太郎(59歳・♂・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

シエラ・クライン(ea0071)/ ヴァンアーブル・ムージョ(eb4646)/ マリア・テスラ(ec3742

●リプレイ本文

 森の中から、肉の焼ける良い匂いが漂って来る。
「芋がら縄をたべるのじゃ♪ トナカイ肉を食べるのじゃ♪ 美味そうな臭いを漂わせてオークロードを誘ってみるんじゃ」
 鼻歌混じりにそんな事を言いながら肉を炙っているのは、シフールには珍しい武道家の鳳令明(eb3759)だ。
 昨日のうちに周囲に罠を仕掛けて回った二人の忍者、水琴亭花音(ea8311)と陰守辰太郎(ec2025)から話を聞き、相手を誘き出すのに丁度良いと判断したのがこの場所だった。
 他にも酒や食料など、餌になりそうな物は多めに用意してある。
「これでもし失敗したら、皆で食べるしかないかな」
 ケリー・レッドフォレスト(eb5286)が言うが、その必要はなさそうだった。
「‥‥何か‥‥来たようじゃな」
 花音の耳が物音を捕らえた。何かはわからないが、大きなものの足音らしきものが複数。
「オークロードなのじゃ! 皆は隠れるのじゃ! 俺は囮をするのじゃ。奴等を分断して誘い出すのじゃ。罠に追い込むのじゃ!」
 花音が視線を向けた方向に目を凝らした令明が火を消し、香ばしい匂いを放つトナカイ肉を持ってオークロードの前に飛び出した。
「こっちなのじゃ、付いて来るのじゃ!」
 令明は辰太郎が仕掛けた罠に向かって誘導すべく、鼻先でトナカイ肉を振り回しながら逃げる。その後を、2匹のオークロードが追って行った。

「‥‥残ったのは4匹か‥‥」
 空木怜(ec1783)の勘定では1日のノルマは2体。戦力的に、それ以上は厳しそうだ。
「2匹は私が囮になって罠に誘い込もうと思うのじゃが、上手く行くかのう‥‥」
 花音が言う。
「無理そうなら、僕がアイスコフィンで凍らせてみるよ。時間差に出来れば何とかなると思うし」
「そうさね、それが良いかもしれない‥‥じゃあ、今のうちにしっかり準備をしておこうかね。アダム殿、頼むよ」
 イレクトラ・マグニフィセント(eb5549)が同行者のアダムにバーニングソードとフレイムエリベイションの付与を頼んだ。
「う、うん、わかった」
 アダムは昨日、出掛ける前にシエラ・クラインに言われた事を思い出す。
「戦闘前、詠唱時間を気にせずに準備出来る段階での魔法付与の大切さ‥‥か。前の仲間達にも、そんな事を言われてバリエーション取ったんだけど‥‥」
 とは言え、彼の魔法レベルは専門2。自らにフレイムエリベイションをかけても、漸く4割の成功率しかない。
「何度も失敗してるうちに、もういいって言われて‥‥攻撃魔法も、いざって時に発動しない事が多くて、でも初級じゃぜんぜん威力が足りないし‥‥」
「それは仕方ないと思うのよね」
 ヴェニー・ブリッド(eb5868)が妖艶な微笑みを浮かべながら言った。
「成長の仕方なんて人それぞれだし、成長期のレベルで使える使えないなんていうのって、あんまり意味がないと思うのよ」
「たった一つのパーティ内評価で冒険者の力を計れるもんか」
 少し怒ったような口調で怜が言った。
「俺も魔法を使うが、基本技術はアダム、お前に劣るな。バリエーションも二つぽっちだ‥‥それでも、俺は自分を役立たずとは思わないし、誰にもそんな事は言わせない」
 一口に依頼と言ってもガチ戦闘から、調査、偵察、雑用手伝い‥‥全部、一人でこなせる者などいない。どうしても得手、不得手はある。
「だからこそ、これだけの人数が必要なんだろ? 依頼選びから冒険は始まってる。自分が力になれる、この依頼でこういう事が出来る。それを元に参加する依頼を決めるんだ。組み合わせ次第で力を発揮する‥‥それが冒険者って奴さ。で、お前は何が出来ると思ってこの依頼を選んだんだ?」
「それは‥‥その‥‥」
 言えない。勢いだけで選んだなんて、自分を役立たずだと断じた、あのメンバーと一緒でさえなければ自分にも活躍の場がある筈だと、漠然とそう考えていただけだなんて、言えない。
「ええと、も、森の中じゃ火は使えないから‥‥やっぱりエリベイションとかで支援かなって‥‥」
「だったら、それを全力でやれば良いんだよ。少しくらい時間がかかっても、あの通りオーク達はあそこで足止めしてあるからね」
 ケリーが言う通り、オークロードは目下、餌に夢中だ。
「いくら何でも、全員に魔法をかけ終わる前に、最初の効果が消えるほど時間がかかる訳じゃないでしょ?」

 そして‥‥
 オークロード達が山と積まれた食糧をあらかた平らげ、食後のくつろぎモードに入った頃。
 こっそりと忍び寄った怜が、一匹ずつアグラベイションをかける。のんびりぼ〜っとしている相手は、魔法をかけられた事にも気付いていなかった‥‥勿論、抵抗も出来ない。
 そこに、辰太郎が放った矢が突き刺さった。
「――ウガ?」
 だが当のオークロードは、当たった場所をまるで蚊にでも刺されたようにボリボリ掻くと、落ちた矢を不思議そうに見つめるだけ。
「‥‥普通に射たのでは、せいぜい、かすり傷程度‥‥か」
「なら、これはどうかしら?」
 ヴェニーが達人レベルのライトニングサンダーボルトを撃ち込んだ。
「エリベイション付きで発動率4割‥‥でも、出る時には結構連続で出るものよね♪」
 そのどこから来るのかわからない妙な自信の賜か、彼女の魔法は期待に違わずしっかり発動し、車座になったオークロードの2匹にぶち当たった。
「ほ〜ら出た♪」
 同時に、反対側に回った花音が難を逃れた2匹を挑発し、逃げるふりをしながら罠に誘い込む。だが、誘い出せたのは一匹のみ‥‥
「仕方がないのう、一匹だけでも減らせれば後は仲間がどうにかするじゃろう」
 魔法を当てられた2匹はかなりのダメージを被っているようだ。一匹無傷で残っているが、集中して当たれば何とかなるだろう。
 花音は付かず離れずの距離を保ちながら、罠を張った場所までオークロードを誘導する。途中、隙を見て忍犬のダイに攻撃させてみるが、かすり傷程度のダメージしか与えられなかった。
「私が手を出しても、恐らくは無傷じゃろうな」
 苦笑いを漏らしながら、花音は逃げる。やがて目標地点が近付き‥‥
 罠に踏み込んだそれは、投網に絡まれ、樹上に吊り上げられ‥‥るほど、軽くはなかった。
「じゃが‥‥まあ、だいぶ絡まっておるようじゃ、足止めにはなるじゃろう」

 一方、残った3匹には‥‥
「後はチクチク削って行けば大丈夫そうね」
 そう言いながら、ヴェニーは動きの鈍った2匹にランクを落とした稲妻を連発する。
 これなら避けられる心配もなさそうだと見た辰太郎が、そこにダブルシューティングで矢を撃ち込んだ。
「残りの一匹は任せて大丈夫そうだな」
 怜はこちらに気付いて近寄ってきた未だ無傷の一匹にローリンググラビティーを放った。オークロードの巨体が抵抗も出来ずに宙に舞い上がり、そして落ちる。
「俺の魔法はこの二つきりだ。だが、上手く行けば相手の動きを完全に封じる事も出来る。戦いでの自分の役割をしっかり認識して魔法を選ぶ‥‥コンセプトって大事だぜ?」
 後は仲間に任せれば良い。
 ケリーがアイスブリザードで追い打ちをかけ、続いて付与魔法の効果が切れないうちにと前に飛び出したイレクトラが剣を振るう。
 そして、3匹があらかた片付いたと思われたその時‥‥
「た、助けてくれ〜なのじゃ!」
 相変わらずトナカイ肉を持ったままの令明が、森の奥からすっ飛んで来た。
「こいつらシブトイのじゃ! 罠にかかっても平気なのじゃ!」
 見れば、彼を追って来た2匹の体のあちこちには、辰太郎が仕掛けた罠のダガーや手裏剣が突き刺さっている。そこに塗られた毒でもダメージを受けている筈なのだが‥‥
「元気ねえ」
 ヴェニーが呆れたように溜息をつきながら稲妻を放つ。
「とりあえず‥‥固めとく?」
 流石に仲間達も疲れ気味なのを見て、ケリーが追って来た2匹をアイスコフィンで固めた。
「夜になれば冷えるだろうし、けっこう長く保つと思うよ」
 後で網にかかった一匹も氷漬けにすると、冒険者達は戦略的撤退の道を選んだ。
「逃げるんじゃ‥‥ないぞ?」

 翌朝、凍り付いたオークロード3匹は順次アダムの作った炎で炙られ、解凍された。
「ようやく俺の出番がきたのじゃじゃ!! がんばるのじゃじゃじゃ!!!」
 昨日さんざん追い回された怨みもあってか、令明が後ろからぺちぺちと叩く。
「ストライクなのじゃ。ひたすらストライクなのじゃ〜!」
 そんな感じで、寄ってたかってタコ殴り。オークロード退治は無事に完了した。
「さて‥‥アダム殿」
 その様子を後ろでぼんやりと眺めていたアダムにイレクトラが言った。
「僕を上手く使えない、と言うのはなんだね?」
「え‥‥?」
「お前さんの魔法は上手に使えば非常に役に立つ。その特性を一番良く知っているのは、お前さんじゃないのかい? なのに、いつも仲間から指示を貰ってから行動していたのかい?」
「だって、役立たずは黙って言う事を聞いてれば良いんだって‥‥」
「それだけ色々できれば十分だろ。たまたま役に立てる依頼に当らなかっただけさ」
 辰太郎が励ますように言う。
「本当の意味で役に立たんのなら、今頃使えない魔法を人に教える者などおるまい‥‥。要は使いようじゃな」
 と、花音。
「使ってもらうという発想がどうかと思うんだよね。自分から売り込んで行って、使わせるぐらいが一番だと思うんだけど」
 ケリーは万一の消火用にプットアウトを覚えてはどうかと勧めた。
「まぁ〜たまには鬱憤晴らしにファイヤーボムでも撃ち込んじゃえばいんじゃないのかな。すっきりした気持ちで、自分に出来ることを応用していくのが一番よね」
 色っぽいお姉さんが色っぽい仕草で迫る。
「焦る気持ちはわかるけど、ゆっくり自分なりの成長をしていけばいいのよ、ねっ♪」
「う、うん‥‥ありがとう。色々、考えてみるよ。今の僕でも出来る事とか、仕事の選び方とか‥‥」
 もう二度と、自分を役立たずとは思わず、誰からも言わせない為に。